難航した憲法審の開催
「難航」というのは改憲派からの見方だと思いますが、他にわかりやすい言葉を思いつかなかったので、ご容赦ください。
4月11日(木)10時から11時30分頃まで、今国会2回目の衆議院憲法審査会が開催されました。初回の4月4日は、能登半島地震の犠牲者に黙祷し、森英介会長(自民)が欠員となっていた立憲民主党の幹事2名を指名しただけで2分弱で終了しましたので、今回が今通常国会初の実質的な審議の機会となり、自由討議が行われました。

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昨年は3月2日、一昨年は2月10日に審議がスタートしていましたから、改憲勢力の面々にとってはさぞかしもどかしかったことでしょうが、これは自民党の委員に「裏金議員」が5人もいたことから、与野党の筆頭幹事(自民・中谷元氏と立民・逢坂誠二氏)間の協議の中で、裏金の金額や使途、処分される議員の憲法審での扱いなどについて自民党側から明確な説明がない限り審議には応じられないとして、逢坂氏が開催を拒否し続けてきたためです。3000万円というわけのわからない線引きで立件されなかったとはいえ、違法行為に手を染めた裏金議員が憲法審の議論に参加するなど許されないという理屈です。

この間、3月17日の自民党大会で岸田文雄首相が「党是である憲法改正について、総裁任期中に実現するとの思いの下、今年は、条文の具体化を進め、党派を超えた議論を加速してまいります」と発言したり、3月19日には森会長が職権で21日に憲法審の幹事懇談会を開催することを決定したりと、逢坂氏が反発し態度を硬化させる材料を自民党が提供し続けたこともあって調整は進まず、21日の幹事懇も取りやめとなりました。自民党が4月4日に裏金議員の処分を決定し、処分された3人(下村博文、衛藤征士郎、大塚拓の3氏)を憲法審の委員から外したことをもって、逢坂氏も「一歩前進と受け止める」として矛を収め、ようやく今回の開催に至ったものです。

今回、逢坂氏が開催に合意したのは、改憲勢力の側が圧倒的な委員数を確保している(自民・維新・公明・国民・有志39人対立民・共産11人、幹事会は8人対2人)ことを考えればやむを得なかったのでしょうが、500万円という不可解な線引きで自民党の処分を免れた稲田朋美、越智隆雄の両氏は憲法審メンバーに留まっていますし、裏金問題の実態は全く明らかになっていません。この問題は今後も尾を引く可能性があり、立民・共産の奮闘に期待したいと思います。

毎年、通常国会初回の憲法審には比較的多くのメディアが取材にやってきます。今回も開会時には10人強の記者とカメラマン6、7人が詰めかけていました。カメラは少しずつ減って途中0人になる時間帯もありましたが、記者は最後まで8人ほど残っていました。テレビカメラも1社(テレビ東京でした)が持ち込んでいましたが、すぐに退室しました。

ということで、全国紙、通信社、テレビのキー局のほぼ全社がこの日の憲法審の模様を伝えていましたが、それらの中から『東京新聞』の記事を転載させていただきます。多くのメディアが「衆院憲法審 自民“国会機能維持の条文起草作業を”、立憲“不見識”」(『朝日』)、「改憲案の起草委設置を自民が提案 立民反発 募る維新や国民民主の不満」(『産経』)などと当たり障りのない見出しを付けて両論併記的な記事を載せていたのに対して、『東京』は下掲の見出しで社としての立場を鮮明に打ち出しています。

