諸般の事情により、傍聴記がだいぶ遅くなってしまいましたが、前々回の衆議院憲法審査会の内容を報告します。
5月28日(木)10時から、今国会7回目の衆議院憲法審査会が開催されました。この日のテーマは「日本国憲法及び憲法改正国民投票法の改正を巡る諸問題」とされ、一体何を議論するのだろうと思っていましたが、各会派の委員が今後の憲法審査会で議論すべきと考えるテーマを提起し、意見を述べるという感じでした。
5月28日(木)10時から、今国会7回目の衆議院憲法審査会が開催されました。この日のテーマは「日本国憲法及び憲法改正国民投票法の改正を巡る諸問題」とされ、一体何を議論するのだろうと思っていましたが、各会派の委員が今後の憲法審査会で議論すべきと考えるテーマを提起し、意見を述べるという感じでした。
前回まで新藤義孝与党筆頭幹事(自民)が強引に引っ張ってきた緊急事態条項及びその「イメージ案」についての議論が、当面はこれ以上進展する見込みがないということで次のテーマに進もうということのようですが、この日の発言で新藤氏は自民党に有利な「イメージ案」を土台に条文起草委員会設置を主張するなど怒りに堪えませんでした。

いつものように、最初に各会派の代表1人が7分以内で、続いて発言を希望する委員が5分以内で見解を表明しました。発言者は前半7名、後半6名の計13名でした。
今回も、まず前半の各会派代表の意見を簡潔に報じた『NHK』の記事を転載させていただきます。
衆院憲法審査会 今後議論すべきテーマで討議
『NHK ONE』2026年5月28日
衆議院憲法審査会では、衆議院法制局などが作成した緊急事態条項のイメージ案をもとに、今月、2回の討議が行われ28日は、今後議論すべきテーマについて各党がそれぞれの見解を述べました。
▽自民党の新藤(義孝)元経済再生担当大臣は「緊急事態条項のイメージについて論点が整理され、議論の土台ができたので条文起草の実現を図りたい。国防規定の創設は緊急事態条項の創設とともに憲法の未完成部分を補い、国家の法体系を完成させるものだ」と述べました。
▽中道改革連合の階(猛)幹事長は「国会機能の維持は緊急事態のみでなく、通常事態も想定して議論を深めるべきだ。臨時国会の召集期限の設定や解散権行使の制限について、緊急時の議員任期延長とセットで検討すべきだ」と述べました。
▽日本維新の会の馬場(伸幸)前代表は「緊急事態条項と同様に憲法9条を集中的に討議し、成案を得るべきだ。参議院選挙の合区解消を優先すべきだという声が大きくなりつつあるが、国家的有事への対応が死活的に重要だ」と述べました。
▽国民民主党の飯泉嘉門氏は「衆議院で一定の積み上げがある選挙困難時における議員任期の延長と、参議院で議論が進む合区解消という民主主義の基盤整備に関する2つのテーマを優先すべきだ」と述べました。
▽参政党の和田(政宗)国会対策委員長は「憲法を一から国民の手でつくり直す『創憲』を提起する。現行憲法はGHQ草案に基づき占領下で制定されたもので、国民の自由な意思に基づいてつくられていない」と述べました。
▽チームみらいの古川(あおい)政務調査会長は「投票環境向上と国民投票法、オンライン国会を提案する。災害などの制約下でも民主主義を動かし続ける制度整備で、会派の意見の別を超えて議論できる」と述べました。
