許すな!憲法審査会

「とめよう戦争への道!百万人署名運動」ブログを改めて、改憲の憲法審査会動向をお伝えしていきます。百万人署名運動は、「改憲・戦争阻止!大行進」運動に合流しました。

カテゴリ: 憲法

4月24日、2週間ぶりに今通常国会5回目の衆議院憲法審査会が開かれました。3月13日から4月10日まで春分の日を除いて毎週定例日の開催が続いていましたが、4月17日は憲法審本体ではなく幹事懇談会が開かれたそうです。4月3日の憲法審は10分強、10日は10分弱開会が遅れていましたので、幹事懇で調整を要する問題があったのかもしれません。

この日は、「臨時会(注:臨時国会のことです)の召集期限」をテーマとして自由討議が行われ、衆議院法制局の橘幸信局長から憲法53条(注1)後段の意義と趣旨、制定の経緯、召集要求権の法的な位置づけ、召集要求の事例、2017年の臨時会召集に係る裁判(注2)の判決、召集期限の明文化の可否・是非やこれまでの各会派の案等について説明を受けた後、委員からの意見の表明や委員間および委員と橘氏との質疑応答がありました。

注1 憲法53条:内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。 いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。
注2 2017年6月22日に行われた憲法53条に基づく臨時会の召集要求に対して、安倍内閣による召集が98日後の9月28日であったことについて、召集を要求した国会議員の一部が、内閣が合理的期間内に臨時会召集を決定しなかったのは違憲だとして提起した国会賠償請求訴訟。
yurusuna
今回の傍聴記では、まず、「臨時会召集期限」をめぐる基本的な事項を確認し、その上でこの日の議事の内容について報告したいと思います。
以下に掲げる図表は、いずれも衆議院の法制局と憲法審査会事務局が作成し、橘氏が説明に用いた「『憲法53条後段に基づく臨時会の召集』に関する資料」(衆院憲法審のホームページに掲載されています)から転載したものです。

臨時会召集要求の実例と2017(平成29)年の臨時会召集に係る最高裁判決

下の資料には、過去20年の衆議院議員による臨時会召集要求の事例を示した一覧表がありますが、要求後速やかに召集されたのは鳩山民主党政権時の2009(平成21)年だけ(18日でした)で、他の事例では(全て自公連立政権時です)46日から98日という長期間を要しています。

参考1
 
特に2017(平成29)年の安倍政権の対応はとんでもないもので、いわゆるモリカケ問題の真相究明を求めて提出された要求に対して臨時会が召集されたのが98日後、さらに政権がその当日に衆議院を解散するという暴挙に出たために実際に特別国会が召集されたのはなんと132日後となってしまいました。
この対応について、召集を要求した野党議員6名が「議員としての質問権を奪われた」などとして3件の国家賠償請求訴訟を提起し、2023年には最高裁判決が出されています。

次に転載させていただく『日本経済新聞』の記事にあるように、裁判は原告側の敗訴で終わりましたが、最高裁は「内閣は要求があれば召集決定をする義務を負う」ことを認め、また、行政法学者の宇賀克也裁判官は「召集の遅延に特段の事情がなければ、賠償請求は認容されるべきだ」などとする反対意見を述べました。

臨時国会の召集巡る訴訟、野党議員ら敗訴確定 最高裁
『日本経済新聞』2023年9月12日

2017年、当時の安倍晋三内閣が野党側による臨時国会の召集要求に約3カ月間応じなかったのは憲法違反だとして、野党の国会議員らが国に損害賠償などを求めた3件の訴訟の上告審判決で、最高裁第3小法廷(長嶺安政裁判長)は12日、いずれも原告側の上告を棄却した。
内閣の対応が違憲だったかどうかには触れず、原告側の敗訴が確定した。衆参両院のいずれかの総議員の4分の1以上の要求があれば、内閣は臨時国会を召集しなければならないと定める憲法53条に関して最高裁が判断するのは初めて。
同条には召集の期限は明記されておらず、訴訟では安倍内閣の対応が同条違反にあたるかが争われた。
同小法廷は判決理由で、内閣は要求があれば召集決定をする義務を負うとしつつ、同条の規定は「個々の国会議員に召集後の議員活動をできるようにする権利や利益を保障したものとは解されない」と指摘。召集の遅れを理由に議員個人が賠償を求めることはできないと結論付けた。
裁判官5人のうち4人の多数意見による結論。宇賀克也裁判官(学者出身)は「召集の遅延に特段の事情がなければ、賠償請求は認容されるべきだ」などとして反対意見を付けた。
野党側は17年6月、森友学園、加計学園問題を追及するため4分の1以上の条件を満たした上で臨時国会召集を求めた。安倍内閣は98日後に召集したが冒頭で衆院を解散し、実質的な審議は行われなかった。
18年、立憲民主党の小西洋之議員など野党議員らが東京、岡山、那覇の3地裁に提訴。いずれの訴訟でも一、二審判決は議員側の請求を退けていた。
* 引用、ここまで。

過去に公明党を除く全会派が「20日以内」の召集期限の明文化を提案

 もう1点確認しておきたいのは、公明党を除き、現在衆院憲法審に委員を出している全ての会派が過去に憲法または国会法に20日以内の臨時会召集期限を定める案を提起していることです。特に自民党は2012年に発表した改憲草案で、他党の案が「召集することを、決定しなければならない」とされているのに対して、「召集されなければならない」と、事実上最も短い期限を打ち出していたことを指摘したいと思います。

参考4


以下、当日の論議について報じた『時事通信』の記事を転載させていただきます。

野党、臨時国会「20日以内」に 衆院憲法審、召集期限を議論
『時事ドットコムニュース』2025年4月24日

衆院憲法審査会は24日、臨時国会の召集期限について議論した。立憲民主党など野党は召集要求があった場合、政府は「20日以内」に応じるとの期限を設けるよう求めた。自民、公明両党からは期限の設定に慎重な意見が出た。
憲法53条は臨時国会に関し、衆参いずれかの総議員の4分の1以上の要求があれば「内閣は召集を決定しなければならない」と定めるが、期限は記されていない。過去に野党が召集を求めても、政府が速やかに応じない例があった。

立民の松尾明弘氏は「(召集の遅れは)憲法違反であり、立憲主義に対する重大な問題だ」と指摘。立民が2022年に他の野党と共同で国会法改正案を提出したことを紹介し、20日以内の期限を設けることを求めた。過去に召集を遅らせた政府・与党の政治的責任の追及を憲法審で行うことも提案した。

日本維新の会は憲法を改正し、20日以内の召集を義務付けることを主張。国民民主党も改憲での対応に理解を示した。
自民の稲田朋美氏は「期限を設ける場合は、閣僚の国会出席を柔軟にするなどの国会運営を考え直す必要がある」と述べた。公明の浜地雅一氏も「20日という具体的な日数を明確に示すことは直ちに賛同できない」と語った。
* 引用、ここまで。

見苦しい言い訳に終始した自民党、煮え切らない公明党

この日、最初に意見表明を行った自民党の上川陽子氏(憲法審の幹事です)は、「2012年の改憲草案は自民党の公式文書の1つだがそれには固執しない」としたうえで、「臨時会召集期限の明記については党内に様々な意見があり、党としての明確な見解を出せる段階にない」と述べました。厚顔無恥を絵に描いたような発言だったと思います。

もっと驚かされたのは同じ自民党の三谷英弘氏で、氏は「具体的な期限について正解のない議論が延々と始まることになれば改憲発議の大きなハードルとなる」、「内閣に裁量を持たせて期限を明記しないことには意味がある」、「大事なことは議論を拡散させることではなく、真に必要な論点の整理を進めて速やかな憲法改正につなげていくことだ」などと言い放ちました。多くの自民党議員の本音はこんなところにあるのではないでしょうか。

また、公明党の濱地雅一氏は、「わが党はこれまで具体的な見解を示していない」、「先日、党の憲法調査会で議論したが、党の見解がまとまるに至っていない」なとと、他人事のような発言をダラダラと(個人的な感想です)続けていました。

一方、立民(発言順に松尾明弘氏、五十嵐えり氏、柴田勝之氏)、れいわ(大石あきこ氏)、共産(赤嶺政賢氏)の委員たちは、近年、臨時会の召集要求に遅々として応じないことを繰り返してきた自公内閣の対応を違憲だとして、厳しく追及しました。中でも語気鋭く謝罪まで求めた大石氏の発言を、同氏の『X』から転載します。

大石あきこ れいわ新選組 衆議院議員 大阪5区
4月24日

臨時会の召集期限がテーマで。過去の自公政権が憲法53条に基づく召集を、野党の求めに応じずやらなかった、この悪事が違憲や、ということが言われてる。改憲を主張されて、緊急事態条項をつくりたいとおっしゃっている議員の方々が、参議院緊急集会を70日以上開けない、国会の空白をうんだらダメなんだと言ってる人たちが、もういかに国会の空白期間を作り出してきたか、その常習犯であった。

