4月2日(水)13時から14時30分少し前まで、今通常国会で初めての参議院憲法審査会が開催されました。
テーマは「憲法に対する考え方」とされ、まず各会派1人ずつ7分以内での意見表明、続いて発言を希望する委員から3分以内での発言がありました。

この日の審議について報じた大手メディアの記事でそろって取り上げられたのは、最初に意見を表明した佐藤正久幹事(自民)の発言でした。以下、『毎日新聞』の記事を転載させていただきます。
参院憲法審 憲法審、自民衆参ちぐはぐ 「緊急集会」権限巡り
『毎日新聞』2025年4月3日
参院憲法審査会は2日、今国会初の自由討議を実施した。自民党の佐藤正久氏は緊急時に国会の機能を担う「参院の緊急集会」について、衆院憲法審での自民の主張を次々に打ち消す異例の意見表明を展開。自民内で衆参での「ちぐはぐさ」を浮き彫りにした。
衆院憲法審では3月27日、選挙実施が困難になった場合の参院の緊急集会をテーマに議論した。自民の船田元氏は緊急集会で対応できる期間は憲法上、衆院の解散総選挙が「40日以内」、特別国会の召集が「30日以内」と規定されるため「最大でも70日程度と解釈するのが素直な考え方だ」と主張した。
ところが、2日の参院憲法審で佐藤氏は、緊急集会が対応できる期間について「70日間に厳格に限定するものではない」と述べ、船田氏の見解を否定した。緊急集会の権限を巡っても、船田氏は「一定の限界がある」としていたが、佐藤氏は「限定的、制約的に整理する必要はない」と主張。船田氏は、首相の指名▽条約の承認▽当初予算の議決――を挙げて「要件を満たす場合が少ない」としていたが、佐藤氏は「原則として権能は全てに及ぶ」と打ち消しを図った。
衆院側は緊急事態時に衆院議員が任期満了を迎えて不在となることを避けるため、議員任期延長を図る憲法改正を目指す。一方、参院側は自らの権限を抑制することへの否定的な意見が根強い。2日の参院憲法審では、立憲民主党の小西洋之氏が佐藤氏に対し「良識の府の参院の矜持あふれる意見表明に敬意を表する」と野党側から「エール」を送った。【小田中大】
* 引用、ここまで。
佐藤正久氏自身の公式ブログから、発言の内容を詳しく紹介すると、下記のとおりです。
「参議院の緊急集会」についての意見
1.活動期間
憲法54条1項および2項の趣旨から、参議院の緊急集会の活動期間が70日を大きく超えることは憲法の想定外とする意見がある。
しかし、この日数を厳格に適用すると、衆議院議員の不在が数カ月間解消されない場合などには70日間を超えた途端に立法府は事態への対応が不可能になる。参議院の緊急集会が対応できない事態を絶対に生じさせてはならない。ゆえに、緊急集会の活動期間を画一的に定めるべきではなく、この70日という数字は活動期間を厳格に限定するものではないと考える。なお、この認識は自民党の衆参両院で確認した認識である。
また、選挙困難事態の広範性・長期性用件は、緊急集会の活動期間と切り離して考える必要がある。とくに長期性用件として70日を示す向きがあるが、緊急集会の活動期間が70日であるという理由ならば上記の認識とは相容れない。長期性の要件としては、発災等の日から「6月」あるいは「3月」、もしくは「相当長期にわたり」といった定め方が適切と考える。広範性の要件については、国民主権の重大な例外となることを十分考慮して、相当の国難事態と捉え得るものなのか、精緻な分析と検討が必要である。
さらに、大規模災害発生時の選挙制度との関係についても、具体的ケースにあてはめながら、精緻な分析と検討をする必要がある。
2.権能
緊急集会は「国会の代行機関」であり、その権能は原則として「国会の権能の全て」に及ぶと考える。
そのうえで、権限行使の範囲については、緊急集会が「国に緊急の必要性があるとき」(憲法54条2項但書)に集会を求められるものであり、この緊急性の要件を満たすかどうかで判断されるべきと考える。従って、緊急の必要性がある場合は、緊急集会の権限行使の範囲を限定的・制約的に整理する必要はないと考える。
衆議院の憲法審査会では、「総理大臣の指名、条約締結の承認および本予算については、一般的に緊急性の要件を満たす場合は少ない」旨の発言があったと伺っているが、これらについても、「国会の代行機関である緊急集会の権限は、原則として国会の権能の全てに及ぶ」としたうえで、「緊急性の必要性に応じ、権限行使の範囲が変わる」趣旨であると受け止めている。
