5月17日(水)13時から14時20分頃まで、今国会5度目の参議院憲法審査会が行われました。4月5日の第1回以降、4月19日と休日の5月3日を除き、ほぼ毎週の開催が続いています。今回の議題は参議院議員選挙区の合区問題で、このテーマでは今国会2度目の審議となりました。4月26日には、合区の対象となっている4県の知事、副知事を招いて参考人質疑が行われましたが、今回は川崎政司参院法制局長が出席し、委員からの質問に答えていました。
参議院の憲法審査会では、衆議院とは大違いで早めに傍聴席に入ることができますので、この日も10分以上前から座席を確保していたところ、いつもなら開会予定時刻の13時ギリギリに議場に姿を現す幹事の面々が、5分ほど前に入場してきました。審査会の運営について話し合う12時50分開始の幹事会が5分以内であっさり終了したからですが、私の記憶する限りこんなことは初めてでした。
参議院の憲法審査会では、衆議院とは大違いで早めに傍聴席に入ることができますので、この日も10分以上前から座席を確保していたところ、いつもなら開会予定時刻の13時ギリギリに議場に姿を現す幹事の面々が、5分ほど前に入場してきました。審査会の運営について話し合う12時50分開始の幹事会が5分以内であっさり終了したからですが、私の記憶する限りこんなことは初めてでした。
また、審査会の冒頭、中曽根弘文会長(自民)が「本日は、委員間の意見交換を1時間30分を目途に行います」と述べましたが、実際には10分も短い約1時間20分で閉会となりました。
これらのこと、つまり幹事会と審査会の早期終了は、現時点では参議院憲法審査会でどうしても議論しなければならないテーマが、改憲勢力の側にも見いだせていないことを示しているのではないでしょうか。この日各委員から表明された意見を聞いていても新たな論点はほとんどなく(これはもちろん私の主観ですが)、いったい何のために開かれたのかと感じざるを得ませんでした。あえて言えば、審議会を毎週のように開催すること自体が目的だったのでしょう。
以下、この日の審議の概要を報じた『東京新聞』のウェブサイトに掲載された記事を転載させていただきます。
「合区解消」は改憲の理由になるのか? 自民は検討加速を訴え、立民は法改正で対応可能と主張
参院憲法審【詳報あり】
『東京新聞TOKYO Web』2023年5月17日
参院憲法審査会が17日に開かれ、参院選で隣接県を一つの選挙区にする「合区」をテーマに討議した。自民党は改憲による合区解消を求めつつ、2025年の参院選に間に合わせるため、当面は法改正で実現すべきだとの見解を示した。立憲民主党は法改正で対応できるとの認識を繰り返した。
合区は一票の格差是正を目的に導入され、2016年参院選から「鳥取・島根」と「徳島・高知」が設けられた。だが、地方の声が国政に届きにくくなるとして、都道府県単位での議員選出を求める声が根強い。
自民党の片山さつき氏は「都道府県という境目を取り払うのは、中長期的に見て民主主義の衰退なのではないか」と述べ、合区解消に向けた検討の加速を訴えた。党が掲げる改憲による実現のほか、法改正での対応もあり得るとした。
立民の杉尾秀哉氏は、改憲による合区解消について「投票価値の平等という憲法14条に基づく人権を犠牲にすることを考えれば、正当性の根拠が不十分と言わざるを得ない」と指摘。参院独自の役割や機能を定めることなどにより、国会法と公選法の改正で都道府県単位の議員選出は可能になると主張した。
日本維新の会は合区に関し、選挙制度の見直しでの対応を求めた。共産党とれいわ新選組は合区解消を改憲の理由とすることに反対した。(佐藤裕介)
◇
17日の参院憲法審査会での主な発言の要旨は次の通り。
【各会派代表の意見】
片山さつき氏(自民)
【各会派代表の意見】
片山さつき氏(自民)
