4月24日、2週間ぶりに今通常国会5回目の衆議院憲法審査会が開かれました。3月13日から4月10日まで春分の日を除いて毎週定例日の開催が続いていましたが、4月17日は憲法審本体ではなく幹事懇談会が開かれたそうです。4月3日の憲法審は10分強、10日は10分弱開会が遅れていましたので、幹事懇で調整を要する問題があったのかもしれません。
この日は、「臨時会(注:臨時国会のことです)の召集期限」をテーマとして自由討議が行われ、衆議院法制局の橘幸信局長から憲法53条(注1)後段の意義と趣旨、制定の経緯、召集要求権の法的な位置づけ、召集要求の事例、2017年の臨時会召集に係る裁判(注2)の判決、召集期限の明文化の可否・是非やこれまでの各会派の案等について説明を受けた後、委員からの意見の表明や委員間および委員と橘氏との質疑応答がありました。
注1 憲法53条:内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。 いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。
注2 2017年6月22日に行われた憲法53条に基づく臨時会の召集要求に対して、安倍内閣による召集が98日後の9月28日であったことについて、召集を要求した国会議員の一部が、内閣が合理的期間内に臨時会召集を決定しなかったのは違憲だとして提起した国会賠償請求訴訟。

今回の傍聴記では、まず、「臨時会召集期限」をめぐる基本的な事項を確認し、その上でこの日の議事の内容について報告したいと思います。
以下に掲げる図表は、いずれも衆議院の法制局と憲法審査会事務局が作成し、橘氏が説明に用いた「『憲法53条後段に基づく臨時会の召集』に関する資料」(衆院憲法審のホームページに掲載されています)から転載したものです。
臨時会召集要求の実例と2017(平成29)年の臨時会召集に係る最高裁判決
下の資料には、過去20年の衆議院議員による臨時会召集要求の事例を示した一覧表がありますが、要求後速やかに召集されたのは鳩山民主党政権時の2009(平成21)年だけ(18日でした)で、他の事例では(全て自公連立政権時です)46日から98日という長期間を要しています。
特に2017(平成29)年の安倍政権の対応はとんでもないもので、いわゆるモリカケ問題の真相究明を求めて提出された要求に対して臨時会が召集されたのが98日後、さらに政権がその当日に衆議院を解散するという暴挙に出たために実際に特別国会が召集されたのはなんと132日後となってしまいました。
この対応について、召集を要求した野党議員6名が「議員としての質問権を奪われた」などとして3件の国家賠償請求訴訟を提起し、2023年には最高裁判決が出されています。
次に転載させていただく『日本経済新聞』の記事にあるように、裁判は原告側の敗訴で終わりましたが、最高裁は「内閣は要求があれば召集決定をする義務を負う」ことを認め、また、行政法学者の宇賀克也裁判官は「召集の遅延に特段の事情がなければ、賠償請求は認容されるべきだ」などとする反対意見を述べました。
臨時国会の召集巡る訴訟、野党議員ら敗訴確定 最高裁
『日本経済新聞』2023年9月12日
2017年、当時の安倍晋三内閣が野党側による臨時国会の召集要求に約3カ月間応じなかったのは憲法違反だとして、野党の国会議員らが国に損害賠償などを求めた3件の訴訟の上告審判決で、最高裁第3小法廷(長嶺安政裁判長)は12日、いずれも原告側の上告を棄却した。
内閣の対応が違憲だったかどうかには触れず、原告側の敗訴が確定した。衆参両院のいずれかの総議員の4分の1以上の要求があれば、内閣は臨時国会を召集しなければならないと定める憲法53条に関して最高裁が判断するのは初めて。
同条には召集の期限は明記されておらず、訴訟では安倍内閣の対応が同条違反にあたるかが争われた。
同小法廷は判決理由で、内閣は要求があれば召集決定をする義務を負うとしつつ、同条の規定は「個々の国会議員に召集後の議員活動をできるようにする権利や利益を保障したものとは解されない」と指摘。召集の遅れを理由に議員個人が賠償を求めることはできないと結論付けた。
裁判官5人のうち4人の多数意見による結論。宇賀克也裁判官(学者出身)は「召集の遅延に特段の事情がなければ、賠償請求は認容されるべきだ」などとして反対意見を付けた。
野党側は17年6月、森友学園、加計学園問題を追及するため4分の1以上の条件を満たした上で臨時国会召集を求めた。安倍内閣は98日後に召集したが冒頭で衆院を解散し、実質的な審議は行われなかった。
18年、立憲民主党の小西洋之議員など野党議員らが東京、岡山、那覇の3地裁に提訴。いずれの訴訟でも一、二審判決は議員側の請求を退けていた。
* 引用、ここまで。