例えば、2021年の6月16日通常国会が終了、次の臨時国会までの空白期間は109日続きました。憲法53条に基づく、野党からの国会召集は無視。当時はコロナ第5波の真っ只中、医療機関はパンク。感染者は自宅で放置されていたのに、無視。菅政権は国会を開かずに退陣。自民党は国民の苦境に見向きもせずに、総裁選に明け暮れて、ようやく成立した岸田政権で、10月4日に臨時国会を召集して、大した議論もなく、10日後に衆議院解散しました。

自民の上川委員にお伺いしたい。そういった自民党政権のあり方が違憲やと、この審査会で調査しろという声も、他会派からありましたけれども、このことについて、菅政権下で令和3年7月16日の野党議員による臨時国会召集要求書の提出から、同年10月4日の臨時国会の召集まで、約80日も要した、具体的理由及び事実関係を教えてほしい。「内閣の権能は憲法上臨時会の召集を決定することであり、こうしたことも踏まえ、菅前内閣においては国会のことでもあるので、与党とも相談した」と言うそういう答弁しかないので、具体的な事実関係をはっきりさせていただきたいんですよ。こんなことやっちゃいけなかったという謝罪の弁をいただけるか、再発防止の考えとしてどうなのか、加えて審査会長には違憲審査ということで、この衆議院の審査会で開くならば違憲審査を求めます。
* 引用、ここまで。

この質問に対して、上川氏は「政府は法律案など臨時会で審議すべき事項等を勘案して、召集のために必要な合理的な期間を超えない範囲内で適切に召集を決定したものと考えている」と、木で鼻をくくったような回答をしたため、大石氏はさらに「通告して質問したのに、回答はそれだけか。国民に向かって説明責任があるのだから、それではダメだ」と追及しました。

すると自民党の船田元氏(与党側筆頭幹事)が、「大石委員からの発言には上川幹事に対する感情的な価値判断が入っている。私たちは理論的、総合的に憲法改正についての議論をしているので、感情的な判断や発言はやめていただきたい」と述べたため、大石氏は枝野幸男会長(立民)の指命を待たずに「どこが感情的なのか書面でいただきたい」と切り返すと、枝野会長は「不規則発言はおやめください」と即座に反応。私には、船田氏と枝野氏の振る舞いの方が異常だと感じられました。

自民の目指す改憲の本丸は自衛隊明記と緊急事態条項の創設

次に、維新・阿部圭史氏のこの日のテーマとは全く関係のないルール無視の発言を紹介しておきます。
氏は、4月23日に行われた党首討論での前原誠司共同代表の改憲を訴える主張を引きながら、石破茂首相の「あらゆる法体系の頂点に立ち、国の姿を指し示しているのが憲法であり、憲法改正に全力で取り組まないことは国家に対して全力で取り組んでいないということと一緒だ」という意味不明の(個人的な感想です)発言に対する見解を自民党の委員に尋ねました。

これを聞いた枝野会長は、「各党ともいろいろ言いたいことがある中で決められたテーマに絞って発言されているので、それは遵守してほしい」とたしなめていましたが、どうしようもない暴走を繰り返した維新の姿をまたも見せつけられ、今回も本当にうんざりしました。

それはともかく、阿部氏の質問に対して、自民・船田氏は「前原議員から石破総理にそういう(阿部氏が紹介したような)質問があったことは承知しており、石破総理の答弁も聞いている」、「私も憲法9条とその周辺の問題は、やはり憲法改正の最大のテーマだと考えているので、しっかりと対応していきたい」と答えていました。
また、石破首相は5月3日の憲法記念日に開かれた改憲派の集会に寄せたビデオメッセージで次のように述べています。『フジニュースネットワーク』のウェブサイトから転載させていただきます。

憲法記念日に石破首相「憲法を果断に見直し議論し国民の判断に委ねる必要。自民党として早期実現に尽力」
『FNNプライムオンライン』2025年5月3日

石破首相は3日、東京都内で開かれた憲法改正派の集会にビデオメッセージを寄せ、憲法を果断に見直す議論を行い、国民に判断を委ねるべきだとの考えを強調した。
石破首相は、「わが憲法は、昭和22年の施行以来、社会、国民意識の変化、我が国を取り巻く国際情勢の変動を経ても、一度も改正されることがないまま今日に至っている」と指摘。
その上で、「現状にそぐわない部分、よりよく変えていかねばならない部分があるのではないか。果断に見直しを行い、議論し、あくまで主権者である国民の判断に委ねることが必要である」と強調した。
そして、「衆参の憲法審査会における議論がさらに進み、国会による発議が早期に実現するよう党として尽力する」と述べた。
さらに石破首相は、憲法改正について、「緊急事態対応、そして、自衛隊の明記を最優先に取り組んでいきたい」と述べた。
また、「戦争体験された世代の方々がお元気なうちに、この憲法は国民にいろんな意味で問うていかねばならない」とも述べた。
* 引用、ここまで。

選挙困難事態を理由とした議員任期延長の改憲論が失速しつつある中で、いよいよ自衛隊明記、緊急政令・緊急財政処分の緊急事態条項創設が前面に押し出されてくるのでしょうか。改憲情勢を注視し、必要な行動を組織していきましょう。

この日の傍聴者は30人強、記者は2~3人で、どちらもいつもよりやや少なめでした。
委員の欠席者は、自民が3~6人、立民が2~4人ほどで推移し、この日は公明の委員1人が審査会の中盤からずっと席を外していました。(銀)

4月16日(水)13時から14時30分頃まで、今通常国会2回目の参議院憲法審査会が2週間ぶりに開催され、「参議院の緊急集会」をテーマとして委員間の意見交換が行われました。
いつもは最初に各会派の代表が7分以内で、続いて他の委員が3分以内で発言するという形で審議が進められていますが、今回は発言順は変わらないものの全員が5分以内で意見を述べることとされていました。また、参議院の法制局長と憲法審事務局長が出席し、委員からの質問に回答していました。
yurusuna
まず、この日の審議について簡潔に報じた『共同通信』の記事を転載させていただきます。

自民、緊急事態へ改憲主張 立民は法整備訴え、参院憲法審
『共同通信』2025年4月16日

参院憲法審査会は16日、衆院解散後の緊急時に参院が国会権能を暫定的に代行する「参院の緊急集会」を巡り討議した。自民党は緊急集会の機能の明確化や、憲法改正による緊急事態条項の創設を主張した。立憲民主党は機能強化に向けた法整備を論議すべきだと訴えた。

自民の佐藤正久氏は「緊急集会を万全に機能させる課題への対応はもちろん、憲法に緊急事態対応の規定を置くことは必要だ」と述べた。緊急事態時の国会議員任期延長についても話し合う必要があるとも指摘した。

立民の熊谷裕人氏は緊急集会に関し「基本的な仕組みが整備されており、現状でも国民のために機能する」と反論。「緊急集会の機能強化と必要な法整備、選挙制度の連携を含めた運用改善の議論」を精力的に行うよう提案した。

公明党の佐々木さやか氏は、大規模災害時でも国政選挙が実施できるよう選挙人名簿のバックアップや郵便投票制度の改善が欠かせないとした。

日本維新の会の松沢成文氏は、緊急集会は中長期の活動を想定していないとし、参院でも緊急事態条項の新設に向けた議論を進めるよう要請した。
* 引用、ここまで。

あくまで「緊急事態条項」新設を主張する自民党の狙いは緊急政令規定

上掲の『共同通信』の記事で紹介されている佐藤氏の意見は、「参議院の緊急集会の権能は原則として国会の権能全てに及び、衆議院に先議権のある予算も含めて対応可能と考えている」と述べた後に表明されたものです。

佐藤氏は参院憲法審の与党側筆頭幹事ですが、同じく自民党の幹事である中西祐介氏は、さらに明確に次のように主張しました。
「(緊急集会は)平時の制度だから内閣総理大臣の指名や条約の締結の承認、本予算の議決は不可とする見解は受け入れられない。制定経緯等を踏まえれば、内閣が緊急の必要があると判断し提案した案件である限り、参院の緊急集会が審議することができるというのが我が会派の共通認識だ。
参院の緊急集会で議員が発議できる議案の範囲は、内閣総理大臣から示された案件に関連のあるものである限り、予算関連法案も含めて幅広く発議可能だと考えている。
参院の緊急集会でとられた措置は衆院の同意が得られなければ失効することから、内閣不信任決議案、内閣総理大臣の指名、本予算の議決、条約の締結の承認等は緊急集会で扱う案件としては適切でないという意見もあるが、衆院の同意がない場合の失効の範囲は将来に対するもので過去に遡及するものではないと解されており、参院の緊急集会の権能は原則として国会の権能の全てに及ぶと考えている。」

