5月16日(木)10時から11時30分過ぎまで、今国会6度目の衆議院憲法審査会が開催されました。実質審議は5回目になります。この日も「自由討議」が行われました。

まず、審査会の前半に行われた各会派1名ずつの発言の内容が簡潔に整理された『NHK NEWS WEB』の記事を転載させていただきます。
大規模災害など緊急事態での国会機能維持めぐり各党が意見
『NHK NEWS WEB』2024年5月16日
衆議院憲法審査会が開かれ、大規模災害など緊急事態での国会機能の維持をめぐり、自民党が条文案のもとになる要綱を作成し議論することを提案したのに対し、立憲民主党は、今の憲法で対応するための方策を検討すべきだと主張しました。
自民 “具体的な要綱形式の資料を審査会に提示し議論を”
自民党の船田元経済企画庁長官は「緊急事態における国会機能の維持、議員任期の延長については、これまでの憲法審査会でかなり議論が煮詰まってきた。各党の考え方も収れんしてきており、具体的な要綱形式の資料を審査会に提示し議論を進めるべきだ」と述べました。
立民 “現行憲法下で方策を検討すべき”
立憲民主党の逢坂代表代行は「議員任期の延長論は選挙の原則を変更するもので、慎重の上にも慎重に議論すべきだ。他方、立法府の機能維持は極めて大事で、現行憲法下でどうやって最大限維持できるのか手を尽くして方策を検討すべきだ」と述べました。
維新 “せめて改正案の要綱を作成すべきだ”
日本維新の会の岩谷良平氏は「条文案の起草委員会に国会機能維持の憲法改正に反対する党を入れるのは生産的ではなく、賛成の党派だけで実務的に進めることを提案する。委員会が開かれなくても、せめて改正案の要綱を作成すべきだ」と述べました。
公明 “具体的な条文案のイメージ示した要綱提示を”
公明党の大口元国会対策委員長は「国会機能の維持のための憲法改正について、さらにかみ合った議論を展開できるよう、具体的な条文案のイメージを示した要綱を審査会に提示することを提案する」と述べました。
共産 “アメリカ軍基地を強化している現実の議論を”
共産党の赤嶺政賢氏は「政府が沖縄県民の願いを踏みにじり、アメリカ軍基地を強化している現実を議論し、憲法の原則が適用されない沖縄の実態を変えることこそ政治家の責任だ」と述べました。
国民 “憲法改正の条文案づくり着手提案 要綱形式で議論を”
国民民主党の玉木代表は「緊急事態における国会機能維持を可能とする憲法改正の条文案づくりに着手することを改めて提案する。審査会で要綱形式で議論したい」と述べました。
* 引用、ここまで。
続けてもう1本、『産経新聞』の記事を転載させていただきます。この記事では、審査会後半に行われた委員たちの発言も含めて、改憲勢力に与する『産経』の立場からではありますが、この日の議論の様子がうまく押さえられていると思います。
大規模災害時の議員任期延長、改憲巡り溝埋まらず 「立民排除論」も 衆院審査会
『産経新聞』2024年5月16日
与野党は16日の衆院憲法審査会で、大規模自然災害などによる選挙困難事態への対処を目的とした国会議員任期延長を可能にする憲法改正について議論した。党内や支持層に護憲派を抱える立憲民主党がこの日も必要性を疑問視する中、自民党や日本維新の会など改憲勢力からは「立民抜き」の改憲案作りに踏み込むべきとの意見が上がった。
国民民主党の玉木雄一郎氏は憲法審で、「国会機能を適切に維持するためには憲法を改正し、選挙期日の延期と、その間の議員任期の延長に関する規定を創設することが必要だ」と改めて訴えた。
一方、立民の本庄知史氏は「長期間投票できる環境にないという被災地の有権者の視点を強調する意見もあるが、被災地以外の大多数の有権者が選挙権を行使できなくなる」と任期延長論を牽制。「緊急事態にかこつけた政治家の延命としか受け取られない」とも断じた。
