許すな!憲法審査会

「とめよう戦争への道!百万人署名運動」ブログを改めて、改憲の憲法審査会動向をお伝えしていきます。百万人署名運動は、「改憲・戦争阻止!大行進」運動に合流しました。

2025年06月

6月5日10時から11時20分過ぎまで、今通常国会8回目の衆議院憲法審査会が2週間ぶりに開かれました。
前週の定例日、5月29日には憲法審本体は開催されませんでしたが幹事懇談会が開かれ、そこで見過ごすことのできない重要な決定が行われましたので、憲法審の傍聴記に入る前にそのことを報告しておきます。

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まず、『時事通信』の記事を転載させていただきます。6月12日の幹事会に、改憲勢力の5会派から議員任期延長の「改憲骨子案」が提出されることが報じられています。

改憲骨子案、来月12日に提示 自公維国、議員任期延長巡り
『時事ドットコムニュース』2025年5月29日

衆院憲法審査会は29日の幹事懇談会で、緊急事態条項の骨子案を自民党、公明党、日本維新の会、国民民主党と野党系会派「有志の会」が6月12日の幹事会で共同で提示することを申し合わせた。
大規模災害など選挙実施の困難な非常事態が起きた際の国会議員任期延長に関する規定を憲法に加えるもの。4党1会派が内容を最終調整している。
* 引用、ここまで。

この記事だけでは実際にどのようなやり取りがあったのかよくわかりませんので、大石あきこ氏(れいわ)の『X』からも転載させていただきます。いつもながら大石氏が舌鋒鋭く枝野幸男会長(立民)に異論を唱えている様子が目に浮かびます。

大石あきこ れいわ新選組 衆議院議員 大阪5区【ヤバい、6/12 #緊急事態条項が進む】
2025年5月30日

5/29、衆議院憲法審査会の幹事懇談会で、緊急事態条項が一歩前に進められる動きがあった💢
報道画像のように野党第一党の立憲は5/15には「改憲の起草委」を「あり得ない」と一蹴したはずが、2週間後の5/29に「改憲の骨子の幹事懇での配布」はOKとした。

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つまり、
5/15「触らせて→あり得ない」
5/29「フェザータッチで→まあいいか」今ココ
改憲派(自公維国)は、こんなスケベジジイみたいなやり口で改憲すな!
立憲も応じるな💢
犠牲は国民やぞ。
以下、大石の発言を中心とした議事メモです(オブザーバー理事として発言)。

【緊急事態条項骨子案の提出について】
大石:憲法審査会(正式会合)で骨子案のペーパーを出さずに、幹事会(非公開の役員会合)で提出するというが、意味合いの違いはあるのか。
いずれにしても改憲の既成事実化の一歩であり、国民にとって許されない行為であり反対。

枝野会長:普通、幹事会は議事録等を残さない。もちろん幹事会がおこなわれそこで議論した事実としては残るが、いわゆる公的記録には議事は残らない。
(それはそれでヤバないか?)
枝野:反対のご意見もあったが、両筆頭間(自民と立憲のあいだ)で合意いただいたとおり、6/12幹事会で骨子案を提示することを認めると決めたい。
(両筆頭間で合意すな!)
(後略)
* 引用、ここまで。

枝野氏は「公的記録には議事は残らない」と(だから問題はないんだとばかりに)強弁していますが、氏も認めているとおり幹事会で議論した事実は残りますし、大石氏が「それはそれでヤバ(く)ないか?」と書いているように、傍聴者も記者もいない、ネット中継されずアーカイブも残らない、そんな密室での「スケベジジイみたいなやり口」での改憲骨子案の提出は絶対に認められません。

憲法と現実の乖離

続いて傍聴記に入りますが、この日のテーマは「憲法と現実の乖離」でした。5月21日の参院憲法審も同じテーマで開かれましたが、議論の内容は参院と衆院で大きく異なるものとなり、以下に転載させていただく『産経新聞』の記事にあるように、衆院では改憲各派がそろって「自衛隊の存在を憲法に規定する必要性を訴え」ました。

自民、維新、国民、公明が「自衛隊明記」で足並みそろえる それでも高い立民の「壁」
『産経新聞』2025年6月5日

与野党は5日の衆院憲法審査会で「憲法と現実の乖離」をテーマに議論した。自民党や日本維新の会、国民民主党、公明党は戦力の不保持などをうたう9条を取り上げ、自衛隊の存在を憲法に規定する必要性を訴えた。自民は秋の臨時国会の主題としたい考えだが、少数与党下の憲法審で主導権を握る立憲民主党を説得できるかは不透明だ。

「戦力の不保持と自衛隊の存在の問題は最も典型的な乖離だ」。与党筆頭幹事の船田元氏(自民)は憲法審で自衛隊を憲法に明記すべきだと述べた。また、「実力組織としての自衛隊の保持を定めようとするものだ。主眼は国防規定の創設にある」と強調した。

維新の阿部圭史氏は、同党がこのほど9条2項の削除による集団的自衛権の全面容認などの方針を決めたことを説明。「安全保障環境の変化に即応し、平和と独立をどう守るかという現実主義に基づいた視座が不可欠だ」と語った。

国民民主の浅野哲氏も自衛隊の存在を規定し、「憲法と現実とのねじれを正面から解決すべきだ」との見解を示した。

公明の浜地雅一氏は「自衛隊の違憲論解消のために憲法改正が必要だというのはいささか無理がある」と述べた。ただ、内閣の職務権限を定める73条に自衛隊に対するシビリアンコントロール(文民統制)を規定する条項を盛り込む案に言及した。