しかしながら、佐藤氏は『共同』の記事にあるように緊急事態対応の規定の必要性を提起し、発言の最後には「参議院の緊急集会と衆議院の任期特例の関係は、画一的にどちらかしか機能しないという棲み分けの考え方から離れて、任期特例により両院で対応すべき国難と言える具体的な場面を整理するための議論を深めていくべきと考えている」と述べました。つまり、佐藤氏は「衆議院の任期特例」を否定したわけではありません。

また、『共同』の記事で紹介されている「緊急集会を万全に機能させる課題への対応はもちろん」と「憲法に緊急事態対応の規定を置くことは必要だ」という発言の間には、「衆議院の任期特例等の様々な対処法についても議論を深めたうえで」との文言が挟まれていました。私は、佐藤氏の言う「様々な対処法」には緊急政令や緊急財政処分が含まれていると考えます。要するに、佐藤氏らの参議院の緊急集会の権能を最大限に認めるべきだとの主張の裏には、緊急政令、緊急財政処分を規定する改憲への策動が隠されているのではないかということです。警戒を緩めるわけにはいきません

次に、各会派1巡目の発言者の中から、『共同』の記事では取り上げられていない山添拓氏(共産)と山本太郎氏(れいわ)の発言を紹介します。前者は『しんぶん赤旗』のウェブサイトから、後者は山本氏のオフィシャルサイトから転載させていただきますが、私はいずれも「本当にそのとおりだな」と思いながら聞いていました。

任期延長で権力乱用 山添氏 参院憲法審意見交換
『しんぶん赤旗』2025年4月17日

参院憲法審査会が16日開かれ、憲法54条の参院緊急集会に関する意見交換を行いました。
日本共産党の山添拓議員は、自民党などが緊急集会は臨時的で緊急時に対応できないとして、国会議員の任期延長などを主張しているのに対し、緊急事態を口実に権力が乱用された事例を挙げ批判しました。

日中戦争下の1941年に「国政について不必要に議論を誘発」するとして衆院任期が1年延長され、その1年後には「政治力の結集が戦争遂行のため緊要」だとして任期満了選挙が行われたことを示し、「選挙困難事態が恣意的に判断され、その結果が戦争の惨禍だった事実は決して看過できない」と強調しました。

また、内乱首謀罪で起訴された韓国の尹錫悦前大統領による「非常戒厳」や、経済的非常事態として国際緊急経済権限法を根拠にトランプ米大統領が強行した関税引き上げを挙げ「緊急時に名を借りた権力の乱用は至る所に実例があり、教訓を明らかにしている」と指摘。「危機をあおり緊急事態条項をと喧伝するのでなく、憲法に基づき権利を擁護する政治こそ国会に求められている」と強調しました。
* 引用、ここまで。

2025.4.16 憲法審査会「緊急事態条項? 改憲派はググれカス 公文式に行け!」
『山本太郎(れいわ新選組代表)』2025年4月16日

過去3年間の本審査会開催状況を確認すると、委員派遣など含む手続開催を除き、調査だけで、本日含め23回。そのうち3分の1以上に当たる8回が参議院緊急集会が議題に。そして、本日の議題も緊急集会。正直、またですかという気持ち。
参議院緊急集会の考え方の答えはもう出ている。衆議院憲法審査会に引っ張られ、足並みをそろえようとする動きは愚の骨頂、やめていただきたい。

国会議員の選挙なしで任期延長を含む改憲案を推し進めたいと考える衆議院憲法審査会の人々にとっては、この緊急集会の存在こそが邪魔で仕方ない。卑しい衆議院議員の中には、政府が緊急事態を宣言すれば、選挙の審判を受けることなく議員任期が無限延長できるというインチキを形にしようとする者たちがいる。この、選挙なしで議員任期延長の制度をつくるためには、邪魔になるものが参議院緊急集会。選挙できない状況になったら困るから選挙なしで任期延長をできるようにしたいといっても、緊急集会があるからその必要はない、それで終わってしまう。だからこそ、選挙なしで任期延長を実現したい者は、あの手この手で、参議院緊急集会は使えない、非常事態の制度ではないなどと言ってやり玉に上げてきた。
そうやって、無理やり何度も何度も緊急集会をテーマに審査会を開催し、事実と違う緊急集会の内容を流布し、会の開催回数を稼ぐのが彼らの戦略。そして、十分に議論はし尽くした、論点は出尽くした、改憲発議に進もうと、力ずくで前に進めようとしている。

改憲を進めたい委員たちは、事実関係を示した上で反論されても、全くその反論に応えようとしない。例を1つ挙げるなら、参議院緊急集会は平時の制度だから緊急事態に備える改憲が必要という意見。これまでも、そして今でも繰り返し提示され続けている。
これについては、昨年5月15日の本審査会で川崎法制局長から、金森国務大臣は、帝国議会において、参議院の緊急集会について、予測すべからざる緊急の事態に対して暫定の措置をとり得る方途として規定したと、こう述べております、したがいまして、緊急集会の要件である国に緊急の必要があるときには緊急事態が含まれることは明らかであると思われますと答弁。
緊急事態のための制度であることが明確に示されている。これを聞いて、参議院緊急集会は平時の制度と言っていた人々は考えを改めるべきだろう。

(中略)

衆議院憲法審査会を冒涜するのかと言われても困る。その台詞はぜひ、その意味不明な発言を続ける者たちに向けていただきたい。このような形で参議院緊急集会を狙い撃ちした審査や憲法破壊につながる審査を繰り返すことは日本国にとって有害である。

前回述べたとおり、現行憲法が守られているかチェックすることが憲法審査会の第一の役割、それらをしっかり時間を掛け厳しく点検する必要がある。今まで審議されてこなかった議題の設定を求めます。
* 引用、ここまで。

衆院憲法審委員・藤原氏(立民)「学説のねつ造」発言に信ぴょう性あり

(なぜか参院憲法審では小西洋之氏(立民)が最終発言者となることが多いのですが)今回の審査会でも最後に発言した小西氏は、参議院法制局長から興味深い回答を引き出しました(下は、衆院憲法審委員の藤原規眞氏(立民)の『X』への4月18日付ポストから転載しました)。
 小西さん
また、自民党!の藤木眞也氏は、本多恵美参議院憲法審査会事務局長と、次のような質疑を交わしました。
藤木氏:参議院の緊急集会に関する近年の議論以前に、国会において、憲法54条1項と2項、3項との形式的な位置関係と参議院の緊急集会の開催期間を結びつける形で、いわゆる30日プラス40日で70日以内と限定する議論がなされたことはあったか。

本多氏:憲法54条の条文構造を根拠に、緊急集会の開催期間を70日以内と限定すべきとする発言は見当たらなかった。
 なお、憲法54条の条文は次のとおりです。
第五十四条 衆議院が解散されたときは、解散の日から四十日以内に、衆議院議員の総選挙を行ひ、その選挙の日から三十日以内に、国会を召集しなければならない。
② 衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。但し、内閣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる。
③ 前項但書の緊急集会において採られた措置は、臨時のものであつて、次の国会開会の後十日以内に、衆議院の同意がない場合には、その効力を失ふ。
つまり、参議院の緊急集会は平時の制度でありその期間は70日に限定されるという議論は、近年の衆院憲法審での審議あるいはそこに提出された資料の中でいわば「発明」されるまで、学界でも国会でも一切行われてこなかったということです。
藤原氏はこれを「学説のねつ造」だとして、衆議院法制局の作成した『衆憲資102号』(今国会の3月27日の衆院憲法審で配布された『補訂版』のオリジナル版)と、与党側の筆頭幹事として衆院憲法審を取り仕切っていた新藤義孝氏(自民)が作成した「『参議院の緊急集会』に関する論点」というペーパーが、「奇しくも同じ日(2023年5月11日)に(衆院憲法審で)配布された」と、4月22日に『X』にポストしています。
新藤さん.png


私は、藤原氏の主張する「学説のねつ造」説の信ぴょう性は極めて高いことが明らかになってきていると思います。枝野幸男会長ほか衆院憲法審のメンバーに検証を求めましょう。そして小西氏が発言の最後に主張したように、「もはや矛盾、過ちだらけのカオスと化した緊急集会の暴論に依拠する任期延長改憲の即刻の破棄」を訴えていきましょう。

今回も、短時間席を外す者はいましたが、委員全員が出席していました。
傍聴者は前回と同じ25人ほどでしたが、審査会の終盤になって国会見学に来られたと思しい10人以上のグループが傍聴席に入ってこられました。また、残念なことに記者は一人もいませんでした。(銀)


