3月27日、今通常国会2回目の衆議院憲法審査会が開催されました。この日は、「参議院の緊急集会の射程」をテーマとして自由討議が行われ、衆議院法制局の橘幸信局長から同テーマをめぐるこれまでの議論の概要について説明を受けた後、委員からの意見の表明や委員間、委員と法制局との質疑応答がありました。
この「射程」という言葉について、毎回のように顔を合わせる傍聴者のお一人が立腹されていました。本来銃弾・砲弾やミサイルの到達距離を表す用語を憲法審に持ち出すなどあまりにも無神経だというのです。私もそのとおりだと思い、違和感を抱かなかったことを反省しました。

以下、当日の論議のポイントが整理されている『NHK』のウェブサイトに掲載された記事を転載させていただきます。
衆議院憲法審査会 大規模災害などでの国会機能維持で議論
『NHK NEWS WEB』2025年3月27日
衆議院憲法審査会が開かれ、大規模災害などの緊急事態の際に、参議院の緊急集会で国会機能を維持する期間について自民党が最大70日程度と主張したのに対し、立憲民主党は期間を限定すべきではないという考えを示しました。
衆議院憲法審査会では、憲法改正のテーマの1つとして、緊急事態における国会機能の維持をめぐって議論が続けられていて、27日は参議院の緊急集会をテーマに意見が交わされました。
参議院の緊急集会は、衆議院の解散後、緊急の場合に内閣が求めることができると憲法に規定されていますが、その期間については具体的に定められていません。
自民党の船田元氏は衆議院の解散後40日以内に総選挙を実施し、総選挙から30日以内に特別国会を召集すると憲法に規定されていることを根拠に、緊急集会の活動期間はこれらを合わせた最大70日程度と解釈するのが妥当だと主張しました。
そのうえで「国会機能を維持するための制度設計を積極的に議論し、共通認識を形成するべきだ」と述べました。
日本維新の会、国民民主党、公明党なども同様の考えを示しました。
これに対し、立憲民主党の武正公一氏は「緊急集会は参議院のみに与えられた独自の機能だ」として、期間を限定すべきではないという考えを示しました。
そのうえで、国会議員の任期を延長するための憲法改正の議論には慎重な立場を示しました。
れいわ新選組と共産党は、憲法改正は必要ないという認識を示しました。
審査会は、次回は4月3日に、国民投票におけるテレビCMのあり方などをテーマに開催される予定です。
* 引用、ここまで。
任期延長、緊急集会をめぐる改憲議論の行方は?
上掲の『NHK』の記事の武正氏が「憲法改正の議論に慎重な立場を示しました」という一文は、氏が発言の最後に「今後、衆議院憲法審査会で任期延長の改憲について議論することが妥当なのかどうか、各党各会派で参議院側ともよく議論していただくことを求める」と述べたこと、つまり参院側を差し置いて緊急集会や任期延長の改憲の議論を進めるべきではないと暗に主張したことを記したものです。
また、同じ記事で続いて「れいわ新選組と共産党は、憲法改正は必要ないという認識を示しました」と書かれているように、大石あきこ氏(れいわ)は「議論を打ち切るべきだ」、赤嶺政賢氏(共産)は「議論は許されない」と明確に述べています。
一方、いわゆる改憲勢力の側では、この日も維新の会の委員たちの発言が前のめりで悪目立ちしていました。例えば、会議の終盤になって、青柳仁士氏は「わが党は以前、国民民主党、有志の会と緊急事態条項の条文案を作成した。自民党、公明党とも方向性に大きな乖離はないので、条文起草委員会を早期に立ち上げることを憲法審で採決して決定してほしい。それができないなら、各党の考える条文案を憲法審に出すべきで、その意思決定も採決でかまわないと思う」と述べ、改憲勢力の各会派に見解を尋ねました。
これに対して、浅野哲氏(国民)、北神圭朗氏(有志)は「異論はない」と即答しましたが、船田元氏(自民)は「異論はないが、三者協議(三者とは審査会長と与野党の筆頭幹事を指すと思われます)できちんと議論して対応したい」、濱地雅一氏(公明)は「党内で検討しお答えしたい」と、ともに慎重な口ぶりでした。
同じような低水準の与太話を何度も聞かされてきた一傍聴者としては、もういい加減このテーマでの憲法審の開催はやめてほしいと切に願うところです。
衆議院法制局は中立公正か?
というわけで、この日もこれまでと同様の議論が繰り返されましたが、新たな論点が全く提起されなかったわけではありません。
それは藤原規眞氏(立民)が衆議院法制局が作成した資料『衆憲資第102号 「参議院の緊急集会」に関する資料』の公平性、客観性に疑義を呈し、「改憲派の先生方の主張は資料102号のミスリードによるものではないか」と主張したことです。
この日はこの資料『衆憲資料102号』の「補訂版」が配布されましたが、藤原氏によれば一昨年に作成されたオリジナル版には補訂版に掲載されている「緊急集会の重要な立法事実を示すGHQとの交渉記録」が欠落しているとのことでした。
また、下図の「帝国議会での審議(金森大臣答弁のポイント)」の中の「・印の3つ目と4つ目」もオリジナル版にはありませんでした。

