6月12日10時から11時20分過ぎまで、今通常国会9回目の衆議院憲法審査会が開かれました。
前回の傍聴記に、5月29日に開かれた幹事懇談会で「緊急事態条項の骨子案を自民党、公明党、日本維新の会、国民民主党と有志の会が6月12日の幹事会で共同で提示することを申し合わせた」(『時事ドットコムニュース』5月29日)と書きましたが、この日の幹事懇ではそのシナリオどおりにことが進みました。
そして、引き続き開かれた憲法審査会本体では、「骨子案」そのものは配布されなかったものの、与党側の筆頭幹事で会長代理でもある船田元氏(自民)がその内容を詳細に説明しました。この発言は議事録に残されますので、事実上審査会で配布されたも同然です。さらに悪いことに、衆院憲法審に提出された資料は傍聴者に配布され、ホームページにも掲載されますが、この日は提出先が幹事会であったため、私たちにはその正確な内容を知るすべがありませんでした。
枝野幸男会長や野党側筆頭幹事の武正公一氏(ともに立民)は、議事録に残る憲法審本体への提出は認められないが残らない幹事会への提示は認めるとして改憲勢力と手を打ったわけですが、ほとんど意味のない駆け引きだったわけで、本当に腹立たしい限りです。


以下、このことを報じた『読売新聞』と『産経新聞』の記事を転載させていただきますが、案の定両紙とも見出しには「改憲骨子案」を「提示」と掲げており、審査会本体と幹事会の違いなど全く問題にしていません。
災害やテロなどなどの緊急時に国会議員の任期延長、改憲骨子案を初提示…自民など5党派
『読売新聞オンライン』2025年6月12日
自民、公明、日本維新の会、国民民主の4党と無所属議員の衆院会派「有志の会」は12日の衆院憲法審査会幹事会で、災害などの緊急時に国会議員の任期を延長する憲法改正の骨子案を初めて提示した。
骨子案は、任期延長を認める「選挙困難事態」の認定要件などが柱となっている。自然災害や感染症の蔓延、武力攻撃、テロや内乱といった緊急事態で、広い範囲で国政選挙の実施が長期間困難と認められる場合、内閣が選挙困難事態とその期間を認定するとした。
認定にあたっては、国会の事前承認を受けることを求めている。
また、困難事態の期間の経過後に選挙を速やかに行うとしたほか、経過前でも可能な場合は国会の議決に基づいて速やかに実施しなければならないとも定めた。議員任期についてはこれらの選挙期日の前日まで延長するとしている。


幹事会は憲法審査会に先立って開かれた。自民の船田元・与党筆頭幹事は審査会終了後、「憲法改正に向けた一つのステップで、大変安堵した。一つの土台として、次の国会以降で深掘りしていきたい」と記者団に語った。
5党派が「議員任期延長」の改憲骨子案提示 自民内の「溝」が懸念材料 衆院憲法審幹事会
『産経新聞』2025年6月12日
衆院憲法審査会の幹事会が12日開かれ、自民党と公明党、日本維新の会、国民民主党、衆院会派「有志の会」の5党派でまとめた緊急時の国会議員任期延長を可能にする憲法改正骨子案が示された。衆院自民は賛意を得やすい項目だと期待するが、参院自民は現行憲法にある「参院の緊急集会」の役割を重視する立場だ。憲法改正を党是に掲げる自民が衆参の「溝」を埋め、結束できるのかが焦点となる。
条文案の一歩手前
大規模自然災害や戦争などの選挙困難事態下で国会機能維持を図るための骨子案は、維新、国民民主、有志の3党派案に自公の意見を反映させたものだ。関係者は「改憲条文案の一歩手前まで来た。秋の臨時国会以降の議論の出発点になる」と解説する。立民は提示に後ろ向きだったが、議事録に残らない幹事会に示すことで折り合った。
自民の船田元氏は幹事会後の憲法審で、骨子案について「次のステップに向けた大きな前進だ」と強調した。他の4党派も骨子案の意義や憲法改正につなげる必要性を訴えた。