こうした意見と一線を画したのが立民やれいわ新選組、共産党だ。立民の山花郁夫氏は自衛隊や安全保障には触れず、学問の自由を守ることや、「同性婚に対する法的整備は喫緊の課題だ」などと主張した。

改憲政党の足並みがそろったことを受け、船田氏は憲法審終了後、記者団に「秋の臨時国会では9条がある程度、テーマになり得るし、しなければいけない」と意気込みを語った。しかし、現状は改憲政党の議席は衆院で憲法改正の発議に必要な3分の2を下回っており、立民からは「わが党が乗れる項目で発議してはどうか」(閣僚経験者)と足元を見られている。(末崎慎太郎、内藤慎二)
* 引用、ここまで。

この記事で紹介されている船田(自民)、阿部(維新)、浅野(国民)、濱地(公明)の各氏の発言はいずれも各会派を代表して1巡目に行われたもので、もう1つの改憲勢力である有志の会の北神圭朗氏も「憲法9条が我が国の安全保障の現実に耐え得るのかを検討すべきだ」などと主張しました。

また、2巡目に発言の機会を得た改憲勢力の委員たち、発言順に柴山昌彦(自民)、大野敬太郎(自民)、和田有一朗(維新)、高市早苗(自民)の各氏もこぞって憲法9条と自衛隊の現実との乖離を取り上げ、「子どもになぜ日本は戦力を持ってはいけないのに自衛隊は許されるのかと尋ねられても説明が難しい(柴山氏)」、「日本国憲法は占領下で制定されたために国防規定を欠いている。本来ならGHQが引き揚げ主権を回復した1952年に改正すべきだった(大野氏)」、「2012年の自民党の憲法草案がベストだと思っているが、まず現在党として提案しているものをベースに考えていきたい(高市氏)」などと述べていました。

一方、「こうした意見と一線を画したのが立民やれいわ新選組、共産党だ」ったわけですが、立民の発言者は、『産経』の記事で紹介されている山花郁夫氏のほか2巡目に発言した平岡秀夫氏も武正公一氏も「自衛隊や安全保障には触れず、」平岡氏は死刑制度を、武正氏は予備費の過大な計上や憲法に規定されていない補正予算の常態化など財政の問題を取り上げました。立民の党内では、憲法9条と自衛隊の現実との乖離をどう考えるか相容れない立場のグループが、同床異夢と言うか呉越同舟と言うかかろうじて1つの看板の下に集まっているのだと思いますが、改憲勢力に対抗するためには、分裂もいとわずに党内で議論を重ねることが必要なのではないでしょうか。

大石あきこ氏(れいわ)は憲法の前文を引用しながら、次のように「憲法と現実の乖離」を指摘しました。
「『そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する』とあるのに、なぜ国民の6割が生活が苦しいと言っているのか、なぜ政府は能登の復興をちゃんとやらないのか、なぜ政府は万博をやってカジノを推進しようとしているのか。そして今、なぜ政府は主食を作る農家を徹底的に潰そうとしているのか、国民がお米を食べられないようになっているのか。」

「『われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する』という前文をかみしめるなら、今世界で起きていること、ガザでの虐殺に思いをはせるべきではないか。なぜ、政府はイスラエルに加担するのか、国際法違反、戦争犯罪を許すのか。今、日本がイスラエルと結んでいる様々な連携協定、貿易協定や防衛の協定を見直したり破棄することもやらないのか。武器の見本市を開いて実証済みだとされるイスラエルの武器を並ばせる、武器の取引をやめなきゃいけない。そしてパレスチナの人々が望む形での国家承認をしなければいけない。
例えばスペインはイスラエルとの武器の取引をやめると明言した。国家承認も決めている。憲法前文を持つ日本もやれるし、やらなきゃいけない。」
そうだ!

また、赤嶺政賢氏(共産)は、ひめゆりの塔の説明文を歴史の書き換えと言い放った西田昌司参院議員(自民)や陸上自衛隊第15旅団がホームページに再掲載した牛島満司令官の辞世の句を平和の歌だと強弁した中谷元防衛相を批判し、次のように指摘しました。
「重大なことは、こうした歴史を修正する動きが大軍拡と一体で進められていることだ。沖縄が戦場になることを前提にしている南西諸島の軍事要塞化と住民疎開計画の具体化は沖縄戦の教訓を真っ向から踏みにじるものであり、断じて容認できない。」

『産経』の記事では「それでも高い立民の“壁”」という見出しが付けられていますが、これは現在の衆議院の勢力図を前提とした見方です。時の政権は自らが有利だと判断したタイミングで衆院を解散し、総選挙に打って出ることができますから、近い将来、改憲勢力が衆院で3分の2以上の議席を回復しても不思議ではありません。

来月の参院選、そしてその後の衆院選の結果、改憲勢力が発議に必要な勢力を衆参両院で確保することになれば、「参議院の緊急集会」の権能をめぐって自公両党で衆参の不一致がある緊急事態時の議員任期延長の改憲より、集団的自衛権を位置づけ自衛隊を明記する改憲の方が先に発議される可能性はけっして低くないと思います。

さらに、現実はこうした明文改憲を横目に、石破政権の日米安保一体化、中国を名指しした戦争政治がどんどん進んでいます。私たちはこの現実を徹底的に弾劾しなければなりません。自国政府の現実の戦争政治に反対する抗議行動を学園で地域で職場で猛然と起こすときです。
戦争国会を弾劾し、反戦デモを広げ、これからも改憲絶対阻止の闘いに取り組んでいきましょう!

