6月5日10時から11時20分過ぎまで、今通常国会8回目の衆議院憲法審査会が2週間ぶりに開かれました。
前週の定例日、5月29日には憲法審本体は開催されませんでしたが幹事懇談会が開かれ、そこで見過ごすことのできない重要な決定が行われましたので、憲法審の傍聴記に入る前にそのことを報告しておきます。

yurusuna
まず、『時事通信』の記事を転載させていただきます。6月12日の幹事会に、改憲勢力の5会派から議員任期延長の「改憲骨子案」が提出されることが報じられています。

改憲骨子案、来月12日に提示 自公維国、議員任期延長巡り
『時事ドットコムニュース』2025年5月29日

衆院憲法審査会は29日の幹事懇談会で、緊急事態条項の骨子案を自民党、公明党、日本維新の会、国民民主党と野党系会派「有志の会」が6月12日の幹事会で共同で提示することを申し合わせた。
大規模災害など選挙実施の困難な非常事態が起きた際の国会議員任期延長に関する規定を憲法に加えるもの。4党1会派が内容を最終調整している。
* 引用、ここまで。

この記事だけでは実際にどのようなやり取りがあったのかよくわかりませんので、大石あきこ氏(れいわ)の『X』からも転載させていただきます。いつもながら大石氏が舌鋒鋭く枝野幸男会長(立民)に異論を唱えている様子が目に浮かびます。

大石あきこ れいわ新選組 衆議院議員 大阪5区【ヤバい、6/12 #緊急事態条項が進む】
2025年5月30日

5/29、衆議院憲法審査会の幹事懇談会で、緊急事態条項が一歩前に進められる動きがあった💢
報道画像のように野党第一党の立憲は5/15には「改憲の起草委」を「あり得ない」と一蹴したはずが、2週間後の5/29に「改憲の骨子の幹事懇での配布」はOKとした。

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つまり、
5/15「触らせて→あり得ない」
5/29「フェザータッチで→まあいいか」今ココ
改憲派(自公維国)は、こんなスケベジジイみたいなやり口で改憲すな!
立憲も応じるな💢
犠牲は国民やぞ。
以下、大石の発言を中心とした議事メモです(オブザーバー理事として発言)。

【緊急事態条項骨子案の提出について】
大石:憲法審査会(正式会合)で骨子案のペーパーを出さずに、幹事会(非公開の役員会合)で提出するというが、意味合いの違いはあるのか。
いずれにしても改憲の既成事実化の一歩であり、国民にとって許されない行為であり反対。

枝野会長:普通、幹事会は議事録等を残さない。もちろん幹事会がおこなわれそこで議論した事実としては残るが、いわゆる公的記録には議事は残らない。
(それはそれでヤバないか?)
枝野:反対のご意見もあったが、両筆頭間(自民と立憲のあいだ)で合意いただいたとおり、6/12幹事会で骨子案を提示することを認めると決めたい。
(両筆頭間で合意すな!)
(後略)
* 引用、ここまで。

枝野氏は「公的記録には議事は残らない」と(だから問題はないんだとばかりに)強弁していますが、氏も認めているとおり幹事会で議論した事実は残りますし、大石氏が「それはそれでヤバ(く)ないか?」と書いているように、傍聴者も記者もいない、ネット中継されずアーカイブも残らない、そんな密室での「スケベジジイみたいなやり口」での改憲骨子案の提出は絶対に認められません。

憲法と現実の乖離

続いて傍聴記に入りますが、この日のテーマは「憲法と現実の乖離」でした。5月21日の参院憲法審も同じテーマで開かれましたが、議論の内容は参院と衆院で大きく異なるものとなり、以下に転載させていただく『産経新聞』の記事にあるように、衆院では改憲各派がそろって「自衛隊の存在を憲法に規定する必要性を訴え」ました。

自民、維新、国民、公明が「自衛隊明記」で足並みそろえる それでも高い立民の「壁」
『産経新聞』2025年6月5日

与野党は5日の衆院憲法審査会で「憲法と現実の乖離」をテーマに議論した。自民党や日本維新の会、国民民主党、公明党は戦力の不保持などをうたう9条を取り上げ、自衛隊の存在を憲法に規定する必要性を訴えた。自民は秋の臨時国会の主題としたい考えだが、少数与党下の憲法審で主導権を握る立憲民主党を説得できるかは不透明だ。

「戦力の不保持と自衛隊の存在の問題は最も典型的な乖離だ」。与党筆頭幹事の船田元氏(自民)は憲法審で自衛隊を憲法に明記すべきだと述べた。また、「実力組織としての自衛隊の保持を定めようとするものだ。主眼は国防規定の創設にある」と強調した。

維新の阿部圭史氏は、同党がこのほど9条2項の削除による集団的自衛権の全面容認などの方針を決めたことを説明。「安全保障環境の変化に即応し、平和と独立をどう守るかという現実主義に基づいた視座が不可欠だ」と語った。

国民民主の浅野哲氏も自衛隊の存在を規定し、「憲法と現実とのねじれを正面から解決すべきだ」との見解を示した。

公明の浜地雅一氏は「自衛隊の違憲論解消のために憲法改正が必要だというのはいささか無理がある」と述べた。ただ、内閣の職務権限を定める73条に自衛隊に対するシビリアンコントロール(文民統制)を規定する条項を盛り込む案に言及した。

こうした意見と一線を画したのが立民やれいわ新選組、共産党だ。立民の山花郁夫氏は自衛隊や安全保障には触れず、学問の自由を守ることや、「同性婚に対する法的整備は喫緊の課題だ」などと主張した。

