5月14日(木)10時から、今国会5回目の衆議院憲法審査会が開催され、「緊急事態条項のイメージ案」について討議が行われました。
この「イメージ案」は、衆議院の法制局と憲法審査会事務局が作成したもので、下記のような経過をたどって、あれよあれよという間に憲法審査会に提示され、議論されるに至りました。
○4月16日:自民党の新藤義孝衆院議員は、「緊急事態条項」の創設について、「ここまで議論が進んでいることを踏まえれば、さらに論点を深めるためにも、次回の審査会で、このテーマに関する集中的な討議を行ってはいかがか」と述べた。(『FNNプライムオンライン』2026年4月16日)
○4月23日:自民党の新藤元経済再生担当大臣は「緊急事態条項は、議論をピン留めする意味でも、次回の審査会で具体的なイメージを明らかにしてはどうか」と述べた。(『NHK ONE』2026年4月23日)
○4月28日:衆議院憲法審査会の幹事懇談会が開かれ、緊急事態条項についての議論を深めるため、来月中旬までに衆議院の事務局が条項のイメージ案を作成し、それをもとに討議を進めていくことで与野党が合意した。(『NHK ONE』2026年4月28日)
○5月12日:衆議院憲法審査会の幹事懇談会。衆議院の法制局や事務局が、これまでの審査会での議論を踏まえて作成した「緊急事態条項」のイメージ案を提示した。与野党はあさって、このイメージ案をもとに審査会で議論をおこなう予定。(「『TBS NEWS DIG』2026年5月12日)


審査会に提出された「イメージ案」は、以下に掲げるように、「条文案」に限りなく近い体裁のものでした。衆議院憲法審査会のホームページを開いて、「会議日誌・会議資料」⇒「第221国会」と進んでいただければ、読みやすい形でご覧いただけます。



この日は、最初に「イメージ案」を作成した橘幸信衆議院法制局特別参与が35分ほどかけてその内容を詳細に説明し、続いて各会派の代表が1人ずつ7分以内で意見を述べて、11時30分少し前に散会となりました。
緊急事態条項の必要性を大前提として作成されたイメージ案
まず、この日最後の発言者となった畑野君枝氏(共産)が審査会の運営について批判した発言をご紹介したいと思います。
「冒頭、法制局に緊急事態条項のイメージ案なるものを報告させた。前回、一部の会派から条文のイメージ案を作るべきだという主張はあったが、それは全体の合意となったものではない。
そもそも、法制局や審査会事務局は中立・公平な立場で審査会の運営に関わることが求められているにもかかわらず、イメージ案なるものを作らせ、あたかも改憲の議論が進んでいるかのように喧伝するやり方はやめるべきだ。
イメージ案というが、今後のさらなる深掘りの議論の素材とされているように、その内容は緊急事態条項が必要だと主張している政党の意見を並べたものだということも指摘しておきたい。」
畑野氏はこの発言に続いて、「緊急事態条項についていくつか意見を述べる」として、以下のように指摘しました。
「東日本大震災やコロナ感染症の蔓延でも、緊急事態条項がないから対応できなかったという事態は起きていなかった。災害時には地方自治体が人員や財源を確保していることが重要であり、地方財政を抑圧し合併などによって対応を困難にさせてきた国の政策こそが問われるべきだ。感染症対策も、コロナ禍で浮き彫りになったのは病床や人員を減らし医療や保健所の体制を削減してきた自民党政治の問題だった。その責任を棚に上げ憲法に責任を押しつけるのは筋違いだ。
それにもかかわらず緊急事態条項を憲法に盛り込む目的は、戦争を想定した体制の整備だと言わざるを得ない。自民党が主張している緊急政令や緊急財政処分は、国会の権限を奪って内閣に権力を集中させ人権の制限を可能にするものであり、明治憲法下で濫用された緊急勅令を彷彿とさせる。高市政権が進める戦争する国づくりと一体であり、断じて認められない。」
「国会議員の任期延長の議論も問題だ。そもそも国会議員の任期は国民の負託に基づくもので、選挙困難事態と称して1年もの延長を認め、国民の選挙権を停止することが許されるだろうか。