▽共産党の畑野君枝氏は「国民の多数が改憲を求めていない中、改憲をあおり、押しつけるような議論はやめるべきだ。今こそ憲法9条の精神が世界平和のためにも求められている」と述べました。
* 引用、ここまで。()内の名前は引用者が補いました。
以下、私が特に注目すべきだと感じた何人かの発言を取り上げて少し詳しく紹介したいと思います。
自民、維新はそろって9条改憲を主張するも、相違点明らかに
この日、自民党(新藤義孝氏と後半で発言した星野剛士氏)と維新の会(馬場伸幸氏)、そして参政党(和田政宗氏)は9条改憲の必要性を強調しましたが、それぞれの中身はだいぶ異なっていました。
自民党は現行憲法の9条1項、2項は変えずに国防規程として9条の2を新設し自衛隊を明記すること、維新の会は9条2項を削除して自衛権や国防軍を明記すること、参政党は国家としての国防のあり方を根本から議論して抜本改正することを主張しています。
維新の馬場氏は「自衛隊は張り子の虎に過ぎない」、「9条2項の規定は丸腰、ノーガード状態を宣言したに等しく、それを甘受し続ける惰弱な日本に対して周辺の独裁者たちはほくそ笑んでいるだろう」、「座して死を待ったり困ったら米国にすがりついたりするのはまともな国も振る舞いではない」などと刺激的な発言を連発していましたが(こんな根拠のない屁理屈が通用すると考えているのだとすれば、ずいぶん有権者を馬鹿にした話だと思います)、自民の新藤氏、星野氏の発言はもう少し複雑でした。
星野氏によれば(新藤氏も同趣旨の発言をしていました)、「現行9条の下では必要最小限度の実力行使しかできないという指摘があるが、自衛隊の活動は限定的な集団的自衛権の行使を含め自国防衛のための措置ならば必要かつ十分に何でもできるように一般法で整理されている。できないこととは、他国を占領し占領行政を敷くとか我が国の防衛と関係のない国際協力の場面で武力を行使することなどに限定されていると政府の見解として整理されている」のだそうで、馬場氏の意見はとんでもない見当違いだということになります。
ただ、それならなぜ9条改憲、自衛隊明記が必要なのか。新藤氏は、「一般法の根拠となる憲法には、誰がどのような手段で国を守るのかという国家の最重要任務に関する国防規定が定められていない」、「自民党の案は緊急事態条項の創設とあわせて日本国憲法の未完成部分を補い、憲法を頂点とする国家の法体系を完成させようとするものだ」と強調しました。
「国家の法体系」云々と言っていますが、本音は今の9条下ではできない「他国の占領」=侵略戦争を「自国の防衛」と称してできるようにしたいのでしょう。
高市首相の「台湾有事は日本の存立危機事態」認識と決断のもと、自衛隊はすでに敵基地攻撃能力(長距離ミサイル配備)をどんどん進め、世界中で侵略戦争を繰り返している米軍と頻繁に軍事演習をやっています。日本は「攻められる」のではなく「攻めようとしている」のは明らかではないでしょうか。

「国家の法体系」云々と言っていますが、本音は今の9条下ではできない「他国の占領」=侵略戦争を「自国の防衛」と称してできるようにしたいのでしょう。
高市首相の「台湾有事は日本の存立危機事態」認識と決断のもと、自衛隊はすでに敵基地攻撃能力(長距離ミサイル配備)をどんどん進め、世界中で侵略戦争を繰り返している米軍と頻繁に軍事演習をやっています。日本は「攻められる」のではなく「攻めようとしている」のは明らかではないでしょうか。

緊急事態条項、合区解消、国民投票法改正の見通しは?
