5月7日(水)13時から15時過ぎまで、今通常国会3回目の参議院憲法審査会が3週間ぶりに開催され、「災害時等の選挙制度」をテーマとして、政府参考人(総務省自治行政局選挙部長・笠置隆範氏)からの説明聴取と参考人2名(下に掲げる『時事通信』の記事の中で紹介されています)からの意見聴取、そして3人に対する質疑が行われました。

まず、この日の審議について簡潔に報じた『時事通信』の記事を転載させていただきます。
「災害下の選挙」に備えを 参院憲法審で参考人質疑
『時事ドットコムニュース』2025年5月7日
参院憲法審査会は7日、災害時の選挙制度をテーマに参考人質疑を行った。大規模災害後に被災自治体が選挙を実施するに当たり、十分な支援態勢と選挙実務に詳しい人材育成が必要との見解が示された。
元総務省選挙部長の大泉淳一氏、元川崎市選挙管理委員会事務局長の小島勇人氏が参考人として出席。東日本大震災で地方議員選挙の投票期日を延期した自治体を支援した経験などを説明した。
大泉氏は「公職選挙法では大規模災害時の備えは十分とは言えない」として、役割分担など事前の準備が重要だと訴えた。小島氏は「東日本大震災などの経験を一般化し、選挙を含む(自治体の)業務継続計画が必要だ」と指摘。選挙システムに詳しい職員の派遣も不可欠との認識を示した。
日本維新の会の片山大介氏は質疑で「国政選挙は全自治体で一斉に実施する。選挙困難事態に備えた議員任期の延長は必要だ」と主張。国民民主党会派の上田清司氏も「憲法改正も視野に入れて考えるべきだ」と話した。
共産党の山添拓氏は議員任期延長について「国民の選挙権を奪うことにつながる」と懸念を示した上で「選挙を実施することは民主主義にとって大事なことだ」と強調した。
* 引用、ここまで。
なお、この日出席した2人の参考人は、いずれも一般社団法人選挙制度実務研究会という団体の所属で、大泉氏は会長、小島氏は理事長ということです。なぜたった2人の参考人が同じ団体から招かれたのか、質疑を聞いてもその事情はわかりませんでした。
参院自民、投票繰り延べ評価 憲法審 災害時対応、衆院と違い
上記はこの日の参院憲法審について報じた5月8日付『朝日新聞』記事の見出しです。「有料記事」ですのでそのまま転載することはできませんが、この記事では「この日の参院憲法審では総務省担当者(引用者注:総務省自治行政局選挙部長・笠置隆範氏)が、繰り延べ投票について法律に実施期日の定めはないと説明……、選挙管理委員会が可能と判断した時点で、できるだけ早期に投票を行わせる」と述べたことを受けて、佐藤正久氏(自民・与党筆頭幹事)が「繰り延べ投票はできる限り柔軟な対応が可能な制度設計になっている」と発言したことが記され、「憲法改正が必要だと主張する衆院側との違いが浮き彫りになった」と指摘されています。
上記はこの日の参院憲法審について報じた5月8日付『朝日新聞』記事の見出しです。「有料記事」ですのでそのまま転載することはできませんが、この記事では「この日の参院憲法審では総務省担当者(引用者注:総務省自治行政局選挙部長・笠置隆範氏)が、繰り延べ投票について法律に実施期日の定めはないと説明……、選挙管理委員会が可能と判断した時点で、できるだけ早期に投票を行わせる」と述べたことを受けて、佐藤正久氏(自民・与党筆頭幹事)が「繰り延べ投票はできる限り柔軟な対応が可能な制度設計になっている」と発言したことが記され、「憲法改正が必要だと主張する衆院側との違いが浮き彫りになった」と指摘されています。
また、続いて質疑を行った小西洋之氏(立民)は、笠置氏から「公職選挙法57条の繰延べ投票の規定は憲法に違反しないと考えている」、「被害が広範囲にわたる、選挙実施までに長期間を要するなどの災害の状況や態様によって繰延べ投票ができる、できないということにはならないと考えている」という答弁を引き出していました。
牽強付会を絵に描いたような維新の会の主張、質疑を行わない委員に発言させた国民民主
これに対して片山大介氏(維新)は、「過去には発災(東日本大震災)から選挙(福島県議選など)まで8カ月以上の期間を要した例がある」が、そのような長期間「緊急集会で対応することが国民主権の原理の下で許されるのか」などと述べ、「今日の質疑を通じてあらためて選挙困難事態に備えた議員任期延長の必要性を感じた」と発言を締めくくりました。また、同じく維新の柴田巧氏も同様の主張を繰り返していました。
いつも感じることですが、維新の委員たちは多くの有権者が国会議員を選挙する機会を奪われ、身分を失ったはずの国会議員が(彼ら・彼女らによって指名された首相も)長期にわたって居すわることが「国民主権の原理」の下で許されると本気で考えているのでしょうか。この点について、憲法学者である高良鉄美氏(沖縄の風)が、「憲法の3原理の1つである国民主権をしっかり行使するための手段として選挙権という人権がある」と指摘していたことを付記しておきたいと思います。
さて、このような維新の委員たちの振る舞いは予想されていたことでしたが、この日私が一番驚きあきれたのは上田清司氏(国民)の発言でした。氏は「質問はしません」、「私自身の考え方を発表したい」と述べてとりとめのない持論をダラダラと垂れ流した(個人的な感想です)のです。