改憲政党の足並みがそろったことを受け、船田氏は憲法審終了後、記者団に「秋の臨時国会では9条がある程度、テーマになり得るし、しなければいけない」と意気込みを語った。しかし、現状は改憲政党の議席は衆院で憲法改正の発議に必要な3分の2を下回っており、立民からは「わが党が乗れる項目で発議してはどうか」(閣僚経験者)と足元を見られている。(末崎慎太郎、内藤慎二)
* 引用、ここまで。

この記事で紹介されている船田(自民)、阿部(維新)、浅野(国民)、濱地(公明)の各氏の発言はいずれも各会派を代表して1巡目に行われたもので、もう1つの改憲勢力である有志の会の北神圭朗氏も「憲法9条が我が国の安全保障の現実に耐え得るのかを検討すべきだ」などと主張しました。

また、2巡目に発言の機会を得た改憲勢力の委員たち、発言順に柴山昌彦(自民)、大野敬太郎(自民)、和田有一朗(維新)、高市早苗(自民)の各氏もこぞって憲法9条と自衛隊の現実との乖離を取り上げ、「子どもになぜ日本は戦力を持ってはいけないのに自衛隊は許されるのかと尋ねられても説明が難しい(柴山氏)」、「日本国憲法は占領下で制定されたために国防規定を欠いている。本来ならGHQが引き揚げ主権を回復した1952年に改正すべきだった(大野氏)」、「2012年の自民党の憲法草案がベストだと思っているが、まず現在党として提案しているものをベースに考えていきたい(高市氏)」などと述べていました。

一方、「こうした意見と一線を画したのが立民やれいわ新選組、共産党だ」ったわけですが、立民の発言者は、『産経』の記事で紹介されている山花郁夫氏のほか2巡目に発言した平岡秀夫氏も武正公一氏も「自衛隊や安全保障には触れず、」平岡氏は死刑制度を、武正氏は予備費の過大な計上や憲法に規定されていない補正予算の常態化など財政の問題を取り上げました。立民の党内では、憲法9条と自衛隊の現実との乖離をどう考えるか相容れない立場のグループが、同床異夢と言うか呉越同舟と言うかかろうじて1つの看板の下に集まっているのだと思いますが、改憲勢力に対抗するためには、分裂もいとわずに党内で議論を重ねることが必要なのではないでしょうか。

大石あきこ氏(れいわ)は憲法の前文を引用しながら、次のように「憲法と現実の乖離」を指摘しました。
「『そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する』とあるのに、なぜ国民の6割が生活が苦しいと言っているのか、なぜ政府は能登の復興をちゃんとやらないのか、なぜ政府は万博をやってカジノを推進しようとしているのか。そして今、なぜ政府は主食を作る農家を徹底的に潰そうとしているのか、国民がお米を食べられないようになっているのか。」

「『われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する』という前文をかみしめるなら、今世界で起きていること、ガザでの虐殺に思いをはせるべきではないか。なぜ、政府はイスラエルに加担するのか、国際法違反、戦争犯罪を許すのか。今、日本がイスラエルと結んでいる様々な連携協定、貿易協定や防衛の協定を見直したり破棄することもやらないのか。武器の見本市を開いて実証済みだとされるイスラエルの武器を並ばせる、武器の取引をやめなきゃいけない。そしてパレスチナの人々が望む形での国家承認をしなければいけない。
例えばスペインはイスラエルとの武器の取引をやめると明言した。国家承認も決めている。憲法前文を持つ日本もやれるし、やらなきゃいけない。」
そうだ!

また、赤嶺政賢氏(共産)は、ひめゆりの塔の説明文を歴史の書き換えと言い放った西田昌司参院議員(自民)や陸上自衛隊第15旅団がホームページに再掲載した牛島満司令官の辞世の句を平和の歌だと強弁した中谷元防衛相を批判し、次のように指摘しました。
「重大なことは、こうした歴史を修正する動きが大軍拡と一体で進められていることだ。沖縄が戦場になることを前提にしている南西諸島の軍事要塞化と住民疎開計画の具体化は沖縄戦の教訓を真っ向から踏みにじるものであり、断じて容認できない。」

『産経』の記事では「それでも高い立民の“壁”」という見出しが付けられていますが、これは現在の衆議院の勢力図を前提とした見方です。時の政権は自らが有利だと判断したタイミングで衆院を解散し、総選挙に打って出ることができますから、近い将来、改憲勢力が衆院で3分の2以上の議席を回復しても不思議ではありません。

来月の参院選、そしてその後の衆院選の結果、改憲勢力が発議に必要な勢力を衆参両院で確保することになれば、「参議院の緊急集会」の権能をめぐって自公両党で衆参の不一致がある緊急事態時の議員任期延長の改憲より、集団的自衛権を位置づけ自衛隊を明記する改憲の方が先に発議される可能性はけっして低くないと思います。

さらに、現実はこうした明文改憲を横目に、石破政権の日米安保一体化、中国を名指しした戦争政治がどんどん進んでいます。私たちはこの現実を徹底的に弾劾しなければなりません。自国政府の現実の戦争政治に反対する抗議行動を学園で地域で職場で猛然と起こすときです。
戦争国会を弾劾し、反戦デモを広げ、これからも改憲絶対阻止の闘いに取り組んでいきましょう!

この日の委員の出席状況ですが、自民は始め4~6人ほどだった欠席者が徐々に減っていき、終盤ではごく短時間でしたが0人になったこともありました。これに対して立民は欠席者数の変動が小さく、常時2~4人が席を外していました。他の会派は全員が出席していましたが、ほぼ皆勤してきた北神圭朗氏(有志)は途中退席して戻ってきませんでした。同時刻に開催されていた農林水産委員会に出席するためだったようです。
傍聴者は30人強で今国会では多い方だったと思います。記者は始めは3人いましたが途中から2人になりました。(銀)