4月3日、今通常国会3回目の衆議院憲法審査会が開かれました。春分の日を挟んで、毎週定例日の開催が続いています。
この日は、「放送CM、ネットCM」をテーマとして自由討議が行われ、衆議院法制局の橘幸信局長から同テーマをめぐるこれまでの議論の概要について説明を受けた後、委員からの意見の表明や委員間の質疑応答がありました。
ただ、冒頭の枝野会長(立憲)の発言「事務方に対しての非難、誹謗中傷等はなされないように強く申入れておきたい」、船田委員(自民)の発言「立憲民主党の藤原規眞委員から、衆議院法制局それから憲法審査会事務局に対しまして、学説の捏造であり、改憲派の先生方をミスリードしているというような発言がございました。…これは…礼を失する発言であり…許容し難いものと受け止めている」にあるように、指摘された問題内容について何ら検証せず憲法審査会を進めようとする自民・立憲幹事らの姿勢に、これはおかしい!と思いました。
ただ、冒頭の枝野会長(立憲)の発言「事務方に対しての非難、誹謗中傷等はなされないように強く申入れておきたい」、船田委員(自民)の発言「立憲民主党の藤原規眞委員から、衆議院法制局それから憲法審査会事務局に対しまして、学説の捏造であり、改憲派の先生方をミスリードしているというような発言がございました。…これは…礼を失する発言であり…許容し難いものと受け止めている」にあるように、指摘された問題内容について何ら検証せず憲法審査会を進めようとする自民・立憲幹事らの姿勢に、これはおかしい!と思いました。

以下、当日の論議について報じた『NHK』の記事を転載させていただきます。
衆院憲法審査会 憲法改正の国民投票 ネット広告に対策が必要
『NHK NEWS WEB』2025年4月3日
衆議院憲法審査会で、国民投票を行う際の広告のあり方について議論が行われ、与野党から、インターネット広告は有権者の冷静な判断に影響を及ぼすおそれがあるとして、ガイドラインの策定など対策が必要だという指摘が出されました。
3日の衆議院憲法審査会では、憲法改正で国民投票が行われる際の、テレビCMやインターネット広告のあり方について議論が行われました。
この中で、自民党の船田元氏はネット広告について「扇情的な内容や特定の考え方を繰り返し送りつけることによって、冷静な判断が阻害されるおそれがある」と指摘しました。
そのうえで、今の国民投票法では、テレビCMが投票日の2週間前から禁止される一方、ネット広告には制限がないことから「言論空間のバランスを著しく崩す」として、対応が必要だという認識を示しました。
具体的には、プラットフォーマーなどの事業者に、国民投票のCMであるという表示を義務づけることや、国会議員でつくる国民投票の広報協議会でガイドラインを策定することなどを挙げました。
具体的には、プラットフォーマーなどの事業者に、国民投票のCMであるという表示を義務づけることや、国会議員でつくる国民投票の広報協議会でガイドラインを策定することなどを挙げました。
立憲民主党の階猛氏は「ネットCMは受け手の意思を支配する力が強く、放送CMとは別に法規制が必要だ」と述べました。
そのうえで「放送CMと全く同じ規制を課すという趣旨ではなく、広報協議会がガイドラインを定めるなどして適正化を図る」と述べ、表現の自由にも配慮しつつ、対策を講じるべきだと主張しました。
このほか、日本維新の会、国民民主党、公明党なども同様にネット広告の問題点や対策の必要性を指摘しました。
一方、れいわ新選組と共産党は、憲法改正は必要ないという立場から国民投票法の議論自体に否定的な考えを示しました。
* 引用、ここまで。
上掲の記事の見出しや内容に示されているように、この日の議論はテレビCMよりネットCMに焦点を当てたものが多く、改憲勢力の委員たちの外国勢力の介入の危険性を指摘する意見が目立ちましたが、大石あきこ氏(れいわ)は真っ向からこれに異を唱えました。氏の『X』から転載させていただきます。
れいわ・大石氏:問題はテレビCM、ネットCMだけではない