一方、立民の武正公一氏は「選挙困難事態の立法事実はない」と改めて議員任期延長措置は不要だと訴えた。れいわ新選組と共産党も同様の見解を示した。
「参院選に影響」
衆院5党派の結束は強いが、任期延長の改憲が実現するかは見通せない。「参院の緊急集会」の役割が軽視されることへの懸念が参院で根強いためだ。
自民が10日の党会合で骨子案提示について水面下で協議したところ、参院自民の出席者から「参院選に悪影響を与える」などの反対論が噴出したという。
11日の参院憲法審の幹事懇談会に出席した立民関係者も参院自民の不満を暴露。幹事懇後、記者団に「自民側は、参院選で参院をないがしろにするようなことをやるのかという感じで、『選挙前に余計なことをしやがって』みたいなことを言っていた」と明かした。
船田氏は記者団に参院自民の意見を骨子案に反映させたことで対立は解消したとの認識を示した。しかし、立民の閣僚経験者は「議論を進めるほど自民内が割れている状況が明らかになる」とほくそ笑む。
「さいは投げられた。秋の臨時国会では速やかに起草委員会を設置し、骨子案を土台に憲法改正原案の作成に入るべきだ」。維新の馬場伸幸氏は12日の衆院憲法審でこう訴えたが、議論を牽引すべき自民の現状は心もとない。(内藤慎二、末崎慎太郎)
* 引用、ここまで。
なお、その後、大石あき子氏(れいわ)が自身の公式ウェブサイトに「骨子案」の現物を掲載してくれていることがわかりました(https://www.oishiakiko.net/2025-06-12-kenpoushi-oishi/)ので、下記に添付しておきます。
ただ、改憲勢力の機関紙とも言うべき『産経』が、幹事会への「骨子案」提出にもかかわらず「自民の現状は心もとない」と評しているとおり、議員任期延長改憲には高いハードルがあります。
それを象徴するやり取りが、大石あきこ氏(れいわ)の船田氏に対する下記のような質問と回答でした。これも大石氏の公式ウェブサイトから要約して転載させていただきます。
大石氏:幹事会で船田幹事に自民党の中で衆参でこれはまとまっているのか、会派としての意見でよろしいのかと聞いたら、正式には党内手続は取れなかったが、大きく言えば会派の意見だとおっしゃっていた。それはどういう意味なのか、具体的に教えていただきたい。
船田氏:自民党として、昨年夏にワーキングチームを作って衆参両院の間で意見の調整をさせていただいた。 その結果、選挙困難事態があること、その際は議員任期を延長すること自体は合意しているし、また、参議院の緊急集会がいつまでも存続する、あるいは権限を持っているということではなく、一定の限界があることについても合意している。ただ、参議院の方で、緊急集会の射程について、あるいはその権限について意見の食い違いが若干あったので、今回は衆議院の現場の幹事、オブザーバーで決定した。
しかし、これは生煮えということでは全くなく、党の正式機関で総裁直属機関である憲法改正実現本部で了承されたものなので、これはほぼ自民党の考え方と言っても差し支えないと思っている。
以上です。
一読して明らかですが、船田氏の説明は全く要領を得ないものでした。それにしても、「“ほぼ”自民党の考え方」って何なんでしょうか。
『産経』の記事にあるように、馬場伸幸氏(維新)はこの日の憲法審で「さいは投げられた」と(おそらくは気の利いた表現を使ったつもりで)述べましたが、けっしてそうではないことを強調しておきたいと思います。
さて、「改憲骨子案」ばかりに焦点が当たったためぼやけてしまいましたが、この日の衆院憲法審のテーマは「今国会の振り返りと今後の進め方」とされていて、まさに玉石混淆(石の方が断然多かったのですが)、様々な発言が飛び出しました。その中で改めて改憲派の本命が、やはり9条改憲であることが明らかになりました。