日中戦争下の1941年、当時の政府は衆議院議員の任期を立法措置によって1年間延長した。挙国一致の戦争選挙遂行体制の確立が必要なときに短期間でも国民を選挙に没頭させることは不必要な議論を誘発するというのがその理由で、選挙を延期し国民の声を抑え込んで無謀な戦争に突き進んだ。国会議員の任期延長のために憲法を変えようというのは、この歴史の教訓を踏みにじるものだ。」
畑野氏は最後に「国民が求めていない改憲のための議論はするべきではないと改めて申し上げて、発言を終わる」と述べました。
わずか1会派、1人とはいえ、審査会の最後にこのような意見が表明されたことは意義のあることだと思いました。
次に、この日の各会派代表の発言を報じた『NHK』の記事を転載させていただきます。
衆議院憲法審査会 緊急事態条項イメージ案もとに各党が討議
『NHK ONE 』2026年5月14日
憲法改正をめぐり、衆議院憲法審査会では法制局などが作成した緊急事態条項のイメージ案をもとに討議が行われました。自民党は「緊急政令」など国家機能を維持するための条項は必須だと主張したのに対し、中道改革連合は平時の国会機能維持もあわせて議論すべきだと訴えました。
14日の審査会では、冒頭、衆議院法制局が緊急事態条項のイメージ案について、大規模な自然災害や感染症のまん延などを緊急事態と定義し、この際には議員任期の延長や内閣が法律と同等の効力を持つ「緊急政令」を制定できることを盛り込んだと説明しました。
このあと討議が行われ、自民党の新藤元経済再生担当大臣は「緊急政令などについて究極の事態に陥った時に備え国家の機能を維持するための条項を設けることは必須だ。おおむね合意を得られるとみなせる論点と、さらに議論を深めるべき論点について整理したい」と述べました。
中道改革連合の国重徹氏は「あくまでも議論の整理であり、課題が改めて浮き彫りになった。緊急時の任期延長だけでなく、平時の国会機能を維持するための臨時国会の召集期限の明記や解散権行使の制限もセットで議論すべきだ」と述べました。
日本維新の会の馬場前代表は「柱は緊急時の国会機能維持や緊急政令などで、細部の論点が残されているが条文化作業の中で議論すれば漸次折り合える。9条の改正ともども速やかに条文化へと歩みを進めるべきだ」と述べました。
国民民主党の玉木代表は「議員任期の特例などを定める必要があり、条文案づくりに着手することが最も現実的な進め方だ。来年春の発議を目指すなら緊急政令の話は蒸し返さないほうが得策だ」と述べました。
参政党の和田国会対策委員長は「緊急事態の対象範囲に感染症のまん延が入っている限り反対だ。憲法を一から国民の手でつくり直す『創憲』が必要だ」と述べました。
チームみらいの古川政務調査会長は「選挙困難事態は議論の蓄積があり、オンライン出席も手段の1つとして検討を進めるべきだ。緊急政令は慎重な議論が必要だ」と述べました。
共産党の畑野君枝氏は「イメージ案は緊急事態条項が必要だと主張する政党の意見を並べたものだ。国民が求めていない改憲の議論はすべきでない」と述べました。
与党側は来週の憲法審査会でも緊急事態条項のイメージ案をもとに討議を行いたい考えで、テーマや進め方などをめぐって与野党の協議が行われます。
* 引用、ここまで。
「ピン留め」を連発した自民・新藤義孝氏
以下、いくつか気になった発言を少し詳しくご紹介したいと思います。
以下、いくつか気になった発言を少し詳しくご紹介したいと思います。
まず、与党筆頭幹事の新藤氏(自民)の意見表明です。氏は、この日提示された「イメージ案」の中で、「概ね合意を得られると見なせる“ピン留め”された論点と、見解が分かれていてさらに議論を深めていくべき論点について私なりに整理させていただきたい」と述べたうえで、「イメージ案のこの部分は“ピン留め”してもいいのかなと思う」という発言を連発しました。
