3月16日(木)10時12分から11時40分すぎまで、今国会3回目の衆議院憲法審査会が開催されました。前回よりさらに開会時間が遅れましたが、事情はわかりません。この日の審査会も「日本国憲法及び憲法改正国民投票法の改正をめぐる諸問題」について各会派の代表が1人7分ずつの持ち時間で発言した後、会長に指名された委員が5分以内で意見を述べるという形で進められました。
冒頭に新藤義孝氏(自民)が「今週は国民投票法についても討議を行いたい」、最後に階猛氏(立民)が「国民投票法など憲法改正手続に関する議論が今週、来週の2週にわたり行われることになった」と述べ、改憲手続法がテーマの1つとされたことが明らかにされましたが、階氏が苦言を呈したように、「発言者の中には、国民投票法について全く言及がないかほとんど言及がない」委員がいて、実際には今回も緊急事態条項をめぐる議論が中心になっていました。
そうした実態を、まず、毎回転載させていただいている『東京新聞』のウェブサイトに掲載された記事=見出しに注目してください=で確認したいと思います。
緊急事態条項めぐり議論 改憲勢力の中でも見解に差 衆院憲法審【詳報あり】
『東京新聞TOKYO Web』2023年3月17日
衆院憲法審査会は16日、今国会3回目の討議を行った。緊急事態時に国会議員任期の延長などを可能とする改憲を巡り、自民党が衆参両院の過半数の賛成で「緊急事態」と認定する案を訴えたのに対し、公明党や日本維新の会などは3分の2以上の多数の賛成にする必要があると主張し、改憲勢力の中でも見解が分かれた。
自民党の新藤義孝氏は、緊急事態の国会承認の要件について「選挙によって示された民意を尊重する観点で判断するべきだ」と述べ、予算案や法案と同様に過半数を支持すると表明。一方、公明と維新、国民民主党、無所属議員でつくる会派「有志の会」は「原則や現状を変更して特別な状態を作り出すときには、3分の2以上の議決を必要とするのが適切」(国民の玉木雄一郎代表)などと指摘した。
立憲民主党や共産党は、安倍政権下で首相官邸側の働き掛けによって放送法の新解釈が示されたとされる問題に言及。改憲案の国会発議後にテレビ局への不当な政治介入が行われ、国民投票の結果がゆがめられる恐れがあると強調した。
立民の近藤昭一氏は、テレビCMやインターネット広告の量的な規制がない現状では、資金力によって世論が誘導されかねないと懸念を表明。「公平公正な投票環境が確保されない限り、改憲発議はできない」として、国民投票法改正に向けた議論を優先させることを求めた。(佐藤裕介)
◆詳報
16日の衆院憲法審査会での発言の要旨は次の通り。
【各会派代表の意見】
新藤義孝氏(自民)
緊急事態認定の国会承認の要件について、過半数議決なのか、3分の2以上の特別多数議決とするか、本質的な議論が必要だ。多数政党によるお手盛りを避けるということではなく、選挙によって示された民意、すなわち、議会制民主主義を尊重するという観点で判断するべきだ。過半数議決は3分の2議決に比べ軽い判断とは言えないと思う。
緊急事態認定の国会承認の要件について、過半数議決なのか、3分の2以上の特別多数議決とするか、本質的な議論が必要だ。多数政党によるお手盛りを避けるということではなく、選挙によって示された民意、すなわち、議会制民主主義を尊重するという観点で判断するべきだ。過半数議決は3分の2議決に比べ軽い判断とは言えないと思う。
近藤昭一氏(立憲民主)
2021年、国民投票法が改正された際、施行後3年をめどに有料広告規制、資金規制、ネット規制などの検討と必要な法制上の措置を講ずるという付則が加えられた。グローバル化、ネット化など大きな変化があり、外国政府の干渉の恐れもある。現行の国民投票法では公平公正な投票が確保されるという憲法上の要請が満たされなくなる。
2021年、国民投票法が改正された際、施行後3年をめどに有料広告規制、資金規制、ネット規制などの検討と必要な法制上の措置を講ずるという付則が加えられた。グローバル化、ネット化など大きな変化があり、外国政府の干渉の恐れもある。現行の国民投票法では公平公正な投票が確保されるという憲法上の要請が満たされなくなる。
三木圭恵氏(維新)
私たちは(緊急事態時の)議員任期が内閣と国会により不当に延長されることを避けるため、司法の関与が必要とした。延々と選挙が行われず、民主主義が遠のくことは避けなければならない。例えば、政権与党が3分の2以上を占め、選挙を行わない場合が想定できるが、司法の介入がなければ、このような事態を脱することはできない。