新藤氏は、このほか「緊急事態条項」について「直近2回の審査会で論点が整理され、議論の土台ができた。条文起草の取り組みについて実現を図っていきたい」と述べ、参議院の「合区解消」も「喫緊の課題であり早急に議論すべき論点だ」、「国民投票法の整備についても議論が必要だ」と主張しました。
このうち合区解消については、飯泉嘉門氏(国民民主、前の徳島県知事でした)と後半に発言した若林健太氏(自民)も取り上げ、和田政宗氏(参政)も賛意を示しましたが、与党の一角を占める維新の馬場伸幸氏が「緊急事態条項と9条を差し置いて平時の選挙のための区割りの見直しに駆け込もうとする姿勢には疑念を抱かざるを得ない」との暴論を吐いていましたし、法改正で対処できるので改憲は必要ないという議論や参議院との関係もありますので、今国会で議論が進む可能性はほぼないように思われます。
また、国民投票法については、古川あおい氏(チームみらい)が指摘したように様々な論点がありますが、後半に発言した池端浩太朗氏(維新)や中山泰秀氏(自民)の議論を聞く限りでは、2022年に自民、維新、公明、有志の4会派から提出され24年に廃案となったいわゆる公職選挙法並びの3項目案を近く再提出し今国会で成立させようとしています。
その内容は、開票立会人の選任に関する規定の整備、投票立会人の選任要件の緩和、ラジオによる改憲案の広報の放送へのFM放送の追加であり、改憲派にとっても今これだけを取り上げて国民投票法を改正する必要は全くないと思うのですが、彼らとしてはたとえ些細な事項でも法改正を実現して「やってる感」をアピールしようと狙っているのかもしれません。
その内容は、開票立会人の選任に関する規定の整備、投票立会人の選任要件の緩和、ラジオによる改憲案の広報の放送へのFM放送の追加であり、改憲派にとっても今これだけを取り上げて国民投票法を改正する必要は全くないと思うのですが、彼らとしてはたとえ些細な事項でも法改正を実現して「やってる感」をアピールしようと狙っているのかもしれません。
中道改革連合が通常時の国会機能の維持についても指摘
この日、中道改革連合からはいずれも前立憲民主党の階猛氏と泉健太氏が発言し、国会機能の維持については、発生確率が極めて低い緊急事態だけでなく、通常時における臨時国会の召集期限の設定や解散権行使の制限についても議論を深めるべきだと主張しました。
その理由を階氏は次のように説明しています。
「この議論の必要性と重要性は過去1年の国会の動きを見ても明らかだ。昨年は物価高が進む中で実質4か月も臨時国会が開かれず、自民党は党内政局に明け暮れていた。今年は任期を2年8か月も残して通常国会の冒頭に衆議院が解散され、真冬の厳しい天候の中800億円以上の巨額の経費と関係者の膨大な労力を費やして総選挙が執行された。その結果本予算の審議入りが例年より1か月も遅れて2月末となり、イラン情勢への対応も後手に回った。この1年、国会は十分に機能したとは言えない。」
「ご説ごもっとも」というほかありません。階氏と泉氏は制度設計の方向性や具体案も提起していましたが、自民党の幹事、委員たちはどう聞いたのでしょうか。ただ、階氏も泉氏も緊急事態条項と臨時国会の収集期限及び解散権行使の制限は「セット」で検討すべきだという趣旨の発言をしていたのは残念でした。緊急事態条項は必要ないという立場のあいまいさを感じました。

最後に、悪い意味といい意味で印象的だった発言を1つずつ紹介しておきます。
悪い方は国民民主党の玉木雄一郎氏で、「今日を除けば今国会での憲法審はあと6回だ」が、「高市総理(と言った後まずいと思ったのかすぐに自民党総裁と言い直しました)のおっしゃる来春の発議のめどにこのやり方で本当にたどり着くのか、率直な危機感を感じている」と述べました。玉木氏は毎回同様の発言を繰り返していますが、なぜ与党でもない政党の議員が自民党総裁の設定したスケジュールが実現しそうもないことを心配するのか、「危機感」ではなく強烈な「違和感」を覚えます。
いい方は共産党の畑野君枝氏で、氏は自民党政権が集団的自衛権の行使容認や敵基地攻撃能力の保有、殺傷兵器の輸出解禁など軍事強化と戦争する国づくりを進めてきたことを厳しく批判した後、冤罪と再審法の問題に言及して、「冤罪は無実の人の自由を長期間にわたって奪い、個人の尊厳も名誉も蹂躙する国家による最大の人権侵害の1つだ」、「日本国憲法が世界に類を見ないほど詳細な刑事手続きの保障を定めているにもかかわらず冤罪が繰り返されてきた」と指摘したことです。
この日の審議は、11時25分頃終了しました。
傍聴者は40人弱で前回の3分の2くらい、議場で取材していた記者は前回と同じく3人ほどで、最初1台だけ入っていたTVカメラは途中で撤収してしまいました。(銀)