本日の国民投票法の、CM規制に関してなんですけれども、各会派で述べられているような放送CMの規制に対して、ネットがバランスを欠くのだという話、表層でしかないといいますか。既に放送CMも2週間前のCM禁止と言われていますけれども、ザルではないかと。 意見表明CMなら可能ではないんでしょうか。人気タレントとかを使って、憲法を変えるのはいいことなんだと、その人が意見を表明するという限りにおいては、無制限に許されるのではないでしょうか。
これは妄想ではなくて、大阪ですでに行われていることで、吉村知事です。知事は本来タレントではないですけれども、大阪においては、メディアと吉村知事、大阪維新の会との密月がありまして、そのようなことになっているんですよ。本来であれば、吉村知事って政治家でもあるので、政治的中立というのは常に問われるんですけれども、なぜか大阪においては行政の長なんだと、行政のトップとして出ているんだということで、たくさんCM、番組に出ては、万博がいいんだ、カジノはいいんだというふうに宣伝してまわっているので、やはりこういった権力者側というか、与党側がいかに広告という枠を離れても、メディアの宣伝においていかに有利かっていうことを思い知らされているのが大阪ですので、その現実を見ずに、テレビのCM規制をすれば足りるんだ、これに対してネット広告のバランスが欠くんだという議論は、現実を捉えていないだろうと私は考えます。
そして住民投票という意味で見なければいけないのは、都構想ですね。大阪都構想。 2015年と2020年に2回行われまして、両方僅差で反対が多数になりまして、都構想は否決されているんですけれども。まさに公選法が適用されない、ある意味何でもありの住民投票だったわけで。いかにウソの数字を使って与党側行政側が、行政とマスコミの力でその数字や宣伝物を垂れ流して票を動かしていくのか。
これは非常に危険であるという事例として、この審査会でもやるならそういった検証をするべきだと考えます。橋下徹さんという都構想を考えた人で、2015年の都構想、住民投票の実施者である方が、憲法の国民投票の参考になるであろう、実験みたいなものだというところまでおっしゃっているので、ここに確信(「核心」の変換ミスだと思います)があると考えます。
都構想で維新の会が、こんなチラシを書いているんですよ。大阪都構想実現で、住民サービスぐんとアップ。財政効率化で1兆1000億円。この数字の内訳は国が公表している、全国一律の1%の経済成長をシミュレーションに入れた結果で、ほとんどがその成分。都構想をやらなくても、全国でも同じように伸びる数字を都構想によってこうなるんだという宣伝チラシをまきまくって。こういった間違った数字であっても、与党側、強い側、流したときに、大きな宣伝になるのだということを事例として検証するべきだと考えます。
都構想で維新の会が、こんなチラシを書いているんですよ。大阪都構想実現で、住民サービスぐんとアップ。財政効率化で1兆1000億円。この数字の内訳は国が公表している、全国一律の1%の経済成長をシミュレーションに入れた結果で、ほとんどがその成分。都構想をやらなくても、全国でも同じように伸びる数字を都構想によってこうなるんだという宣伝チラシをまきまくって。こういった間違った数字であっても、与党側、強い側、流したときに、大きな宣伝になるのだということを事例として検証するべきだと考えます。
* 引用、ここまで。
なお、大阪都構想の住民投票をめぐっては、津村啓介氏(立民)も、「2015年の第1回の住民投票時に、運動期間中の放送CMの量について賛成派が反対派の4倍であったと指摘され、すでにこの時点で国民投票法制定時の民放連の自主規制の表明には大きな疑義が生じていた」と述べていました。
共産・赤嶺氏:民意の反映という根本において現行法に重大な不備が
次に、赤嶺政賢氏(共産)の意見も是非紹介しておきたいと思います。氏は、「現行の国民投票法の不備について、私たちは3つの点を指摘してきた」として、「第1に最低投票率の規定がないこと。第2に公務員や教員の国民投票運動を不当に制限していること」を挙げた後、次のように述べました。
「第3に、改憲案に対する広告や意見表明の仕組みが公平・公正なものになっていないことです。