この日の委員の出席状況ですが、自民は始め4~6人ほどだった欠席者が徐々に減っていき、終盤ではごく短時間でしたが0人になったこともありました。これに対して立民は欠席者数の変動が小さく、常時2~4人が席を外していました。他の会派は全員が出席していましたが、ほぼ皆勤してきた北神圭朗氏(有志)は途中退席して戻ってきませんでした。同時刻に開催されていた農林水産委員会に出席するためだったようです。
傍聴者は30人強で今国会では多い方だったと思います。記者は始めは3人いましたが途中から2人になりました。(銀)

6月4日(水)、今通常国会5回目の参議院憲法審査会が2週間ぶりに開催されました。この日のテーマは「国民投票法等」とされ、下に転載させていただいた『NHK』の記事にあるように、SNS上の偽情報対策等について下記の3人の参考人から意見を聴取した後、委員からの質疑が行われました。
 北九州市立大学法学部准教授 山本健人氏(憲法学)
 日本ファクトチェックセンター編集長 古田大輔氏
 大阪大学社会技術共創研究センター特任准教授 工藤郁子氏(情報法政策)
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参院憲法審査会 SNSの偽情報対策などで参考人質疑
『NHK NEWS WEB』2025年6月4日

参議院憲法審査会では、憲法改正の国民投票を実施する場合、SNS上の偽情報対策をどのように講じるかなどをめぐり、3人の有識者による参考人質疑が行われ、メディアリテラシーの向上の必要性などが指摘されました。

このうち、憲法が専門の北九州市立大学の山本健人准教授は「インターネット上の偽情報の根絶や影響力の無効化はほぼ不可能だ」と指摘しました。
そして、国民投票にあたって、ファクトチェック機関への支援を含め、国が偽情報対策を講じることが望ましいという認識を示しました。

非営利団体である日本ファクトチェックセンターの古田大輔編集長は「ファクトチェックは必要不可欠だがそれだけでは不十分だ。うそは1秒でつけるが、ファクトチェックには最低でも数時間かかり、勝負にならない」と述べました。
そのうえで、一人一人の国民が偽情報から身を守るため、メディアリテラシーの向上などに取り組む必要性を強調しました。

AIと法律の関係に詳しい大阪大学の工藤郁子特任准教授は「外国グループによる介入も対策が必要だ。外国による世論操作は主権を脅かすもので国家安全保障上の大きなリスクだ」と述べました。
そして、先に成立した「能動的サイバー防御」を導入するための法律など現状の法制度で、国民投票の公平性をどこまで確保できるか議論するよう求めました。
* 引用、ここまで。

この日の審査会のテーマは論争的なものではなく、参考人から意見を拝聴するという雰囲気で終始しましたので、今回の傍聴記は、委員からの質問に対する参考人の回答の中で印象的だったものを1人1つずつ紹介するという形で終わりにしたいと思います。

まず、大変厳しい現状認識を示した古田大輔氏の意見です。
○高良鉄美氏(沖縄の風)
ファクトチェックをする機関として、憲法審査会を含めて国会議員からの支援というか、財政面あるいはそれ以外のものでも何か要望があればお聞かせいただきたい。

○古田大輔氏
何か一つやれば何とかなるというものはなく、総合的な対策をしていくしかない。
まず認識として持っていただきたいと思うのは、状況は加速度的に悪くなっているということだ。
私が大学生だった頃に見ていた文字の9割以上はプロの人たちが書いているもの、動画のほぼ100%はプロが作ったものだった。でも、今の大学生は9割以上のテキストや動画は素人が作ったものをプラットフォーム上で見ている。そこは全く違う。
私が10年前に新聞からインターネットメディアの世界に行ったとき、みんな情報が民主化されて人々が自由に発信・受信できるすばらしい世界が来たという夢を見ていた。しかし実際に何が起こったかというと、圧倒的なアルゴリズムの力によって、自分で自分の情報がコントロールできなくなってしまった。
私たちは今そのような大変な社会の中にいて、本当に民主主義がここを乗り越えられるかという議論をしていることをまず認識していただけたらと思う。

次に、ネットだけではなくテレビCM等も問題ではないかという指摘に対する工藤郁子氏の見解。
○山本太郎氏(れいわ)
国民投票法には広告宣伝の規制がほぼない。本日の議論は、ネットを中心とした話だと思うけれども、国民投票に関しては、テレビであったり新聞であったり様々なメディアにも注目をしていかなきゃいけないと思う。
まさにこの改憲というタイミングは、メディアにとって特需という言葉がぴったりはまると私は考えている。資金力のある勢力によって一方的な意見が1日中垂れ流されるといった事態が起こることは容易に想定できるけれども、国民投票におけるCM規制などが不十分なままで、一方で、国会の中では改憲の発議が急がれるような議論が進んでいる状況をどういうふうにお考えになるか。

○工藤郁子氏
資金の多寡というか、元々のお金がどれくらいあるかによって広告出稿料を大量に出せるか出せないか、それによって世論をどれくらい影響を与えられるかというのは、インターネット広告だけではなくて、むしろマスメディアに対する広告の方が深刻な課題に映っていると思う。
ここで注目すべきは、欧州の政治広告透明化規則の話で、その表示義務の中に、広告サービス事業者が受領した金銭等の総額が表示するように義務付けられていたり、あるいは広告のスポンサーが誰かというところも表示せよ、あるいは記録して保存せよということが義務付けられていることは、選択肢の一つとして参考とするに値する、注目に値すると考えている。
参院憲法審査会
(参議院憲法審査会室へはこの入口から入ります)