私たちは(緊急事態時の)議員任期が内閣と国会により不当に延長されることを避けるため、司法の関与が必要とした。延々と選挙が行われず、民主主義が遠のくことは避けなければならない。例えば、政権与党が3分の2以上を占め、選挙を行わない場合が想定できるが、司法の介入がなければ、このような事態を脱することはできない。
吉田宣弘氏(公明)
わが党は(任期延長の)判断に必要な情報は内閣にあり、裁判所が迅速に判断できるか疑問だとし、決議に(3分の2以上の)特別多数を必要とすることや、任期延長の期間に上限を設けることで乱用を防止できると指摘している。最終的には(緊急事態解除後の国政選挙で)国民の判断が示されるので、司法が介在する必要はないと考える。
わが党は(任期延長の)判断に必要な情報は内閣にあり、裁判所が迅速に判断できるか疑問だとし、決議に(3分の2以上の)特別多数を必要とすることや、任期延長の期間に上限を設けることで乱用を防止できると指摘している。最終的には(緊急事態解除後の国政選挙で)国民の判断が示されるので、司法が介在する必要はないと考える。
玉木雄一郎氏(国民民主)
緊急事態条項について残された論点を意見集約し、具体的な条文作りに入ることを提案したい。選挙困難事案の国会承認は、憲法に規定された(衆院議員)4年、(参院議員)6年の任期の特例を認める以上、原則や現状を変更して特別な状態を作り出すときに当たるので、3分の2以上の議決を必要とするのが適切ではないか。
緊急事態条項について残された論点を意見集約し、具体的な条文作りに入ることを提案したい。選挙困難事案の国会承認は、憲法に規定された(衆院議員)4年、(参院議員)6年の任期の特例を認める以上、原則や現状を変更して特別な状態を作り出すときに当たるので、3分の2以上の議決を必要とするのが適切ではないか。
赤嶺政賢氏(共産)
政権の中枢が政権に批判的な放送番組に圧力をかけていたことは極めて重大だ。日中戦争から太平洋戦争へと突き進む中で、政府は放送に対する統制を強め、戦争を進めるための番組を放送させた。この教訓から、憲法は表現の自由を保障し、そのもとで作られたのが放送法だ。政府が放送番組を評価し、介入することなど到底認められない。
政権の中枢が政権に批判的な放送番組に圧力をかけていたことは極めて重大だ。日中戦争から太平洋戦争へと突き進む中で、政府は放送に対する統制を強め、戦争を進めるための番組を放送させた。この教訓から、憲法は表現の自由を保障し、そのもとで作られたのが放送法だ。政府が放送番組を評価し、介入することなど到底認められない。
北神圭朗氏(有志の会)
ネットでは玉石混交の情報が氾濫する。憲法改正という重大な判断にあたって、国民の自律的な意思が阻害されないよう、ファクトチェック機関との連携も重要だ。国民投票広報協議会も各政党の主張をインターネットに大量に流すことができるようにするべきだ。対処法は「玉」を圧倒的に流し込み、可能な限り「石」を埋没させることだ。
ネットでは玉石混交の情報が氾濫する。憲法改正という重大な判断にあたって、国民の自律的な意思が阻害されないよう、ファクトチェック機関との連携も重要だ。国民投票広報協議会も各政党の主張をインターネットに大量に流すことができるようにするべきだ。対処法は「玉」を圧倒的に流し込み、可能な限り「石」を埋没させることだ。
【各委員の発言】
小林鷹之氏(自民)
政府広報室が今月公表した世論調査によれば、自衛隊に対し、9割を超える人が肯定的に回答している。防衛は国家権力発動の最たるものだからこそ、憲法上明文の規定があるべきだ。
政府広報室が今月公表した世論調査によれば、自衛隊に対し、9割を超える人が肯定的に回答している。防衛は国家権力発動の最たるものだからこそ、憲法上明文の規定があるべきだ。
道下大樹氏(立民)
15年に高市早苗総務相が示した、「政治的公平」を放送事業者の番組全体ではなく、1つの番組で判断できるとの解釈が、番組内容に対する圧力、忖度の温床となり、国民投票の結果をゆがめる危険がある。
15年に高市早苗総務相が示した、「政治的公平」を放送事業者の番組全体ではなく、1つの番組で判断できるとの解釈が、番組内容に対する圧力、忖度の温床となり、国民投票の結果をゆがめる危険がある。
岩谷良平氏(維新)
憲法に規定されている除名は、議員の身分を例外的に任期前に失わせる議決について、慎重を期す必要性などから、特別多数とされている。任期を延長する場合にも特別多数とすることが、除名と均衡が取れる。
憲法に規定されている除名は、議員の身分を例外的に任期前に失わせる議決について、慎重を期す必要性などから、特別多数とされている。任期を延長する場合にも特別多数とすることが、除名と均衡が取れる。
北側一雄氏(公明)
