6月12日(水)13時から14時30分少し過ぎまで、今国会5回目の参議院憲法審査会が開催され、4度目となる実質的な審議が行われました。前週の定例日の5日には開かれませんでしたが、その理由はわかりません。
この日は「国民投票法(改憲手続き法)等」がテーマとされ、参議院憲法審の加賀屋事務局長から「国民投票法の制定及び改正の経過、附則の検討事項等」について、川崎法制局長から「憲法改正に係る手続き、流れ、検討課題等」について説明を聴取した後、委員間の意見交換が進められました。
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この日の審議についてはメディアの報道(ネット上で無料で読めるもの)が極めて少なかったのですが、さもありなん、最初3人いた記者はいつの間にかゼロになっていました(私がそれに気づいたのは13時50分頃でした)。
以下、数少ない報道の中から、時事通信の記事を転載させていただきます。

国民投票運動規制で平行線 自民「自由」、立民「支出上限を」
『時事ドットコムニュース』2024年6月12日

参院憲法審査会は12日、憲法改正が発議された際の「国民投票運動」をテーマに討議を行った。自民党は原則として自由とすることを主張。立憲民主党は資金力の差が結果に影響を及ぼさないよう支出上限の設定を求めた。
国民投票運動は憲法改正案について賛成または反対を働き掛ける行為で、改憲の国民投票法に規定されている。
自民の片山さつき氏は「原則自由とし、投票の公正確保のための最小限の規制を課すことを基本に考えるべきだ」と訴えた。日本維新の会の片山大介氏も同調した。
立民の辻元清美代表代行は「資金力の多寡による公平性への悪影響」について懸念を表明。支出上限の設定や収支報告書の提出が必要だとした。共産党の山添拓政策委員長も「主権者の意思より資金力の多寡が結果を左右しかねない」と述べた。
* 引用、ここまで。

あまりにも軽くむなしい附帯決議

上掲の記事で紹介されている党派以外の委員も、山本太郎委員(れいわ)は「(国民投票について)少なくとも世界の国々で行われているレベルの厳格なメディア規制がなされない限り、前に進めてはいけないのが憲法改正である」、高良鉄美委員(沖縄の風)は「最低投票率の定めがなくごくわずかの投票者のみで改憲案を決定しようとすることは、国民投票は主権者の意思表明であるという意義を失わせる」などと、安易な改憲の議論に反対する意見を表明していました。

中でもこの日いちばん私の印象に残ったのは、過去の国民投票法(改憲手続き法)の制定時、改定時の附帯決議がないがしろにされていることを鋭く指摘し、今国会の焦点の一つとなっている地方自治法改悪の違憲性にも言及した下記のような小沢雅仁委員(立民)の発言でした。
ちなみに、これらの附帯決議は、3年前の改正時の附則第4条と同じく、民主党(当時)だけでなく自民党、公明党等も提出会派となり、賛成したものです。

累次の国民投票法の改正で、参院憲法審では国民投票の公平及び公正や国民投票運動の自由を守るために重要な事項の附帯決議が付されているが、2014年の改正で政府が対応を求められた項目については検討状況さえわからないものが大半である。

例えば附帯決議項目の11では、公務員と教育者について国民投票運動の禁止行為と許容行為について政府にガイドラインの作成等を要請しているが、検討状況は不明だ。項目14、15、16等も含め、本審査会としてまずは政府に対して附帯決議で求められた項目の検討状況や講じた措置などについての報告を速やかに求める必要がある。

次に最低投票率制度については、法制定時にも改正時にも憲法改正の正当性を確保するためなどの観点から活発な議論が行われ、附帯決議項目18で最低投票率制度の意義、是非について検討し、速やかに結論を得るよう努めることとされたが、その後この議論は深まっていない。憲法改正の正当性が確保されない国民投票などあってはならず、憲法改正の本体議論の前に最低投票率制度の議論を進めるべきだと強く申し上げる。

その他にも本審査会が措置しなければならない国民投票法の課題は山積している。衆院憲法審の与党と一部野党は、緊急集会制度の曲解に基づく憲法改正の発議に向けて幹事懇談会での改憲条文の検討や条文起草委員会の設置の主張など前のめりになっているが、これら参院憲法審の附帯決議で求められた項目が解決するまで、改憲条文の審議など許さないことを申し上げる。
最後に、2014年の附帯決議項目1にある、憲法審査会は立憲主義に基づいて徹底的に審議を尽くすこととの定めに基づき、改正地方自治法の国の指示権の違憲性について参院憲法審で徹底審議することを求める。
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* 注:小沢氏が取り上げた2014年の改憲手続き法改正時の参院憲法審の附帯決議の内容は、下記のとおりです。