4月10日、今通常国会4回目の衆議院憲法審査会が開かれました。春分の日を挟んで、毎週定例日の開催が続いています。
この日は、「ネットの適正利用、特にフェイクニュース対策」をテーマとして自由討議が行われ、衆議院法制局の橘幸信局長から同テーマをめぐるこれまでの議論の概要について、続いて国会図書館の遠藤厚志専門調査員から諸外国のフェイクニュース対策について説明を受けた後、委員からの意見の表明や委員間および委員と遠藤氏との質疑応答がありました。
yurusuna
以下、当日の論議について報じた『NHK』の記事を転載させていただきます。

衆院憲法審 憲法改正是非問う国民投票“偽情報拡散 対応必要”
『NHK NEWS WEB』2025年4月10日

10日開かれた衆議院憲法審査会で、憲法改正の是非を問う国民投票のあり方について意見が交わされ、SNS上での偽情報の拡散が、結果に影響を及ぼすおそれがあるとして何らかの対応が必要だという意見が与野党双方から出されました。

10日の衆議院憲法審査会では、憲法改正の国民投票が行われる際のSNSなどの利用について議論が行われました。
自民党の寺田稔氏は「最近のフェイクニュースの手法は巧妙化している。選挙の際に偽情報が拡散されると民主主義が揺らぐが、国民投票でも罰則規定を備えるべきかが論点になる」と指摘しました。
立憲民主党の岡田悟氏は「最近の選挙ではSNSで虚偽の情報やひぼう中傷が拡散され、選挙結果を左右しているが、単純な規制は表現の自由などを制限しかねず慎重な検討が求められる」と述べました。
日本維新の会や国民民主党などは、SNSを通じた外国勢力の介入に懸念を示し、対処が必要だと主張しました。
また、情報の真偽を確認する「ファクトチェック」については、複数の政党から、公権力の介入を避けるため、民間の機関に委ねるべきだという意見が出されました。
* 引用、ここまで。

外国勢力の介入阻止の方策は? 広報協議会の役割は?

上掲の記事に記されているように、この日は主として改憲勢力の委員たちから「外国勢力の介入に懸念を示し、対処が必要だと主張」する意見が表明されました。

その典型が阿部圭史氏(維新)で、「外国勢力からのフェイクニュースを通じた改憲国民投票プロセスへの介入は断固として防がなければならない」と述べたうえで、「4月8日の衆院本会議で可決された能動的サイバー防御法案の役割は大きい」が、これは「あくまで第一歩で、能動的サイバー防御はまだまだ強化すべき領域」であり、国民投票のプロセスでは「国民投票広報協議会と警察、自衛隊との連携が重要になってくるのではないか」と主張しました。現時点で実施される見込みのない改憲国民投票のフェイクニュース対策にまだ成立していない能動的サイバー防御法が持ち出され、警察や自衛隊との連携にまで言及するとは…… 本当に驚きました。

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もう一つ驚かされたのは、阿部氏ほどの極論ではありませんでしたが、立憲民主党の重徳和彦氏までもが「能動的サイバー防御法案」は「国家安全保障の観点から成立を目指しているもので、外国勢力からの防衛を目的としているものである」ので、「こうした法制も活用していくべきではなかと考えている」と発言したことです。
ただ、重徳氏の「ネット情報の支配力の根源は、SNSサービスを提供する外国資本のデジタルプラットフォーマーにあると言っても過言ではない」、「外国からの干渉が犯罪として規定されているイギリスの2023年のオンライン安全法なども参考に規制について考えていくべきではないかと思う」という指摘はそのとおりだなと感じました。

一方、赤嶺政賢氏(共産)は維新・阿部氏の発言に異を唱え、「国会に設置される広報協議会の委員の大多数は改憲に賛成した会派から選ばれる仕組みであり、改憲に有利な意見がまかり通り、少数派の意見が抑圧される危険性がある。協議会がファクトチェックを行えば、恣意的なものになりかねない」、「国家がネットの書き込みや動画の内容を調べることは、国民の意見表明に対する検閲にほかならない」、「広報協議会の規程作りを進め、ファクトチェックまで担わせることは絶対に認められない」と強調しました。重要な指摘だと思います。

また、意外にも、自民党を代表して最初に発言した憲法審幹事の寺田稔氏が「党としてまだ正式に意見を集約していないが、私は、公権力の表現の自由への介入を極力避ける観点から、ファクトチェックは(広報協議会ではなく)ファクトチェック機関に委ねるべきであると考える」と述べていたことを記しておきたいと思います。

問題は国内発のフェイクであり、とりわけ権力者側からの発信だ

改憲各派の委員たちは、中国やロシアを名指しして外国勢力の介入を阻止する必要性を言い募っていました。いくつかの具体的な事例も挙げられ、彼らの主張にそれなりの根拠があることは否定できないと思いますが、私は外国勢力と言うならいちばん警戒すべきなのはアメリカだろう、そして最近の政治・社会情勢を考えれば国内で発せられ、拡散されるフェイクニュースの方がより深刻な脅威なのではないかと考えながら聞いていました。
この日、その国内の問題をはっきりと指摘したのが、立民の岡田悟氏と米山隆一氏、れいわの大石あきこ氏でした。このうち岡田氏は、自身の『X』で下記のように報告しています。

岡田 悟 衆議院議員 立憲民主党兵庫7区(西宮市・芦屋市)総支部長

4月10日の衆議院憲法審査会で、憲法改正の国民投票におけるフェイクニュース対策について、会派を代表して意見表明を行いました。虚偽情報や誹謗中傷にあふれた昨年の兵庫県知事選挙は、大変残念なことに格好のサンプルとなりました。日本維新の会の責任に言及しています。
ちなみに馬場伸幸氏ら日本維新の会の委員からは、何の反論も説明もなく、米山隆一委員から質問されて初めて「誰が悪いとかどの党が悪いといったことはなく、社会全体の問題」という趣旨の、壊滅的で意味不明な驚きの答弁があったのみでした。反省の色なし。
 * 引用、ここまで。

米山委員の質問は、氏が表明した「今現になされているSNS上での偽情報や誹謗中傷に対して、言論の自由の観点を考慮しつつ諸法令を改正・整備し、適正な言論空間を確立する必要がある」という見解に対して、「先ほど外国勢力からの介入に対しては熱心に対策を訴えられた一方で、先の兵庫県知事選で誹謗中傷の原因となった真偽不明の情報の流布に加担した県議が所属していた維新の会のご意見を伺いたい」というものでした。

これに答えた維新の委員は和田有一朗氏で、発言の最初に「この問題は単純に見えるものではなく、もっと深いものがあるだろうと思う」と述べました。岡田氏が評したとおりの「壊滅的で意味不明な驚きの」内容で、傍聴席から思わず失笑が漏れたのですが、これに対して枝野幸男会長(立民)が(私は和田氏の発言以上にびっくりさせられたのですが)間髪を入れずに「傍聴席はお静かにお願いします」と言ったのです。野次や拍手ならともかく、思わず漏れた失笑に対して条件反射的に反応した枝野氏。「いったいどういう人なんだろう?」と思わずにはいられませんでした(12日にはさいたま市で開かれた支持者との会合で「(党内で消費減税を主張する声が高まっていることに対して)減税ポピュリズムに走りたいなら、別の党を作ってください」と述べたというニュースが流れましたが、それを知ってますますちょっとヤバい強権的な体質の人なんじゃないかとの疑念が強まりました)。
しだれ桜
(この日、国会議員会館前のしだれ桜は満開でした)

続いてもう一人、大石あきこ氏(れいわ)の発言を紹介したいと思います。以下、氏が自身の『X』に投稿した記事を転載します(読みやすくなるよう、適宜改行しました)。なお、これは要約で、氏のブログ(https://www.oishiakiko.net/2025-04-10-kenpoushi-oishi/)には全文が掲載されていますので、興味のある方はそちらもご覧ください。とてもおもしろくためになり(個人的な感想です)、お勧めです。

大石あきこ れいわ新選組 衆議院議員 大阪5区

大石あきこです。フェイクニュースの対策について議論をしておりますが、議論の大前提を間違った時に、全く異なる結果が生まれてしまう。まずフェイクニュースを流す主体というのが、一般国民、国会議員や権力者ではなくて国民側が訳のわからない事実をゆがめた、フェイクニュースをやるんだという前提をしておられると思うんですね。違うんじゃないか。

自民党の寺田委員が本日、「フィンランドの国民の情報リテラシーが高い、しかしながら我が国においては、残念ながら国民の情報リテラシーが追いついていない」。これおかしいんじゃないかと。ここに座っている国会議員のリテラシーはどうなんだ。憲法を遵守するという意識はどうなんだ。事実をゆがめていないか。実際の事例に基づき解像度を上げて検証しなければ、全く間違った結果になる。

