見出しの(*)について
「日本国憲法の改正手続に関する法律」は一般に「国民投票法」と称されており、この傍聴記でも最近はそう表記していますが、今回は見出しだけではありますが略称としてより正確な「改憲手続法」を掲げておきます。
「日本国憲法の改正手続に関する法律」は一般に「国民投票法」と称されており、この傍聴記でも最近はそう表記していますが、今回は見出しだけではありますが略称としてより正確な「改憲手続法」を掲げておきます。
6月4日(木)10時から、今国会8回目の衆議院憲法審査会が開催され(古屋圭司会長が少し遅れて議場に入ってきたため、実際には10時3分頃始まりました)、「国民投票に関する集中的な討議」が行われました。
今回も最初に各会派の代表1人が7分以内で、続いて発言を希望する委員が5分以内で見解を表明しました。発言者は前半7名、後半6名の計13名でした。

まず、この日の審議のポイントを簡潔に報じた『NHK』の記事を転載させていただきます。
衆院憲法審査会 国民投票をテーマに与野党が集中的な討議
『NHK ONE』2026年6月4日(https://news.web.nhk/newsweb/na/na-k10015140911000)
衆議院憲法審査会では国民投票をテーマに集中的な討議が行われました。自民党が投票環境を整備するための国民投票法改正案を今の国会に提出する意向を示したのに対し、中道改革連合は広告規制についての議論もあわせて進めるべきだと主張しました。
憲法改正の手続きを定めた国民投票法をめぐっては、4年前、自民党、公明党、日本維新の会などが、公職選挙法にあわせて投票環境を整備するための改正案を国会に提出し、審議入りしましたが廃案となり、自民党は今の国会に改めて提出したいとしています。
こうした中、4日の衆議院憲法審査会では、国民投票をテーマに与野党が集中的な討議を行いました。
自民党の新藤義孝元経済再生担当大臣は「公職選挙法で措置された項目は速やかに国民投票法に反映させるべきだ。公職選挙法改正の審議でも特に異論はなく、賛同会派と提出の準備を進めているので、次回の審査会で速やかな審議を行いたい」と述べました。
中道改革連合の河西宏一氏は「法改正については、各会派の合意が形成され、放送やネット広告の規制に関する議論を積み残すことなく、一定の結論を得る旨が担保されるのであればぜひ前に進めたい」と述べました。
日本維新の会、国民民主党、参政党、チームみらいは、すでに公職選挙法で実現している内容であり、速やかな合意を得やすいなどとして、賛同する意向を示しました。
一方、共産党は、国民の多くは改憲を求めておらず、そのための法整備は必要ないと訴えました。
* 引用、ここまで。
傍聴記に入る前に、今回の議論に関わる基本的な事項を簡単にまとめておきます。
① 日本国憲法の改正手続に関する法律は2007年に成立し、2014年にはいわゆる「3つの宿題」について、国民投票の投票権年齢や国民投票運動などに関する改正が行われた。
② その後、2016年に公職選挙法において投票環境の向上に関する改正が数次にわたり行われたことを受け、2018年に同様の規定の整備を行うための国民投票法の改正案が提出され、2021年に成立した。
③ この2021年改正法の成立に先立ち、2019年、公職選挙法では投票環境向上に関する改正として、開票立会人の選任に係る規定の整備と投票立会人の選任要件の緩和が行われた。
④ これを受けて、2021年改正法では下記の附則第4条が設けられた。なお。改正法の施行日は2021年9月18日であった。
【2021年改正法附則第4条】
国は、この法律の施行後3年を目途に、次に掲げる事項について検討を加え、必要な法制上の措置その他の措置を講ずるものとする。
一 投票人の投票に係る環境を整備するための次に掲げる事項その他必要な事項
イ 天災等の場合において迅速かつ安全な国民投票の開票を行うための開票立会人の選任に係る規定の整備
ロ 投票立会人の選任の要件の緩和