かねて任期延長の必要性を提唱してきた公明党の北側一雄氏は、発災後に想定される復旧・復興に向けた議員立法や予算審議などを念頭に「被災地選出の議員がいない状況が長期間続くのは良いとはとても思えない」と強調した。
しかし、野党筆頭幹事の逢坂誠二氏(立民)は選挙困難事態の基準などが「曖昧」との見方を示し、「期日、任期を最大限に守ることが民主主義の大前提だ」と語った。
立民の抵抗を横目に改憲勢力はこの日、憲法改正の条文要綱案を踏まえた議論の必要性を共有した。条文案作りに関しては「(反対を主張する政党を含めた作業は)非現実的」(自民・山田賢司氏)、「反対会派を入れると、そもそも論が繰り返され生産的ではない」(維新・岩谷良平氏)などの意見も相次いだ。(末崎慎太郎)
* 引用、ここまで。
2つの記事をあわせ読むと、この日の衆院憲法審のポイントは、船田元幹事(自民)の「緊急事態における国会機能の維持、議員任期の延長について、具体的な要綱形式の資料を審査会に提示し議論を進めるべきだ」という意見に改憲勢力の全会派がはっきりと同調したことだと言えると思います。「要綱」というのは、法案の「条文化において中心となる骨格を固め、論理構成に従った体系に組み立て、整序した文書」(参議院法制局『議員立法の立案プロセス』)で、条文案の一歩手前となる資料です。
また、岩谷良平委員(維新)や山田賢司委員(自民)が改憲条文案の検討・作成の作業に反対の会派が参加することは生産的ではない、非現実的だなどという暴論を堂々と開陳したことも見逃せません。
防戦一方の立憲民主党、超然として論戦に加わらない共産党
こうした改憲勢力の攻勢に対して、立民の委員は防戦一方に追い込まれている印象が否めませんでした。
この日も本庄知史幹事は下記のように述べて孤軍奮闘していましたが、まさに「多勢に無勢」という言葉がぴったり当てはまるような議場の雰囲気でした。(引用は本庄氏のウェブサイトに掲載された記事を要約したものです。)
繰延投票は、要件を満たせば地域的な範囲や繰延期間に制限はありません。再繰延べも法律上は可能です。短期間、限定的な延期しかできないとの一部委員の意見は、単に過去の事例を踏襲しているだけで根拠がありません。
その上で、私は、繰延投票と参議院の緊急集会でも対応できないような全国の広範な地域で相当程度長期間選挙が実施できない事態というのは一体いかなる事態なのか、いまだ説得力ある科学的検証は示されていないし、他にも多くの基本的な論点が積み残されていると繰り返し申し上げています。
【被災地選出議員の不在】
「被災地選出の国会議員が国会にいなくてよいのか」との発言が、中谷筆頭幹事はじめ何人かの委員からありました。しかし、憲法上国会議員は特定の選挙区の代表ではなく全国民の代表です。また、衆議院議員が存在しなくても参議院議員は存在するでしょう。
さらに、補欠選挙は半年に一度であり、制度的には最長で7カ月強国会議員の欠員が生じる可能性があります。したがって、公選法が違憲立法でない限り憲法上も7カ月、あるいはそれ以上の欠員を許容していると考えるべきであり、被災地の国会議員が不在でいいのかとの批判は憲法上は当らないと考えます。
【被災地以外の有権者の参政権】
昨年、本審査会事務局が作成した、東日本大震災後の地方議員選挙と首長選挙の実施状況を前回衆議院総選挙に当てはめた場合の試算があります。
この試算によると、本来の期日に選挙が実施できず選出されない議員の数は69名、定数の15%です。15%が「全国の広範な範囲」に合致するかはさて置き、残りの85%は選挙が実施可能ということです。さらに千葉県や茨城県でも繰延投票が実施されれば、1カ月程度で95%まで投票可能となります。