現行憲法では都道府県、市町村の位置付けは明確になっていない。条文にしっかり位置付けるべきだ。投票価値の平等という観点で機械的に都道府県という境目を取り払うのは、中長期的に見て民主主義の衰退なのではないかと懸念する。抜本的には憲法改正して合区を解消してはどうかと考えているが、法改正による合区解消についても議論を進めるのはあり得る。
杉尾秀哉氏(立憲民主)
都道府県からの選出が投票価値の平等という憲法14条に基づく人権を犠牲にすることを考えれば、正当性の根拠が不十分。参院を「地方の府」とすべきとの主張も、参院が憲法43条が規定する全国民の代表であることと矛盾する。憲法改正による合区解消も、別の憲法上の矛盾を生じさせる。合区の廃止は国会法、公職選挙法の改正で解決する方策がある。
都道府県からの選出が投票価値の平等という憲法14条に基づく人権を犠牲にすることを考えれば、正当性の根拠が不十分。参院を「地方の府」とすべきとの主張も、参院が憲法43条が規定する全国民の代表であることと矛盾する。憲法改正による合区解消も、別の憲法上の矛盾を生じさせる。合区の廃止は国会法、公職選挙法の改正で解決する方策がある。
佐々木さやか氏(公明)
公明党は全国を11のブロック単位とする個人名投票による大選挙区制を提唱している。投票価値の平等と地域代表的性格の調和の観点に立つものだ。一票の価値の平等が重要な憲法上の要請となっており、都道府県を参院の選挙区の単位としなければならないという憲法上の要請はない。現行憲法下で参院の選挙区を都道府県単位とし、合区を解消することは難しい。
公明党は全国を11のブロック単位とする個人名投票による大選挙区制を提唱している。投票価値の平等と地域代表的性格の調和の観点に立つものだ。一票の価値の平等が重要な憲法上の要請となっており、都道府県を参院の選挙区の単位としなければならないという憲法上の要請はない。現行憲法下で参院の選挙区を都道府県単位とし、合区を解消することは難しい。
東徹氏(維新)
合区解消は維新の考え方にはない。憲法審で合区解消(の議論)はやめてほしい。憲法改正ではなく、選挙制度をどうするかという話だ。どうしても参院選で都道府県選挙区を維持し、毎回1人以上が当選できるようにするのであれば、比例区の定数を大幅に減らし、都道府県選挙区の定数に回すことで、議員定数を増やさなくても選挙区の一票の格差を抑えることができる。
合区解消は維新の考え方にはない。憲法審で合区解消(の議論)はやめてほしい。憲法改正ではなく、選挙制度をどうするかという話だ。どうしても参院選で都道府県選挙区を維持し、毎回1人以上が当選できるようにするのであれば、比例区の定数を大幅に減らし、都道府県選挙区の定数に回すことで、議員定数を増やさなくても選挙区の一票の格差を抑えることができる。
大塚耕平氏(国民民主)
わが党は、参院における法の下の平等とは単純な一票の平等ではなく、自身の居住する都道府県から少なくとも1人は代表を選出できる権利であることを立法府の意思として明確に主張すべきだと、従前から申し上げている。参院に関しては、裁判所が単純な一票の格差で判決を下すことのないように求めるという意思すら、明確に立法府が述べるべきだ。
わが党は、参院における法の下の平等とは単純な一票の平等ではなく、自身の居住する都道府県から少なくとも1人は代表を選出できる権利であることを立法府の意思として明確に主張すべきだと、従前から申し上げている。参院に関しては、裁判所が単純な一票の格差で判決を下すことのないように求めるという意思すら、明確に立法府が述べるべきだ。
山添拓氏(共産)
民意は多様で、一つの県でも一つの意見ということはあり得ない。小選挙区制では死票が多く、民意が反映されにくくなる。合区されれば一層深刻で、地域の声が国政により届かなくなる。共産党は投票価値の平等を実現するとともに、多様な民意が正確に議席に反映する制度とするため、比例代表を中心とする全国10ブロックの非拘束名簿式の選挙制度を提案してきた。
