11月15日(水)13時から、今臨時国会初の参議院憲法審査会が開催されました。
今回、参院憲法審のホームページに事前に掲載された「開会情報」を見て、私は「また合区をテーマにするの?」と少し驚きました。と言うのも、合区についてはこれまで何度も審議が行われてきたからです。この2年間では、去年の通常国会で2回(うち1回は学識経験者を参考人に招いての質疑)、臨時国会で1回、今年の通常国会で3回(うち1回は合区の対象となっている4県の知事・副知事を参考人に招いての質疑、1回は参議院の緊急集会とあわせた自由討議)の審査会が合区問題をテーマとして開かれました。
案の定、この日の審議は低調というほかなく、予定されていた終了時刻15時の30分近く前には散会となるというありさまで、開く意味があったのかと感じざるを得ませんでした。
そもそも論になりますが、合区や1票の較差は憲法審査会で議論すべき問題ではないと思います。昨年5月18日の参院憲法審での福島みずほ氏(社民)の下記の発言に私は全面的に賛同します。
「選挙制度がどうあるべきかは憲法ではなく公職選挙法などのテーマであると考えている。合区をなぜ導入するのかなかなかコンセンサスが得られない中で、自民党は2015年に合区を導入し、2016年に参議院選挙が行われた。そして2018年、3年も経たないうちに合区解消のための憲法改正という議論が自民党の中から出てきたことは全く理解できない。3年で180度変わるものを憲法に書いていいのか。憲法改正の問題ではなく、憲法審査会で議論すべき問題ではない。」

辻元清美氏が野党側筆頭幹事に就任
この日の審査会では、冒頭で幹事の補欠選任が行われ、立憲民主党の辻元清美氏が新たに選任され、野党側の筆頭幹事に就きました。また、小西洋之氏(立民)が幹事に復帰しました。
以下にこのことを報じた『産経ニュース』の記事を転載させていただきますが、前任の杉尾秀哉氏もしっかりと「ブレーキ役」を果たしていましたので、辻元氏の就任で「停滞感」が深まったなどということはないと指摘しておきたいと思います。
漂う停滞感、払拭見通せず 参院憲法審 立民「ブレーキ役」要職に
『産経ニュース』2023年11月15日
(https://www.sankei.com/article/20231115-5R34TXVBNZPDVHUFY2EQSTEAFI/)
与野党は今国会初となる15日の参院憲法審査会で、人口の少ない隣接県を統合する参院選の合区制度をテーマに議論した。参院憲法審は、定例開催が定着した衆院側に比べて改憲論議の遅れが指摘されており、挽回できるかが焦点となる。もっとも今国会は日程が窮屈なことに加え、立憲民主党が憲法改正に慎重な議員を参院憲法審の要職に送り込み、停滞感も漂う。
「行政府の長たる首相は現行憲法を順守する立場にあり、衆参両院の本会議で条文案の具体化を促すような発言をすることは、いくら何でも越権行為と言わざるを得ない」
立民の辻元清美氏はこの日の参院憲法審で、10月の所信表明演説で改憲に意欲を示した岸田文雄首相(自民党総裁)を批判した。また、立民の小西洋之氏も「わが会派は(参院の)緊急集会の曲解を論拠とする国会議員の任期延長改憲には明確に反対する」と強調。衆院側で強まる緊急事態条項新設論を牽制した。
辻元氏は参院憲法審の日程などを与党筆頭幹事と調整する野党筆頭幹事に就任した。小西氏は先の通常国会で、週1回の開催が定着した衆院憲法審のメンバーを「サル」などに例えて野党筆頭幹事を辞したが、幹事に返り咲いた。
自民は改憲論議の進展を期待するものの、立民が容易に応じないことは「憲法改正のブレーキ役」(自民関係者)との声もある両氏の要職起用で明らかだ。
自民は改憲論議の進展を期待するものの、立民が容易に応じないことは「憲法改正のブレーキ役」(自民関係者)との声もある両氏の要職起用で明らかだ。
先の通常国会で衆院憲法審が実質討議を15回積み重ねたのに対し、参院側は7回にとどまった。改憲派の力が比較的弱いことに加え、弾劾裁判の開催日は憲法審を開かないという慣例にも阻まれた。実際、次回の憲法審開催は弾劾裁判を横目に決まっていない。
熱意も伝わってこない。15日の参院憲法審は所要2時間を予定していたが、1時間半で終了。立民関係者は「みんな興味がないのだろう。(中曽根弘文審査会長に)つい『終わるの早すぎませんか』と言ってしまった」と明かした。自民関係者は記者団に肩をもむしぐさをしつつ「議論をしたくない人をほぐしていかないと」と語ったが、沈滞ムードの払拭は簡単ではなさそうだ。(内藤慎二、永井大輔、児玉佳子)
*引用、ここまで。
傍聴人をないがしろにし続ける参院憲法審
11月2日(木)に開かれた今国会初の衆院の憲法審査会は、幹事の補欠選任を行っただけで1分足らずで閉会しましたが、参院では補欠選任に続いて合区をテーマとした審議が行われました。
まず、川崎政司参議院法制局長が、10月18日に下された「令和4年通常選挙定数較差訴訟」の最高裁判決を中心に、参議院の選挙制度の変化と1票の較差問題に対する最高裁判決の変遷等について説明を行いました。
以下、最高裁判決の内容と論点をわかりやすく報じた『東京新聞TOKYO Web』の記事を転載させていただきます。
*川崎氏は法制局がまとめた資料(おそらく10数ページのもの)に基づき説明を行いましたが、衆議院と違って傍聴者にはそれが配布されず、私たちは15分近くもただでさえわかりにくい選挙法の問題に関する説明を何の手がかりもなく拝聴させられることになりました。