次に、『時事通信』の記事でも少し紹介されている山添拓氏(共産)の質疑を、『しんぶん赤旗』から転載させていただきます。
災害時こそ選挙権行使重要 参院憲法審参考人質疑 山添氏が指摘
『しんぶん赤旗』2025年5月8日
参院憲法審査会は7日、災害時等の選挙制度について参考人質疑を行いました。日本共産党の山添拓議員は、自民党などが災害など緊急時の国会機能維持を口実に衆院議員の任期延長を可能にする改憲論を主張していることについて、「災害など重大な事態が生じた時こそ、民意を反映する国会が必要であり、選挙権行使をなるべく可能にする体制づくりが重要だ」と指摘しました。
参考人の選挙制度実務研究会の大泉淳一会長は、災害時に「自分たちの代表者を選ぶという民主主義における選挙の重み」に言及。同研究会の小島勇人理事長は東日本大震災時に選挙実施を支援した経験を語り、選挙の実施で「一刻も早く自分たちの代表を選び、復興に尽力してもらいたい」と実感したと述べました。
山添氏は、両参考人が災害時でもいかに選挙権の行使を可能にするかと対応してきた一方で、同審査会で議論されてきたのは選挙困難事態での衆院議員任期の延長を可能にするための改憲だと指摘。改憲されれば行政側がいかに選挙を実施するかではなく、選挙を延期できる理由を探していくのではないかと質問しました。
小島氏は、災害時でも選挙を執行するため「現行法の中でどういう形でできるかの議論をしていくことがまず先決だ」と述べました。
山添氏は、石破茂首相が昨年、首相就任から8日後に解散し26日後に投開票する戦後最短の選挙を強行し現場に混乱を招いたとして、「解散を弄ぶ政治が選挙権を侵害している現状こそ、憲法上大問題だ」と批判しました。
* 引用、ここまで。
この記事では触れられていませんが、山添氏は「この間、市町村合併が続き、行政の合理化を進めすぎたという問題もあって、自治体職員は災害時に限らず平時から疲弊していると思う。私は人的な体制の強化が必要だと感じる」と重要な課題を提起しました。
最後に、このことを全面的に展開した山本太郎氏(れいわ)の質疑を、同氏のホームページから要約して転載させていただきます。
2025.5.7 憲法審査会「参考人に聞く 改憲より災害対策」
『山本太郎(れいわ新選組代表)』2025年5月7日
○山本太郎君
(参考人は)何度も被災地に入られてその現場を様々見てこられたということですけれども、公務員の数がちょっと少ないんじゃないかなって私は思います。1990年代以降、小泉政権以降ですね、人減らしが大々的に行われてきた影響が確実に悪い意味で見えているのが災害の現場だと思っています。
能登に足を運ぶたびに現地の自治体職員の方々とお話しするんですけれども、発災してから1年以上1日も休んでいないとか当たり前のようにお話しされるんですが、災害を受けた住民を守るという職務と、自身も被災者であるという側面2つを二足のわらじで1年もそれ以上も頑張り続けるということ、ほぼ不可能だと思うんです。
それを考えるならば、やはり公務員を増やしていく、災害対策としても必要なことだと私は思っています。
○参考人(小島勇人君)
人がいることは非常に大事なことだと思います。
人がいたとして、その人たちに通常の自分たちの業務のほかに選挙実務についてどういう形で理解し身に付けていただくかということが私は問題だと思います。
人が少ないというのは、私も陸前高田に行き、またそのほかも行き、確認してまいりましたけれども、とにかく選管専任職員が非常に少なくなってきております。
例えば投票事務をやる予定だった人が、災害事務に急遽行かなきゃいけない、投票事務、じゃ、どうやってやるんだと、その場で混乱するケースも見聞きしております。
何か起きてから考えたって遅いので、起きる前にきちっとある程度の整理をしておくことが私は大事だと思いますし、職員が少ないというのは否めないと私は思っております。
○参考人(大泉淳一君)
今までですと選挙に精通した人が大体いて、その人が全部仕切って、ある意味安心して選挙を執行できたという環境にあったと思いますけれども、人が減って、あるいは経験を十分に積んだ人が引退したりいなくなったりして、それがうまく回らなくなっている。
そういうところで、公選法上の分からないところがあったりすると、我々の社団法人にそういう質疑応答とかも来るようになっていますけれども、やはり実務に精通した人をつくっていくこと、あまりに小さいところですと総務課とか議会事務局とか兼務している人もいますけれども、万全を期すためには選挙に精通した人をなるべくたくさん確保することが大事だということは考えております。
○山本太郎君
「任期延長がどうしたこうした」というような議論もあるようですけれども、実際に目の前の災害というところで、圧倒的に足りていない、復興するという意味でも、生活復旧するにもあまりにも足りていない人員の増強であったりとか、スペシャリストとして穴を埋めていく方々も増強していく必要があるんだということがよく分かりました。
この日の参院憲法審ではいつもより席を外す委員が目立ちましたが、今回も全員が出席していました。
傍聴者は20人ほどで少なく、記者は最初2人いましたがすぐに1人になりました。また、ほぼ毎回ウェブサイトに記事を出していてこのブログで転載させていただくことの多いNHKが今回は掲載を見送ったことが気になりました。(銀)