諸般の事情で憲法審査会の報告がだいぶ遅れてしまい、申し訳ありません。
* * * * * * * *
* * * * * * * *
11月26日(水)13時から、今臨時国会初の参議院憲法審査会が開催されました。
参議院では、7月20日の参院選後の8月1日(金)から5日(火)まで開かれた臨時国会の初日に憲法審査会が開催されて会長、幹事の選任が行われ、立憲民主党の長浜博行氏が会長に就任しています。これにより今国会では衆参両院とも立民が憲法審会長のポストを握ったことになります。
そのほか、自民党では前会長の中曽根弘文氏や与党筆頭幹事だった佐藤正久氏、片山さつき氏らが審査会から抜け(佐藤氏は落選したため、片山氏は財務大臣に就任したため)、立憲民主党の辻元清美氏と共産党の山添拓氏が幹事を辞任し(山添氏は共産党が議席を減らし幹事を割り当てられなくなったためですが、辻元氏は国土交通委員長に就いたからでしょうか/なお、2人とも委員には留まっています)、かつて衆院憲法審で暴言を吐きまくっていた足立康史氏が日本維新の会から国民民主党に鞍替えして参院選に出馬し当選して憲法審委員となる等のメンバーの異動がありました。
ただ、最も大きな変化は、参院選で躍進した参政党が初めて3人の委員を送り込み、うち1人は幹事となったことでしょう。後述しますが、この日初めて発言の機会を得た安達悠司氏(幹事)と「さや」こと塩入清香氏は、早速トンデモ論(私の個人的な感想です)を開陳していました。
この日のテーマは「憲法に対する考え方」とされ、まず各会派を代表して1人ずつ、計8人が7分の持ち時間で発言し、続いて6人の委員が3分以内で意見を表明しました。最初に長浜会長が「全体の所要は1時間15分を目途とする」と述べたとおり、審議は14時15分頃終了しました。

まず、この日の審議の様子を報じた『産経新聞』のウェブサイトの記事を転載させていただきます。
条文起草委設置で足並みそろわぬ与党 今国会初の参院憲法審、「周回遅れ」挽回なるか
『産経新聞』2025/11/26日
今国会初の参院憲法審査会が26日に開かれ、各党が「憲法に対する考え方」について意見表明した。自民党と日本維新の会が連立政権合意書に盛り込んだ「条文起草委員会」の憲法審査会への常設をめぐっては、維新が設置を提案したが、自民は言及しなかった。改憲論議が衆院に比べて遅れ気味だと指摘されてきた参院だが、挽回は容易ではなさそうだ。
■国会ごとに「振り出しに戻る」
「5カ月ぶりとなる討議のテーマは再び『憲法に対する考え方』だ。国会ごとに振り出しに戻るようなテーマ設定で、その先の議論へなかなか進めないのではないかと危惧している」
維新の片山大介氏はこう述べたうえで、「憲法審査会の下で条文起草委を設置することを提案させていただきたい」と訴えた。
国民民主党の足立康史氏は「大賛成だ」と賛意を示し、「そもそもわが党の玉木雄一郎代表はテーマを拡散させずに起草委を設置し、条文案作りを進めていくべきだと繰り返し求め続けてきた」と強調した。
一方、自民側から条文起草委設置を精力的に呼びかける声は上がらなかった。
また、党内や支持層に護憲派を抱える立憲民主党の吉田忠智氏は「条文起草委の設置など断じて許されようがない」と反対論を展開。衆院の自民が緊急時に国会議員の任期延長を可能とする憲法改正を目指しているのに対し、参院の自民は慎重姿勢を堅持しているとして「敬意を表する」と持ち上げる場面もあった。
■参政が推進役になるか
参院憲法審は同じようなテーマ設定や開催回数の少なさなどから、衆院に比べて改憲論議が「周回遅れ」と評されてきた。
こうした状況を変え得る存在として、注目を集めているのが夏の参院選で躍進した参政党だ。
安達悠司氏は現行憲法が占領下で制定されたことなどを問題視したうえで、「部分的な修正ではなく、前文から日本人が自分たちで考えて一から作り直す必要がある」と訴えた。参政が改憲論議の推進役を担うことになれば参院選と同様、次期衆院選でも保守層へ広く浸透する可能性がある。(内藤慎二)
* 引用、ここまで。(ゴシックは筆者)
食い違いが目立った改憲勢力の主張