オフィシャル側、権力者側が事実ではないことを発信する場合がある。1つは都構想。そしてもう1つは万博ですね。そういった事例で検証するべき。2020年の都構想の住民投票の2日前、毎日新聞が4つの特別区に分割するときに218億円の追加コストがいるという試算を大阪市自身がやったということを、スクープで報道しています。かなりもっともらしい試算でした。これをオフィシャル側、大阪府や大阪市自身が、大問題だと、事実ではないということで大騒ぎしまして、大阪市のその試算を出した人の処分にまで至っています。

やはり、オフィシャルが何がファクトなのかどうかということを、検閲する制度を加えるということの問題は、この審査会でも起きているのではないか。 前回の審査会の後に、枝野審査会長が私を注意したんですね。審査会長室に来るようにということで。キーワードとしては、国賊、チンピラ。失礼だという注意を行われました。これはなぜなのか、維新の方が壊れたテープレコーダーと、改憲を反対する人たちのことを何度も言ってますが、これは失礼ではないのか、注意したのかという、公平性の観点。それから、予見性です。

私の言ったワードっていうのは、単に、あなたはチンピラと言ったわけじゃなくて、なぜそう言ったのか事実に基づいて、事実を念頭に公益性の高い論評として行っておりますので、単なる注意というやり方で萎縮させるのではなくて、明確な基準、公平性と予見可能性という基準で、説明責任を伴うように注意をしてください。
 * 引用、ここまで。

なお、参考として、この日衆議院法制局が配布・説明した資料の一部を掲載しておきます。
憲法審査会資料
大石氏はこれについて次のように指摘していました(上述のブログから転載します)。

「本日の法制局の資料でいいますと10ページと11ページですけれども、広報協議会がファクトチェックを実施すべきではないという見解がありますよね。国家権力による情報統制の危険が生じる可能性があると。
まさにそうでありますし、11ページにおいても、有識者の参考人の意見として、政府自身がファクトチェックをやることが、何がファクトなのかどうかということを政府がやるということは、憲法上、検閲のリスクにもなりますからというふうに言っています。

こういった権力者側の情報統制の危険、憲法上の問題というのに加えて、事実ではないこと、事実をゆがめることをやる権力者側、そういった現状もあるという前提をしかなければ、これは全く違った、外にいる国民があくまでフェイクニュースを流すんだ、じゃ、権力者側が十分権力に注意して検閲にならないようにしましょうねという議論では、これは不足していると考えています。」

この日の傍聴者は35人ほど、記者は4~5人でした。
委員の欠席者は、審査会冒頭の衆院法制局橘氏、国会図書館遠藤氏の説明聴取のときは自民1人、立民1人で珍しいこともあるものだなあと思っていたところ、その後は自民が2~5人、立民が1~3人と、いつもの状態になってしまいました。また、この日は維新の委員が1人、長時間席を外していました。(銀)


4月3日、今通常国会3回目の衆議院憲法審査会が開かれました。春分の日を挟んで、毎週定例日の開催が続いています。
この日は、「放送CM、ネットCM」をテーマとして自由討議が行われ、衆議院法制局の橘幸信局長から同テーマをめぐるこれまでの議論の概要について説明を受けた後、委員からの意見の表明や委員間の質疑応答がありました。

ただ、冒頭の枝野会長(立憲)の発言「事務方に対しての非難、誹謗中傷等はなされないように強く申入れておきたい」、船田委員(自民)の発言「立憲民主党の藤原規眞委員から、衆議院法制局それから憲法審査会事務局に対しまして、学説の捏造であり、改憲派の先生方をミスリードしているというような発言がございました。…これは…礼を失する発言であり…許容し難いものと受け止めている」にあるように、指摘された問題内容について何ら検証せず憲法審査会を進めようとする自民・立憲幹事らの姿勢に、これはおかしい!と思いました。
yurusuna
以下、当日の論議について報じた『NHK』の記事を転載させていただきます。

衆院憲法審査会 憲法改正の国民投票 ネット広告に対策が必要
『NHK NEWS WEB』2025年4月3日

衆議院憲法審査会で、国民投票を行う際の広告のあり方について議論が行われ、与野党から、インターネット広告は有権者の冷静な判断に影響を及ぼすおそれがあるとして、ガイドラインの策定など対策が必要だという指摘が出されました。

3日の衆議院憲法審査会では、憲法改正で国民投票が行われる際の、テレビCMやインターネット広告のあり方について議論が行われました。
この中で、自民党の船田元氏はネット広告について「扇情的な内容や特定の考え方を繰り返し送りつけることによって、冷静な判断が阻害されるおそれがある」と指摘しました。
そのうえで、今の国民投票法では、テレビCMが投票日の2週間前から禁止される一方、ネット広告には制限がないことから「言論空間のバランスを著しく崩す」として、対応が必要だという認識を示しました。
具体的には、プラットフォーマーなどの事業者に、国民投票のCMであるという表示を義務づけることや、国会議員でつくる国民投票の広報協議会でガイドラインを策定することなどを挙げました。

立憲民主党の階猛氏は「ネットCMは受け手の意思を支配する力が強く、放送CMとは別に法規制が必要だ」と述べました。
そのうえで「放送CMと全く同じ規制を課すという趣旨ではなく、広報協議会がガイドラインを定めるなどして適正化を図る」と述べ、表現の自由にも配慮しつつ、対策を講じるべきだと主張しました。

このほか、日本維新の会、国民民主党、公明党なども同様にネット広告の問題点や対策の必要性を指摘しました。
一方、れいわ新選組と共産党は、憲法改正は必要ないという立場から国民投票法の議論自体に否定的な考えを示しました。
* 引用、ここまで。

上掲の記事の見出しや内容に示されているように、この日の議論はテレビCMよりネットCMに焦点を当てたものが多く、改憲勢力の委員たちの外国勢力の介入の危険性を指摘する意見が目立ちましたが、大石あきこ氏(れいわ)は真っ向からこれに異を唱えました。氏の『X』から転載させていただきます。

れいわ・大石氏:問題はテレビCM、ネットCMだけではない

本日の国民投票法の、CM規制に関してなんですけれども、各会派で述べられているような放送CMの規制に対して、ネットがバランスを欠くのだという話、表層でしかないといいますか。既に放送CMも2週間前のCM禁止と言われていますけれども、ザルではないかと。 意見表明CMなら可能ではないんでしょうか。人気タレントとかを使って、憲法を変えるのはいいことなんだと、その人が意見を表明するという限りにおいては、無制限に許されるのではないでしょうか。

これは妄想ではなくて、大阪ですでに行われていることで、吉村知事です。知事は本来タレントではないですけれども、大阪においては、メディアと吉村知事、大阪維新の会との密月がありまして、そのようなことになっているんですよ。本来であれば、吉村知事って政治家でもあるので、政治的中立というのは常に問われるんですけれども、なぜか大阪においては行政の長なんだと、行政のトップとして出ているんだということで、たくさんCM、番組に出ては、万博がいいんだ、カジノはいいんだというふうに宣伝してまわっているので、やはりこういった権力者側というか、与党側がいかに広告という枠を離れても、メディアの宣伝においていかに有利かっていうことを思い知らされているのが大阪ですので、その現実を見ずに、テレビのCM規制をすれば足りるんだ、これに対してネット広告のバランスが欠くんだという議論は、現実を捉えていないだろうと私は考えます。

そして住民投票という意味で見なければいけないのは、都構想ですね。大阪都構想。 2015年と2020年に2回行われまして、両方僅差で反対が多数になりまして、都構想は否決されているんですけれども。まさに公選法が適用されない、ある意味何でもありの住民投票だったわけで。いかにウソの数字を使って与党側行政側が、行政とマスコミの力でその数字や宣伝物を垂れ流して票を動かしていくのか。

これは非常に危険であるという事例として、この審査会でもやるならそういった検証をするべきだと考えます。橋下徹さんという都構想を考えた人で、2015年の都構想、住民投票の実施者である方が、憲法の国民投票の参考になるであろう、実験みたいなものだというところまでおっしゃっているので、ここに確信(「核心」の変換ミスだと思います)があると考えます。

都構想で維新の会が、こんなチラシを書いているんですよ。
大阪都構想実現で、住民サービスぐんとアップ。財政効率化で1兆1000億円。この数字の内訳は国が公表している、全国一律の1%の経済成長をシミュレーションに入れた結果で、ほとんどがその成分。都構想をやらなくても、全国でも同じように伸びる数字を都構想によってこうなるんだという宣伝チラシをまきまくって。こういった間違った数字であっても、与党側、強い側、流したときに、大きな宣伝になるのだということを事例として検証するべきだと考えます。 
* 引用、ここまで。