最後に、偽情報対策が言論統制につながらないようにするための方策に関する山本健人氏の回答。
○山本太郎氏
フェイクニュース対策は、おそらくこの先国会でも取り組みを進めていかなければならないことになっていくと思うけれども、その際に、政府であったり権力側に言論統制に使われないようにするために私たちが気を付けなければいけないところがあれば、ぜひ教えていただきたい。

○山本健人氏
違法化しなければそもそも削除等の要求を国側から出すことは基本的には難しいと考えており、その違法化の指定の仕方が明確に判断できるようにしておくことが望ましい。
つまり、言論市場において特定の言論を削除せよというときは、それの害悪が明白であって客観的に判断できるようにしておかなければいけない。曖昧な条件を付して削除みたいなことをやってしまうと、それはやはり最終的には違法なものになる、あるいは、フェイクニュースだったとしても、そこには何らかの疑惑や疑念が生じることになろうかと思う。
そういったことが生じると政府への信頼性が下がることになるので、そういった事態を招かないような法の建て付けを考えなければいけないということがポイントになるかと思う。

ほぼ同じテーマで行われた5月22日の衆議院での参考人質疑では欠席者が目立ちましたが、この日の参院憲法審ではほとんどの委員が出席していました。
傍聴者は始め20人くらいで、その後いくつかのグループが入場してきて50人ほどに膨らみましたが、14時前には元に戻りました(この日の審査会は13時に始まり15時頃終わりました)。記者は最初1人いましたがすぐにゼロになってしまいました。(銀)

5月22日10時から、2週間ぶりに今通常国会7回目の衆議院憲法審査会が開かれました。だいぶ遅くなってしまいましたが、報告します。
この日のテーマは、「憲法改正国民投票法を巡る諸問題(ネットの適正利用、特にフェイクニュース対策)」とされ、2人の参考人からの意見聴取と質疑が行われました。
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不安を覚えた枝野会長の過剰な意気込み

また、それに先だって枝野幸男会長(立民)から、4月17日に「国民投票協議会の具体的なイメージについて会長、会長代理、幹事、オブザーバーによる意見交換会を行ったので、その議論の概要を報告する」として、A4版2枚の資料に基づき、10分間ほどの説明がありました。
今回の「傍聴記」では、まず、この意見交換会について疑問を呈しておきたいと思います。

4月17日は木曜日で衆院憲法審の定例日でしたが、審査会本体ではなく意見交換会が開かれました。なぜそういう形を取ったのかについて、幹事である山花郁夫氏(立民)は、自身のホームページで次のように説明しています。

「審査会の形で開催しなかったのはなぜ?
技術的・細目的な問題であること、そもそも何が論点となるかについて認識が共有されていないことなどから、審査会本体で扱っても議論が拡散すると考えられたからです。また、正式な会とすると、会派ごとに発言時間なども均等にしますから、柔軟な運営ができないことも理由です。どこかのタイミングで、議論の要旨については審査会に報告される予定です。」

この説明には到底納得できません。認識が共有されておらず、議論が拡散しているテーマは他にもありますし、会派ごとに発言時間を均等にする「中山方式」を絶賛してきた枝野会長、船田元会長代理(自民)らが、柔軟な運営ができないという理由で憲法審での議論を避けるのは筋が通りません。何よりも傍聴者がおらず、ネットでの審議中継も行われない、つまり私たち有権者の目の届かないところで議論が進められることは、たとえ今回のように後日審査会で報告が行われるとしても、けっして許されないと思います。
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肝心の枝野氏による報告も本当にわかりにくいものでした。以下は当日配布された説明資料(衆議院憲法審査会のホームページに掲載されています)の最初と最後の部分ですが、「憲法改正の必要がない以上、広報協議会の議論も不要」、「改憲派の議員が多数となる中で、公平公正を確保できるのか」などの意見が出されているにもかかわらず、今後も「広報協議会の規程等の整備」の議論を、「憲法審本体以外の場」で着実に進めていこうという方向性が明確に打ち出されています。そして、この日は一方的に報告を聞かされるだけで、その内容について質疑が行われなかったことも大問題だと思いました。
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~中略~





 
私は、枝野氏が自ら報告を行ったことからも、会長として何らかの成果を上げたいという氏の並々ならぬ意気込みを感じました。今後の動向に最大限の注意・警戒が必要だと思います。

次に、この日の本題であった「ネットの適正利用、特にフェイクニュース対策」についての参考人(東京大学大学院工学系研究科の鳥海不二夫教授と桜美林大学リベラルアーツ学群の平 和博教授)からの意見聴取と質疑の概要を、『NHK』の記事と山花氏のホームページの報告を転載させていただく形で紹介します。
なお、意見聴取はそれぞれ20分ほど、質疑は8会派から1人ずつ(会長からの言及はありませんでしたが)おそらく各10分の持ち時間で行われ、この日の憲法審は12時10分過ぎに散会となりました。

衆院憲法審 SNS偽情報が国民投票に与える影響めぐり参考人質疑
『NHK NEWS WEB』2025年5月22日

衆議院憲法審査会では、SNS上の偽情報の拡散が憲法改正の国民投票に与える影響などをめぐり、有識者への参考人質疑が行われ、投票期間中などは、SNS事業者への規制を設ける必要性や、情報のファクトチェックを行う重要性などが指摘されました。

このうち、東京大学大学院の鳥海不二夫教授は、SNSでは、利用者が好ましいと思う情報ばかりが表示される「フィルターバブル」などで情報の偏りが発生すると述べました。
そして、対策として、プラットフォーム事業者への規制を挙げ、投票の期間中などに限って事業者に広告の停止を要請するといった措置が必要だと指摘しました。

