5月23日(木)10時から11時30分過ぎまで、今国会7度目の衆議院憲法審査会が開催されました。実質審議は6回目になります。この日も「自由討議」が行われました。
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まず、審査会の前半に行われた各会派1名ずつの発言の内容が簡潔に整理された『NHK NEWS WEB』の記事を転載させていただきます。

衆院憲法審査会 自民“要綱作成し議論を” 立民“時期尚早”
『NHK NEWS WEB』2024年5月23日

衆議院憲法審査会が開かれ、大規模災害など緊急事態での国会機能の維持をめぐり、自民党が憲法改正に向けた条文案のもとになる要綱を作成して議論を進めるよう重ねて求めたのに対し、立憲民主党は時期尚早だと主張しました。

自民 “審査会に具体的な要綱案の提示を”
 自民党の小林前経済安全保障担当大臣は「『選挙困難事態』における国会機能の維持については、制度設計の枠組みの大部分が固まっており、いつでも条文化に入れる段階だ。制度設計の詳細にわたる議論を建設的に進めるため、審査会に具体的な要綱案を提示することを希望する」と述べました。

立民 “今の段階では早い 慎重なうえにも慎重に”
 立憲民主党の逢坂代表代行は「災害に強い選挙の検討など八方手を尽くして、なお穴がある時に初めて憲法改正の立法事実が出てくる。そこまでいっていない中で条文案を考えるのは今の段階では早いのではないか。慎重なうえにも慎重にすべきだ」と述べました。

維新 “憲法改正原案の作成作業 進めることを要望”
 日本維新の会の小野泰輔氏は「『選挙困難事態』に備えることは政治の責任で、議論はかなり尽くされている。条文案の起草委員会を立ち上げ、憲法改正原案の作成作業を進めることを要望する」と述べました。

公明 “巨大地震が国政選挙と重なると 期日延期が必要”
 公明党の国重徹氏は「南海トラフ巨大地震が国政選挙と重なった場合、広範な地域で『選挙困難事態』に陥る蓋然性が極めて高く、選挙期日の延期が必要になる」と述べました。

共産 “日米地位協定の改定にこそ正面から取り組むべき”
 共産党の赤嶺政賢氏は「アメリカ軍が事件や事故を起こしても基地内に立ち入って調査できない。国会は日米地位協定の改定にこそ正面から取り組むべきだ」と述べました。

国民 “起草委員会を設置 条文案作りに着手を”
 国民民主党の玉木代表は「もはや論点は出尽くしており、起草委員会を速やかに設置して条文案作りに着手することを改めて求めたい」と述べました。
* 引用、ここまで。

自民、維新、公明の発言者は前回と異なっていましたが(自民は6人の幹事が審査会前半の会派代表の発言を順番に行うことにしているようで、今回で一巡しました)、各会派の意見表明の内容は前回とほぼ同じでした。

続けてもう1本、『産経新聞』の記事を転載させていただきます。

「責任政党」の姿勢を疑問視、改憲後ろ向きの立憲民主へ指摘相次ぐ 衆院憲法審
『産経新聞』2024年5月23 日

与野党は23日の衆院憲法審査会で、大震災などで選挙が困難となる事態への対処を目的とした国会議員の任期延長を可能にする憲法改正について改めて議論した。この日も後ろ向きな態度に終始した立憲民主党に対し、他党からは責任政党としての姿勢を疑問視する指摘が相次いだ。

「長い友人関係だが、あえて申し上げるが、もう逃げられないところまで来ている」。自民党の細野豪志氏は憲法審で、野党筆頭幹事を務める立民の逢坂誠二氏に対し、東日本大震災発生時に衆院が解散されていた場合、政治家としてどのような判断を下していたかと尋ねた。

民主党時代の同僚で、「現行憲法下で最大限の対策を講ずる」などと繰り返す逢坂氏に具体策を示すよう迫った形だ。もっとも逢坂氏は「危機を煽って、緊急時対応が過大になり過ぎて、悲惨なことを招いた歴史がある。緊急時の対応は慎重の上にも慎重さを持ってやるべきだ」と述べるにとどめた。

4月末の衆院3補欠選挙を制して勢いに乗る立民は政権奪取への自信を深めている。しかし、この日は任期延長の改憲を支持する自民以外の政党からも野党第一党の認識の甘さを指摘する声が上がった。

公明党の国重徹氏は「南海トラフ巨大地震が国政選挙と重なった場合、広範な地域で選挙困難事態に陥る蓋然性が極めて高く、選出されない国会議員は15%を大きく上回るであろうことは明白」と強調した。
これは、前回16日の憲法審で立民の本庄知史氏が示した「繰り延べ投票と(現行憲法に規定されている)『参院の緊急集会』でも対応できないような、選挙困難事態というのは一体いかなる状況なのか」という疑問への答えだ。

国民民主党の玉木雄一郎氏は「起草委員会を速やかに設置して条文案作りに着手することを改めて求める」と強調。その上で民主党時代の同僚が数多く所属する立民に対し、「政権与党を目指すのであれば(危機対処の)意思と能力を備えていることを示した方が得策だ」と足並みを揃えるよう助言した。(内藤慎二)
* 引用、ここまで。

この記事では、改憲勢力に与する『産経』のバイアスが強くかかってはいますが、議場の雰囲気がよく伝えられていると思います。

たんぽぽ

この日は、立民の2人の幹事のうち本庄知史氏が欠席していたこともあって、逢坂誠二氏が改憲勢力の委員たちから「集中砲火」を浴びる格好になりました。本庄氏が姿を見せなかったのは、同時刻に開かれていた政治改革特別委員会に出席していたからのようですが、それなら他の委員が援護すればいいものを、この日発言の機会を得た大島敦氏は、「私の意見であり会派を代表しての意見ではない」と前置きして「首相の解散権を限定して衆議院自らが解散権を持つ制度を導入すべきだ」と主張していました。その当否はともかくとして、私は「今、それを言うの?」という違和感を持ちました。