民意は多様で、一つの県でも一つの意見ということはあり得ない。小選挙区制では死票が多く、民意が反映されにくくなる。合区されれば一層深刻で、地域の声が国政により届かなくなる。共産党は投票価値の平等を実現するとともに、多様な民意が正確に議席に反映する制度とするため、比例代表を中心とする全国10ブロックの非拘束名簿式の選挙制度を提案してきた。
山本太郎氏(れいわ)
合区によって生み出された弊害は、事前に警鐘が鳴らされた通りになっている。一度合区にしてしまえば、当事者たちから「憲法改正が必要だ」と声が上がらざるを得ない。憲法改正につなげる動きの一つとして仕込んだのではないかと推察する。合区が必要だと先頭で旗を振ってきた者が、返す刀で「合区の解消を憲法改正で」とは話がおかしすぎる。迷惑でしかない。
合区によって生み出された弊害は、事前に警鐘が鳴らされた通りになっている。一度合区にしてしまえば、当事者たちから「憲法改正が必要だ」と声が上がらざるを得ない。憲法改正につなげる動きの一つとして仕込んだのではないかと推察する。合区が必要だと先頭で旗を振ってきた者が、返す刀で「合区の解消を憲法改正で」とは話がおかしすぎる。迷惑でしかない。
【各委員の発言】
山谷えり子氏(自民)
最高裁は合区解消のために国会がどのような努力をしたかで判断するようになっている。憲法14条の平等論の議論であるはずなのに、立法の不作為の違憲性の議論になっている。
最高裁は合区解消のために国会がどのような努力をしたかで判断するようになっている。憲法14条の平等論の議論であるはずなのに、立法の不作為の違憲性の議論になっている。
福島瑞穂氏(社民)
自民党は合区を提案しながら、合区解消のための憲法改正を言っていることが理解できない。100年、200年単位で憲法を考えるべきで、選挙制度改革は公職選挙法改正で行うべきだ。
自民党は合区を提案しながら、合区解消のための憲法改正を言っていることが理解できない。100年、200年単位で憲法を考えるべきで、選挙制度改革は公職選挙法改正で行うべきだ。
中西祐介氏(自民)
2025年の参院選までの合区解消を実現するためには、今後の参院改革協議会の中での議論を合わせて、あらゆる手だてを尽くして法律改正による合区解消をするべきだ。
2025年の参院選までの合区解消を実現するためには、今後の参院改革協議会の中での議論を合わせて、あらゆる手だてを尽くして法律改正による合区解消をするべきだ。
猪瀬直樹氏(維新)
ウクライナでロシアが侵略しているとき、憲法9条、自衛隊の位置付けをテーマにしないと、この場は一体何なのかとなる。(合区問題の議論は)時事的な当事者性に欠けていると思う。
ウクライナでロシアが侵略しているとき、憲法9条、自衛隊の位置付けをテーマにしないと、この場は一体何なのかとなる。(合区問題の議論は)時事的な当事者性に欠けていると思う。
矢倉克夫氏(公明)
合区解消を目的に憲法に参院の地域代表制を書き込むと、規定ぶりによっては、国会議員が選出母体である地方の指令の枠内でのみ代表権を持つにすぎないという形になってしまう。
合区解消を目的に憲法に参院の地域代表制を書き込むと、規定ぶりによっては、国会議員が選出母体である地方の指令の枠内でのみ代表権を持つにすぎないという形になってしまう。
*引用、ここまで。
合区導入から合区解消のための改憲まで2年半、あまりにも身勝手な自民党の主張
