5月29日(水)13時30分から15時少し過ぎまで、今国会4回目の参議院憲法審査会が開催され、3度目となる実質的な審議が行われました。この日は15日に開かれた前回の審査会に続いて参院の緊急集会がテーマとされ、参院の川崎政司法制局長から「東日本大震災に関連した立法措置等」について、内閣府の高橋謙司政策統括官から「首都直下地震対策の概要」についてそれぞれ説明を聴取した後、委員間の意見交換が進められました。

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意見交換は、各会派の代表1名ずつの発言、続いて他の委員からの発言という順序で行われましたが、驚いたのは上記の2名の説明者が説明を終えるとすぐに退席を促され、委員たちからの質疑の機会が設けられなかったことです。わざわざ参議院と内閣府の幹部を迎えたのは何のためだったのだろうかと思いました。

自公幹事の穏当な意見表明

前回、15日の審査会でもそうだったのですが、この日も会派を代表して発言した自公の幹事は参議院の緊急集会を積極的に位置づける意見を表明していました。
以下、その一部を紹介します。

佐藤正久幹事(自民、与党側筆頭幹事):まず、参院の緊急集会の開催が平時、有事を問わず衆院の不存在時のための制度であることを申し上げ、本審査会では、衆院議員の任期満了時でも内閣は参院の緊急集会の開催を求め得るとの見解に異なる意見を持つ会派はなかったことを確認したい。
仮に首都直下地震等が衆院解散時等に発生した場合、参院の緊急集会の審議の対象となる法案や予算を制限し緊急の対応が停滞すれば、民主政治を徹底して国民の権利を十分に擁護するという憲法の趣旨に反し、したがって、こうした場合に緊急集会の審議対象となる法案や予算の範囲には、緊急の必要がある限り制限はないと考える。とすれば、緊急集会で議員が発議できる議案の範囲についても、内閣総理大臣から示された案件に関連するものという国会法の規定を幅広く解釈し、緊急の必要がある限り発議できると考える。

西田実仁幹事(公明):大規模災害への対応のために参院の緊急集会において補正予算を処理することは当然に認められると考える。本予算を議決しないまま衆院が解散されるケースは想定しにくいが、仮にそうなった場合には、まずは暫定予算により必要な措置を講じ、長期に及ぶ場合は暫定予算の補正によって対応することになると思われる。こうした措置は暫定的なものだが、大災害によって総選挙や衆院の構成ができない場合も国民生活のための国会運営はなされなければならず、内閣の専断を抑制し民主的な統制を及ぼすためには、本予算についても全国民の代表である参院の緊急集会で決めていかざるを得ないと考える。
可能な範囲で総選挙を実施し早期に民主的正当性を備えた二院制に復帰することが必要であり、災害に強い選挙制度を整えるため、選挙人名簿のバックアップや郵便投票の拡大、ネット選挙の導入等によってできるだけ速やかに選挙が実施できるよう検討していくことが重要だ。中でも現行の法令では明示的に義務づけられていない選挙人名簿のバックアップの必要性は大きく、住民票のある市町村の庁舎が被災しても選挙人名簿の滅失を防ぎ、被災地に戻らなくても避難先の最寄りの市町村役場で投票できるようにする仕組みも検討すべきだ。

前回に続き、この日も最後の発言者となった小西洋之幹事(立民)は、佐藤、西田両氏の意見に対して「心から敬意を表する」と述べ、2人の見解は衆議院で改憲勢力が議員任期延長改憲の根拠としている「参議院の緊急集会が70日の限定であって、かつ平時の制度あるいは二院制の単純な例外であるという主張を事実上否定するものだと思う」と評価していました。

野党委員の辛辣な衆院憲法審批判

この日目立ったのは、立民、共産、れいわ、社民、沖縄の風の委員たちから衆院憲法審での改憲勢力の主張に対する批判が相次いで表明されたことです。
以下、何人かの発言を紹介しますが、それぞれ改憲派が展開している議論の矛盾を鋭く指摘していました。

