6月6日(木)10時から11時30分過ぎまで、今国会9度目の衆議院憲法審査会が開催されました。8回目の実質審議で、前回に引き続き「国民投票広報協議会その他国民投票法の諸問題を中心として」がテーマとされましたが、緊急事態における議員任期延長の改憲案等についても多くの委員が発言していました。
yurusuna
今回のレポートでは、まず、前日の5日に開かれた自民党憲法改正実現本部の全体会合の様子を伝えた同本部のホームページの記事を紹介します。

条文案の起草に向けて今後の方針を確認
『自民党憲法改正実現本部』2024年6月5日

憲法改正実現本部は6月5日、全体会合を開き、衆参憲法審査会の状況について中谷元、佐藤正久両与党筆頭幹事から説明を受けました。その上で条文案の起草に向けては、わが党が提示している4項目(自衛隊の明記、緊急事態対応、合区解消・地方公共団体、教育充実)をベースに、今後の対応を古屋本部長ら同本部役員に一任することを確認しました。

席上、古屋本部長は「憲法改正ができるのは主権者である国民の皆さんだ。国民投票で自分の意思を表明する機会が奪われている状況は、ある意味で立法府全体の不作為と言っても過言ではない」と主張。「衆参憲法審査会でしっかり議論し、できるだけ幅広い政党の支持を得ながら、(改憲項目を)絞り込んでいく作業を行っていかなければならない。その際には国会運営に支障がないような対応をしていくことも当然必要だ」と述べました。

また、衆参憲法審の議論の状況に合わせて本部会合を開催する考えを示しました。
* 引用、ここまで。

この記事はおそらく自民党の職員が作成した原稿を実現本部のしかるべき役職の人物がチェックし修正を加えるなどして掲載されたものだと思われますが、私は、いま衆院審査会において改憲勢力の間で議員任期延長等の改憲案の起草委員会を設けるべきだ等の議論がさかんに交わされている中で、改憲案の作成や発議、国民投票の実施など「憲法改正実現」のスケジュールについて全く触れられていないことに驚きました。古屋本部長(衆院憲法審の委員でもあります)は「改憲項目を絞り込んでいく作業」を行っていく「際には国会運営に支障がないような対応をしていくことも当然必要だ」と述べたようですが、維新や国民などの改憲派にしてみれば及び腰もいいところだと感じたのではないでしょうか。

ただし、古屋氏のこの発言は、6月23日の会期末を目前にして、岸田政権がその命運をかけている政治資金規正法とあわせて、戦争を想定した地方自治法や入管難民法の改悪を今国会でなんとしても成立させようとしていることを臆面もなく口にしたものであり、私たちは改憲案の国会提出が遠のいたことを喜んでいるわけにはいきません。
ぎもん

次に、この日の衆院憲法審の様子を報じた『毎日新聞』の記事を転載させていただきます。上掲の自民党憲法改正実現本部のホームページの記事とあわせてお読みいただくと、現下の改憲情勢をどのように捉えたらいいのか、改憲勢力にとっても一筋縄ではいかない状況であることがおわかりいただけると思います。

なお、今回の審査会では「国民投票法の諸問題を中心として」がテーマとされていたにもかかわらず、『毎日』の記事ではその問題には全く触れていません。これは、冒頭に記したように、多くの委員が議員任期延長等の改憲案の作成の進め方やスケジュール感等についての意見表明に持ち時間を費やしたからであり、また、世論の関心もそちらに集まっているからだと思います。

自民、改めて幹事懇開催提案 緊急事態条項巡り 衆院憲法審
『毎日新聞』2024年6月6日

衆院憲法審査会は6日、自由討議を実施した。自民党の中谷元・与党筆頭幹事は憲法改正の条文案を起草する場として、全会派が参加する幹事懇談会の開催を改めて提案した。国会閉会中に議論を続けたい意向も示した。

自民、日本維新の会など4党1会派は、緊急事態が発生した場合の議員任期延長の改憲案について起草作業を進めるよう繰り返し要求しているが、立憲民主党や共産党は反対している。自民は5月30日、立憲に今月4日の幹事懇開催を提案したが、開催されていない。

中谷氏は審査会で「大切なのは反対の人も含めて憲法審で議論すること、みんなで案を作っていくことだ」と述べ、反対会派を含めた幹事懇の開催を提案。また、緊急事態での国会機能維持などについて「さらに深掘りの議論を進めていくために、改めて現時点での共通認識を整理し、条文イメージ作成の土台となるような論点整理と基本的な考え方を示していきたい」と語った。

岸田文雄首相は、9月までの党総裁任期中の憲法改正に意欲を示すが、今月23日の国会会期末までの憲法審の定例日はこの日を除いて2日のみ。自民の浜田靖一国対委員長は5日、憲法改正について「審議時間(の確保)はなかなか厳しい。我々とすれば今ある法案を全て通すための努力を優先すべきだと考えている」と述べ、今国会中の発議は困難との見方を示している。

これに関し、維新の小野泰輔氏は「今国会では発議できないと言い切るのか。それとも今国会が終わったとしても、本気で閉会中も(憲法審を)開催して今までの遅れを取り戻すのか」と中谷氏に質問。これに対し、中谷氏は「私は本気だ。閉会中も含めて全力を挙げて取り組んでいく」と述べた。【高橋祐貴、源馬のぞみ】
* 引用、ここまで。

さて、実際の審議の中身ですが、最初の発言者となった船田元幹事(自民)は、持ち時間の全てをこの日のテーマとされた「国民投票法の諸問題」、特に附則第4条の課題に充てましたが、「放送広告について、国民投票運動の全期間にわたる勧誘広告の規制は厳しすぎる」、「投票運動費用の上限額の設定や収支報告書の提出に関する制度設計は現実的に難しい」、「外国からの資金援助の排除も難しい」、「ネット広告について、政党等による勧誘、意見広告の禁止は難しい」など後ろ向きの発言が目立ちました。

そのほか会派代表として意見表明を行った改憲勢力の委員では、三木圭恵委員(維新)と北神圭朗委員(有志)はフェイクニュースとファクトチェックの問題をめぐって課題を提起していましたが、大口義徳委員(公明)は持ち時間の全てを、玉木雄一郎委員(国民)は大半を改憲案の内容や作成の進め方の問題に費やしました。

改憲案が提出できなければ岸田総裁の責任問題に?