なお、大阪都構想の住民投票をめぐっては、津村啓介氏(立民)も、「2015年の第1回の住民投票時に、運動期間中の放送CMの量について賛成派が反対派の4倍であったと指摘され、すでにこの時点で国民投票法制定時の民放連の自主規制の表明には大きな疑義が生じていた」と述べていました。

共産・赤嶺氏:民意の反映という根本において現行法に重大な不備が

次に、赤嶺政賢氏(共産)の意見も是非紹介しておきたいと思います。氏は、「現行の国民投票法の不備について、私たちは3つの点を指摘してきた」として、「第1に最低投票率の規定がないこと。第2に公務員や教員の国民投票運動を不当に制限していること」を挙げた後、次のように述べました。
「第3に、改憲案に対する広告や意見表明の仕組みが公平・公正なものになっていないことです。
資金力の大きい者がテレビなど有料広告の大部分を買い占め、憲法が金で買われるおそれが繰り返し指摘されています。現行法には、それに対する実効性のある措置がありません。」

そして、「国会に作る広報協議会も、委員の大多数は改憲に賛成した会派に割り当てられる」とし、「現行の国民投票法は重大な問題を抱えた欠陥法だ」と断じました。

国民投票広報協議会は、衆参両院から10人ずつ、計20人で構成され、その委員は会派ごとの所属議員数の比率で割り当てられますから、改憲案の発議に賛成した会派が3分の2以上を占めることになります。いくら客観的・中立的に広報を行う、賛成・反対の意見を公正かつ平等に扱うといっても、その運営が改憲派寄りになることは避けられません。
広報協議会

赤嶺氏は「このような重大な問題のある広報協議会を具体化する規定作りは認められない」と主張しましたが、山下貴史(自民)からはこの日も次のような発言がありました。
「広報協議会の具体的な活動内容について制度設計の詰めを早期に行うべきだ。すでに2023年11月の幹事懇談会で法制局、憲法審査会事務局から広報協議会、同事務局に関する規定の条文案が示されている。」

自公も持て余し気味の維新の暴走

ところで、前回の傍聴記で報告したように、3月27日の衆院憲法審で、維新の青柳仁士氏が、緊急事態条項に関して条文の起草委員会を早期に立ち上げること、各党の考える条文案を審査会に提出することの2点の意思決定を採決で行うことを提案し、改憲派の各会派に賛否を質したところ、国民の浅野哲氏と有志の会の北神圭朗氏はその場で異論はないと述べましたが、自民の船田元氏は異論はないが(会長と与野党の筆頭幹事の)三者協議で議論して対応する、公明の濱地雅一氏は党内で検討して回答すると答えました。

そしてこの日、阿部圭史氏(維新)が自公の委員に「改めて見解を伺う」と迫りましたが、その回答は次のようなものでした。
まず船田氏は「我々も方向性はそれでいきたいという気持ちは強く持っている。ただ、起草委員会を作る、あるいは条文案を提示することの採決は2分の1でいいが、(改憲案の発議には)3分の2という大きなハードルもあるので、そこは慎重に判断していきたい」と、そして濱地氏は「私は環境整備が大事だと思っている。今現在すぐそういったものを採決することについては若干ネガティブであると表明したい」と答えました。自民も公明も、与党が過半数割れし、改憲勢力が3分の2を失った情勢を無視して、まさに「壊れたテープレコーダー」のように「採決」を「採決」をと声高に繰り返す維新の暴走ぶりにうんざりしている様子がうかがえました。

このやり取り以上に私が注目すべきだと感じたのは、濱地氏が上記の発言に続いて、「先ほど山下さんからもあったが、改憲派もそうではない会派も広報協議会の規程・細則は国民投票の環境整備として共通のテーマなので、まずはそこから一つ一つ詰めていくべきではないか」と(実際にはもっと持って回った言い方でしたが)述べたことです。
私たちが考えている以上に、広報協議会の規定の整備など国民投票に向けた実務的な準備が水面下で着々と進められているのかもしれません。今後の動向を注意深くチェックしていきたいと思います。

最後にもう一つ、これも前回の傍聴記で報告した3月27日の衆院憲法審での藤原規眞委員(立民)の発言をめぐる応酬をお知らせしておきたいと思います。
まずは『産経』の記事を転載させていただきます。

党派超えた苦言も「引くつもりはない」裏方批判の立民新人 憲法審で「学説の捏造」発言
『産経新聞』2025年4月3日

立憲民主党の藤原規真衆院議員は3日、衆院憲法審査会で衆院法制局の作成資料を「学説の捏造」と言及した自身の発言に党派を超えて批判されている現状について、X(旧ツイッター)で「引くつもりはない」と書き込んだ。

藤原氏は3月27日の憲法審で、法制局の資料について「こまぎれ、ばらばらに学説が分類されている。学説の捏造といわれても仕方がない。改憲派の先生方を容易にミスリードし得るものだ」と発言した。

これに対し、与野党は4月3日の憲法審で藤原氏の発言を問題視した。与党筆頭幹事を務める船田元氏(自民党)は「礼を失する発言で許容しがたい」と非難し、枝野幸男会長(立憲民主党)は「事務方を非難するのは筋が違う」と警告。野党筆頭幹事の武正公一氏(立民)も「不適切だ」と苦言を呈した。

ただ、藤原氏に引く構えはない。
Xで「学説の捏造」発言について「立法事実を巡る重要カ所を省き、議員の発言を憲法学説かのように記載し、憲法学者が唱えていない説を紹介。その資料を端的に評価申し上げた」と持論を展開した。
藤原氏は弁護士で昨年10月の衆院選で初当選した。
* 引用、ここまで。

上掲の記事にあるように、この日の審査会では藤原氏の発言に対する非難ばかりが目立ちましたが、私は下に転載させていただく小西洋之氏(立民、参議院憲法審査会委員)が『X』に投稿した見解が正鵠を射ていると思います。

この自民の船田議員の発言こそ問題です。3/27の立憲の藤原議員の問題提起は、衆院法制局の提出資料が、①緊急集会の立法事実の根幹(三ページの文量)を省いていたり、②学説でもないものをそのように記載したり、③憲法学者が唱えてもない説を記載したりと明らかにおかしい内容になっていることを指摘したものです。
このうち①、②については、私の指摘を受けて衆院法制局は二年前の資料から修正して3/27に補訂版を提出しています。

衆院法制局が作成していた資料が、改憲派に有利な内容として本来の法令解釈の在り方等を逸脱したものではなかったのか、そして衆院改憲派の緊急集会に関する暴論を支えていたのではないかについて、事実に基づく検証を行う必要があります。
(なお、衆院の暴論は昨日の参院憲法審で自民の佐藤筆頭幹事の意見によって全否定されました)
それを行うことなく、藤原議員を一方的に批判することは「憲法問題の調査審議」を国会法上の法的任務とする憲法審査会にあるまじき暴挙です。

なお、同様の問題提起は私も昨日の参院憲法審で(事前に与党責任者の同意も得て)行っています。
* 引用、ここまで。

小西氏のいう「二年前の資料」が憲法審査会に提出されたのは2023年5月11日でした。当時の憲法審査会長は森英介氏(自民)、与党側筆頭幹事は新藤義孝氏(自民)で、新藤氏は強引としか表現しようのないやり方で憲法審の審議を取り仕切っており、それを北側一雄氏(公明)、馬場伸幸氏(維新)、玉木雄一郎氏(国民)といった改憲派の面々が支持していました。このとき衆議院の法制局や憲法審査会事務局の職員が資料の作成に当たって新藤氏などの意向を忖度した、あるいは何らかの指示を受けていたことは十分にあり得るのではないかと思います。もちろん証拠はありませんし、下衆の勘繰りであればいいのですが、可能であれば小西氏が言うようにしっかりと検証してもらいたいものです。

ここまで書いてきたように、今回の憲法審査会では、今後の憲法審の進み方、すなわち広報協議会の規定の整備など国民投票の環境整備が議論の中心になっていくのかどうか、あるいは事務方の作成する資料の中立性に対する疑問など、放送CM、ネットCMというテーマとは直接関係のないところで注目すべき内容が目立ったように思います。

現状では選挙困難事態における議員任期延長などの改憲が進展する可能性は極めて小さいと思いますが、毎週定例日の開催が続く限り、それなら当面は広報協議会の規定を整備するための議論をまとめようというように、何らかの「成果」を出そうという気運が高まっていくことは避けられないでしょう。会長を務める枝野幸男氏の議事の進め方を見ていると、なおさら強くそうした危惧を抱かざるを得ません。
改憲に向かう議論に反対することはもちろん、憲法審の開催のペースを落とさせる、できれば開催させない運動を作り広げていくためにどうすればいいのか、考えていきたいと思います。