桜美林大学の平和博教授は、偽情報対策として、情報の真偽を確認するファクトチェックを行うことが重要だと説明しました。
そのうえで、ファクトチェックを担う主体について、独立性の観点から民間主導で進めるべきだと指摘しました。
また、両氏ともに偽情報対策を行うことは、国民の判断の土台となる正確な情報の提供につながるものであり、検閲にはあたらないという認識を示しました。


【憲法審査会】偽誤情報対策について。
『衆議院議員 山花郁夫』2025年5月22日

今日(5/22)の憲法審査会は、東大の鳥海教授、桜美林大の平教授を参考人としてお招きし、意見聴取を行いました。

鳥海教授からは、偽誤情報コミュニティーに陥ると、脱出がほぼ不可能になることや、訂正情報が必ずしも良い結果をもたらすとは限らないことがあること、だからこそ肉体的健康を維持するのと同じように、情報的健康に資する支援が必要であるというお話を伺いました。

平教授からは、偽誤情報に対するファクトチェックの担い手は、非党派性や独立性、透明性などメディアとしての規律が求められるもので、公的機関とは切り分けるべきであること、公的機関は正確でわかりやすい情報を提供するという形で役割が異なるべきというお話を伺いました。

国民投票が行われる場合に、偽誤情報によって投票結果が影響を受けることはゼロにすることはできないかもしれませんが、極小化する必要があると考えられます。その制度設計にあたって、有意義な意見聴取であったと感じました。
* 引用、ここまで。

2人の参考人の意見はそれぞれ興味深いもので、委員による質疑も(いつものようにとんでもない発言をする委員はおらず)まずまずの内容でしたが、そうした中で1つだけ違和感を覚えたことを報告しておきたいと思います。

それは、鳥海教授がいわゆるエコーチェンバー(同じ価値観を持つ人々によって形成されるSNS上のコミュニティ)について、「偽・誤情報をよく拡散する人たちのコミュニティが存在し、その中では特定の偽・誤情報だけでなくそれ以外の偽・誤情報も発信されがちである」ことを指摘した際に、その実例として「ワクチンに関する偽・誤情報」を挙げ、「ここで偽・誤情報と言っているのは国や公的機関が発している正しいと言われている情報ではないもの」だと説明したことです。

これに対して、大石あきこ氏(れいわ)は、「ワクチンの後遺症に関して、例えば厚労省のホームページでは、ワクチンの副反応の死亡例は2件だとずっと表示されていた。でも、実際には医師が報告する副反応疑いの死亡例は2192件あって、その多くは因果関係がわからない中で、死亡との因果関係が否定できない例が2件だった。また、その時点で被害救済の認定件数は500件を超えていたので、それでもホームページで死亡例は2件しかありません、安全ですと言い続けることに不信が高まるのは、私には非常に納得がいくものだった」と述べていました。

福島第一原発の事故で発生した放射能汚染水の海洋放出をめぐる論争も典型例の一つだったと思いますが、政府や公的機関の主張が全て正しいということはあり得ません。過去政府等が嘘をついた事例は山ほどあるし、そもそも世の中には真偽が定かでない問題がたくさんあります。今後、国民投票における偽情報・誤情報対策や広報協議会のあり方等の議論が進められていく際には、このことを忘れずに批判・対抗していく必要があると思います。

参考人に失礼な欠席者の多さ

最後に指摘しておかなければならないのは、この日の欠席者の多さです。自民は特に甚だしく、参考人の意見聴取の際は4~5人でしたが、質疑に入ると急増し、21人の委員中過半数の11人が席を外している時間帯もありました。立民も同様で、意見聴取のときは2~3人でしたが、少しずつ増えて最後は16人(会長を含む)中8人が欠席となりました。維新も最初は4人全員が出席していましたが、質疑に入ると1~2人が欠席していました。これほど欠席者が多かったのは久しぶりで、参考人に対して本当に失礼だと思いました。

傍聴者は30人弱で今回も少なめでしたが、1時間ぐらい経過したところで20人ほどのグループが入場して50分間ほど質疑に聞き入っていました。記者は始めは2~3人でしたが途中から1人になり、0人になる時間帯もありました。(銀)

5月21日(水)、今通常国会3回目の参議院憲法審査会が2週間ぶりに開催されました。この日は、私の記憶する限りでは衆院を含め憲法審査会で初めて「憲法と現実の乖離」がテーマとされましたが、いつもより20分ほど遅れて13時20分頃始まった審査会は1時間ちょっとで閉会となり、発言する機会を得た委員は8会派の代表各1名プラス3名の計11名だけでした。これは、この日の審査会が10時から12時過ぎまで続いた本会議と15時開始の国家基本政策委員会合同審査会(党首討論)の合間を縫って行われたからで、傍聴者の中には遠くから通っている人も少なくないのに、なぜこんな日に憲法審査会の日程を入れたのかと腹立たしく思いました。
yurusuna
まず、この日の審議について簡潔に報じていた『共同通信』の記事を転載させていただきます。

自民、参院の「合区」解消を主張 憲法審、立・公は同性婚実現訴え
『47NEWS(共同通信)』2025年5月21日

参院憲法審査会は21日、「憲法と現実の乖離」をテーマに自由討議を実施。自民党は、参院選で隣接県を一つの選挙区にする「合区」解消を主張した。立憲民主党や公明党などは、同性婚を認めない民法などの規定を違憲とした複数の高裁判決を受け、同性婚の実現を訴えた。