上掲の『産経』の記事は「条文起草委員会」の設置に関する各会派の発言に焦点を当ててまとめられており、「自民は言及しなかった」と記されています。それは間違いではありませんが、私は、与党筆頭幹事で会長代理の中西祐介氏(自民)が、自民党の憲法改正実現本部が作夏立ち上げたワーキングチームのとりまとめに沿って、緊急事態対応について「任期の特例は一定の要件を満たすときは認めるべきである」、9条について「自衛の措置を担う等身大の自衛隊を明記する」などと、改憲派としての立場を明言したことを指摘しておきたいと思います。
また、記事では足立康史氏(国民)がかつて所属していた維新に同調して「条文起草委員会」の設置に賛同したことが強調されていますが、国民民主党を代表して発言した幹事の川合孝典氏は、緊急事態対応については参議院の緊急集会の重要性を、憲法審査会の今後の運営については参議院改革協議会や衆院憲法審との連携を訴え、「条文起草委員会」には言及しませんでしたし、9条にも触れませんでした。
一方、公明党の幹事の谷合正明氏は、「9条と自衛隊をめぐる問題」について「内閣や国会による民主的統制」を確保するため憲法が定める統治機構に自衛隊を位置づけることは検討に値すると述べるとともに、緊急事態対応については緊急集会と繰延べ投票で対応することを基本とすべきだとの考えを示しました。そして、自民と維新の連立政権合意をめぐっては、「国の最高法規である憲法についての議論を、与党の限られた会派が拙速に進めるべきでないことは言うまでもない」として、あからさまに苦言を呈しました。公明党からもう一人発言した平木大作氏が、「憲法9条1項、2項を今後とも堅持すべきである」と述べていたことも紹介しておきます。
いわゆる改憲派と目されている勢力において、9条と自衛隊・自衛権、緊急事態対応をめぐる改憲の内容や進め方について会派間で見解の相違があることは当然ですが、自民や公明では会派内でも衆参で齟齬があることが、これまでの憲法審での審議を通じて明らかになっています。上述のように、自民と維新の連立を通じて、参院ではこうした会派間、会派内での食い違いが一層明確になったように感じました。今後特に注視すべきは、自民・維新の連立合意で明記されている「条文起草委員会」の設置に対する参院自民党の対応だと思います。
参政党の主張は「?!」だらけ
今回、衆参を通じて初めて憲法審で発言の機会を得た参政党の幹事・安達悠司氏は、まず、参政党は改憲でも護憲でもなく一から憲法を作り直す「創憲」という立場を取っていると切り出し、その理由として、GHQが作った草案に基づいて占領下で制定されたものであり、日本固有の価値観や考え方が取り入れられておらす、外国の侵略から国を守る仕組みが備わっていないなどと、私たちが何度も聞かされてきた典型的な改憲派の主張を表明しました。
その上で、日本人が自分たちで憲法を作ることは可能だしその歴史もあると続け、「我が国最初の成文憲法は聖徳太子が作った十七条憲法だ」と述べた後、「明治時代には近代憲法を制定する気運が高まり国民が草案を作ってきた」として五日市憲法草案を挙げ、これを読んだ上皇后陛下が「深い感銘を覚えた」とおっしゃったと言ったかと思うと、帝国憲法制定時の国民の感動や一体感は非常に大きかったとして板垣退助の『自由党史』の記述を紹介しました。何の脈絡もなく、とても弁護士とは思えませんでした。

そして、参政党が5月に公表した『新日本憲法(構想案)』の作成過程(2年以上かけて勉強会やワークショップを行って作ったそうです)を述べるなどして、最後に「緊急事態条項については、感染症の蔓延が要件とされている場合、人為的に緊急事態を作らされる(私たちの表現で言えば「でっち上げられる」でしょうか)おそれがあるため、参政党は反対を表明している」と明言しました。感染症蔓延の要件がなければ賛成するのかという疑問は残りますが、この日最も注目すべき発言だったかもしれません。
その上で、日本人が自分たちで憲法を作ることは可能だしその歴史もあると続け、「我が国最初の成文憲法は聖徳太子が作った十七条憲法だ」と述べた後、「明治時代には近代憲法を制定する気運が高まり国民が草案を作ってきた」として五日市憲法草案を挙げ、これを読んだ上皇后陛下が「深い感銘を覚えた」とおっしゃったと言ったかと思うと、帝国憲法制定時の国民の感動や一体感は非常に大きかったとして板垣退助の『自由党史』の記述を紹介しました。何の脈絡もなく、とても弁護士とは思えませんでした。