上述したように、今回の憲法審で合区問題について新たな論点はほとんど提示されませんでしたが、上掲の『東京新聞』の記事に紹介されているように、自民党の委員が「法律改正による合区解消についても議論を進めることはあり得る」(片山さつき氏)、「2025年の参院選までの合区解消を実現するためには、第一に、参院改革協議会の下で超党派での法律改正による合区解消を目指す」(中西祐介氏)と明言したことが注目されます。合区の解消は、まずは改憲ではなく法改正で行うべきだと認めたことになるからです。
この日も山本太郎氏(れいわ)が「『合区にしろ』から『合区解消のための改憲を』まで約2年半というのは話がおかしすぎる」、福島瑞穗氏(社民)が「合区を提案し成立させながら、合区解消のための改憲を言っていることが理解できない」と自民党を厳しく批判していましたが、自民の委員たちにしてみればぐうの音も出なかったというところでしょう。
ちなみに、山本氏は「合区にすれば地元から改憲が必要だと声が上がることをわかった上でトラップを仕込んだのではないか」とまで述べ、「ただの無能か確信犯か、どちらにしても迷惑でしかない」と論難していましたが、この間の自民の委員たちの議論を聞いていると、私は「ただの無能」だと判断します。福島氏が指摘したように、「選挙制度はめまぐるしく変わっている。憲法は100年、200年単位で考えるべきであり(私はちょっと長すぎるような気がしますが)、選挙制度の改正は公職選挙法で行うべきだ」というのが正論だと思います。
自民以外の改憲勢力の主張はバラバラ
上掲の『東京新聞』の記事にあるように、佐々木さやか氏は「公明党は全国を11ブロック単位とする個人名投票による大選挙区制を提唱している」と述べました。これは山添拓氏の「共産党は全国10ブロックの非拘束名簿方式の選挙制度とすることを提案してきた」という発言とほぼ同じように聞こえますが、公明党が個人名投票を推すのは支持票の割り振りに自信を持っているからだと思います。つまり、当落線の少し上の順位のところで目一杯の議席を確保しようという算段なのでしょう。
これに対して維新は、東徹氏が「都道府県の合併や道州制を検討すべきだ」、「先日の審査会での丸山島根県知事の『両院ともに投票価値の平等に重きを置くのなら一院制で足りるのではないか』という発言を聞いて、同じ思いだと思った」などと主張、猪瀬直樹氏にいたっては「今、合区問題を取り上げるのに僕は非常に消極的な気分だ」、「人口減少で過疎化が進行するのは不可避で、前向きな解決策はないと思っている」と、よく言えば独創的な、悪く言えば場違いの意見を開陳していました。
驚いたのは大塚耕平氏(国民)の発言で、氏は「参議院に関しては各都道府県最低1人は選出できるようにすることが立法府の意思であることを明確にし、裁判所に対して単純な1票の較差で判決を下すことのないように求めるべきだ」と、三権分立を否定しているとも解されかねないちょっと危ない見解を披露していました。
このように、公明、維新、国民の主張はバラバラで、現状では自民を含めて合区問題で改憲案が提起されるような気運は見られませんし、公職選挙法改正の議論もほとんど行われていませんが、小林一大氏(自民)によれば、「合区問題については、今年秋に新たな最高裁の判断が示される旨が報じられている」そうですので、その内容によっては新たな展開があるかもしれません。ただ、今後公選法改正の検討が軌道に乗るとしても、それは参議院改革協議会など憲法審査会以外の場で行われることになると思われます。
今回も委員の出席率はとても高かったのですが、珍しく自民党の委員1人がずっと欠席していたように見えました(自民の委員は五十音順に並んでおらず、名札の文字も遠くて読み取りづらいので、確信はありませんが)。
傍聴者数は20人弱でいつもより少なめで、記者は4、5人でした。
次回以降、参議院の憲法審査会がどのように進められていくのか、衆院のように毎週定例日開催が強行されるのか、どんなテーマが取り上げられるのか、引き続き注視していきたいと思います。(銀)