資金力の大きい者がテレビなど有料広告の大部分を買い占め、憲法が金で買われるおそれが繰り返し指摘されています。現行法には、それに対する実効性のある措置がありません。」
そして、「国会に作る広報協議会も、委員の大多数は改憲に賛成した会派に割り当てられる」とし、「現行の国民投票法は重大な問題を抱えた欠陥法だ」と断じました。
国民投票広報協議会は、衆参両院から10人ずつ、計20人で構成され、その委員は会派ごとの所属議員数の比率で割り当てられますから、改憲案の発議に賛成した会派が3分の2以上を占めることになります。いくら客観的・中立的に広報を行う、賛成・反対の意見を公正かつ平等に扱うといっても、その運営が改憲派寄りになることは避けられません。

赤嶺氏は「このような重大な問題のある広報協議会を具体化する規定作りは認められない」と主張しましたが、山下貴史(自民)からはこの日も次のような発言がありました。

赤嶺氏は「このような重大な問題のある広報協議会を具体化する規定作りは認められない」と主張しましたが、山下貴史(自民)からはこの日も次のような発言がありました。
「広報協議会の具体的な活動内容について制度設計の詰めを早期に行うべきだ。すでに2023年11月の幹事懇談会で法制局、憲法審査会事務局から広報協議会、同事務局に関する規定の条文案が示されている。」
自公も持て余し気味の維新の暴走
ところで、前回の傍聴記で報告したように、3月27日の衆院憲法審で、維新の青柳仁士氏が、緊急事態条項に関して条文の起草委員会を早期に立ち上げること、各党の考える条文案を審査会に提出することの2点の意思決定を採決で行うことを提案し、改憲派の各会派に賛否を質したところ、国民の浅野哲氏と有志の会の北神圭朗氏はその場で異論はないと述べましたが、自民の船田元氏は異論はないが(会長と与野党の筆頭幹事の)三者協議で議論して対応する、公明の濱地雅一氏は党内で検討して回答すると答えました。
そしてこの日、阿部圭史氏(維新)が自公の委員に「改めて見解を伺う」と迫りましたが、その回答は次のようなものでした。
まず船田氏は「我々も方向性はそれでいきたいという気持ちは強く持っている。ただ、起草委員会を作る、あるいは条文案を提示することの採決は2分の1でいいが、(改憲案の発議には)3分の2という大きなハードルもあるので、そこは慎重に判断していきたい」と、そして濱地氏は「私は環境整備が大事だと思っている。今現在すぐそういったものを採決することについては若干ネガティブであると表明したい」と答えました。自民も公明も、与党が過半数割れし、改憲勢力が3分の2を失った情勢を無視して、まさに「壊れたテープレコーダー」のように「採決」を「採決」をと声高に繰り返す維新の暴走ぶりにうんざりしている様子がうかがえました。
このやり取り以上に私が注目すべきだと感じたのは、濱地氏が上記の発言に続いて、「先ほど山下さんからもあったが、改憲派もそうではない会派も広報協議会の規程・細則は国民投票の環境整備として共通のテーマなので、まずはそこから一つ一つ詰めていくべきではないか」と(実際にはもっと持って回った言い方でしたが)述べたことです。
私たちが考えている以上に、広報協議会の規定の整備など国民投票に向けた実務的な準備が水面下で着々と進められているのかもしれません。今後の動向を注意深くチェックしていきたいと思います。
最後にもう一つ、これも前回の傍聴記で報告した3月27日の衆院憲法審での藤原規眞委員(立民)の発言をめぐる応酬をお知らせしておきたいと思います。
まずは『産経』の記事を転載させていただきます。
党派超えた苦言も「引くつもりはない」裏方批判の立民新人 憲法審で「学説の捏造」発言
『産経新聞』2025年4月3日
立憲民主党の藤原規真衆院議員は3日、衆院憲法審査会で衆院法制局の作成資料を「学説の捏造」と言及した自身の発言に党派を超えて批判されている現状について、X(旧ツイッター)で「引くつもりはない」と書き込んだ。
藤原氏は3月27日の憲法審で、法制局の資料について「こまぎれ、ばらばらに学説が分類されている。学説の捏造といわれても仕方がない。改憲派の先生方を容易にミスリードし得るものだ」と発言した。
