4月14日(木)10時から11時35分頃まで、今国会9回目の衆議院憲法審査会が開かれました。第1回(2月10日)以降、この日まで10度の木曜日のうち審査会が開かれなかったのは3月10日だけで、17日から5週連続の開催となりました。
衆院憲法審のホームページで過去の記録を調べてみたところ、5週連続の開催は初めてです。また、1国会での開催回数(実質審議が行われた場合だけをカウント)も過去最多だった2013年の第183回通常国会における11回に迫っており、まだ4月の半ばですからその大幅な更新は確実な情勢です。今国会での衆院憲法審の運用がいかに異様であるかがおわかりいただけると思います。

この日のテーマは前回までとはガラッと変わって国民投票法(略称は「改憲手続法」とすべきだと思いますが、以下「国民投票法」と記します)となり、なぜ唐突にこの問題を取り上げるのか合点がいきませんでしたが、自民党の委員たち、特に新藤義孝氏(憲法審の与党側筆頭幹事)の主張を聞いてその理由がわかったように思いました。
この日最初に党派代表として発言した新藤氏は、冒頭で「前回の緊急事態条項に関する議論で、中間的な『作業』(と聞こえましたが、意味は不明です)として論点が確認できたことは意義のあることだった」と前置きしたうえで、「国民投票法の附則第4条の条文の意味は、検討を加えた結果必要と判断されれば必要な措置を講ずるというもので、検討の状況や結果が憲法改正の発議に法的な制約を与えることはない」と述べ、例えばCM規制については、「国民投票法では、国会に設置される国民投票広報協議会が行う周知活動について量的な賛否平等の取扱いが規定されており、この枠組みとCMの受け手である民放各社の自主規制、出し手である政党側の取組みをトータルに考え、国民投票運動の自由と投票の公平・公正のバランスをいかに取るかを整理しなければならない」との見解を示しました。
要するに、附則第4条については一応「検討」(したふり)はするけれども、公職選挙法にあわせた改正以外の「必要な法制上の措置その他の措置を講ずる」つもりはなく、現状の国民投票法のままで(あるいは「やってる感」を印象づけるために微修正を加えたうえで)改憲案を発議して国民投票に持ち込んでいければいいという考えなのでしょう。
要するに、附則第4条については一応「検討」(したふり)はするけれども、公職選挙法にあわせた改正以外の「必要な法制上の措置その他の措置を講ずる」つもりはなく、現状の国民投票法のままで(あるいは「やってる感」を印象づけるために微修正を加えたうえで)改憲案を発議して国民投票に持ち込んでいければいいという考えなのでしょう。
また、自由討議で最初に発言した西村康稔氏は、「これまでの2つの論点、緊急事態と国民投票法については審査会とは別に小委員会を設けて議論を深め、そのうえで審査会に戻していくということで進めていくべきではないか」と述べ、さらに「この審査会では9条の議論を進めていくことを提案したい」と、この日のテーマとは全く関係のない意見をちゃっかりと持ち出していました。


もう一人、かつて憲法族の中心人物として憲法審の議論を差配していた船田元氏は、「テレビCMについては、国民投票広報協議会がもっと力を持ってマスコミに勧告したり是正措置を求めるというような新たな役割を持たせることで十分であると思う」、「ネット上の広告や意見の表明も言論の自由市場で淘汰されると思っているし、あまりに極端な状況は国民の常識や良識で批判にさらされることを期待している」、「ネット広告も投票日2週間前は行わないということは必要だが、広報協議会が監視していくことで十分だと思っている」などと述べていました。
新藤氏の冒頭の「緊急事態条項について論点が確認できた」との発言について、すぐに奥野総一郎氏(立民、憲法審の野党側筆頭幹事)が、「個人的な意見をあたかも審査会全体の確認事項、中間的取りまとめのように発言し、世論に誤解を与えることは断じて認められない。意図的に誤解を招くような発言は厳に慎んでほしい」と「強く抗議」したことは、たいへんよかったと思いました。ただ、他の会派の委員からも同様の発言があってしかるべきところ、それがなかったのは残念でした。
また、奥野氏は、「昨年の国民投票法の改正で附則第4条を提案し、皆さんの賛同を得て、施行後3年を目途として、投票環境向上のための措置だけでなく、公平・公正を確保するために放送広告やインターネット有料広告の制限、資金規制等について必要な法制上の措置その他の措置を講ずることを求めた修正案が成立した」、「その経緯、趣旨から見て、必要な措置が講じられるまでの間は改憲案を発議し国民投票を実施することは許されない」と、新藤氏の認識と真っ向から対立する見解を述べました。
この点については、赤嶺政賢氏(共産)が指摘したように、昨年の国民投票改正時に、参議院で「附則第4条の規定は、同項に規定される措置が講じられるまでの間に改憲案の審議や発議を行うことを妨げるものと解してはならないとの(維新が提出した)修正案が、与党も含めて否決された」経緯もあることから、素直に考えれば、新藤氏の主張には相当無理があると言わざるを得ないと思います。