二 国民投票の公平及び公正を確保するための次に掲げる事項その他必要な事項
イ 国民投票運動等のための広告放送及びインターネット等を利用する方法による有料広告の制限
ロ 国民投票運動等の資金に係る規制
ハ 国民投票に関するインターネット等の適正な利用の確保を図るための方策
⑤ 2022年には、「AM放送の放送設備で行うこととされていたラジオ放送による政見放送について、FM放送の放送設備においても放送できることとする」公職選挙法の改正が行われた。
⑥ 上記の2019年及び2022年の公職選挙法改正を踏まえ、国民投票法についても同様の規定の整備を行うためとして、2022年4月27日、自由民主党、日本維新の会、公明党及び有志の会の共同提案により「日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正する法律案」が提出されたが、2024年10月9日に行われた衆議院の解散により廃案となった。
以下、傍聴記です。
成立に向けて動き出した公職選挙法に合わせた3項目の「国民投票法」改正案
この日も最初に発言した自民党の新藤義孝与党筆頭理事は、冒頭で「すでに公職選挙法で措置されている開票立会人の規程整備、投票立会人の要件緩和、FM放送による広報については速やかに国民投票法に反映させるべき」だとして、「現在この3項目案の改正案の提出に向けて準備を進めており、提出され次第速やかに法案審議に入ることを提案したい」と述べました。
そして審査会翌日の6月5日には、2022年改正案の提出者であった自民、維新に加えて国民民主党、参政党の4党の9名が改正案を提出しています。それならばなぜ新藤氏は「現在準備を進めている」ではなく「明日提出する予定である」と言わなかったのか、不誠実な発言だったと思います。また、あらためて最近の国民民主党の変節ぶりを思い知らされました。
この改正案に明確に反対したのは共産党の畑野君枝氏だけでした。提出者に国民と参政が名を連ねており参議院でも過半数を確保していますので、今国会中に衆参両院を通過して成立することはほぼ確実だと思います。
2021年改正法附則第4条二号の検討は店ざらしのまま
上記の改正案は2021年改正法附則第4条一号に対応し、あわせて2022年の公職選挙法改正に合わせて国民投票時の広報にもFM放送を利用できるようにしようとするものであり、附則第4条二号の課題は置き去りにされたままになっています。
新藤氏は発言の最後に「この点について今後憲法審査会においてさらに議論を深めていくことをお約束する」と述べていましたが、その前には「ネットCMについてはそもそも規制できるかについて大きな課題がある」、「ネットを通じた国民投票運動のあり方やファクトチェックについて議論してきたが、自主的な取り組みに委ねてほしい、効果的なチェックは難しいなどの意見が多かった」、「資金規制については様々な課題があり、理念的にも実務的にもかなりの困難を伴うものも想定される」などと当事者とは思えない無責任な発言を繰り返しており、まるでやる気が感じられませんでした。
これに対して、中道改革連合の立場は、前公明党の河西宏一氏によれば「我が会派は、国民投票法のいわゆる3項目の法改正については、各会派の合意が形成され、かつ、放送CMやネットCMに関する議論を積み残すことなく一定の結論を得る旨が何らかの手段で担保されるのであれば、是非前に進めたい」というものです。「我が会派」という言い方も気になりましたが、「一定の結論」とか「何らかの手段」とか持って回った言い方で何を意味しているのかさっぱりわかりませんでした。
河西氏は、「2021年改正法附則第4条が定めたCM規制、資金規制、ネット等の適正利用に関する検討期限(注:2021年9月18日の施行後3年)はすでに大きく超過している」とも指摘していましたが、このような現状では中道が今回の改正案に賛成してしまうのではないかと危惧します。