「裏金」解明は放置のまま「改憲」具体化に走る岸田政権 衆院憲法審査会では「資格ない」「不見識」と批判
『東京新聞TOKYO Web』2024年4月12日
衆院憲法審査会は11日、今国会で初の実質的な議論となる自由討議を行った。自民党は、岸田文雄首相(党総裁)が約束した9月の総裁任期までの改憲実現に向け、緊急事態条項の条文案を作成する起草委員会の創設を提案。野党第1党の立憲民主党は、自民派閥の政治資金パーティー裏金事件の全容が明らかになっていないとして「自浄作用のない自民が改憲を論ずることに正当性があるのか」とけん制し、首相の主張通りに議論を進めることに慎重な姿勢を示した。(三輪喜人)
◆「今国会で節目を」起草委員会設置を提案
自民の中谷元氏は憲法審で「緊急時の国会機能の維持については、いつでも条文起草作業に入れるところまで議論が進んでいる」と強調。改憲原案の起草委の設置を各党派に呼びかけた上で、定例日の毎週木曜以外の憲法審開催も持ちかけて「今国会中に一定の『節目』が迎えられるよう努力する」と意気込んだ。
日本維新の会の馬場伸幸代表は自民の提案に同調して「首相は9月の総裁任期までの改憲実現の前提となる国会発議をした上で衆院解散すべきだ」と指摘。維新に加え、国民民主、衆院会派「有志の会」は約1年前、共同で条文案をまとめており、改憲に前向きな立場だ。
◆自民党大会で「総裁任期中に実現」強調
首相は保守層の支持を得るため、事あるごとに改憲への意欲を見せる。3月の党大会では「総裁任期中に実現するとの思いで条文案の具体化を進め、党派を超えた議論を加速する」と明言した。そんな首相に対して、国民の玉木雄一郎代表は審査会で「威勢のいいかけ声だけは続けている。パフォーマンスにしか見えない」とやゆした。
 憲法審査会
立民などは、裏金事件で多くの議員が法律違反をしていた自民が、改憲論議を急ピッチで進めることを疑問視する。
◆改憲の主体は「縛られる権力側ではない」
逢坂誠二氏は「憲法も社会の変化に応じて不断の見直しを行うことが求められている」としつつ、改憲の主体は憲法に縛られる権力側ではなく、主権者である国民だと強調。憲法の順守義務を負う首相が期限を区切った改憲に意欲を示すことを「不見識だ」と訴えた。
共産の赤嶺政賢氏も「長年、国民を欺き、議会制民主主義の土台を踏みにじってきた自民に改憲を語る資格はない」と厳しい言葉を浴びせた。
◆参院では裏金議員3人を差し替え
参院でも裏金づくりをしていた憲法審の幹事3人が交代する事態に発展している。与党筆頭幹事を務める自民の佐藤正久氏は10日の憲法審(引用者注:4日の衆院憲法審と同様に、能登半島地震の犠牲者に黙祷し、中曽根弘文会長(自民)が欠員となっていた自民党の幹事3名を指名し、2分弱で終了しました)後、記者団に「今回の始まりは異常かつ異例だ。自民側に責任がある」と話した。
* 引用、ここまで。

以下、この日の審査会で気になった発言をいくつか紹介します。

維新・馬場伸幸氏の暴論
まず、トンデモ発言の常連、馬場伸幸幹事(維新)が展開した驚くべき主張を記録しておきます。

「西修駒澤大学名誉教授の調べによると、2011年(馬場氏は元号を用いましたがここでは西暦で記載します)10月に憲法審が始動してから2022年までの約11年間に、衆院憲法審の運営費は総額約19億円、参院憲法審のそれは約14億円でトータルで33億円超に上った。これほどの国税を使ってどれだけの成果があったのか。国費の無駄遣い以外のなにものでもない。」
なんですか、これは。憲法審の「成果」とは何かというそもそも論は置いておくとしても、たとえば大阪都構想の住民投票に維新がつぎ込んできた費用はいくらになるのか、大阪万博に関連して最終的にどれだけの損失が生じるのか、これらこそ正真正銘の無駄遣いではないでしょうか。維新の会の代表がなぜこんなことを言えるのか、神経を疑います。

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氏の暴論はこれだけではありません。こんな発言もありました。
「憲法は主権があってこそ制定・改正されるべきものだが、現行憲法は戦後GHQ側が急ごしらえした草案を日本政府に押しつけたもので、帝国議会での修正もGHQの許可が必要だった。今こそ主権喪失の下で作られた現憲法の諸問題を乗り越えて憲法を国民の手に取り戻すときだ。」
それこそ2011年10月に憲法審が始動してから12年半も経過した今になってこんな議論を聞かされるなんて、論評のしようがありません。