過去に公明党を除く全会派が「20日以内」の召集期限の明文化を提案
もう1点確認しておきたいのは、公明党を除き、現在衆院憲法審に委員を出している全ての会派が過去に憲法または国会法に20日以内の臨時会召集期限を定める案を提起していることです。特に自民党は2012年に発表した改憲草案で、他党の案が「召集することを、決定しなければならない」とされているのに対して、「召集されなければならない」と、事実上最も短い期限を打ち出していたことを指摘したいと思います。
以下、当日の論議について報じた『時事通信』の記事を転載させていただきます。
野党、臨時国会「20日以内」に 衆院憲法審、召集期限を議論
『時事ドットコムニュース』2025年4月24日
衆院憲法審査会は24日、臨時国会の召集期限について議論した。立憲民主党など野党は召集要求があった場合、政府は「20日以内」に応じるとの期限を設けるよう求めた。自民、公明両党からは期限の設定に慎重な意見が出た。
憲法53条は臨時国会に関し、衆参いずれかの総議員の4分の1以上の要求があれば「内閣は召集を決定しなければならない」と定めるが、期限は記されていない。過去に野党が召集を求めても、政府が速やかに応じない例があった。
憲法53条は臨時国会に関し、衆参いずれかの総議員の4分の1以上の要求があれば「内閣は召集を決定しなければならない」と定めるが、期限は記されていない。過去に野党が召集を求めても、政府が速やかに応じない例があった。
立民の松尾明弘氏は「(召集の遅れは)憲法違反であり、立憲主義に対する重大な問題だ」と指摘。立民が2022年に他の野党と共同で国会法改正案を提出したことを紹介し、20日以内の期限を設けることを求めた。過去に召集を遅らせた政府・与党の政治的責任の追及を憲法審で行うことも提案した。
日本維新の会は憲法を改正し、20日以内の召集を義務付けることを主張。国民民主党も改憲での対応に理解を示した。
自民の稲田朋美氏は「期限を設ける場合は、閣僚の国会出席を柔軟にするなどの国会運営を考え直す必要がある」と述べた。公明の浜地雅一氏も「20日という具体的な日数を明確に示すことは直ちに賛同できない」と語った。
* 引用、ここまで。
見苦しい言い訳に終始した自民党、煮え切らない公明党
この日、最初に意見表明を行った自民党の上川陽子氏(憲法審の幹事です)は、「2012年の改憲草案は自民党の公式文書の1つだがそれには固執しない」としたうえで、「臨時会召集期限の明記については党内に様々な意見があり、党としての明確な見解を出せる段階にない」と述べました。厚顔無恥を絵に描いたような発言だったと思います。
もっと驚かされたのは同じ自民党の三谷英弘氏で、氏は「具体的な期限について正解のない議論が延々と始まることになれば改憲発議の大きなハードルとなる」、「内閣に裁量を持たせて期限を明記しないことには意味がある」、「大事なことは議論を拡散させることではなく、真に必要な論点の整理を進めて速やかな憲法改正につなげていくことだ」などと言い放ちました。多くの自民党議員の本音はこんなところにあるのではないでしょうか。
また、公明党の濱地雅一氏は、「わが党はこれまで具体的な見解を示していない」、「先日、党の憲法調査会で議論したが、党の見解がまとまるに至っていない」なとと、他人事のような発言をダラダラと(個人的な感想です)続けていました。
一方、立民(発言順に松尾明弘氏、五十嵐えり氏、柴田勝之氏)、れいわ(大石あきこ氏)、共産(赤嶺政賢氏)の委員たちは、近年、臨時会の召集要求に遅々として応じないことを繰り返してきた自公内閣の対応を違憲だとして、厳しく追及しました。中でも語気鋭く謝罪まで求めた大石氏の発言を、同氏の『X』から転載します。
大石あきこ れいわ新選組 衆議院議員 大阪5区
4月24日
臨時会の召集期限がテーマで。過去の自公政権が憲法53条に基づく召集を、野党の求めに応じずやらなかった、この悪事が違憲や、ということが言われてる。改憲を主張されて、緊急事態条項をつくりたいとおっしゃっている議員の方々が、参議院緊急集会を70日以上開けない、国会の空白をうんだらダメなんだと言ってる人たちが、もういかに国会の空白期間を作り出してきたか、その常習犯であった。
例えば、2021年の6月16日通常国会が終了、次の臨時国会までの空白期間は109日続きました。憲法53条に基づく、野党からの国会召集は無視。当時はコロナ第5波の真っ只中、医療機関はパンク。感染者は自宅で放置されていたのに、無視。菅政権は国会を開かずに退陣。自民党は国民の苦境に見向きもせずに、総裁選に明け暮れて、ようやく成立した岸田政権で、10月4日に臨時国会を召集して、大した議論もなく、10日後に衆議院解散しました。