誤った情報、デマ、フェイク情報等は社会の混乱を招くが、情報の発信そのものを規制するのは容易ではない。情報統制になり、国民の知る権利や表現の自由を侵害する。
誤った情報、デマ、フェイク情報等は社会の混乱を招くが、情報の発信そのものを規制するのは容易ではない。情報統制になり、国民の知る権利や表現の自由を侵害する。
細野豪志氏(自民)
今後、コロナを上回る強毒化した感染症、国家有事の可能性を考えると、(緊急事態時の議員任期延長は)緊急性の高い課題だ。一方、間違っても国会議員の保身と取られないようにする細心の注意が必要だ。
今後、コロナを上回る強毒化した感染症、国家有事の可能性を考えると、(緊急事態時の議員任期延長は)緊急性の高い課題だ。一方、間違っても国会議員の保身と取られないようにする細心の注意が必要だ。
階猛氏(立民)われわれは、国民投票広報協議会が憲法改正案に関する説明会を開催できるようにし、ネット等利用して憲法改正案の広報ができるようにする改正案をまとめた。
* 引用、ここまで。
緊急事態条項の議論は、前回新藤氏(自民)が提示した論点(下に再掲します)をめぐって、改憲勢力の各会派が「わが党の案はこうだ。私たちはこう考えている」、「この点は一致しているが、ここはまだ違いがあり、さらに議論が必要だ」などと述べる形で進みました。
発言の内容について上掲の記事に付け加えるべき重要な事項はなかったと思いますが、私としては「改憲勢力の中でも見解に差」ということより、新藤氏の敷いた道筋に沿って一致点を見出し改憲の条文案をできるだけ早くとりまとめようとする議論が着々と進んでいることの方が気になりました。
発言の内容について上掲の記事に付け加えるべき重要な事項はなかったと思いますが、私としては「改憲勢力の中でも見解に差」ということより、新藤氏の敷いた道筋に沿って一致点を見出し改憲の条文案をできるだけ早くとりまとめようとする議論が着々と進んでいることの方が気になりました。
吉田宣弘氏(公明)の異様な発言
議論の本筋からは離れますが、緊急事態条項に関する会派代表としての意見表明の中で吉田宣弘氏(公明)が次のように述べたことに、私は大きな違和感を覚えました。
「緊急事態条項の論点について、このたび新藤筆頭(幹事)から論点整理を行っていただいたことに感謝と敬意を表します。」
「日本維新の会、国民民主党、有志の会による条文案を策定する積極的なお取組みには、深く敬意を表するところです。」
「お取組み」だなんて(ふつう「取組み」に「お」をつけますか?)、おべんちゃら(ではなく本心かもしれませんが)にも程があると思います。
一方、改憲手続法(国民投票法)をめぐる議論については、『毎日新聞』のウェブサイトから簡にして要を得た記事を転載させていただきます。
憲法改正の国民投票CM規制、与野党の溝埋まらず 衆院憲法審
『毎日新聞 』2023年3月16日
衆院憲法審査会は16日、自由討議を行い、憲法改正の国民投票に関するCMなどの規制について議論した。自民、公明両党が表現の自由を重視する立場から法規制に慎重な姿勢を示したのに対し、立憲民主党は法規制の必要性を主張して、溝は埋まらなかった。
現行の国民投票法は、投票の14日前から投票・棄権を呼びかけるテレビ・ラジオの有料広告を禁じているが、それ以外の期間の規制はなく、インターネット広告も規制対象外だ。
立憲は、政党による意見表明のためのテレビCMやインターネット有料広告を禁止するなどとした独自の改正案をまとめている。立憲の近藤昭一氏は「現行法はテレビやネット広告の量的規制がなく、資金力によって世論が誘導されかねないという根本的な欠陥を持っている」と主張し、階猛氏も「我々が提案する改正案などを踏まえ、議論を進めるべきだ」と述べた。
これに対し、自民の小林鷹之氏は「立憲案では、表現の自由や国民投票運動の自由の過度な制約となるおそれがないか。憲法改正内容を最もよく知る立場にある政党に規制をかけることは国民に対する情報提供の観点から問題はないのか」などと疑問を投げかけた。
公明の北側一雄副代表も「あえて法規制をすれば、国民の知る権利や表現の自由を侵害し、大事な必要な情報まで排除される危険もあるのではないか」とただした上で、改憲案の内容を広報するために国会に設置される広報協議会の役割強化や、政党の自主規制のルール化が必要だとした。
与党とともに法規制に慎重な日本維新の会はCM規制に言及せず、国民民主党の玉木雄一郎代表はSNS(ネット交流サービス)関係者の参考人質疑を要求した。共産党の赤嶺政賢氏は「(立憲と)共通の問題意識は持っている」としつつ、放送法の「政治的公平」に関する行政文書を巡る審議を求めた。【安部志帆子】
* 引用、ここまで。