たとえば、内閣による選挙困難事態の認定について、新藤氏は国政選挙の一体性が害されるほど広範な地域で、選挙の適正な実施が相当程度の長期間にわたり困難であること、の2点をもって判断すると位置づけられたことと、この認定があったときは議員任期の延長の特例を適用することは「ピン留め」してもよいのではないかと主張しましたが、そもそも衆院憲法審においてこれまで選挙困難事態の立法事実や議員任期延長の必要性について「概ねの合意」が得られた事実はありません。
したがって、上記の新藤氏の発言は誤りであると言いたいところですが、自民単独で3分の2を超え、維新を含めて4分の3以上、国民民主党を加えると8割強を占めるという現在の衆議院や憲法審の勢力図を見れば、概ねの合意を「得られた」でなく「得られると見なせる」という氏の表現は間違っていないと認めざるを得ません。
新藤氏は、「最後に、緊急政令、緊急財政処分の条項を設けることは必須と考える」、「さらに議論を深めるためにも来週の定例日にもう一度緊急事態条項に関するイメージについての討議を行うことを提案する」と述べて発言を締めくくりました。
この日も暴言を吐いた維新・馬場伸幸氏、意外にまともな主張もした参政・和田政宗氏
もうひとつの与党である維新の幹事、馬場伸幸氏の発言もいつもながらとんでもないものでした。2点紹介しておきます。
1つ目は、「憲法学の世界で参議院の緊急集会の役割・機能について諸説あることは承知しているが、ここは学校ではない。立法府に求められているのは、真に国民と国家の利益にかなう制度は何かという観点であり、無意味なイデオロギー闘争や院のメンツは排除されるべきだ」というもの。「ここは学校ではない」とドヤ顔で学問の営為を切り捨てて恥じるところのない態度に、維新という政党の反知性主義的な体質がよく表われています。また、「院のメンツ」などと言って参議院をバカにしていることも見逃せません。


もうひとつは、参議院の緊急集会の権能をおとしめるために有権者をさげすんだ暴言で、「主権者たる国民の大半は、参議院選挙で投票する際に政権を選択する重い覚悟で票を投じているわけではない。むしろ与党の政権運営が横暴になったり腐敗が目立ったりした場合、与党にお灸を据える思いで日頃支持していない野党候補に投票する傾向が強いことは、各種世論調査で明らかだ。ましてや参議院が国会の権限を一身に担う事態まで想定して投票する有権者はほぼ皆無だと考える。緊急集会が長期にわたって権限を行使することは、有権者の思いから外れた国会運営になりかねない」というもの。こんな人物に国会議員の資格があるのでしょうか。
これに対して、参政党の和田政宗氏は、選挙困難事態時の議員任期延長について、意外と言っては失礼ですが、下記のように筋の通った議論を提起しました。
「衆議院の解散により既に議員でなくなった人物が選挙を経ることなく身分復活するというのは、議会制民主主義において疑義があるという指摘がある。衆参同日選挙が予定されている中で緊急事態が発生しても、選挙で正当に選ばれた参議院議員の半数は現職として存在する。参議院の緊急集会の期間は制限されるという議論があるが、その期間は制限されないという憲法改正や、緊急集会で決定できる内容を拡充してフルスペックのスーパー緊急集会の開催で緊急事態に対応するという憲法改正を行うこともできる。」
「緊急政令、緊急財政処分については、国会機能の維持が困難となった場合における国家機能の維持のためとされているが、国会を開くことができるか、議員が参集できるかどうかについては、国会のバックアップ機能や代替機能を東京とは別の場所に置くことで解決できると考える。」
緊急政令、緊急財政処分については、上掲の『NHK』の記事にあるように、参政党の和田氏だけでなく、国民民主党の玉木雄一郎氏も「様々な意見があり、来年春の発議を目指すなら蒸し返さないほうが得策だ」と述べ、チームみらいの古川あおい氏も「国会の関与なしに法律に代わる措置を可能とするものであり、慎重な議論が必要だ」と述べました。
衆院法制局の「中立」は大嘘、イメージ案に緊急政令、緊急財政処分を盛り込む