自民党のターゲットはどこにあるのか?
さて、馬場氏の主張は笑って聞き流してもいいかもしれませんが(事実、傍聴席では氏の発言中、しばしば失笑が起こりました)、そうはいかないのは自民党の委員たちの発言です。

中谷氏は上掲の『東京新聞』で紹介されている内容のほか、自衛隊の明記、教育の充実、デジタル時代の新しい人権について議論を進めたいと述べていましたが、「憲法に自衛隊を明記することは多くの会派でほぼ合意が形成されつつある」との不正確な認識を(おそらくは不正確であることを自覚していながら)開陳するなど、どこを一番強調したいかは明らかでした。

また、小林鷹之幹事は「現在、緊急事態時の国会機能の維持について議論が進展しているが、さらに一歩進んで緊急政令の議論も深めていくべきと考える」との見解を表明しました。氏はその根拠として昨年9月に国立国会図書館の調査及び立法考査局が発表した『諸外国の憲法における緊急事態条項』の内容と明治憲法下での緊急勅令制度を挙げましたが、前者については自身の主張に都合のいい部分をつまみ食いして話しているように感じました。
後者については「関東大震災の際に発せられた緊急勅令は16件あった。被災者の金銭債務の支払い延期(モラトリアム)や生活必需品の買い占めや売り惜しみへの対応、府県会議員の任期延長などで、緊急事態対応として必要不可欠のものだった。これらの措置は現在の災害対策基本法などの緊急政令規定に概ね取り込まれていて、緊急政令の必要性は歴史的に証明されていると思う」と述べましたが、災対法などに緊急政令が規定されているなら改憲の必要はなく、仮に不備や不足があるなら法律を改正すればいいのですから、何が言いたいのかよくわからない発言でした。

ただ、自民党としては、憲法に緊急事態条項を設けるなら、議員任期延長だけでなく緊急政令をどうしても盛り込みたいという思いは痛いほど伝わってきました。

警戒すべき公明党の立ち回り方
公明党の委員たちの発言にも注意すべき部分がありました。

北側一雄幹事は、衆院憲法審では2012年、13年の2年間で39回の実質審議が行われ、うち33回で議員任期の延長問題が議論となったと指摘し、すでに論点は出つくしていると主張しましたが、そのことと改憲について合意に近づいているかどうかは別問題ですから、こんなことを言われても「だから何なの?」というほかありません。

これに関連して、大口義徳氏は「私たちの議論の筋道を適切に表現すれば、緊急事態時に議員の任期を延長するのではなく、選挙期日を延期するということだ」と述べました。たとえば東日本大震災の後には自治体の首長や議会の選挙を延期して首長、議員の任期を延長した事例がありますから、この発言にはそれなりの説得力があります。しかし、どんな説明をしようと緊急事態を名目にして私たちが国会議員を選ぶ権利を制約するという本質は変わりません。詭弁に丸め込まれないよう警戒すべきだと感じました。

ただ、議員任期延長の改憲について、公明党の方針はまだ固まっていないようです。北側氏は、「この問題に関しては参議院の緊急集会の権能をどう考えるかが大きな論点になるので、参院憲法審でしっかり議論していただかなければならないし、わが党にもいろいろな意見があるが、私は合意できると考えている」と言葉を濁していました。

傾聴すべき主張は言いっぱなし、聞きっぱなし
もちろん傾聴に値する議論がなかったわけではありません。

赤嶺政賢氏(共産)は、自民党の裏金事件をめぐって、「今国会が果たすべき使命は、改憲のための議論を進めることではなく、関係者を証人喚問し真相を解明することだ」と指摘するとともに、「岸田政権が憲法に基づく平和国家の理念を次々に破壊しようとしている」として、うるま市での陸上自衛隊の新たな訓練場整備(地元の強固な反対で断念に追い込まれました)、殺傷能力のあるライセンス兵器や次期戦闘機の輸出を容認した閣議決定、日米首脳会談における両国の指揮統制の連携強化、AUKUSとの先端軍事技術での協力の検討などの合意事項を厳しく批判し、「この憲法蹂躙の政治をただす議論こそ私たち国会議員に求められている」と述べました。