3.衆議院議員の任期満了時
衆議院議員の任期満了による衆議院不在の場合にも緊急集会で対応し得ることは憲法解釈上可能だが、憲法に明記する方が望ましいと考える。
4.ワーキング・チーム
以上の参議院の緊急集会についての意見は、自民党憲法改正実現本部の下のワーキング・チームで衆参の実務担当者が意見をすり合わせ、集中的かつ真摯に議論して取りまとめたものを踏まえた意見である。
本審査会でも、参議院の緊急集会の位置付けや権能、大規模災害発生時の選挙制度の在り方をテーマとして更に議論を深め、参議院としての考え方をまとめていくべきと考える。
* 引用、ここまで。
私は、佐藤氏の表明した上記の意見の中で、参議院の緊急集会の活動期間や権能についての見解以上に重要なのは、この意見は自民党憲法改正実現本部の下のワーキング・チームで衆参の実務担当者が行った議論の取りまとめを踏まえたものだと明言したことだと思います。こうした取りまとめが昨年8月に行われていたことはすでに知られていました(他ならぬ自民党憲法改正実現本部のホームページにそれを伝える8月7日付の記事が掲載されています)が、衆院憲法審の与党側筆頭幹事の船田元氏(自民)はつい先日、3月27日の衆院憲法審でもあいまいな言辞を弄していました。
また、昨年の通常国会では、公明党の衆参両院の見解の齟齬が明らかになり、3月13日の衆院憲法審で濱地雅一氏が党内の不一致を認めざるを得なかったことは、このブログの3月24日付の記事で報告したとおりです。
というわけで、選挙困難事態の可能性と参議院の緊急集会の限界性をからめた議員任期延長の改憲論は、特に参院の憲法審では支持の広がりを見通せない状況ですが、そんな中、この日の審議について報じた『産経新聞』の記事で、「改憲政党である日本維新の会の片山大介氏が定例日以外の開催を要求。同じく維新の柴田巧氏は自民に“憲法改正が党是ならば困難があっても実現に向けてもっと努力すべきだ”と注文をつけた」と記されているように、維新の委員たちだけは声高に改憲を叫び続けています。
ただ、私はより警戒すべきは臼井正一氏(自民)の「憲法改正の発議が困難な今こそ、憲法改正の手続法である国民投票法の見直しについて、静謐な環境下で集中的に議論すべきだ」という呼びかけの方ではないかと思いました。現に衆議院の憲法審査会は今後も毎週定例日開催が続く可能性が高く、臼井氏の言う集中的な議論が進展するおそれがあるかもしれません。
なお、佐藤正久氏はもっぱら参議院の緊急集会について述べていましたが、この日発言の機会を得た自民党の委員たちは分担して合区の解消、自衛隊の明記、教育の充実を取り上げ、遺漏なく自民党の改憲4項目に言及していたことを指摘しておきたいと思います。
憲法審査会の目的の一つは法律や制度の憲法適合性の点検と議論
次に、福島みずほ氏(社民)の発言を氏の公式サイトから転載させていただきます。
第一に、参議院の緊急集会を極めて限定し、緊急事態条項の憲法改正が必要だとする言説は間違っています。
参議院の緊急集会を無視あるいは限定し、緊急事態条項、その中でも国会議員の在任期間の延長が語られる場合があることに強い危惧を感じています。参議院軽視です。
緊急集会は、憲法54条2項は1項を受けた規定であるといういわゆる連関構造を理由に、70日に限るという発言をしている人がいますが、それは違います。54条1項の趣旨は現政権の居座り防止にあります。また、54条2項には緊急集会の活動期間を直接に限定する文言はありません。
戦前、緊急勅令や戒厳令などにより基本的人権が制限された反省に鑑み、緊急事態条項を置かず、国会中心の緊急集会を憲法に規定した意味は極めて大きいです。日本国憲法は、その制定時から緊急事態条項を拒否したと言わなければなりません。
国会議員の任期を自由に延長し居座りを許すことは、議院内閣制を取っている我が国において、政府を変えられないということを意味します。緊急事態条項、国会議員の任期延長の本質は民主主義の破壊であり、国会の停止です。