公明党の北側幹事のように「長期間投票できる環境にないという被災地の有権者の視点」を強調する意見もありますが、選挙困難事態を理由に全国で選挙を実施せず、議員任期を延長すれば、こういった被災地以外の大多数の有権者が、本来行使できる選挙権を行使できなくなります。
議員任期延長論の中で、この点について十分な比較衡量はなされているのか、私は疑問です。
【選挙の一体性】
中谷筆頭幹事他何名かの委員からあった「繰延投票では選挙の一体性が損なわれる」との意見について、確かに、選挙は期日、地域いずれも一体的に実施されることが望ましい。しかし、選挙の一体性は、国民の基本的人権である参政権、選挙権を制限してまでも優先される憲法上の要請なのでしょうか。この点についても、未だ明確な説明はありません。
【緊急事態における国会機能維持のあるべき議論】
緊急事態における国会機能の維持は、国会議員の任期中、任期切れに関わらない課題ですが、可能性や優先順位から言えば、任期中の対応こそまず議論すべきです。しかし、政府でも国会でもこの種の議論は皆無です。にもかかわらず、任期切れの場合のみを殊更に取り上げて議論していることに、私は強い違和感を覚えています。
議員任期の延長は、裏金問題で地に落ちた今の政治状況に鑑みれば、「緊急事態にかこつけた政治家の延命」としか国民には受け取られないでしょう。
立民ではもう1人、野党側筆頭幹事である逢坂誠二氏も粘り腰を発揮して(とは書いたものの、実際に与党側の中谷元氏とどのようなやりとりが行われているのかはわかりませんが)これまで起草委員会の設置を許していません。ただ、他に9人いる立憲民主党の憲法審メンバーは、議員任期延長の改憲問題についてほとんど意見表明を行っていません。もともと立民は「挙党一致」感の乏しい党派で、そこには悪い面ばかりでなくいい点もあるのでしょうが、もう少し団結した対応を取ってほしいものだと思います。
そして私が立民以上にもどかしく感じるのが、共産党・赤嶺政賢委員です。沖縄県選出の氏は、歴史的な視野に立って沖縄や日米軍事同盟の問題を取り上げ、論理的であるだけでなく感動的な議論を展開していて、大いに敬意を表するところですが、改憲勢力の議員任期延長改憲論のゴリ押しにはこれまでのところだんまりを決め込んでいます。くだらない改憲議論には加わらないという考え方もあるのかもしれませんが、はたしてそれでいいのでしょうか。

鍵を握る公明党の党内調整の行方
この日の衆院憲法審では日本維新の会の岩谷良平、小野泰輔の両委員から、北側一雄幹事(公明)に対して、参院側の公明党との意見の不一致を突く質問がありましたが、北側氏は「参院側からすると緊急集会の権限が制約されるのではないかという気持ちがある。選挙困難事態が乱用されることも懸念している。そういう中でいろいろな意見があるのはむしろ当たり前だ」と開き直ったような言い訳をした上で、「私はできると思っているけれど、党内でしっかり合意が形成できるよう努めていきたい」と答えるしかありませんでした。
参院では公明党抜きでは改憲派の勢力は3分の2に達しませんので、いまのところ改憲勢力は衆院のみで見切り発車して暴走しようていると言っても過言ではありません。
ということで、改憲情勢には大きな変化は見られませんが、衆院に限っては緊急事態下の選挙困難事態における議員任期延長を可能とする改憲の動きがじわじわと進んでいるというところでしょうか。以下、前回と同じことを書きますが、私たちはできることをやり続けるしかありません。改憲は絶対に阻止しなければならないし、それは可能だという確信を持ってこれからも声を上げ続けていきましょう。
この日の傍聴者数は前回より少なく30人強、記者も少なく3、4人でした。
委員の出席状況は、自民党の欠席者は3~4人くらいの時間が長く、他の会派では、立民の奥野総一郎氏と公明の河西宏一氏が長い時間席を外していました。(銀)