6月4日(水)、今通常国会5回目の参議院憲法審査会が2週間ぶりに開催されました。この日のテーマは「国民投票法等」とされ、下に転載させていただいた『NHK』の記事にあるように、SNS上の偽情報対策等について下記の3人の参考人から意見を聴取した後、委員からの質疑が行われました。
 北九州市立大学法学部准教授 山本健人氏(憲法学)
 日本ファクトチェックセンター編集長 古田大輔氏
 大阪大学社会技術共創研究センター特任准教授 工藤郁子氏(情報法政策)
yurusuna

参院憲法審査会 SNSの偽情報対策などで参考人質疑
『NHK NEWS WEB』2025年6月4日

参議院憲法審査会では、憲法改正の国民投票を実施する場合、SNS上の偽情報対策をどのように講じるかなどをめぐり、3人の有識者による参考人質疑が行われ、メディアリテラシーの向上の必要性などが指摘されました。

このうち、憲法が専門の北九州市立大学の山本健人准教授は「インターネット上の偽情報の根絶や影響力の無効化はほぼ不可能だ」と指摘しました。
そして、国民投票にあたって、ファクトチェック機関への支援を含め、国が偽情報対策を講じることが望ましいという認識を示しました。

非営利団体である日本ファクトチェックセンターの古田大輔編集長は「ファクトチェックは必要不可欠だがそれだけでは不十分だ。うそは1秒でつけるが、ファクトチェックには最低でも数時間かかり、勝負にならない」と述べました。
そのうえで、一人一人の国民が偽情報から身を守るため、メディアリテラシーの向上などに取り組む必要性を強調しました。

AIと法律の関係に詳しい大阪大学の工藤郁子特任准教授は「外国グループによる介入も対策が必要だ。外国による世論操作は主権を脅かすもので国家安全保障上の大きなリスクだ」と述べました。
そして、先に成立した「能動的サイバー防御」を導入するための法律など現状の法制度で、国民投票の公平性をどこまで確保できるか議論するよう求めました。
* 引用、ここまで。

この日の審査会のテーマは論争的なものではなく、参考人から意見を拝聴するという雰囲気で終始しましたので、今回の傍聴記は、委員からの質問に対する参考人の回答の中で印象的だったものを1人1つずつ紹介するという形で終わりにしたいと思います。

まず、大変厳しい現状認識を示した古田大輔氏の意見です。
○高良鉄美氏(沖縄の風)
ファクトチェックをする機関として、憲法審査会を含めて国会議員からの支援というか、財政面あるいはそれ以外のものでも何か要望があればお聞かせいただきたい。

○古田大輔氏
何か一つやれば何とかなるというものはなく、総合的な対策をしていくしかない。
まず認識として持っていただきたいと思うのは、状況は加速度的に悪くなっているということだ。
私が大学生だった頃に見ていた文字の9割以上はプロの人たちが書いているもの、動画のほぼ100%はプロが作ったものだった。でも、今の大学生は9割以上のテキストや動画は素人が作ったものをプラットフォーム上で見ている。そこは全く違う。
私が10年前に新聞からインターネットメディアの世界に行ったとき、みんな情報が民主化されて人々が自由に発信・受信できるすばらしい世界が来たという夢を見ていた。しかし実際に何が起こったかというと、圧倒的なアルゴリズムの力によって、自分で自分の情報がコントロールできなくなってしまった。
私たちは今そのような大変な社会の中にいて、本当に民主主義がここを乗り越えられるかという議論をしていることをまず認識していただけたらと思う。

次に、ネットだけではなくテレビCM等も問題ではないかという指摘に対する工藤郁子氏の見解。
○山本太郎氏(れいわ)
国民投票法には広告宣伝の規制がほぼない。本日の議論は、ネットを中心とした話だと思うけれども、国民投票に関しては、テレビであったり新聞であったり様々なメディアにも注目をしていかなきゃいけないと思う。
まさにこの改憲というタイミングは、メディアにとって特需という言葉がぴったりはまると私は考えている。資金力のある勢力によって一方的な意見が1日中垂れ流されるといった事態が起こることは容易に想定できるけれども、国民投票におけるCM規制などが不十分なままで、一方で、国会の中では改憲の発議が急がれるような議論が進んでいる状況をどういうふうにお考えになるか。

○工藤郁子氏
資金の多寡というか、元々のお金がどれくらいあるかによって広告出稿料を大量に出せるか出せないか、それによって世論をどれくらい影響を与えられるかというのは、インターネット広告だけではなくて、むしろマスメディアに対する広告の方が深刻な課題に映っていると思う。
ここで注目すべきは、欧州の政治広告透明化規則の話で、その表示義務の中に、広告サービス事業者が受領した金銭等の総額が表示するように義務付けられていたり、あるいは広告のスポンサーが誰かというところも表示せよ、あるいは記録して保存せよということが義務付けられていることは、選択肢の一つとして参考とするに値する、注目に値すると考えている。
参院憲法審査会
(参議院憲法審査会室へはこの入口から入ります)

最後に、偽情報対策が言論統制につながらないようにするための方策に関する山本健人氏の回答。
○山本太郎氏
フェイクニュース対策は、おそらくこの先国会でも取り組みを進めていかなければならないことになっていくと思うけれども、その際に、政府であったり権力側に言論統制に使われないようにするために私たちが気を付けなければいけないところがあれば、ぜひ教えていただきたい。

○山本健人氏
違法化しなければそもそも削除等の要求を国側から出すことは基本的には難しいと考えており、その違法化の指定の仕方が明確に判断できるようにしておくことが望ましい。
つまり、言論市場において特定の言論を削除せよというときは、それの害悪が明白であって客観的に判断できるようにしておかなければいけない。曖昧な条件を付して削除みたいなことをやってしまうと、それはやはり最終的には違法なものになる、あるいは、フェイクニュースだったとしても、そこには何らかの疑惑や疑念が生じることになろうかと思う。
そういったことが生じると政府への信頼性が下がることになるので、そういった事態を招かないような法の建て付けを考えなければいけないということがポイントになるかと思う。

ほぼ同じテーマで行われた5月22日の衆議院での参考人質疑では欠席者が目立ちましたが、この日の参院憲法審ではほとんどの委員が出席していました。
傍聴者は始め20人くらいで、その後いくつかのグループが入場してきて50人ほどに膨らみましたが、14時前には元に戻りました(この日の審査会は13時に始まり15時頃終わりました)。記者は最初1人いましたがすぐにゼロになってしまいました。(銀)