9条改憲、自衛隊明記の議論を要求する自民、維新の委員たち
維新の馬場氏は、「改憲骨子案」について「さいは投げられた」と言った後すぐに、次のように続けました。
「今国会で憲法9条に絞った議論が行われなかったのは残念でならない。我が党はすでに自衛隊を明記する条文案を発表しているが、党の憲法改正調査会で9条2項を削除する方針を決定し、議論を進めている。秋の臨時国会では9条をめぐる議論も加速させ、起草委員会で改憲原案の作成に着手すべきだ。」
そして、自民党の山田賢司氏は、自党の憲法審幹事への批判を交えながら、自衛隊明記の改憲の議論の推進を求めました。
「自衛隊の明記について、自民党の幹事は本当に重要だと考えているのか。自民党は従来から改憲4項目を掲げて自衛隊明記の必要を訴えているが、なぜ憲法審の議題として深掘りした議論を進めないのか。重要と考えるなら、率先して議題として議論を尽くし条文化を進めるべきであり、そうしないのであれば自民党は自衛隊明記の必要性、緊急性が高いと考えていないと評価されてもしかたない。」
前回の傍聴記に記したことの繰り返しになりますが、参院選、そしてその後の衆院選の結果、改憲勢力が発議に必要な勢力を衆参両院で確保することになれば、「参議院の緊急集会」の権能をめぐって自公両党で衆参の不一致がある緊急事態時の議員任期延長の改憲より、集団的自衛権を位置づけ自衛隊を明記する改憲の方が先に発議される可能性はけっして低くないと思います。最大限の警戒を続けていきましょう。
衆院法制局作成資料の「学説のねつ造」疑惑をめぐる攻防
さらにもう一つ、維新・馬場氏の発言を取り上げますが、氏は参議院の緊急集会をテーマとして3月27日に開催された衆院憲法審において衆議院法制局が作成・提出した資料や橘幸信衆議院法制局長が行った説明について、藤原規眞氏(立民)が「学説のねつ造」、「ミスリード」等の文言を差し挟みながらその公平性、客観性に疑義を呈し、さらに参院憲法審委員の小西洋之(立民)がそれに同調する主張を『X』にポストしたり4月16日の参院憲法審で述べたりしたことに対して、両氏の主張は「明らかな事実誤認に基づく誹謗中傷」だと決めつけ、立民の憲法調査会長である山花郁夫氏に説明を求めました。
これに対して、山花氏は「(藤原氏、小西氏に対する)監督不行き届きを党の憲法調査会の責任者としておわびする」とあっさりと謝罪したのですが、馬場氏が指摘した「明らかな事実誤認」が何を指しているのかは明確でなく、また、仮に何らかの事実誤認があったとしてもそれは藤原氏や小西氏の主張の一部にすぎないと考えられますので、これで一件落着とはならないのではないでしょうか。
また、この問題に関連して大石あきこ氏(れいわ)が「私が橘法制局長に事情をうかがったとき、氏は小西氏を呼び捨てにして怒っていた」と述べたところ、浅野哲氏(国民)は、この発言について「議事録の削除を含む適正な対応を求めたい」と要求しました。(大石氏の『X』によれば、6月19日に開催された幹事懇談会で、議事録から削除されないことが決まったそうです。)
このように改憲勢力は選挙困難事態における議員任期延長改憲の障害となる「学説のねつ造」疑惑を何としても葬り去ろうとしており、立民の幹事たちはそれに同調しているように見えますが、この日の憲法審で反論の機会を与えられなかった藤原規眞氏は翌日の『X』に次のように投稿しており、闘う姿勢を崩していません。
「記者さんにも書けること書けないことあり。昨日の衆議院憲法審査会で火だるまになり、激高しながら委員会室を出た。顔見知りの記者さんが笑いながら駆けよってきた。私はまくし立てた。『▲▽??〒□Σ×√??!』記事になったら大ごとだ、が、一日が経ったが藤原の『ふ』の字もない。」