そして、参政党が5月に公表した『新日本憲法(構想案)』の作成過程(2年以上かけて勉強会やワークショップを行って作ったそうです)を述べるなどして、最後に「緊急事態条項については、感染症の蔓延が要件とされている場合、人為的に緊急事態を作らされる(私たちの表現で言えば「でっち上げられる」でしょうか)おそれがあるため、参政党は反対を表明している」と明言しました。感染症蔓延の要件がなければ賛成するのかという疑問は残りますが、この日最も注目すべき発言だったかもしれません。
参政党からはもう一人、「さや」こと塩入清香氏も意見を表明しました。その主張は「憲法に我が国の大切な宝である子どもの権利を明確化し、保護していくための新たな規程を盛り込む必要がある」、「言葉を発しない乳幼児を思いやる時間こそが人類をまともにしてきた」というものでした。
というわけで、今回はトンデモ論を振りまいただけに終わったように見える参政党ですが、『産経』の記者が期待を込めて書いているように、「今後、改憲論議の推進役を担う」ようになる可能性はけっして小さくないと思います。その動向を注視していきましょう。
立民、共産、れいわは改憲反対の立場を明言
今国会から野党側の筆頭理事となった立憲民主党の吉田忠智氏は、緊急集会について「機能強化等に関する論点をさらに議論し、具体的な制度改善に結び付ける必要があり、特に、参議院選挙区の合区が緊急集会の制度趣旨に合致するものか検討が必要と考える」、自民・維新の連立合意に記されている「衆参憲法審での条文起草委員会の設置など断じて許されようがない」などと述べたほか、国会法に定められている「憲法審査会の法的な任務である憲法違反問題等の調査審議も極めて重要であり」、「我が会派は、自民・維新の連立合意にあるあらゆる武力行使を可能にしてしまう憲法9条の改憲には明確に反対する」と強い口調で表明しました。
また、もう一人立民から発言した小西洋之氏は、維新の委員は「審査会ではもう十分意見を出し合ってきた、壊れたテープレコーダーのような議論を繰り返している」と言うが、議員任期延長を主張する衆議院の改憲派の「緊急集会は平時の制度で70日限定であり、その権能は制限される」との見解がなぜ成り立ち得るのか、この審査会で審議したいので幹事会に維新の会の見解を出してくださいと言っているが、1回も出されたことがないと暴露しました。
共産党の山添拓氏は、まず「高市総理が所信表明演説で憲法改正に向けた議論の加速を求めた」が、「行政府の長として憲法尊重擁護義務を負う総理が、国会に対し改憲論議を急げとあおるなどもってのほかだ」と指摘した上で、「自民党は9条への自衛隊明記を主張し、維新の会は9条2項を削除し国防軍の保持を明記すべきと9条破壊を掲げている」が、「戦後80年の今年、日本国憲法に刻まれた不戦の誓いを一顧だにせず、戦争国家づくりで憲法破壊を進めるなど言語道断だ」などと主張しました。
れいわ新選組の山本太郎氏は、発言の冒頭に「今ある憲法を守れ、話はそれからだというのがれいわ新選組の考え方だ」と述べ、「老老介護がスタンダードとなり、介護離職やその先に起こる介護殺人でさえ珍しいものではなくなったのが日本」であり、「国からの公助を削り続け、介護においても自助・共助を事実上国が強制しているに等しい。これは個人として尊重されるという憲法13条違反だ」と指摘、さらに多くの国民が困窮している実情を挙げて「憲法25条はずっとほごにされ続けている」、高市政権の経済対策・補正予算について「国民に対する物価高対策はおまけ程度でしかなく、資本の側に従順で一部の奉仕者に成り下がった現状は憲法15条違反である」と訴えました。そして最後に、「どうしても憲法審を開くというなら、憲法改正への地ならしではなく、憲法違反及びその疑いに関する調査でなくてはならない」と指摘しました。
こうして、今国会初の参院憲法審は幕を閉じました。そして、本傍聴記の執筆が遅れたために書けることですが、この日が今国会最後の参院憲法審となりました。
参院側では、今のところ自維連立政権の発足や参政党の憲法審への参加による目立った変化は見られませんが、上述したように、参院自民党の条文起草委員会設置への対応、改憲勢力としての参政党の動向など、引き続き注目・警戒していきたいと思います。
傍聴者は始め20人くらいでしたが、すぐに30人ほどになりました。記者は4人いましたが最後は2人になりました。参政党が初めて憲法審に登場するということで支持者が駆けつけるのではないかとも思っていましたが、そういうことは起こらなかったようでした。(銀)