一方、慎重あるいは反対の立場の会派からは、本庄知史幹事(立民)が前回までの審査会での玉木委員(国民)からの質問に回答した後、以下のような意見を述べました。本庄氏のホームページから転載させていただきます。

国民投票法、特に附則第4条

ご存じのとおり、岸田総理は自身の自民党総裁任期中の憲法改正を掲げています。維新の会や国民民主党もこれに同調し、総裁任期中の憲法改正を求めています。しかし、総裁任期と憲法改正に一体何の関係があるのでしょうか。この審査会の中でも、合理的に説明できる議員はいないと思います。

岸田総裁の任期は今年9月30日です。しかし、それより先に期限が来るのが、国民投票法の附則第4条に規定された諸課題です。この期限は、目途ではありますが、9月18日です。岸田総理が掲げる政治日程と、法律に明記された期限と、どちらが優先されるべきかは論を俟ちません。

かねて私たちが最優先課題としてきた附則第4条第2号、放送CM、ネットCM、資金規制、ネット等の適正利用、更には、広報協議会規程、事務局規程、広報実施規程など、国民投票法及び手続き上の課題は依然として残されたままです。

今の状況では、いくら条文化作業や改正発議をしても、国民投票の実施は見通せません。議論の順序が全くアベコベです。まず附則第4条について議論を深め、結論を得ることを提案します。森会長、ご検討をお願いします。
* 引用、ここまで。

岸田首相の自民党総裁の任期と憲法改正に何の関係があるのかというのは至極当然の見解だと思いますが、この後に発言した玉木委員(国民)は「改正原案の提出にすら至らないのであれば自民党総裁としての責任を問われる話だ」、小野泰輔委員(維新)は「公党の代表としての自民党総裁の言葉はめちゃくちゃ重い。これ(たぶん発議を指すのだと思います)ができなければ岸田総理は責任を取らなければいけないぐらいのものだ」と言い募りました。

安倍晋三元首相・元自民党総裁は2017年の憲法記念日に「東京オリンピックが開催される2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と述べ物議を醸して以来同様の方針(というほどのものではなく、放言と書いた方がいいかもしれませんが)をたびたび開陳していましたが、岸田も旧安倍派などの支持を取り付けるために中身の全くない改憲やるやる発言を繰り返してきました。維新や国民の改憲スケジュールの主張は、その岸田の発言に安易に寄りかかったもので、改憲派の底の浅さが如実に現れています。

なお、赤嶺政賢委員(共産)は、この日も「沖縄の歴史と憲法について述べたい」と前置きして、我が道を行く発言を貫いていました。赤嶺氏は同じテーマで開かれた前回の審査会では最低投票率の規定がないこと、公務員や教育関係者の意見表明や国民投票運動を不当に規制していることなど国民投票法(改憲手続き法)の問題点に(少しだけでしたが)言及されていたので、さらに本格的な議論を展開されることを期待していたのですが、残念でした。

抜け目のない小野幹事(維新)の発言

このように、審議の内実をフォローしていると、そして参院憲法審の情勢も勘案すると、とても改憲の条文案を作成して発議できるような状況ではないと思われますが、小野委員(維新)の警戒すべき(だと私が感じた)発言を紹介しておきたいと思います。

「憲法改正の中身の議論と国民投票法の改正を両輪でやっていくというのが私たちの立場だが、自民党がこの通常国会中に憲法改正の発議ができない、そして夏休み中にでもやるということをしないなら、私は、立憲民主党が言っているとおり、まだ詰め切れていないCM規制の問題を本気でやって、投票環境の課題は整ったねというところで一気にスピードアップしていくことも必要じゃないかと思う。」

要するに国民投票法(改憲手続き法)の附則第4条の問題を先に片付けよう、そうすれば立民も改憲案の議論に参加せざるを得なくなるだろうという、いわば「急がば回れ」という主張であり、こういう抜け目のない考えが維新の委員から出てきたことに注目する必要があるのではないでしょうか。

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また、これも小野委員が関わったやり取りですが、上掲の『毎日』の記事の最後の段落で、小野委員に「今国会が終わったとしても、本気で閉会中も(憲法審を)開催して今までの遅れを取り戻すのか」と問われて、中谷元氏(自民、与党側筆頭幹事)が「私は本気だ。閉会中も含めて全力を挙げて取り組んでいく」と答えたことが紹介されています。実際に閉会中審査が実現するかどうかはわかりませんが、「私は本気だ」という言質を取ったことは後々維新にとって大きな成果だったということになるのかもしれません。

最後にまたしても同じことを書きますが、私たちはできることをやり続けるしかありません。改憲は絶対に阻止しなければならないし、それは可能だという確信を持ってこれからも声を上げ続けていきましょう。

この日の傍聴者数は50人ほどで今国会で最多だったと思います。記者は3人でした。
委員の出席状況は、自民党の欠席者は最初は2~3人、中盤で4~6人に増え、閉会間際になると3人ほどに減るといういつものパターンでした。他党は時折席を外す委員はいましたが、全員が出席していました。
(銀)