これに対し、与野党は4月3日の憲法審で藤原氏の発言を問題視した。与党筆頭幹事を務める船田元氏(自民党)は「礼を失する発言で許容しがたい」と非難し、枝野幸男会長(立憲民主党)は「事務方を非難するのは筋が違う」と警告。野党筆頭幹事の武正公一氏(立民)も「不適切だ」と苦言を呈した。
ただ、藤原氏に引く構えはない。
Xで「学説の捏造」発言について「立法事実を巡る重要カ所を省き、議員の発言を憲法学説かのように記載し、憲法学者が唱えていない説を紹介。その資料を端的に評価申し上げた」と持論を展開した。
藤原氏は弁護士で昨年10月の衆院選で初当選した。
* 引用、ここまで。
上掲の記事にあるように、この日の審査会では藤原氏の発言に対する非難ばかりが目立ちましたが、私は下に転載させていただく小西洋之氏(立民、参議院憲法審査会委員)が『X』に投稿した見解が正鵠を射ていると思います。
この自民の船田議員の発言こそ問題です。3/27の立憲の藤原議員の問題提起は、衆院法制局の提出資料が、①緊急集会の立法事実の根幹(三ページの文量)を省いていたり、②学説でもないものをそのように記載したり、③憲法学者が唱えてもない説を記載したりと明らかにおかしい内容になっていることを指摘したものです。
このうち①、②については、私の指摘を受けて衆院法制局は二年前の資料から修正して3/27に補訂版を提出しています。
衆院法制局が作成していた資料が、改憲派に有利な内容として本来の法令解釈の在り方等を逸脱したものではなかったのか、そして衆院改憲派の緊急集会に関する暴論を支えていたのではないかについて、事実に基づく検証を行う必要があります。
(なお、衆院の暴論は昨日の参院憲法審で自民の佐藤筆頭幹事の意見によって全否定されました)
それを行うことなく、藤原議員を一方的に批判することは「憲法問題の調査審議」を国会法上の法的任務とする憲法審査会にあるまじき暴挙です。
なお、同様の問題提起は私も昨日の参院憲法審で(事前に与党責任者の同意も得て)行っています。
* 引用、ここまで。
小西氏のいう「二年前の資料」が憲法審査会に提出されたのは2023年5月11日でした。当時の憲法審査会長は森英介氏(自民)、与党側筆頭幹事は新藤義孝氏(自民)で、新藤氏は強引としか表現しようのないやり方で憲法審の審議を取り仕切っており、それを北側一雄氏(公明)、馬場伸幸氏(維新)、玉木雄一郎氏(国民)といった改憲派の面々が支持していました。このとき衆議院の法制局や憲法審査会事務局の職員が資料の作成に当たって新藤氏などの意向を忖度した、あるいは何らかの指示を受けていたことは十分にあり得るのではないかと思います。もちろん証拠はありませんし、下衆の勘繰りであればいいのですが、可能であれば小西氏が言うようにしっかりと検証してもらいたいものです。
ここまで書いてきたように、今回の憲法審査会では、今後の憲法審の進み方、すなわち広報協議会の規定の整備など国民投票の環境整備が議論の中心になっていくのかどうか、あるいは事務方の作成する資料の中立性に対する疑問など、放送CM、ネットCMというテーマとは直接関係のないところで注目すべき内容が目立ったように思います。
現状では選挙困難事態における議員任期延長などの改憲が進展する可能性は極めて小さいと思いますが、毎週定例日の開催が続く限り、それなら当面は広報協議会の規定を整備するための議論をまとめようというように、何らかの「成果」を出そうという気運が高まっていくことは避けられないでしょう。会長を務める枝野幸男氏の議事の進め方を見ていると、なおさら強くそうした危惧を抱かざるを得ません。
改憲に向かう議論に反対することはもちろん、憲法審の開催のペースを落とさせる、できれば開催させない運動を作り広げていくためにどうすればいいのか、考えていきたいと思います。
この日の傍聴者は35人くらい、記者は5~6人でした。
また、最近の審査会では自民党も含めて欠席者が少なかったのですが、今回は会議の前半、自民も立民も4~5人が欠席していました。自民は少し前に戻った感じで、立民はこれまでなかったことでしたが、途中から両党とも欠席者は2~3人となりました。公明党もずっと1人が欠席していました。(銀)