また、衆院審査会で配布される資料はすぐホームページに掲載されますが、参院審査会ではそれも行われていません。11月9日の衆院憲法審では418ページにも及ぶ『衆議院欧州各国憲法及び国民投票制度調査団調査報告書』が配布され、ホームページにも掲載されていますので、今回、参院のひどい対応が余計に際立つことになりました。


審査会の終了後、何人かの傍聴者が抗議の声を上げましたが、この傍聴レポートにも参議院は傍聴者、有権者をないがしろにするな!と記しておきたいと思います。
1票の格差、最大3.03倍でも「合憲」 2022年夏の参院選で最高裁「拡大傾向にあると言えない」
『東京新聞TOKYO Web』2023年10月18日(https://www.tokyo-np.co.jp/article/284491)
「1票の格差」が最大3.03倍だった昨年7月の参院選は投票価値の平等を定めた憲法に違反するとして、二つの弁護士グループが選挙無効を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁大法廷(裁判長・戸倉三郎長官)は18日、「最大格差が拡大傾向にあると言えない」として「合憲」と判断し、選挙無効の請求を退けた。参院選を合憲と判断するのは2016年選挙から3回連続。
◆11人が「合憲」…「違憲」1人、「違憲状態」2人
15人の裁判官のうち11人の多数意見。4人の個別意見があり、法学者出身の宇賀克也裁判官が「違憲」、検察官出身の三浦守裁判官と裁判官出身の尾島明裁判官の2人が「違憲状態」、弁護士出身の草野耕一裁判官は合憲としつつ独自意見を述べた。
焦点は、最大格差3.00倍だった19年参院選後に新たな格差是正策をとらず、わずかだが格差拡大につながった国会の姿勢をどう評価するかだった。
大法廷判決は「格差是正のための法改正の見通しが立っておらず、具体的な検討が進展しているとも言い難い」と停滞状態と認めた。しかし、15年公選法改正で「鳥取・島根」「徳島・高知」を一つの選挙区にする「合区」が16年選挙から導入され、「数十年にわたり5倍前後で推移していた最大格差が3倍程度に縮小した。合区を維持し、最大格差が拡大傾向にあると言えない」と指摘した。
さらなる是正措置については、合区対象の4県で「投票率の低下や無効票投票率の上昇が続き、有権者が都道府県ごとに国会議員を選出する考えが強いことがうかがえる」と合区の問題点に言及し、「是正の取り組みにはさらに議論を積み重ね、広く国民の理解も得る必要がある」と、「国会が新たな具体的方策を講じなかったことを考慮しても、投票価値の著しい不平等状態だったとは言えない」と結論付けた。
1票の不平等問題は、議員1人当たりの有権者数が選挙区ごとに異なるため投票価値に差が生じる問題。二つの弁護士グループは全国14の高裁・高裁支部に16件の訴訟を起こし、「違憲」が1件、「違憲状態」が8件、「合憲」は7件だった。(加藤益丈)
*引用、ここまで。
これまでの議論が繰り返された今回の憲法審
過去に何回も議論されたテーマであったこと、10月18日の最高裁判決が昨年の参議院選挙を「合憲」としたこと等から必然的にそうなったわけですが、今回の参院憲法審では新たな論点や見解はほとんど提起されませんでした。
以下、合区や1票の較差の問題について各党が表明した意見を要約して報じた『NHK NEWS WEB』の記事を転載させていただきます。
参院憲法審査会 “一票の格差”最高裁判決受け 与野党意見交換
『NHK NEWS WEB』2023年11月15日
(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231115/k10014259021000.html)
参議院憲法審査会が今の国会で初めて開かれ、去年の参議院選挙のいわゆる一票の格差をめぐる最高裁判所の判決を受けて、与野党が選挙制度のあり方について意見を交わしました。
15日の参議院憲法審査会では、去年の参議院選挙のいわゆる一票の格差について最高裁判所大法廷が10月に、憲法に違反しないという判決を言い渡したことを受け、参議院法制局が判決内容などを説明しました。
このあと各党が意見を交わし、
▽ 自民党と国民民主党は、参議院選挙で導入されている選挙区の「合区」を解消し、各都道府県から最低1人は議員を選べるようにすべきだと主張しました。
▽ 立憲民主党は、「合区」について議論する際は、該当地域など地方の声だけでなく、都市部も含めた国民的な議論が必要だと訴えました。
▽ 公明党、日本維新の会、共産党は、1票の格差を是正するため、都道府県を基本とする今の選挙区制度から全国を複数のブロックに分けた制度に改めるべきだと主張しました。
▽ れいわ新選組は、1票の格差を是正する方策として、議員定数を増やすことを検討すべきだと訴えました。
*引用、ここまで。
唯一、新たな論点を提示したのは石川大我氏(立民)で、次のような意見を述べました。
「10月25日に、性同一性障害特例法の障害当事者が性別を変更するためには生殖能力をなくす手術を受けなければならないという規定について、最高裁の違憲判決が出た。会長には、裁判で違憲が確定したこうした事案について本審査会で積極的に取り上げてくださるようお願いする。」
今回も山添拓氏(共産)や山本太郎氏(れいわ)が指摘したように、合区や1票の較差は憲法審査会で検討すべきテーマではなく、憲法審では最高裁で違憲とされた問題こそ取り上げてほしいという石川氏の要求には説得力があるような気がします。
今回も委員の出席率は高かったです。傍聴者は30人弱で、記者は3~5人が取材に当たっていました。
(銀)