また、共産党の赤嶺政賢委員の意見表明は、「前回に続いて、沖縄と憲法について意見を述べる」と始めて、「国会は日米地位協定の改定にこそ取り組むべきだ。憲法と矛盾する日米安保体制を根本から問い直すべきことを指摘して発言を終わる」と締めくくるというもので、議員任期延長の改憲論には一言も触れませんでした。前回の報告にも書きましたが、とてももどかしく感じました。

逢坂氏は、自身のブログで次のように記して「悩み」を吐露していますが、これからも野党側筆頭幹事として信念を貫いてほしいと思います。

現行憲法下で八方手を尽くす
『おおさか誠二ブログ』2024年5月25日

(前略)昨日の憲法審査会で、議員任期の延長について条文化の作業を進めるべきとの声がありました。私は、議員任期の延長に関する立法事実をクリアにするためには、現行憲法下で、次の作業を八方手を尽くして行うことが必要だと考えています。

*1:災害に強い選挙について対策を講ずる
*2:震災などによって国会機能が失われた場合の対策(いわゆるBCP)
*3:緊急集会の機能強化

現行憲法のもとで、これらについて具体的に議論し、必死になって対策を講ずることが必要です。
それらの具体化の先に、議員任期延長の必要性(立法事実)が見えてくるのです。
今の憲法のもとでやれることをやっていない中では、議員任期延長の条文化作業の段階には達していないのです。
なぜこれが理解できないのか、悩みは尽きません。(後略)
* 引用、ここまで。

ということで、衆院憲法審では緊急事態下の選挙困難事態における議員任期延長を可能とする改憲の議論が盛んに行われています。この日の玉木雄一郎氏(国民)の発言によれば、次回の審査会では国民投票広報協議会の規程について議論するということであり、改憲の発議、国民投票に向けた条件整備も進んでいくことが見込まれます。

以下、前々回、前回と同じことを書きますが、私たちはできることをやり続けるしかありません。改憲は絶対に阻止しなければならないし、それは可能だという確信を持ってこれからも声を上げ続けていきましょう。
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この日の傍聴者数は前回より少し増えて30人ほど、記者は2~4人でした。
委員の出席状況は、審査会の前半30分くらいは自民党の欠席者が少なく、全員が出席している時間もありました。途中からはいつものように3~4人が欠席という状態になりましたが、本当に珍しいことでした。他の会派では、上述のとおり立民の本庄知史幹事がずっと姿を見せませんでした。

今回は、付録として5月27日に開催された改憲派の集会「新しい憲法を制定する推進大会」について報じている2つの記事を転載させていただきたいと思います。

緊急事態条項新設などを訴え 新しい憲法制定推進大会で櫻井よしこ氏と島田元防衛次官講演
『産経新聞』2024年5月27日

中曽根康弘元首相が率いた超党派「新憲法制定議員同盟」は27日、東京都内で「新しい憲法を制定する推進大会」を開いた。憲法改正実現を目指すジャーナリストの櫻井よしこ氏や元防衛事務次官の島田和久氏のほか、政党幹部らが集い、憲法への自衛隊明記や緊急事態条項新設などの必要性を改めて訴えた。

岸田文雄首相(自民党総裁)はビデオメッセージで「国会の発議を見据えた議論をしていかなければ、いつまでも憲法改正を実現することはできない」と述べた。また、自民の麻生太郎副総裁もビデオメッセージで「日本国憲法は日本人自身の歴史観、国家観に基づいて、自らの手で不断の見直しを行っていくべきものだ」と語った。

櫻井氏は「立憲民主党は憲法改正をする気がない。相手にしてもしかたがない」と強調し、自衛隊明記の必要性を訴えた。緊急時に国会議員の任期延長を可能にする改憲にも触れた上で「(政治家の任期を伸ばすだけの)いいかげんな内容だったら、先頭に立って『そんな憲法改正はいらない』という運動をするかもしれない」と述べた。
* 引用、ここまで。

【速報】「国会会期内に改憲要綱案提出を」公明・北側副代表が憲法改正めぐり訴え
『TBS NEWS DIG』2024年5月27日

公明党の北側副代表は27日、今の国会会期内に憲法改正の要綱案を衆議院・憲法審査会に提出すべきとの考えを示しました。

公明党 北側一雄副代表
「この残された通常国会の会期内にね、具体的な要綱案を、ちゃんと審査会で提出して、それをもとにさらに建設的な議論をしていく、もうそういうステージになっている」 
公明党の北側副代表は、超党派の国会議員で構成される「新しい憲法を制定する推進大会」でこのように話し、「いつでも改正条項案をつくれる状況に、いまの憲法審査会はなっている」と強調しました。 
ただ、公明党は、党内でも衆議院と参議院の議員間で温度差があり、山口代表は「参院では十分に議論が進んでいない」と指摘するなど、性急な憲法改正には慎重な姿勢を示しています。
* 引用、ここまで。

『産経新聞』の記事で紹介されている櫻井よしこ氏の「自衛隊明記の必要性を訴え」、「議員任期延長の改憲がいい加減な内容だったらそんな憲法改正はいらないという運動をするかもしれない」という発言が改憲派の本音なのだろうと思います。
(銀)