この日の傍聴者は35人くらい、記者は5~6人でした。
また、最近の審査会では自民党も含めて欠席者が少なかったのですが、今回は会議の前半、自民も立民も4~5人が欠席していました。自民は少し前に戻った感じで、立民はこれまでなかったことでしたが、途中から両党とも欠席者は2~3人となりました。公明党もずっと1人が欠席していました。(銀)


4月2日(水)13時から14時30分少し前まで、今通常国会で初めての参議院憲法審査会が開催されました。
テーマは「憲法に対する考え方」とされ、まず各会派1人ずつ7分以内での意見表明、続いて発言を希望する委員から3分以内での発言がありました。
yurusuna
この日の審議について報じた大手メディアの記事でそろって取り上げられたのは、最初に意見を表明した佐藤正久幹事(自民)の発言でした。以下、『毎日新聞』の記事を転載させていただきます。

参院憲法審 憲法審、自民衆参ちぐはぐ 「緊急集会」権限巡り
『毎日新聞』2025年4月3日

参院憲法審査会は2日、今国会初の自由討議を実施した。自民党の佐藤正久氏は緊急時に国会の機能を担う「参院の緊急集会」について、衆院憲法審での自民の主張を次々に打ち消す異例の意見表明を展開。自民内で衆参での「ちぐはぐさ」を浮き彫りにした。

衆院憲法審では3月27日、選挙実施が困難になった場合の参院の緊急集会をテーマに議論した。自民の船田元氏は緊急集会で対応できる期間は憲法上、衆院の解散総選挙が「40日以内」、特別国会の召集が「30日以内」と規定されるため「最大でも70日程度と解釈するのが素直な考え方だ」と主張した。

ところが、2日の参院憲法審で佐藤氏は、緊急集会が対応できる期間について「70日間に厳格に限定するものではない」と述べ、船田氏の見解を否定した。緊急集会の権限を巡っても、船田氏は「一定の限界がある」としていたが、佐藤氏は「限定的、制約的に整理する必要はない」と主張。船田氏は、首相の指名▽条約の承認▽当初予算の議決――を挙げて「要件を満たす場合が少ない」としていたが、佐藤氏は「原則として権能は全てに及ぶ」と打ち消しを図った。

衆院側は緊急事態時に衆院議員が任期満了を迎えて不在となることを避けるため、議員任期延長を図る憲法改正を目指す。一方、参院側は自らの権限を抑制することへの否定的な意見が根強い。2日の参院憲法審では、立憲民主党の小西洋之氏が佐藤氏に対し「良識の府の参院の矜持あふれる意見表明に敬意を表する」と野党側から「エール」を送った。【小田中大】
* 引用、ここまで。

佐藤正久氏自身の公式ブログから、発言の内容を詳しく紹介すると、下記のとおりです。

「参議院の緊急集会」についての意見

1.活動期間
憲法54条1項および2項の趣旨から、参議院の緊急集会の活動期間が70日を大きく超えることは憲法の想定外とする意見がある。
しかし、この日数を厳格に適用すると、衆議院議員の不在が数カ月間解消されない場合などには70日間を超えた途端に立法府は事態への対応が不可能になる。参議院の緊急集会が対応できない事態を絶対に生じさせてはならない。ゆえに、緊急集会の活動期間を画一的に定めるべきではなく、この70日という数字は活動期間を厳格に限定するものではないと考える。なお、この認識は自民党の衆参両院で確認した認識である。
また、選挙困難事態の広範性・長期性用件は、緊急集会の活動期間と切り離して考える必要がある。とくに長期性用件として70日を示す向きがあるが、緊急集会の活動期間が70日であるという理由ならば上記の認識とは相容れない。長期性の要件としては、発災等の日から「6月」あるいは「3月」、もしくは「相当長期にわたり」といった定め方が適切と考える。広範性の要件については、国民主権の重大な例外となることを十分考慮して、相当の国難事態と捉え得るものなのか、精緻な分析と検討が必要である。
さらに、大規模災害発生時の選挙制度との関係についても、具体的ケースにあてはめながら、精緻な分析と検討をする必要がある。

2.権能
緊急集会は「国会の代行機関」であり、その権能は原則として「国会の権能の全て」に及ぶと考える。
そのうえで、権限行使の範囲については、緊急集会が「国に緊急の必要性があるとき」(憲法54条2項但書)に集会を求められるものであり、この緊急性の要件を満たすかどうかで判断されるべきと考える。従って、緊急の必要性がある場合は、緊急集会の権限行使の範囲を限定的・制約的に整理する必要はないと考える。
衆議院の憲法審査会では、「総理大臣の指名、条約締結の承認および本予算については、一般的に緊急性の要件を満たす場合は少ない」旨の発言があったと伺っているが、これらについても、「国会の代行機関である緊急集会の権限は、原則として国会の権能の全てに及ぶ」としたうえで、「緊急性の必要性に応じ、権限行使の範囲が変わる」趣旨であると受け止めている。

3.衆議院議員の任期満了時
衆議院議員の任期満了による衆議院不在の場合にも緊急集会で対応し得ることは憲法解釈上可能だが、憲法に明記する方が望ましいと考える。

4.ワーキング・チーム
以上の参議院の緊急集会についての意見は、自民党憲法改正実現本部の下のワーキング・チームで衆参の実務担当者が意見をすり合わせ、集中的かつ真摯に議論して取りまとめたものを踏まえた意見である。
本審査会でも、参議院の緊急集会の位置付けや権能、大規模災害発生時の選挙制度の在り方をテーマとして更に議論を深め、参議院としての考え方をまとめていくべきと考える。
* 引用、ここまで。

私は、佐藤氏の表明した上記の意見の中で、参議院の緊急集会の活動期間や権能についての見解以上に重要なのは、この意見は自民党憲法改正実現本部の下のワーキング・チームで衆参の実務担当者が行った議論の取りまとめを踏まえたものだと明言したことだと思います。こうした取りまとめが昨年8月に行われていたことはすでに知られていました(他ならぬ自民党憲法改正実現本部のホームページにそれを伝える8月7日付の記事が掲載されています)が、衆院憲法審の与党側筆頭幹事の船田元氏(自民)はつい先日、3月27日の衆院憲法審でもあいまいな言辞を弄していました。

また、昨年の通常国会では、公明党の衆参両院の見解の齟齬が明らかになり、3月13日の衆院憲法審で濱地雅一氏が党内の不一致を認めざるを得なかったことは、このブログの3月24日付の記事で報告したとおりです。

というわけで、選挙困難事態の可能性と参議院の緊急集会の限界性をからめた議員任期延長の改憲論は、特に参院の憲法審では支持の広がりを見通せない状況ですが、そんな中、この日の審議について報じた『産経新聞』の記事で、「改憲政党である日本維新の会の片山大介氏が定例日以外の開催を要求。同じく維新の柴田巧氏は自民に“憲法改正が党是ならば困難があっても実現に向けてもっと努力すべきだ”と注文をつけた」と記されているように、維新の委員たちだけは声高に改憲を叫び続けています。

ただ、私はより警戒すべきは臼井正一氏(自民)の「憲法改正の発議が困難な今こそ、憲法改正の手続法である国民投票法の見直しについて、静謐な環境下で集中的に議論すべきだ」という呼びかけの方ではないかと思いました。現に衆議院の憲法審査会は今後も毎週定例日開催が続く可能性が高く、臼井氏の言う集中的な議論が進展するおそれがあるかもしれません。

なお、佐藤正久氏はもっぱら参議院の緊急集会について述べていましたが、この日発言の機会を得た自民党の委員たちは分担して合区の解消、自衛隊の明記、教育の充実を取り上げ、遺漏なく自民党の改憲4項目に言及していたことを指摘しておきたいと思います。

憲法審査会の目的の一つは法律や制度の憲法適合性の点検と議論

次に、福島みずほ氏(社民)の発言を氏の公式サイトから転載させていただきます。

第一に、参議院の緊急集会を極めて限定し、緊急事態条項の憲法改正が必要だとする言説は間違っています。
参議院の緊急集会を無視あるいは限定し、緊急事態条項、その中でも国会議員の在任期間の延長が語られる場合があることに強い危惧を感じています。参議院軽視です。

緊急集会は、憲法54条2項は1項を受けた規定であるといういわゆる連関構造を理由に、70日に限るという発言をしている人がいますが、それは違います。54条1項の趣旨は現政権の居座り防止にあります。また、54条2項には緊急集会の活動期間を直接に限定する文言はありません。

戦前、緊急勅令や戒厳令などにより基本的人権が制限された反省に鑑み、緊急事態条項を置かず、国会中心の緊急集会を憲法に規定した意味は極めて大きいです。日本国憲法は、その制定時から緊急事態条項を拒否したと言わなければなりません。