自民の中西祐介氏は「投票率の低下や無効票の増加といった合区の弊害は明らかだ」と強調。28年参院選での合区解消に向け、議論の加速を呼びかけた。
立民の打越さく良氏は、同性婚や選択的夫婦別姓へ賛成が多数の世論調査を紹介し「望まれる諸制度の実現を先送りすべきでない。認めれば社会の幸せは確実に増える」と述べた。
公明の平木大作氏は、高裁で違憲判決が相次ぐ同性婚訴訟を取り上げ「立法不作為により、個人の尊厳に関わる問題を放置していいはずがない」と指摘。共産党の仁比聡平氏も「特定の家族観を押し付けて当事者を苦しめ続けることは許されない」と同調した。
日本維新の会の浅田均氏は「私立と公立の経済的負担の差は教育の機会平等の理念から乖離している」と力説した。
* 引用、ここまで。

この日の最初の発言者、中西祐介氏(自民)は、上掲の記事にあるように「合区」の解消を主張しましたが、私はこの問題のどこが「憲法と現実の乖離」なんだと思いながら聞いていました。氏は発言の最後の方で「現行憲法における地方自治の規定の規律密度の低さと地方公共団体が果たす役割の重大さという現実は、まさに是正すべき憲法と現実の乖離だ」と述べていましたが、ピンときませんでした。

社民・福島氏「憲法理念が生かされていない中で改憲を言うことは許されない」

続いて、この日「立憲民主・社民・無所属」会派を代表する形で全体の2番目に発言した福島みずほ氏(社民)が表明した意見を、少し長いですが氏の公式サイトから転載させていただきます。福島氏は、この日の発言者が取り上げた多くの問題を的確に整理して論述されていましたので、以下をお読みいただければ、(福島氏の表現を借りれば「枚挙に暇がない」)「憲法と現実の乖離」をめぐる重要な論点が網羅的に把握できるのではないかと思います(ただ、後述するように「天皇制」には触れていません)。ゴシックは引用者。

2025.5.21 参議院 憲法審査会での発言 福島みずほ公式サイト(社民党 参議院議員 比例区)

国会法第102条の6は、各議院に憲法審査会を設け、日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制について広範かつ総合的に調査することを目的の一つとしています。
その意味で、本日、憲法と現実の乖離について議論がされることは、憲法審査会の設置目的にまさにかなうものです。

日本国憲法98条は憲法が最高法規であると規定しています。
日本国憲法ができて、例えば民法の親族編相続編が大改正になりました。戦前、民法は妻は無能力者であると規定し、妻は婚姻によりて夫の家に入るとしていました。
しかし、憲法24条が家族の中の個人の尊厳と両性の本質的平等を規定し、家制度は廃止になり、また男女平等になりました。
まさに憲法の威力です。

そして、戦争しないと決めた憲法9条により、専守防衛、海外に武器を売らない、非核三原則、軍事研究はしないなどの原則が積み上がっていきます。まさに憲法を生かしていくという人々の動きが法制度や政策を作ってきました。だからこそ憲法と現実の間に乖離がある時に現実をどう憲法に近づけていくかが重要であり、憲法を現実の方に引きずり下ろすことは本末転倒の憲法を理解しないものです。

日本国憲法99条は天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官、その他の公務員は、この憲法を尊重し、擁護する義務を負うと規定をしています。まさに憲法を守らなければならないのは権力者です。
私たち国会議員も憲法尊重擁護義務を持っています。だからこそ、本当に憲法理念を生かしきれているのかということを常に問う必要があります。
憲法改正など憲法を十分に守ってから言えと言いたいです。

ところで、自民党日本国憲法改正草案は、国民に憲法を尊重する義務を課しています。つまり、憲法とは国民が国家権力を縛るものであるのに対し、自民党日本国憲法改正草案は180度回転をさせ、国家権力が国民を縛るものにしているのです。これはもう憲法ではありません。

憲法尊重擁護義務を持つ国会議員は憲法理念を実現するために多大なるエネルギーを注ぐべきであり、憲法理念がまだまだ生かされていない現実の中で、憲法改正を言うことは許されません。

まず、選択的夫婦別姓と同性婚について話します。
NHK日本語読み訴訟判決が述べたように名前は人格権です。結婚をするときに、どちらか一方が必ず改姓しなければならないことは、憲法13条が保障する人格権、個人の尊重と幸福追求権を侵害しています。また、夫または妻となっているものの女性が95% 氏を変えていることは、憲法14条の法の下の平等に反しています。また、一方が必ず結婚改姓を強制されることは憲法24条に反しています。
ところで、5月20日、自民党は公明党に選択的夫婦別姓について今国会では困難であり、650以上の法律や2700以上の政省令の見直しが必要であると説明しました。しかし、打越さく良議員の質問主意書の回答では4つの法律しか改正の必要はありません。間違った認識で違憲状態を放置することは許されません。
同性婚を認めないことは、明確な憲法違反であると5つの高等裁判所が断じました。憲法14条、憲法13条、憲法24条に反していることが理由です。好きになった相手によって、そもそも結婚届を一切出せないのですから、その不利益も極めて甚大です。5つの高等裁判所が違憲と言ったにもかかわらず、国会でまだ同性婚が成立していません。

選択的夫婦別姓と同性婚が認められていないことは、まさに憲法と現実の乖離です。憲法に合致するように法律を変えることで、幸せになる人を増やすことができます。実現できていないことは国会の怠慢です。
家族が崩壊するなどと言って、多くの人が幸せになることを妨害することは、憲法理念を理解せず、憲法尊重擁護義務を踏みにじるものです。憲法と現実の乖離を埋める努力をすることこそ、国会議員はやるべきです。