緊急政令、緊急財政処分については、上掲の『NHK』の記事にあるように、参政党の和田氏だけでなく、国民民主党の玉木雄一郎氏も「様々な意見があり、来年春の発議を目指すなら蒸し返さないほうが得策だ」と述べ、チームみらいの古川あおい氏も「国会の関与なしに法律に代わる措置を可能とするものであり、慎重な議論が必要だ」と述べました。
このように自民党、維新の会以外の会派がそろって導入に反対あるいは慎重な立場であることを表明している緊急政令、緊急財政処分がなぜ「緊急事態条項のイメージ案」に入ったのか。それは、案を作成した衆議院の法制局と憲法審事務局が与党の指示に従ったから、あるいは与党の意向を忖度したからと考えるほかありません。キーパーソンは自民党の新藤義孝与党筆頭幹事と衆院法制局の橘幸信特別参事です。
この日、イメージ案を説明した橘氏は「これまでの審査会における討議の積み重ねを踏まえて中立的かつ専門的な立場から整理・作成した」と強調していましたし、配布された資料の冒頭にもそのように記されていますが、緊急政令、緊急財政処分について「討議の積み重ね」があったというのは虚偽だと言うほかありません。
さらに言えば、選挙困難事態の議員任期延長や参議院の緊急集会についても、イメージ案の内容はずいぶんと与党寄りになっていて、到底中立的とは言えません。
私たちは、選挙困難事態をでっち上げて議員任期延長の改憲を実現しようとする策動を阻止するとともに、緊急事態条項の「本丸」である緊急政令、緊急財政処分が改憲のテーマとして焦点化することをけっして許してはなりません。
最後に、この日の審議を受けた中道改革連合と参院側の立憲民主党、公明党の動きを報じた『NHK』の記事を転載させていただきます。
中道 憲法改正めぐり緊急事態条項の必要性など議論
『NHK ONE』 2026年5月15日
憲法改正をめぐり、中道改革連合は、衆議院憲法審査会で緊急事態条項のイメージ案が示されたことを受けて、審査会での各党の議論も見ながら、条項を創設する必要性などについて党内の議論を進めていく方針を確認しました。
衆議院憲法審査会では、憲法改正をめぐり項目の1つとして議論されている緊急事態条項について、法制局などが作成したイメージ案が示され、14日それをもとに各党の討議が行われました。
これを受けて、中道改革連合は15日、党の憲法調査会を開き、会長を務める階幹事長は「国民にとって真に必要かつ有用な憲法改正は何かという見地から議論にあたりたい。緊急事態に国会議員の任期を延長する案は一歩間違えれば恣意的で有害なものになりかねず、慎重に問題点を検討したい」と述べました。
出席者からは「憲法を改正して緊急事態条項を創設する必要があるのか、法律で対応できるのか、丁寧に議論すべきだ」という意見や、「議員任期の延長を認める場合には要件を明確にする必要がある」といった指摘が出され、今後、憲法審査会での議論も見ながら党内の議論を進めていく方針を確認しました。
○中道 立民 公明の憲法調査会長が会談
衆議院憲法審査会で緊急事態条項のイメージ案が示されたことを受けて、中道改革連合と立憲民主党、公明党の憲法調査会長は15日午後、国会内で会談しました。
会談には、衆・参両院で憲法審査会の幹事を務める3党の議員も同席し、イメージ案の内容について共有するとともに、今後、審査会での議論も踏まえ定期的に意見交換を行っていくことを確認しました。
* 引用、ここまで(太字強調は引用者)。
この記事を読むと、中道は緊急事態条項の議論は拒まない方向のようで、心配が尽きません。
この日の傍聴者は60人弱、議場で取材していた記者は5人ほどでともに前回と同程度でしたが、TVカメラが4台も入って記者席に陣取っていました。新聞も含めていつもより報道量も多かったようですが、ネットでいくつかの記事を読んだりニュース番組を見たりしてみても、憲法審査会の動向を批判的に、あるいは危機感を持って報じていたものはほとんどありませんでした。
前回の傍聴記と同じことを書きますが、私たちは厳しい現実にしっかり向き合って、「国論を二分するような」改憲阻止の運動を盛り上げていかなければなりません。(銀)