河西氏は、「2021年改正法附則第4条が定めたCM規制、資金規制、ネット等の適正利用に関する検討期限(注:2021年9月18日の施行後3年)はすでに大きく超過している」とも指摘していましたが、このような現状では中道が今回の改正案に賛成してしまうのではないかと危惧します。
議論すらされない国民投票法の根本的な欠陥
国民投票法をテーマとしたこの日の議論は、ほぼ「2021年改正法附則第4条」のみをめぐって交わされましたが、もちろん国民投票法の課題はそれだけではありません。
そのことを指摘したのは共産党の畑野君枝氏だけでした。残念ながら他の会派の委員には馬耳東風という感じで議論は広がりませんでしたが、以下、少し詳しく紹介したいと思います。
「第一に、最低投票率の規定がない。現行法は投票率がどんなに低くても国民投票が成立する仕組みになっているため、有権者の1割から2割台の賛成しかなくても改憲案が通ってしまう。これでは国民の意思を正確に反映しているとは到底言えない。」
「第二、に公務員や教員の国民投票運動を不当に制限している。国民投票の大前提は、国民が自由闊達に意見を表明し多様な意見に接し改憲案の内容を十分に検討できることだが、現行法は公務員や教員に地位を利用した国民投票運動を禁止しており、その対象は国や地方の公務員、大学の教員から幼稚園の先生に至るまで500万人に上ると言われている。定義の曖昧な地位の利用を理由にこれほど多くの国民の投票運動を制限することは許されない。」
「第三に、改憲案に対する広告や意見表明の仕組みが公平公正なものになっていない。資金力の多い方がテレビなどの有料広告の大部分を買い占めてしまい、憲法がお金で買われるおそれが繰り返し指摘されているが、現行法にはそれに対する実効性のある措置がない。」
「国会につくる広報協議会も委員の大多数は改憲に賛成した会派から割り当てられる。広報の内容も改憲に賛成する意見が大部分を占め、改憲を進めるのに都合のよい仕組みになっている。」
このように、畑野氏は現行の国民投票法は「重大な問題を抱えた欠陥法だ」と断じ、「これらの根本的な問題について真摯に向き合うことこそ必要だ」として、さらに次のように指摘しました。
「そもそも議員や首長を選ぶ選挙と改憲の賛否を問う国民投票は全くの別物だ。現行の公選法は国民の選挙運動を幅広く制限するべからず法であり、公選法並びでいいのかということ自体が問われなければならない。公務員や教員の選挙運動を制限しているのも公選法にならった結果にほかならない。」
最低投票率などの問題は2007年の国民投票法成立時に(2014年の改正時にも)参議院の附帯決議で指摘されており、足かけ20年の課題です。これをないがしろにして公選法並びの安易な法改正のみによって改憲発議、国民投票に向かおうとすることなど絶対に認められません。

(2007年当時の「全国労組交流センター」の職場討議資料より)
最後に、今回も国民民主党の玉木雄一郎氏の発言を紹介しておきます。

(2007年当時の「全国労組交流センター」の職場討議資料より)
最後に、今回も国民民主党の玉木雄一郎氏の発言を紹介しておきます。
「最大のフェイクニュース対策は、この憲法審査会での議論の現実を正確に発信することではないか。 例えば自民党の自衛隊明記論で自衛隊の権限が大きく拡大するような説明は事実に反する情報だと思うし、自衛隊明記論で新型軍国主義が台頭するかのごとき説明は明らかなフェイクニュースだ。また、緊急事態条項の5会派案で内閣の権限が際限なく膨らみナチスが復活するかのごとき言説もフェイクだ。
ネット上のフェイクニュースを心配する前に私たちが極力扇動的な言動や行動を控え冷静な憲法論、法律論を展開することが最大のフェイクニュース対策になると考えるので、議場にいらっしゃる与野党の議員の皆さんの協力、理解を求めてまいりたいと思う。」
いったい何を言いたかったのか、傍聴者の中でも話題になった謎の発言でした。
この日の審議は、11時20分頃終了しました。
傍聴者は50人弱で前回より10人ほど増え、議場にいた記者は前回と同じく3人ほどで、今回はTVカメラは入っていませんでした。(銀)