憲法と現実の乖離と言うのであれば、生存権の規定が国民に保障されていないことは大問題です。
生活保護の基準を引き下げたことに対して、命のとりで裁判が全国で提訴され、勝訴判決が相次いでいます。まさに生存権の侵害です。
訪問介護の報酬を減額したことで訪問介護事業所が倒産をしていっています。これこそ介護を受ける権利の侵害であり、生存権の侵害です。
高額療養費の自己負担額引き上げも生存権の侵害です。
ほとんどすべての憲法学者が集団的自衛権の行使は憲法違反であると言っているにもかかわらず、2014年安倍政権は集団的自衛権の行使を認める閣議決定をし、2015年安保関連法・戦争法を強行成立させました。
安保関連法・戦争法は憲法違反です。

憲法9条をもとに、戦後積み上げられてきた海外に武器を売らない、軍事研究をしないということも破壊されていっています。
2022年12月に閣議決定をした安保3文書の具体化が進められています。
沖縄南西諸島における自衛隊配備とミサイル計画、それが九州にもそして西日本にも全国にも広がり、全国の軍事要塞化が進められています。
戦争のできる国から戦争する国へ。憲法9条破壊が進んでいます。

そして、次々と憲法違反の法律が成立していっています。
現在国会で審議中の学術会議改革法案は、学術会議破壊法案であり、憲法23条の学問の自由を侵害するものです。
小西洋之議員が菅政権のときの6人の任命拒否について内閣法制局の文書の黒塗りを開示するよう求める東京地裁の裁判で勝訴しました。
この黒塗りが開示されることなく法案の審議入りはあり得ません。

憲法の規定が守られないことは枚挙に暇がありません。
憲法53条後段は、いずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があれば、内閣は召集の決定をしなければならないとしていますが、内閣が臨時会を招集しなかったことが今まで2015年、2017年、2021年など存在しています。まさに憲法を無視し、憲法規範の空洞化を政府自身が作っているのです。

たくさん存在する憲法と現実の乖離を埋めるべく、法律制定、法改正や政策の転換をすることこそ国会に求められています。なすべきは憲法改正ではなく、憲法理念の実現です。憲法を踏みにじっている人たちが憲法改正を言うことなど、言語道断、図々しいにもほどがあると言わざるを得ません。
現実を憲法に合わせ、憲法が保障する基本的人権が生かされる平和な社会を作っていくべきです。
憲法審査会にもその役割が期待されています。
* 引用、ここまで。

「立憲民主・社民・無所属」会派からはもう1人、打越さく良氏が最後に発言し、「憲法と現実が乖離する場合、憲法尊重擁護義務を負う私たち国会議員は現実を憲法に近づけなければならない」と述べた上で、『共同』の記事にあるとおり、選択的夫婦別姓と同性婚の実現を訴えました。

衆院との不一致があらわになった公明党・平木氏の発言

3人目の発言者、平木大作氏(公明)は、『共同』の記事にあるように同性婚の問題を取り上げ、「個人の尊厳に関わる問題は放置する一方で緊急事態における任期延長の議論に専心する姿は、国会議員が自分たちの身分保障に汲々としているようにしか国民の目には映っていないことに私たちは自覚的でなければならない」とまで述べていました。

5月29日付の『共同通信』の記事によれば、「衆院憲法審査会は29日の幹事懇談会で、緊急事態条項の骨子案を自民党、公明党、日本維新の会、国民民主党と野党系会派“有志の会”が6月12日の幹事会で共同で提示することを申し合わせた」そうですが、記事中の緊急事態条項とは平木氏が苦言を呈した選挙困難事態時における国会議員の任期延長の規定にほかなりません。
このように、公明党は衆院と参院で全面的に見解が食い違っているにもかかわらず、他の改憲勢力と共同で衆院憲法審の幹事会に緊急事態条項の骨子案を提示するというのです。あまりにも無責任であり政党としての体をなしていないと言わざるを得ません。

また、平木氏は、自衛隊の存在は「逐語的に読んだ9条の文言と最も乖離した状態にある」と指摘しながらも、「9条を改変してその存在を明記すべきとの主張は、多大な政治的エネルギーを使うだけでなく、営々と議論が積み重ねられてきた憲法解釈の安定性を揺るがす危険性があり賛成できない」と述べ、「我が国最大の実力組織である自衛隊に対する内閣や国会による民主的統制を確保する観点から自衛隊を憲法が定める統治機構の中に位置づけることについては、検討に値する」との見解を示しました。言うまでもなく自衛隊を憲法上の統治機構の中に位置づけても9条との乖離は解消されませんから、この議論は論理的に破綻していると思います。

改憲派として我が道を行く日本維新の会

4人目の発言者となった浅田均氏(維新)は、「日本国憲法の施行以来、現在に至るまでの時代の変化がもたらした憲法と現実の乖離」として8項目を掲げましたが、全体として焦点のぼやけた(個人的な感想です)発言でした。『共同』の記事では氏が「私立と公立の経済的負担の差は教育の機会平等の理念から乖離していると力説した」とありますが、これは8項目の4つ目、「教育の機会平等と教育格差」のところで氏がサラッと触れただけのことで、「力説した」という印象を受けた傍聴者は皆無だったと思います。

もちろん、浅田氏は改憲派としての主張も行っており、8項目の3番目、「安全保障環境の変化」で、「自衛隊の憲法上の位置づけが明確でないのは不幸なこと」で、「今こそ憲法の理念と現実の乖離を埋める必要がある。そうしないと日本国憲法は日本人を守ることはできない」と、粗雑な(これも個人的な感想です)議論を展開しました。また、7つ目の項目、「グローバル化と国際関係」でも、「9条の平和主義の解釈は、国連憲章や国際的な安全保障環境の変化を背景にし、議論しなおすべきだ」と述べていました。