いわゆる改憲勢力と認識されている公明党や国民民主党、そして有志の会の委員からもCMやインターネット広告、SNSの規制、海外からの介入の抑止などについて様々な論点が提起され、自民党に同調したのは、足立康史氏が「民放連は考査ガイドラインをつくっていて、量的な規制はできないが規制すべきはされている(意味不明です)。私たちは、公選法並びの国民投票法改正をすればいつでも憲法改正の国民投票ができるという立場だ」と述べた維新だけでした。
なお、公選法並びの国民投票法の改正については、北側一雄氏(公明)が、「これからも投票の利便性の向上のための公選法の改正は続いていくので、倫選特(政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会)で全会一致で必要だと理解が得られるような改正なら、憲法審の会長提案で速やかに国民投票法を改正していく方法が適切ではないか」と提案しました。
これに対して、新垣邦男氏(社民)は「昨年の国民投票法の改正は議論が生煮えで、審議が不十分なまま採決された印象を受けている」、「昨年の(公選法並びの)改正が本当に投票環境や利便性の向上に資するのかどうか、再検証する余地が残されている」と指摘し、「公選法と国民投票法の仕組みをそろえることは一見合理的に見えるかもしれないが、人を選ぶ選挙と改憲の是非を問う国民投票では制度の目的・趣旨に根本的な違いがあるのだから、結論ありきの拙速な議論ではなく、十分な検討が必要だ」と主張しました。
これに対して、新垣邦男氏(社民)は「昨年の国民投票法の改正は議論が生煮えで、審議が不十分なまま採決された印象を受けている」、「昨年の(公選法並びの)改正が本当に投票環境や利便性の向上に資するのかどうか、再検証する余地が残されている」と指摘し、「公選法と国民投票法の仕組みをそろえることは一見合理的に見えるかもしれないが、人を選ぶ選挙と改憲の是非を問う国民投票では制度の目的・趣旨に根本的な違いがあるのだから、結論ありきの拙速な議論ではなく、十分な検討が必要だ」と主張しました。
どう考えても、北側氏の提案より新垣氏の主張の方が正鵠を射ているのではないでしょうか。
また、赤嶺政賢氏(共産)が現行の国民投票の「根本的な欠陥」として、「最低投票率の規定がないこと」、「国民の自由な意見表明を不当に制限していること」を挙げたことも重要だと思います。2点目は、「公務員や教員について地位を利用した国民投票運動を禁止しているが、その定義があいまいで、(後者は)大学の教員から幼稚園の先生まで、教育に携わる者すべてに及ぶ」という問題です。
以上のように、国民投票法をめぐっては様々な課題・論点が残されており、附則第4条に明記された事項についてだけでも、3年を目途に必要な措置を講ずることは極めて困難であると考えられます(附則第4条は昨年の改正案が公布された6月18日に施行されていますから、すでに11か月が経過しており、残された時間は2年1か月しかありません)。つまり、改憲を急ぐためには、自民党や維新の会のように、附則第4条の課題が処理されなくても改憲案の発議と国民投票は可能なのだと強弁するしかないのです。
さて、上記のような議論が交わされたのは想定の範囲内でしたが、この日私がいちばん驚いたのは、馬場伸幸氏(維新)が国民投票法とは直接関係のない9条と自衛隊をめぐる問題について共産党に難癖をつける発言を行ったことでした。
以下、その様子を報じた『FNNプライムオンライン』の記事を転載させていただきます。
憲法審で“9条”めぐり 維新、共産が応酬
『FNNプライムオンライン』2022年4月14日
衆議院の憲法審査会で、各党が憲法改正手続きの国民投票について意見を交わしたが、日本維新の会は憲法9条をめぐって共産党を批判。共産党が反論する一幕があった。
審査会の冒頭、各党が国民投票の際の広告規制について意見表明する中、維新の馬場共同代表は「憲法9条をめぐる議論に真剣に向き合うべきだ」としたうえで、「いまだに自衛隊は違憲だと主張され、水戸黄門の印籠よろしく『現行の憲法9条をかざせば、敵も斬りかかってこない』と思い込んでいる方々がいる。理想論で国や国民を守ることはできない」と述べた。
さらに、馬場氏は「自衛隊は違憲」との立場をとる共産党の志位委員長が7日に「有事の際には自衛隊を活用する」と発言したことを批判し、「自衛隊を活用すると言うなら、はっきりと合憲と認めたらどうか」と述べ、共産党の赤嶺議員に回答を求めた。
共産党・赤嶺議員「維新らしく、かなり日本共産党の路線をゆがめて歪曲した発言。抗議したいと思う」 赤嶺議員は「憲法制定時から、軍隊を持たないからといって個別的自衛権を持っていないわけではないと主張してきた」と述べ、「今、憲法違反の自衛隊が存在していることは、共産党ではなく、自民党が作り出した矛盾だ」などと反論した。
* 引用、ここまで。
この短い記事では馬場氏が高圧的な口調でまくしたてた異様な光景は伝わらないと思いますが、こういう人物が衆院に41議席を持つ政党の共同代表だということに、私は(けっして大げさな表現ではなく)恐怖を覚えました。
この日の傍聴者は40人弱、記者・カメラマンは10人弱でTVカメラが1台入っていました。委員の出席率はいつもより低く、開会から閉会までずっと5~10人ほどが欠席していました(ほとんどが自民の委員でした)。(銀)