昨年12月、韓国で大統領が戒厳令を宣告しました。この戒厳令を解除できるのは国会の決議だけでした。戒厳令の敵は国会であり、民主主義です。だからこそ、軍隊が国会を包囲し、かつ国会に突入を図り乱入したのです。
民主主義が機能しなくなるよう、民主主義の破壊を国会議員の在任期間の延長や緊急事態宣言、戒厳令で行ってはなりません。韓国の戒厳令の宣告を見て、だからこそ日本にも緊急事態条項が必要だという発言もありましたが、全く正反対の論理です。
緊急事態条項、国会議員の任期期間の延長に強く反対をします。
第二に、憲法審査会の目的の大きな一つである法律や制度が憲法適合性を持っているかどうかの点検と議論こそ必要です。
2025年3月25日、大阪高等裁判所は、同性婚を認めないことは憲法14条、憲法24条2項に反し、違憲であるとの判決を出しました。5つの高等裁判所で憲法違反であると断ぜられたのです。また、性別変更については、最高裁で違憲判決が出ています。国会がこれを受け止めて立法作業をすること、憲法を生かしていくことが必要です。
現行憲法を守らずに、憲法を踏みにじりながらその憲法を変えようとすることの暴挙について、強く抗議をしたいと思います。
憲法改正を言う前に、まず憲法を守れ、憲法を生かせということは、憲法尊重擁護義務を持つ国会議員に課せられています。
まず、違憲と言われたことを受け止め、同性婚や性別変更の法律についての憲法適合性について議論していこうではありませんか。
※本議事録は未定稿です。
* 引用、ここまで。
福島氏は発言の前半で参議院の緊急集会の意義を強調しながら緊急事態条項は不要だと主張し、後半では高裁レベルで違憲判決が相次いでいる同性婚の禁止等を例示して、法律や制度が憲法に適合しているか否かを点検し議論することが憲法審査会の大きな目的の一つであると述べました。わずか3分の持ち時間の中で、簡潔かつ的確に整理された発言で、感心しました。
同性婚の問題については、立憲民主党の辻元清美氏、打越さく良氏、公明党の谷合正明氏、平木大作氏、共産党の仁比聡平氏も指摘していました。
そして最後に、同様の観点から生活保護の給付引き下げ等の問題を指摘した山本太郎氏(れいわ)の発言を、氏のホームページから転載させていただきます。山本氏の持ち時間は7分でしたので、具体例も含め説得力に富んだ内容でした。自民党で生活保護バッシングを主導してきた片山さつき氏はこれをどんな表情で聞いていたのか、傍聴席から遠すぎて確認できないのが残念でした。
山本太郎氏「今ある憲法を守れ、話はそれからだ」
今ある憲法も守らない者が、憲法改正を謳うなど、笑止千万、寝言は寝てから言え。
まずは、今ある憲法を守れ、話はそれからだ、これが、れいわ新選組のスタンスです。
衆議院 憲法審査会は開催しているのだから、参議院も、など、論外。
憲法改正に向けての回数稼ぎ、改憲の下地作りに、与しない。これこそ良識の府、参議院の独自性。
憲法審査会の役割を、参議院ホームページで見ると、2つある。
第一の役割として、「日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制についての広範かつ総合的な調査」とされている。
どうしても参議院で本審査会を開くなら、最優先は、調査。
現行の憲法と密接に関連する法制度が、憲法の趣旨に沿って運用されているのか、憲法の趣旨に即して、どのような法改正が必要になるのかを議論し、政府に突きつけることが本会の存在意義である。
なぜなら、憲法の趣旨とは180度違う、棄民とも言える国家運営が行われ続けているのが日本国なのだから。
先進国で唯一、30年も経済不況が続くも、国を切り売り、民を切り捨て、今や国民の6人に1人が貧困。
この物価高で、ミルクを薄めて子どもに飲ませている、親のご飯を抜いて子どもに食べさせている、など、いつの時代の話しですかという状況に、国民を置いているのがこの国の政治。
貧困家庭にとどまらず、国民全体でも6割が生活が苦しいという状態で、中間層も追い込まれている。
備蓄米放出でも値段は下がらず、有識者いわく5月には、5kg3500円くらいと予測されるが、それでは半年前の水準にも戻っていない。農水大臣は3000円ほどなら値頃感と、どこまで言っても間抜けな発言は止まらない。