辻元清美幹事(立民、野党側筆頭幹事)東日本大震災のとき、全国の大半の地域では普通に選挙が行われた。このとき自民党は野党だったが、まだ福島第一原発の事故処理で緊迫していた時期に内閣不信任案を提出した。また、コロナのパンデミック真っ最中の危機の中で、大阪維新の会は大阪都構想の住民投票を強行し、その後感染者が増加した。
危機の中で衆院の解散につながりかねない不信任案を提出したり住民投票を強行したりした政党が、今度は危機の中では選挙ができないから衆院議員の任期延長が必要だと主張するのは、やっていることと言っていることが矛盾するのではないか。

山添拓幹事(共産)昨日、衆院総務委員会で地方自治法改定案が可決されたが、緊急時における国会機能の維持が必要だと主張する会派が国会の役割を否定する地方法自治法改定を押し通そうとするのは矛盾と言うほかない。

山本太郎委員(れいわ)衆院憲法審で、維新や国民の委員が議員任期延長改憲の条文案を作成する起草委員会を賛成の党派だけで粛々と進めることを提案するなどという暴言を吐くのは許されない。参議院として怒らなければならない場面だ。(中曽根弘文)会長は、参院の軽視を明確に批判する声明を出してほしい。

福島みずほ委員(社民)私たち野党は、2021年のデルタ株の感染爆発時をはじめ何度も臨時国会の開催を求めてきた。これに応じなかった与党などが、今度は国会がないと大変だとして議員任期延長を主張することは笑止千万だ。国会議員の長期居すわり、選挙の停止を図る衆院憲法審の改憲条文案の起草委員会の設置と要綱づくりは参議院の否定で憲法破壊であり許されない。
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こんな人だったの?と思った猪瀬委員(維新)の暴論

続いて、改憲勢力の急先鋒、維新と国民の委員たちの発言を見ていきましょう。
まず、会派を代表して発言した2人の幹事はそれぞれ次のように述べていて、もちろん同意はできませんが、衆院憲法審での両会派の委員たちと比べると意見表明の内容も口調もソフトな印象を受けました。

片山大介幹事(維新)緊急事態として衆院選が困難な上に参院議員も任期を迎えて半分しかいなくなることも想定しておくべきだ。衆参合わせて定数713名のうち参院議員124名しか存在していない緊急集会で国の存亡に関わる緊急事態を乗り切っていくのか、任期延長で衆参両院が機能している国会で乗り越えていくべきかを比べると、後者の方が立憲主義、国民主権にかなうと思う。

大塚耕平幹事(国民)衆院解散後に発生した緊急事態時に衆院の任期延長が制度として確立していない前提で考えると、参院の緊急集会で解散した衆院の前議員を当分の間復帰させることを認める特別法を制定できるか否か、首相や内閣・政府に緊急事態への対応に必要な特別な権能を認めることを決め得るか否かなど、緊急事態における緊急集会の決定事項に関する民主的統制の枠組みを議論しておくべきだと考える。
 
そんな中、しんそこからうんざりさせられたのが猪瀬直樹氏の以下のような発言です。

猪瀬直樹委員(維新)日本維新の会はすでに5項目の改憲条文案を示しており、必ずしも本意ではないが今国会では緊急事態に関連する事項に絞って議論すべきとの方針で、各党の意向を尊重して議論を進めてきた。しかし、今のやり方で今国会の会期末までに結論が出せるのかはなはだ疑問に思う。衆院側は起草委員会をつくって条文を起案する方向でまとまりつつあるが、参院ではどうするつもりなのか。今の参院憲法審は周回遅れどころか3周遅れぐらいになっている。
立憲民主党が野党の代表であるかのように振る舞い自民党の筆頭幹事との間で憲法審の進め方を決め、会長はリーダーシップを執ろうとしない。こんな慣習で進めている限り議論は深まらず時間と費用の浪費が続いてしまう。憲法審の審議時間を十分に取ること、開催回数を増やすこと、国会の閉会後も開催することによって、岸田首相の言う総裁任期中の9月末までに結論を得て審査会としての責任を果たすよう中曽根会長に強く求めたい。