また、近藤昭一氏(立民)は、今国会に提出されている地方自治法改正案について、「憲法審の目的のうち“日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制について広範かつ総合的に調査を行う”ことに関連した問題と考える」として発言しました。『東京新聞』に詳しく取り上げられていましたので、以下、転載させていただきます。
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国と自治体が上下関係…「自治権の保障が壊れる」 政府が目指す「地方自治法改正」、衆院憲法審で異論
『東京新聞TOKYO Web』2024年4月11日
立憲民主党の近藤昭一衆院議員は11日、衆院憲法審査会の自由討議で、政府が今国会成立を目指す地方自治法改正案への懸念を示した。「強大な政府の権限をより強大にし、政府と地方自治体の関係に上下関係を持ち込むことになるのではないか」と述べた。
「災害が起きていなくても適用される」
改正案は、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生した場合や、発生する恐れがある場合、国が地方自治体に生命保護に必要な措置の実施を指示できるようにする内容。近藤氏は「適用される事由は災害や感染症に限らず無制限で、恣意的に運用される可能性が大きい」と指摘した上で、「現実の被害が生じていなくても適用される」と危惧した。
さらに「改正案は地方自治体に対する国の指示権を無制限に認めるもので、憲法92条の『地方自治権の保障』を壊しかねない重大な問題をはらんでいる」と批判した。(山口哲人)
* 引用、ここまで。

しかし、残念ながらこうしたまともな意見は聞き流され、議論が広がらないのが憲法審の実情です。

起草委員会は始動するのか?
今国会の衆院憲法審の焦点は、今後、改憲条文案を検討・審議する「起草委員会」が設置されるかどうかです。11日の憲法審では、中谷氏と逢坂氏の間でこんなやりとりがありました。

中谷元氏:幹事懇談会(10名の幹事と幹事を出していない会派から各1名が参加する協議の場)で緊急事態における国会機能の維持を中心とした緊急事態条項について起草委員会を作り、条文の作成作業が進められるよう、各会派に提案する。

逢坂氏:憲法審は基本的に筆頭間で協議して進めていくということなので、あらためて中谷幹事からご提案いただいたうえでとりあえずの整理をさせていただきたい。

起草委員会が設置されれば、条文案の議論が(一気にか少しずつかはわかりませんが)進んでいくことは間違いありません。しかもメディアや私たちの目に触れないところで事態が進行することになります。そんなことは絶対に許されません。

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希望はあります。岸田政権も自民党も低支持率にあえいでおり、解散総選挙も近いでしょう。また、改憲派にとって参院憲法審での合意形成のハードルはけっして低いものではありません。そして、最終的に鍵を握るのはやはり国民の世論です。
4月10日の日米首脳会談で、対中国の戦争体制の強化=米軍と自衛隊が一体となって戦争をするための新たな「指揮統制」が確認されました。岸田政権は戦争国家化へと舵を切っており、今国会でも経済安保情報保護法、地方自治法改正など戦争態勢を支える悪法を次々と強行しようとしています。ただし、国民を戦争に総動員するためには9条の明文改憲が不可欠であり、だからこそ改憲勢力は憲法審査会を設置し、定例日開催を常態化し、国民投票の早期実現を目指しているのです。そのことを広く訴え、いまこそ改憲絶対反対の声を高めていきましょう。

この日の傍聴者は45人くらいでした。自民党以外の委員は全員が出席しており、自民の欠席者も2、3人ほどで、いつもと違って議場を出たり入ったりする委員は少なかったです。
今国会の会期は6月23日まで、憲法審の定例日は10回残されており、今後も傍聴を続けていきたいと思います。(銀)