要するにテレビやネットをめぐる問題について、自民、公明は効果的な規制は難しいので「言論の自由」を盾にとって民放やネット事業者の自主規制論で済ませようとし(公明党の北側一雄氏は今回「広報協議会」の役割強化や政党側の自主規制のルール化の必要性を強調しましたが、これは自主規制論の対象を国会や政党にすり替えようとするものだと思います)、維新の会はほとんど関心を持っていないということです。議論はするけれども深入りすることは避け、早期に改憲手続法の改定を実現して発議や国民投票が可能だと主張できる状況を整えたいということでしょう。
放送法の解釈変更問題も浮上
このほか、『東京新聞』の記事にもあるように、赤嶺政賢氏(共産)と道下大樹氏(立民)が、憲法に関わる重要な問題として安倍政権時の放送法の解釈変更に言及し、「重大なことは、岸田首相が安倍政権下の政治的圧力で変更された解釈を踏襲していることだ」(赤嶺氏)、「当審査会に総務大臣、NHK会長など放送事業者、有識者を招致し、参考人質疑を行うよう会長にお願いする」(道下氏)などと主張しました。
前回までの審査会では、憲法に基づく野党の要求を無視した内閣の国会召集の回避、国会での議論をスルーしたままでの安保3文書の改定と岸田内閣の軍拡路線、そして同性婚の問題等も憲法に関わる重要なテーマとして提起されましたが、いずれも言いっ放しになっているのが実態です。
石破茂氏(自民)、憤然として退席
最後に一つ、傍聴していなければわからなかった場面を報告しておきましょう。
審査会後半の自由討論では、まず発言を希望する委員が名札を立てて会長の指名を待つことになっています。たいていは事前に発言者がほぼ決まっているようなのですが、この日は名札を立てた委員のうち石破茂氏(自民)だけが最後まで指名されず、発言の機会を与えられませんでした。
おそらくは時間切れのためだろうと思われますが、新藤氏が石破氏の席まで近づいて今回は発言できないことを説明したところ、閉会の直前でしたが石破氏は憤懣やるかたない様子で一足先に席を立って議場から去っていきました。(以上、あくまでも私の推測です。)
この日の傍聴者は30人弱で前回よりさらに少なくなりましたが、記者は7~8人ほどで前回並みした。
委員の出席状況は相変わらずで、自民以外は時々席を外す委員はいるものの全員が出席、自民は時間が経過するとともに欠席者が増え、途中からは常に5人以上、10人近くになることもありました。
今国会での衆院憲法審の開催は3回目ですが、緊急事態条項の議論がじわじわと進んでいます。定例日はまだ12回残されており、前回報告したように維新、国民、有志の会が具体的な条文案づくりを始めていますので、今後一挙に発議に向けた動きが具体化する可能性があります。
新藤議員の「緊急事態条項」の論点整理の資料にもあるように、緊急事態(戦争、大災害、内乱、感染症)の認定は内閣が行います。今のところ憲法審で改憲勢力間でほぼ合意しているのは議員任期の延長にとどまっていますが、自民党などは内閣に政令づくりや財政処分の権限を与える規定を設けることを狙っています。そうなってしまえば、戦争や内乱時に首相が緊急事態を宣言したら憲法の基本的人権を無効化する「緊急政令」が次々と発せられ、反戦運動は暴力的に抑え込まれ、政府に反抗する者には重罰が課せられ、戦争動員を強制される等々、悪夢のような事態が現実化するおそれがあります。これがどんなに恐ろしいことであるか、私たちは今、真剣に考え抜かなければなりません。
新藤議員の「緊急事態条項」の論点整理の資料にもあるように、緊急事態(戦争、大災害、内乱、感染症)の認定は内閣が行います。今のところ憲法審で改憲勢力間でほぼ合意しているのは議員任期の延長にとどまっていますが、自民党などは内閣に政令づくりや財政処分の権限を与える規定を設けることを狙っています。そうなってしまえば、戦争や内乱時に首相が緊急事態を宣言したら憲法の基本的人権を無効化する「緊急政令」が次々と発せられ、反戦運動は暴力的に抑え込まれ、政府に反抗する者には重罰が課せられ、戦争動員を強制される等々、悪夢のような事態が現実化するおそれがあります。これがどんなに恐ろしいことであるか、私たちは今、真剣に考え抜かなければなりません。
また、今回9条についても議論すべきだと発言したのは小林鷹之氏(自民)くらいでしたが、もちろんこちらも警戒を怠ることはできません。改憲手続法の議論についても、中途半端ではあっても改定されれば改憲勢力は発議、国民投票の条件は整ったと主張するでしょうから、注視していく必要があります。
毎回同じことを書いていますが、改憲をめぐる情勢がたいへん厳しい中、私たちは今できることをやっていくしかありません。ともに頑張りましょう!(銀)