また、オリジナル版では議員の主張が憲法学者の見解であるかのように扱われ、緊急集会は平時の制度に過ぎないとの記載があったが、なぜか補訂版ではその部分が削除されているとのことです。
また、下図の「帝国議会での審議(金森大臣答弁のポイント)」の中の「・印の3つ目と4つ目」もオリジナル版にはありませんでした。

また、オリジナル版では議員の主張が憲法学者の見解であるかのように扱われ、緊急集会は平時の制度に過ぎないとの記載があったが、なぜか補訂版ではその部分が削除されているとのことです。
なお、このことについては、参院憲法審の幹事である小西洋之氏(立民)が『X』に以下の文章をポストしています。
小西ひろゆき(参議院議員)Mar 27
本日の衆院憲法審での藤原議員の指摘は極めて重大なものです。任期延長改憲は「参院緊急集会が平時の制度で、70日間限定」との主張を根拠としています。しかし、この主張は、災害等の有事対処という憲法制定時の緊急集会の立法事実に真っ向から反します。ところが、衆院法制局が二年前に憲法審に提出した資料では、この立法事実が記載された日本政府とGHQとの協議記録に関する箇所が意図的に削られていたのです。
これに対して、私が異を唱え、その結果、本日の衆院憲法審に提出された衆院法制局の「補訂版」資料で、合計三ページにもわたる「緊急集会の立法事実」が初めて記載されました。
しかし、今回の「補訂版」でも「70日間限定」については、改憲派の主張に有利になるような憲法学者の基本書の「曲解」としか言いようがない記述が残っています。 極めて深刻な問題です。
* 引用、ここまで。
また、藤原氏は、法制局の資料では緊急集会が規定されている憲法54条についての学説が細切れ、バラバラにされていると指摘し、「学説のねつ造」と言われても仕方がないとまで述べています。
これについては『産経新聞』が下に掲げるように藤原氏を揶揄するかのような記事を出していますが、枝野氏が責任を持っていると言い張っても資料の中立・客観・公正性が担保されるわけではないことは言うまでもなく、枝野氏のこの発言には違和感しかありません。
衆院憲法審の枝野会長「私の責任で提出している」 資料酷評の立民新人議員にきっぱり
『産経新聞』2025年3月27日
立憲民主党の新人、藤原規真衆院議員が27日の衆院憲法審査会で、衆院法制局がまとめた資料について「学説の捏造」などと言及したところ、枝野幸男会長(立民)から「私の責任で中立客観公正なものとして提出している」と指摘される場面があった。
藤原氏は憲法審で資料に関して、「こまぎれ、ばらばらに学説が分類されている。もはや『学説の捏造』といわれても仕方がない」と強調。その上で「不偏不党の法制局の資料を疑うのは本意ではない。しかし、その内容は改憲派の先生方を容易にミスリードし得るものだ」と述べた。
これに対し、枝野氏は法制局による説明や資料について「私の責任で中立客観公正なものとして提出している。一切の責任は私にある」と答えた。
* 引用、ここまで。
当日藤原氏が『X』に投じた文章も紹介しておきます。改憲勢力の面々が「新説奇説を弄する」というのはまさに言い得て妙で、この日も多くの珍説が飛び交っていました。いちいち紹介はしませんが(その価値はないと思います)、一例として柴山昌彦氏(自民)の発言を挙げておきましょう。
それは、「今、自民党は少数会派で内閣を組織していて、衆参両院で熟議を尽くすべき事態だが、緊急事態が発生した場合には与党が多数の参議院の緊急集会で望む政策をどんどん行うことが恒久化してしまうことをどう考えるか」というものです。馬鹿馬鹿しいにもほどがあると言うしかありません。
それは、「今、自民党は少数会派で内閣を組織していて、衆参両院で熟議を尽くすべき事態だが、緊急事態が発生した場合には与党が多数の参議院の緊急集会で望む政策をどんどん行うことが恒久化してしまうことをどう考えるか」というものです。馬鹿馬鹿しいにもほどがあると言うしかありません。
藤原のりまさ(衆議院議員・弁護士)愛知10区Mar 27
任期延長改憲を目論む4党1会派は参議院の緊急集会(54条2項)をことさらに過小評価し、そのための新説奇説を弄する。
不偏不党たるべき衆議院法制局の資料に忖度の跡が窺えたので指摘した。
「学説の捏造」「ミスリード」
口を極めると顔が歪む。枝野審査会長の視線が痛かった。
* 引用、ここまで。
この日の傍聴者は40人足らずで、記者は5人ほどでした。
また、今回はいつもより自民党の欠席者が少なく1~2人の時間帯が長かったです。立民も同様にだいたい1~2人が欠席していました。
次の定例日である4月3日にはテーマがガラッと変わって「憲法改正国民投票法を巡る諸問題(放送CM・ネットCM)」について議論することが決まっています。その前日、2日には参院でも「憲法に対する考え方について」というざっくりしたテーマから憲法審が始動します。
こんなことが会期末まで続くのかと考えるとやりきれない気持ちになりますが、こういう形で「緊急事態条項の新設」、更には9条改憲の論議が進んでいることを広く訴えていくために、気を取り直して傍聴に通いたいと思います。改憲派を凌駕する意気込みで改憲・戦争絶対阻止の闘いに取り組んでいきましょう。(銀)