11 政府は、公務員等及び教育者の地位利用による国民投票運動の規制について、表現の自由、意見表明の自由、学問の自由、教育の自由等を不当に侵害することとならないよう、ガイドラインを作成する等、禁止される行為と許容される行為を明確化するための必要な措置を講ずること。
14 政府は、本法律の施行に当たり、国民投票運動を行う公務員に萎縮的効果を与えることとならないよう、配慮を行うこと。
15 本法律の附則第4項に定める組織により行われる勧誘運動等の公務員による企画等に対する規制の在り方について検討を行う際には、その規制の必要性及び合理性等について十全な検討を行うこと
16 国民投票運動が禁止される特定公務員の範囲については、適宜検証を行うこと。
18 最低投票率制度の意義・是非の検討については、憲法改正国民投票において国民主権を直接行使する主権者の意思を十分かつ正確に反映させる必要があること及び憲法改正の正当性に疑義が生じないようにすることを念頭に置き、速やかに結論を得るよう努めること。

1968年のプラハの春を舞台にし、映画化もされた『存在の耐えられない軽さ』という小説がありますが、ないがしろにされている附帯決議に関する小沢氏の発言を聞いていて、このミラン・クンデラの名作の題名を思い出しました。

自己矛盾も甚だしい柴田巧委員(維新)の発言

前回の猪瀬直樹氏に続いて、この日も最悪のとんでもない意見を表明したのは維新の委員でした。柴田巧氏です。どんな内容だったのか、紹介しましょう。

憲法審では、車の両輪である憲法本体の議論と国民投票に関わる議論を同時並行的に進めるべきだが、今国会で参院憲法審の実質的な討議は4回しか開かれていない。しかも、国会の終盤に入ると、野党の国対関係者から憲法審を強行するなら政治資金規正法の審議には応じられないとか、与党の国対幹部からは憲法審を強行すれば法案成立が危ぶまれるという発言が相次いだ。本来なら政局などと一線を画して憲法のあり方を論ずるのが憲法審の使命であり、極めて遺憾だ。

政治への信頼を大きく失墜させている元凶はお金の問題だけでなく、国民に対する公約を真剣に果たそうとしないことであり、総裁任期中に憲法改正を実現したいと言うなら堂々と進めるべきだ。憲法改正は党是だと言うのなら困難があっても実現に向け最大限の努力をすべきだが、本気度や熱意が全く感じられない。これでは政治の信頼回復は不可能であり、自民党の奮起を強く求める。
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政局と一線を画せと言いながら岸田自民党総裁は公約を守るため最大限に努力せよと政局にどっぷりつかった発言をする、柴田氏はその矛盾に気がつかないのでしょうか。

中曽根弘文会長(自民)の緊張感を欠いた議事運営

この日の審議で、委員たちから失笑が漏れた場面がありました。
憲法審では、衆参ともにまずは各会派を代表して委員が1人ずつ、大会派から順番に同じ持ち時間で発言するという、いわゆる「中山方式」によって審議を進めることが慣例になっているのですが、この日は中曽根弘文会長が片山さつき幹事、辻元清美幹事の意見表明の後、公明の委員(この日の発言者は伊藤孝江氏でした)を指名すべきところ、「片山大介君」(維新の幹事です)と言ってしまったのです。すぐに間違いを指摘されて「失礼しました、訂正します」と述べていましたが、中曽根会長がいかに緊張感なく漫然と憲法審の運営に当たっているのかを如実に示す一幕でした。

委員の出席状況は、短時間席を外す者はいましたが、この日も全員が出席していました。
傍聴者は30人強でした。13時20分頃30人以上の見学者が入ってきて傍聴席が満杯になった時間帯もありましたが、30分ほどで元に戻りました。

会期末が迫る中、衆院審査会では参院など眼中にないような議論が続けられ、最近では閉会中審査を求める意見も出されています。憂鬱な気分を拭えませんが、国会閉会中も改憲に向かう動きがあれば厳しく監視していきたいと思います。(銀)