先に通った予算では消費税の減税さえも行わず、新たな給付金もなし。
一方、自分達への給付金、企業献金だけは四の五の言いながら死守。裏金の反省など遥か彼方、もう終わったことと、30年の不況とコストプッシュ・インフレに苦しむ庶民を置き去りに、政治だけが次に進もうとしている。
国民の生存権にも興味もなく、全体の奉仕者である公務員としての役割も放棄。
憲法25条、15条にも違反する品位のない泥棒議員たちが、国民をぶん殴り続け、国を没落させ続ける場所が、国会というお喋り小屋。
ここに、良識の府を代表して、しっかりと水を差せるのが、参議院の憲法審査会という存在ではないだろうか。
例えば、経済的に追い詰められた国民にとって、最後の命の砦が生活保護。
98%以上が適正受給である生活保護を、不正受給だらけだと、事実に基づかない話を流布。
自民党は、生きるか死ぬか、ギリギリの状態にある人でも、保護の利用をためらう恥の概念を埋め込んだ。
何とか生活できる程度しか出されないお金を、さらに引き下げると公約。実際に2013年から実行したのが、自民と公明。
その頃の当事者の声。
入浴の回数を月1回にした。食事を削った。おかずをあきらめ、ご飯に醤油をかけて食べている。真冬に灯油が買えず肺炎になった。交際費が捻出できず、一切外出しない、などなど。この後も数度に渡り引き下げは行われ続けた。
この非人道的引き下げを、憲法25条違反などで訴える「いのちのとりで裁判」では、受給者側の訴えを認める高裁判決が続く。
今年1月、福岡高裁は、生活保護費の減額決定を取り消し、「厚労省の判断は生活保護法に反し、違法」と述べた。3月には、大阪高裁が、京都市の受給者32人の減額決定を取り消し。札幌高裁では、国の判断の過程には、憲法の趣旨や目的に反する誤りがあり違法と、引き下げを取り消し。
全国で29箇所での裁判は、これまで地裁で19勝11敗。高裁では6勝4敗。
当時、生活保護引き下げの際、理由として掲げられたのは、デフレ調整だった。
しかし、それらは、生活保護利用世帯には影響を与えない、テレビやパソコンなどの高額商品の価格の落ち込みを、引き下げの理由に反映した、むちゃくちゃな話しであった。
本来、このような問題こそ、本審査会で取り上げ、最高裁判決を待たず、会として決議を出し、憲法に即した生活保護費の支給を、政府に求めるべき案件。
一方、この30年で、確かに国民の購買力は鈍化。それを加速させたのは、いかなる経済政策だったのか。
物を作っても国内で売れないのは、需要が減っていったから。
なぜ、需要が減ったか。資本側の利益を増やすため、安くてクビを切りやすい非正規労働者を増やした。結果、国民の購買力を減らした。
そして購買力の無い国内市場に見切りをつけ、多くの企業が海外に出て行くように仕向けた。そして国内での需要を激減させ、失われた20年、30年の起点となったのが、97年消費税5%への引き上げ。ここから消費税を上げるたび、個人消費の落ち込みがリーマンショックを上回るという、社会実験を何度も繰り返し、その代償を国民の命と生活苦で支払わせる鬼畜ぶり。
社会保障の大切な財源だから減税はしないと言い、過去最高益の大企業には負担を増やさない、という徹底ぶり。とっくに壊れた国を健全な国だと国民を騙し、必要な施策も打たず、物価高を上回る賃上げを実現する、と新たなウソで国民を騙す。そろそろいい加減にしてもらっていいですか?
この国で、どうやって人間の尊厳を守れるって言うんですか。
この国で、どうやって個人として尊重されると言うんですか。
参議院 憲法審査会 事務局に確認。衆参・憲法審査会が2007年に設置されてから、憲法13条や憲法25条に特化したテーマ設定で、調査が行われた回数はゼロ回。
やりましょうよ。調査を。
国民生活を底上げして失われた30年を取り戻し、ジャパン・アズ・ナンバーワンを、日本を再興するための、最後の砦がこの憲法審査会だと私は考えています。
やりましょう、こういった調査を徹底的に。
以上です。
* 引用、ここまで。
参議院の憲法審査会では欠席する委員はほとんどいません。今回も、短時間席を外す者はいましたが、全員が出席していました。
傍聴者は25人ほどで衆院より少なめでしたが、記者は最初6~7人いて、衆院より少し多かったと思います。(銀)