国会議員の任期を自由に延長し居座りを許すことは、議院内閣制を取っている我が国において、政府を変えられないということを意味します。緊急事態条項、国会議員の任期延長の本質は民主主義の破壊であり、国会の停止です。
昨年12月、韓国で大統領が戒厳令を宣告しました。この戒厳令を解除できるのは国会の決議だけでした。戒厳令の敵は国会であり、民主主義です。だからこそ、軍隊が国会を包囲し、かつ国会に突入を図り乱入したのです。

民主主義が機能しなくなるよう、民主主義の破壊を国会議員の在任期間の延長や緊急事態宣言、戒厳令で行ってはなりません。韓国の戒厳令の宣告を見て、だからこそ日本にも緊急事態条項が必要だという発言もありましたが、全く正反対の論理です。
緊急事態条項、国会議員の任期期間の延長に強く反対をします。

第二に、憲法審査会の目的の大きな一つである法律や制度が憲法適合性を持っているかどうかの点検と議論こそ必要です。

2025年3月25日、大阪高等裁判所は、同性婚を認めないことは憲法14条、憲法24条2項に反し、違憲であるとの判決を出しました。5つの高等裁判所で憲法違反であると断ぜられたのです。また、性別変更については、最高裁で違憲判決が出ています。国会がこれを受け止めて立法作業をすること、憲法を生かしていくことが必要です。

現行憲法を守らずに、憲法を踏みにじりながらその憲法を変えようとすることの暴挙について、強く抗議をしたいと思います。
憲法改正を言う前に、まず憲法を守れ、憲法を生かせということは、憲法尊重擁護義務を持つ国会議員に課せられています。
まず、違憲と言われたことを受け止め、同性婚や性別変更の法律についての憲法適合性について議論していこうではありませんか。
※本議事録は未定稿です。
* 引用、ここまで。

福島氏は発言の前半で参議院の緊急集会の意義を強調しながら緊急事態条項は不要だと主張し、後半では高裁レベルで違憲判決が相次いでいる同性婚の禁止等を例示して、法律や制度が憲法に適合しているか否かを点検し議論することが憲法審査会の大きな目的の一つであると述べました。わずか3分の持ち時間の中で、簡潔かつ的確に整理された発言で、感心しました。
同性婚の問題については、立憲民主党の辻元清美氏、打越さく良氏、公明党の谷合正明氏、平木大作氏、共産党の仁比聡平氏も指摘していました。

そして最後に、同様の観点から生活保護の給付引き下げ等の問題を指摘した山本太郎氏(れいわ)の発言を、氏のホームページから転載させていただきます。山本氏の持ち時間は7分でしたので、具体例も含め説得力に富んだ内容でした。自民党で生活保護バッシングを主導してきた片山さつき氏はこれをどんな表情で聞いていたのか、傍聴席から遠すぎて確認できないのが残念でした。

山本太郎氏「今ある憲法を守れ、話はそれからだ」

今ある憲法も守らない者が、憲法改正を謳うなど、笑止千万、寝言は寝てから言え。
まずは、今ある憲法を守れ、話はそれからだ、これが、れいわ新選組のスタンスです。

衆議院 憲法審査会は開催しているのだから、参議院も、など、論外。
憲法改正に向けての回数稼ぎ、改憲の下地作りに、与しない。これこそ良識の府、参議院の独自性。

憲法審査会の役割を、参議院ホームページで見ると、2つある。
第一の役割として、「日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制についての広範かつ総合的な調査」とされている。
どうしても参議院で本審査会を開くなら、最優先は、調査。
現行の憲法と密接に関連する法制度が、憲法の趣旨に沿って運用されているのか、憲法の趣旨に即して、どのような法改正が必要になるのかを議論し、政府に突きつけることが本会の存在意義である。
なぜなら、憲法の趣旨とは180度違う、棄民とも言える国家運営が行われ続けているのが日本国なのだから。

先進国で唯一、30年も経済不況が続くも、国を切り売り、民を切り捨て、今や国民の6人に1人が貧困。
この物価高で、ミルクを薄めて子どもに飲ませている、親のご飯を抜いて子どもに食べさせている、など、いつの時代の話しですかという状況に、国民を置いているのがこの国の政治。
貧困家庭にとどまらず、国民全体でも6割が生活が苦しいという状態で、中間層も追い込まれている。
備蓄米放出でも値段は下がらず、有識者いわく5月には、5kg3500円くらいと予測されるが、それでは半年前の水準にも戻っていない。農水大臣は3000円ほどなら値頃感と、どこまで言っても間抜けな発言は止まらない。

先に通った予算では消費税の減税さえも行わず、新たな給付金もなし。
一方、自分達への給付金、企業献金だけは四の五の言いながら死守。裏金の反省など遥か彼方、もう終わったことと、30年の不況とコストプッシュ・インフレに苦しむ庶民を置き去りに、政治だけが次に進もうとしている。

国民の生存権にも興味もなく、全体の奉仕者である公務員としての役割も放棄。
憲法25条、15条にも違反する品位のない泥棒議員たちが、国民をぶん殴り続け、国を没落させ続ける場所が、国会というお喋り小屋。
ここに、良識の府を代表して、しっかりと水を差せるのが、参議院の憲法審査会という存在ではないだろうか。

例えば、経済的に追い詰められた国民にとって、最後の命の砦が生活保護。
98%以上が適正受給である生活保護を、不正受給だらけだと、事実に基づかない話を流布。
自民党は、生きるか死ぬか、ギリギリの状態にある人でも、保護の利用をためらう恥の概念を埋め込んだ。
何とか生活できる程度しか出されないお金を、さらに引き下げると公約。実際に2013年から実行したのが、自民と公明。
その頃の当事者の声。
入浴の回数を月1回にした。食事を削った。おかずをあきらめ、ご飯に醤油をかけて食べている。真冬に灯油が買えず肺炎になった。交際費が捻出できず、一切外出しない、などなど。この後も数度に渡り引き下げは行われ続けた。
この非人道的引き下げを、憲法25条違反などで訴える「いのちのとりで裁判」では、受給者側の訴えを認める高裁判決が続く。
今年1月、福岡高裁は、生活保護費の減額決定を取り消し、「厚労省の判断は生活保護法に反し、違法」と述べた。3月には、大阪高裁が、京都市の受給者32人の減額決定を取り消し。札幌高裁では、国の判断の過程には、憲法の趣旨や目的に反する誤りがあり違法と、引き下げを取り消し。
全国で29箇所での裁判は、これまで地裁で19勝11敗。高裁では6勝4敗。
当時、生活保護引き下げの際、理由として掲げられたのは、デフレ調整だった。
しかし、それらは、生活保護利用世帯には影響を与えない、テレビやパソコンなどの高額商品の価格の落ち込みを、引き下げの理由に反映した、むちゃくちゃな話しであった。
本来、このような問題こそ、本審査会で取り上げ、最高裁判決を待たず、会として決議を出し、憲法に即した生活保護費の支給を、政府に求めるべき案件。

一方、この30年で、確かに国民の購買力は鈍化。それを加速させたのは、いかなる経済政策だったのか。
物を作っても国内で売れないのは、需要が減っていったから。
なぜ、需要が減ったか。資本側の利益を増やすため、安くてクビを切りやすい非正規労働者を増やした。結果、国民の購買力を減らした。
そして購買力の無い国内市場に見切りをつけ、多くの企業が海外に出て行くように仕向けた。そして国内での需要を激減させ、失われた20年、30年の起点となったのが、97年消費税5%への引き上げ。ここから消費税を上げるたび、個人消費の落ち込みがリーマンショックを上回るという、社会実験を何度も繰り返し、その代償を国民の命と生活苦で支払わせる鬼畜ぶり。

社会保障の大切な財源だから減税はしないと言い、過去最高益の大企業には負担を増やさない、という徹底ぶり。とっくに壊れた国を健全な国だと国民を騙し、必要な施策も打たず、物価高を上回る賃上げを実現する、と新たなウソで国民を騙す。そろそろいい加減にしてもらっていいですか?
この国で、どうやって人間の尊厳を守れるって言うんですか。
この国で、どうやって個人として尊重されると言うんですか。

参議院 憲法審査会 事務局に確認。衆参・憲法審査会が2007年に設置されてから、憲法13条や憲法25条に特化したテーマ設定で、調査が行われた回数はゼロ回。
やりましょうよ。調査を。
国民生活を底上げして失われた30年を取り戻し、ジャパン・アズ・ナンバーワンを、日本を再興するための、最後の砦がこの憲法審査会だと私は考えています。
やりましょう、こういった調査を徹底的に。
以上です。
* 引用、ここまで。

参議院の憲法審査会では欠席する委員はほとんどいません。今回も、短時間席を外す者はいましたが、全員が出席していました。
傍聴者は25人ほどで衆院より少なめでしたが、記者は最初6~7人いて、衆院より少し多かったと思います。(銀)


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