自民の上川委員にお伺いしたい。そういった自民党政権のあり方が違憲やと、この審査会で調査しろという声も、他会派からありましたけれども、このことについて、菅政権下で令和3年7月16日の野党議員による臨時国会召集要求書の提出から、同年10月4日の臨時国会の召集まで、約80日も要した、具体的理由及び事実関係を教えてほしい。「内閣の権能は憲法上臨時会の召集を決定することであり、こうしたことも踏まえ、菅前内閣においては国会のことでもあるので、与党とも相談した」と言うそういう答弁しかないので、具体的な事実関係をはっきりさせていただきたいんですよ。こんなことやっちゃいけなかったという謝罪の弁をいただけるか、再発防止の考えとしてどうなのか、加えて審査会長には違憲審査ということで、この衆議院の審査会で開くならば違憲審査を求めます。
* 引用、ここまで。
この質問に対して、上川氏は「政府は法律案など臨時会で審議すべき事項等を勘案して、召集のために必要な合理的な期間を超えない範囲内で適切に召集を決定したものと考えている」と、木で鼻をくくったような回答をしたため、大石氏はさらに「通告して質問したのに、回答はそれだけか。国民に向かって説明責任があるのだから、それではダメだ」と追及しました。
すると自民党の船田元氏(与党側筆頭幹事)が、「大石委員からの発言には上川幹事に対する感情的な価値判断が入っている。私たちは理論的、総合的に憲法改正についての議論をしているので、感情的な判断や発言はやめていただきたい」と述べたため、大石氏は枝野幸男会長(立民)の指命を待たずに「どこが感情的なのか書面でいただきたい」と切り返すと、枝野会長は「不規則発言はおやめください」と即座に反応。私には、船田氏と枝野氏の振る舞いの方が異常だと感じられました。
自民の目指す改憲の本丸は自衛隊明記と緊急事態条項の創設
次に、維新・阿部圭史氏のこの日のテーマとは全く関係のないルール無視の発言を紹介しておきます。
氏は、4月23日に行われた党首討論での前原誠司共同代表の改憲を訴える主張を引きながら、石破茂首相の「あらゆる法体系の頂点に立ち、国の姿を指し示しているのが憲法であり、憲法改正に全力で取り組まないことは国家に対して全力で取り組んでいないということと一緒だ」という意味不明の(個人的な感想です)発言に対する見解を自民党の委員に尋ねました。
これを聞いた枝野会長は、「各党ともいろいろ言いたいことがある中で決められたテーマに絞って発言されているので、それは遵守してほしい」とたしなめていましたが、どうしようもない暴走を繰り返した維新の姿をまたも見せつけられ、今回も本当にうんざりしました。
それはともかく、阿部氏の質問に対して、自民・船田氏は「前原議員から石破総理にそういう(阿部氏が紹介したような)質問があったことは承知しており、石破総理の答弁も聞いている」、「私も憲法9条とその周辺の問題は、やはり憲法改正の最大のテーマだと考えているので、しっかりと対応していきたい」と答えていました。
また、石破首相は5月3日の憲法記念日に開かれた改憲派の集会に寄せたビデオメッセージで次のように述べています。『フジニュースネットワーク』のウェブサイトから転載させていただきます。
憲法記念日に石破首相「憲法を果断に見直し議論し国民の判断に委ねる必要。自民党として早期実現に尽力」
『FNNプライムオンライン』2025年5月3日
石破首相は3日、東京都内で開かれた憲法改正派の集会にビデオメッセージを寄せ、憲法を果断に見直す議論を行い、国民に判断を委ねるべきだとの考えを強調した。
石破首相は、「わが憲法は、昭和22年の施行以来、社会、国民意識の変化、我が国を取り巻く国際情勢の変動を経ても、一度も改正されることがないまま今日に至っている」と指摘。
その上で、「現状にそぐわない部分、よりよく変えていかねばならない部分があるのではないか。果断に見直しを行い、議論し、あくまで主権者である国民の判断に委ねることが必要である」と強調した。
そして、「衆参の憲法審査会における議論がさらに進み、国会による発議が早期に実現するよう党として尽力する」と述べた。
さらに石破首相は、憲法改正について、「緊急事態対応、そして、自衛隊の明記を最優先に取り組んでいきたい」と述べた。
また、「戦争体験された世代の方々がお元気なうちに、この憲法は国民にいろんな意味で問うていかねばならない」とも述べた。
* 引用、ここまで。
選挙困難事態を理由とした議員任期延長の改憲論が失速しつつある中で、いよいよ自衛隊明記、緊急政令・緊急財政処分の緊急事態条項創設が前面に押し出されてくるのでしょうか。改憲情勢を注視し、必要な行動を組織していきましょう。
この日の傍聴者は30人強、記者は2~3人で、どちらもいつもよりやや少なめでした。
委員の欠席者は、自民が3~6人、立民が2~4人ほどで推移し、この日は公明の委員1人が審査会の中盤からずっと席を外していました。(銀)