この問題がこのままうやむやにされないよう闘う議員をサポートしていくとともに、法制局や憲法審査会事務局の作成する資料、あるいはそれに基づく憲法審での事務方からの説明が本当に公平で客観的なものなのか、注意深くチェックしていく必要があると思います。
この日の委員の出席状況は、自民は集まりが悪く始め4~5人が欠席していましたがすぐに1~2人になり(0人になったこともありました)、中盤からは3人前後となりました。これに対して立民は欠席者数の変動が小さく、常時3~4人が席を外していました。他の会派は全員が出席していましたが、赤嶺政賢氏(共産)は同時に開催されていた安全保障委員会に出席するためだったのでしょうか、途中退席して戻りませんでした。
傍聴者は40人ほどで最近ではかなり多い方でした。この日が今国会最後の衆院憲法審だったからかもしれません。記者席には開始時は誰もおらず、途中から1人になりました。
要警戒:枝野幸男会長の改憲への意気込み
今年の通常国会は6月22日に閉幕し、衆院憲法審での実質審議は6月12日が最後となりました。
ところが、6月19日にも衆院憲法審の幹事懇談会が開かれていました。以下、『NHK』の報道です。
“憲法改正の国民投票 偽情報対策の検討を” 衆院憲法審査会
『NHK NEWS WEB』2025年6月19日
(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250619/k10014839211000.html)
衆議院憲法審査会の幹事懇談会で、枝野審査会長は、憲法改正の国民投票が行われる場合に、SNS上の偽情報への対策として検討すべき項目を各党に伝えた上で、この提案をもとに議論を進めたいという考えを示しました。
19日に開かれた衆議院憲法審査会の幹事懇談会で枝野審査会長は、与野党の筆頭幹事と協議してまとめた「今後の議論の方向性」という提案を各党に示しました。
この中では、憲法改正の国民投票が行われる場合に、広報を担うために設置される「広報協議会」が、SNS上の偽情報への対策として正確な情報をどのように発信していくかや、必要な規制を設ける際にどの程度関わるかなど、検討すべき項目が挙げられています。
この提案について、各党は持ち帰って検討する考えを示しました。
枝野審査会長は記者団に対し「今後の議論の方向性を示したので、各党・各会派には、秋までに論点を整理して準備してほしい」と述べました。
* 引用、ここまで。
これはいったい何なんでしょうか。まるで夏休みの宿題を出す教師のような振る舞いです。枝野氏がいつまで会長の座に就いているのか、そしてどんな内容の改憲を想定しているのかはわかりませんが、改憲に前のめりの姿勢についてはどんなに警戒しても警戒しすぎということはないと思います。
なお、6月20日(金)には、請願の処理など事務的な案件を処理するために今国会10回目となる憲法審査会が開かれ、1分強で閉会しました。
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こうして今年の通常国会の衆院憲法審は閉幕しました。改憲勢力にとってはフラストレーションが溜まるばかりだったかもしれませんが、枝野会長の指揮の下で改憲案発議へ向けた歯車が強引に回転させられました。閉会した今国会でも少数与党政権の下でも大軍拡予算はさしたる抵抗もなく国会を通過し、能動的サイバー防御関連法や日本学術会議法などの戦争関連の悪法もあっさり成立してしまいました。
私たちはこうした厳しい情勢=翼賛国会を真正面から見据え、怒りと危機感を持って現実に進められている石破政権の戦争政治に反対する抗議行動を広げましょう。既成政党は選挙の中でどこも争点にはしませんが、今こそ日本の戦争絶対反対が最も重要な課題です。9条改憲阻止!これからも粘り強く反戦の闘いに取り組んでいきましょう!(銀)