現状認識はデタラメだし、今回までの参院憲法審での審議の内容を全く理解していないトンデモ論を興奮した様子でまくし立てる様子を見て、「猪瀬氏ってこんな人だったの」とあきれました。そもそも岸田首相の自民党総裁任期に合わせて改憲の結論を得なければならないという主張だけ見ても、論理は破綻しています。猪瀬氏の比喩を用いれば、私は参院憲法審が周回遅れあるいは3周遅れなのではなく、衆院憲法審がコースを外れてあらぬ方向に突っ走っているのだと言いたいです。
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中曽根弘文会長(自民)のとんでもない議事運営

この日の審議で、中曽根弘文会長が1回だけ委員の発言中に「時間を過ぎているのでまとめるように」と注意する場面がありました。そう言われたのは福島みずほ氏ですが、前回の憲法審でも全く同じことがありました。なぜ福島氏にだけ5分の持ち時間が超過するや否やこうした妨害を行うのか、とうてい看過できません。
というわけで、今回も前回と同じ小見出しを立てて、典型的なミソジニストである中曽根氏を弾劾したいと思います。

委員の出席状況は、短時間席を外す者はいましたが、この日も全員が出席していました。
傍聴者は30人ほどで、途中10人強の見学者が入ってきて傍聴席がほぼ埋まった時間帯もありましたが、20分ほどで元に戻りました。記者は最初4人いましたが、途中から2人となりました。

会期末が迫る中、最後に転載させていただく『産経新聞』の記事にあるように、改憲勢力にとって「与党や立民で構成される『参院の壁』は高くて厚い」のが現状ですが、警戒を怠ることなく傍聴を続け、改憲・戦争絶対反対の声を上げ続けていきたいと思います。(銀)

自公、改憲への「壁」 衆参で足並みそろわず、迫る総裁任期のリミット
『産経新聞』2024年5月29日

通常国会の会期末が6月23日に迫る中、衆参両院の憲法審査会の議論はいまだ足踏みを続けている。実現性が高いとされる緊急時に国会議員の任期延長を可能にする改憲ですら、衆院と参院で与党の足並みがそろわない。岸田文雄首相が目標に掲げる今年秋までの自民党総裁任期中の改憲は正念場を迎えている。

29日開かれた参院憲法審で、野党筆頭幹事を務める辻元清美氏(立憲民主党)は西田実仁氏(公明党)の意見に賛意を示した。「議員任期延長は時の政府の延命に使われる可能性がある。西田氏も言ったように繰延投票、あるいは選挙期日延長の特例法の制定を緊急集会で行うことで対処すべきだ」と述べた。緊急集会を巡り「(自民の佐藤正久与党筆頭幹事と)全く同じ意見」と述べる場面もあった。

衆院の自公両党や日本維新の会などは任期延長の必要性を強く訴えているが、参院では与党を含めて現行憲法に規定されている「参院の緊急集会」で対応可能との声が少なくない。党派を超えて参院の存在感が失われることへの危機感を共有している節もある。自公の足元を見るかのような辻元氏の言動からは、参院の総意として任期延長論を牽制する狙いも透ける。

実際、自公には衆参間で溝がある。16日の衆院憲法審では維新の岩谷良平氏が参院の西田氏の見解に触れた上で、「衆参で発言が矛盾しているのではないか」と公明をただす場面があった。また、衆院自民は改憲原案を協議する起草委員会の設置を訴えているのに対し、参院自民は慎重姿勢を崩していない。
「公明の山口那津男代表や西田氏を丸め込んでからの話だ。衆院だけ勝手に進められても困る」。参院自民関係者は自民が単独で過半数に届かない現状、衆院公明に比べて護憲色が濃い参院公明への配慮が必要だと示唆する。

「こんなやり方、進め方で会期末までに結論が出せるのか甚だ疑問だ。中曽根弘文会長の手腕と指導力が求められる」
堂々巡りが続く中、29日の参院憲法審で維新の猪瀬直樹氏はこう不満を爆発させたが、与党や立民で構成される「参院の壁」は高くて厚い。(永井大輔、末崎慎太郎)
* 引用、ここまで。