長崎の被爆者で43歳でという若さでこの世を去られた永井隆さん(医者、キリスト者)が二人の幼子に残した遺言の一部を紹介します。

私たち日本国民は憲法において戦争をしないことに決めた。
我が子よ。憲法で決めるだけならどんなことでも決められる。
憲法はその条文通りに実行しなければならぬから、日本人としてなかなか難しいところがあるのだ。
どんなに難しくても、これは良い憲法だから、実行せねばならぬ。
自分が実行するだけでなく、これを破ろうとする力を防がねばならぬ。
これこそ戦争の惨禍に目覚めた本当の日本人の声なのだよ。

しかし理屈はなんとでも付き、世論はどちらへもなびくものである。
日本をめぐる国際情勢次第では、日本人の中から、「憲法を改めて戦争放棄の条項を削れ」と叫ぶ声が出ないとも限らない。
そしてその叫びにいかにももっともらしい理屈をつけて、世論を日本の再武装に引き付けるかもしれない。

もしも日本が再武装するような時代になったら、その時こそ、誠一よ、かやのよ。
たとえ最後の二人となっても、どんなののしりや暴力を受けても、きっぱりと戦争絶対反対を叫び続け、
叫び通しておくれ。

永井隆さんが次の世代に伝えたかった「二度と戦争をする国にしてはいけない」という強い思いは、戦争を経験し筆舌に尽くせない惨禍を生き抜いたすべての人々の思いであったに違いありません。それは「戦争放棄の憲法9条を変えてはならない」ということと同義であったのです。

では、敗戦から77年後のいま、果たして現状はどうでしょうか。
6月24日付け朝日新聞の記事(下図)によれば、今参院選候補者の意識調査で「憲法改正に賛成」が61%、その中で改憲すべき項目は「自衛隊明記」が66%でトップ、次は「緊急事態に関する条項を新設」で51%だったそうです。

1-朝日新聞1

政党別では、改憲に、自民党は97%が賛成、公明党も42%が賛成、日本維新の会は全員が賛成、国民民主党は86%が賛成。
これに対し、日本共産党・社民党は全員が反対、立憲民主党は76%が反対、れいわ新選組は85%が反対となっています。ただ、立憲民主党は安保政策では「脅威への抑止力強化、日米安保を前提」なのであやういと感じます。

昨年の衆院選での日本維新の会の議員大増加で、衆院の憲法審査会の様相は一変しました。「自衛隊・自衛権の明記」「緊急事態条項新設」の改憲発議に向かって自民・公明・維新・国民が走り出しています。そういう意味では今回の参院選はとても重要だと思います。

自民党は完全に来年の国会での「改憲発議」~改憲国民投票実現に舵を切っています。
(6月21日付け琉球新報より)


2-琉球新報1

永井さんは「もっともらしい理屈をつけて、世論を日本の再武装に引き付けるかもしれない」と予言されましたが、自民党がどういう理屈をつけているのかを垣間見る一件がありました。
5月19日の衆議院憲法審査会での稲田朋美議員の発言の中で、「日本が何もしなくても」という言葉を立て続けに耳にしたときです。

日本が何もしなくても、北朝鮮は日本を射程に入れたミサイルを二百発以上有し、実際にミサイルを日本海に発射し、日本列島を越えて太平洋に着弾しています。日本が何もしなくても、中国は短距離、中距離ミサイルを配備し、その数は千九百発以上と言われています。日本が何もしなくても、中国は海警法を施行し、我が国固有の領土である尖閣諸島周辺で活動を強化しています。日本が何もしなくても、中国、ロシア、北朝鮮からのサイバー攻撃が増えています。日本が何もしなくても、中東で日本人がテロ集団の人質になることがあります。
……日本が何も悪いことをしなくても、脅威は降りかかってくるのです。消極的平和主義、すなわち、相手の善意に委ねれば平和は保てるという考え方では、もはや我が国の平和を確保することはできません。」

最初は何という言い方をするんだろうとあきれて聞いていましたが、日本の国の元防衛大臣が憲法審査会の場で言っているのだと思い返したとき、怒りが湧いてきました。

ウクライナでの戦争を見ても明らかなように、戦争は「何も悪いことをしていないのに、突然ならず者が襲いかかってくる」というようなものではありません!
経済的な侵略、政治的対立、さまざまな挑発行為、勢力圏争いなど、その背景に戦争政治が必ずあるわけです。何より、核大国アメリカとの日米安保体制は大きな脅威です。
それを「何も悪いことをしていない」と隠してしまっています。

5/23の日米首脳会談、6/7の軍事政策「骨太方針22」などで打ち出されている内容は「日米安保の強化」「戦時財政」です。日本の政府は戦争をする国に本格的に踏みだしています。

国政選挙の中でも、戦争絶対反対の声を大きく広げていきましょう!(S)