そして、維新の改憲勢力としての主張を前面に打ち出したのが、審査会の後半で発言した松沢成文氏でした。氏は、「現行憲法の最大の問題点は、国の存続のため必須の条件である国家安全保障と国家緊急事態の対応を定めた条文が欠如していることだ」として、自衛隊を明記し緊急事態条項を加える改憲の実現を訴え、「参院憲法審の停滞を打破するため、まず各会派で緊急事態条項の案を提起し、徹底的に審議して憲法改正原案を作り上げよう」と呼びかけました。

このほか、この日の審査会では、下記の発言がありました。以下、参議院憲法審査会のホームページに掲載されている「発言者及び主な発言項目」から転載させていただきます。

川合孝典氏(国民)
憲法制定時には想定されていなかったデジタル化に対応して個人の尊厳を守り続けるための基本理念として、憲法13条に定める個人の尊重をサイバー空間へ拡張する必要があり、その上で各論的な人権保障規定として、14条関係では遺伝的属性による差別の禁止、18条関係では情報自己決定権の保障の追加を検討することなどが挙げられる。
プラットフォーム提供者が言論空間のみならず経済活動分野においても甚大な影響力を有している現状に鑑み、憲法21条に熟議可能な言論空間の確保規定を追加することや、プラットフォーム提供者の責務やその環境整備に関する国の責務に関する規定を22条に追加することが検討されるべきである。
デジタル時代の民主主義の在り方として、選挙や国民投票の公正を確保するための規律についても、憲法上明確にしておく必要があるか否かについて検討する必要がある。

仁比聡平氏(共産)
日本原水爆被害者団体協議会の田中熙巳代表委員が、日本政府が一貫して被爆者への国家補償を拒んでいるとノーベル平和賞授賞式の場で発言されたが、自民党政治が戦争の被害は受忍せよとの誤った立場を改めず、5年間で43兆円もの大軍拡や日米軍事一体化を進めていることは憲法の平和原則を根底から覆す暴挙である。
日米同盟絶対の戦争する国づくりへの暴走は、米国とともに世界から孤立する道であり、対話と外交の力で戦争の心配のない東アジアをつくり、憲法を生かす国民的な共同が必要。
同性婚の実現及び選択的夫婦別姓問題について、党派を超え、根深い家父長制的な固定観念を乗り越えて、誰もがお互いを尊重し合い、ジェンダーに基づく支配や暴力、差別のない社会に変えていくことが必要。

山本太郎氏(れいわ)
生活保護受給者、能登半島地震、奥能登豪雨の被災者、就職氷河期世代、奨学金債務のある若者らが苦しんでいるのは、憲法13条、25条が保障する基本的人権が侵害されているためであり、国がこれを長く放置する事例が多すぎ、これらを取り上げ、調査と対策を進めていくための議論が必要。
憲法審査会の最優先課題は、現行憲法をほごにし、30年続く悪政とその検証、それを改める具体を政府に突き付けることである。

髙良鉄美氏(沖縄の風)
憲法の最高法規性からすれば、憲法とかい離している現実を問題にし、議論していくのが国会の役割である。
憲法改正をすることが国会議員の義務であるとの主張は独善的である。
現実に合わせるように憲法を政策的に変えていくのではなく、現実を憲法に適合するように政策を策定し実施していくのが、法の支配の実現である。

和田政宗(自民)
繰延投票では、先行する投票結果を受けて繰延投票の結果に影響が出かねず、また、被災地以外の地域での衆議院選挙を受けて特別国会が召集された場合、特に災害対応や復旧復興に全力を注ぐべき重要な局面で被災地の意思が反映されないまま国会において様々なことが決定されることへの懸念がある。
災害時に民主主義の根幹である選挙を守るために、繰延投票などの現行制度について論点を整理しつつ、あらゆる事態を想定して憲法で備えることについて、現行憲法のままで対応可能か、憲法改正が必要かの議論を更に深めるべき。
* 引用、ここまで。

今、国会で「安定的な皇位継承」のあり方が協議されていることもあり、まずあり得ないだろうとは思いつつ、この日、ひょっとしたら天皇制についての発言があるのではないかとの興味を持って傍聴していたのですが、案の定、天皇制の「て」の字も出てきませんでした。今、議論されているのは女性天皇や女系天皇を認めるか、養子縁組みによる旧皇族からの男系男子の復帰を認めるかなど、天皇制の存続を図るための弥縫策ですが、そもそも憲法の基本的人権の尊重という大原則と天皇制が相容れないことは明らかであり、これこそ「憲法と現実の乖離」の最たるものでしょう。乖離というより、矛盾とか背反と表現する方が的確かもしれません。多くのマスメディアが毎年憲法改正に賛成か反対かというずさんな世論調査を行っていますが、改憲派の主張する改憲にはもちろん反対だが、天皇制を廃止する改憲には賛成だという方はけっして少なくないと思います。

今回、両院を通じておそらくは初めて憲法審査会のテーマとして取り上げられた「憲法と現実の乖離」については、衆議院でも6月5日に議論されることが告知されています。また、衆院憲法審では、6月19日の幹事会で改憲勢力の5会派(自民、公明、維新、国民、有志の会)から緊急事態条項の骨子案が提示されると報じられています。そして来月には参院選が行われ、衆院の解散総選挙も取り沙汰されています。
こうした中、今後、衆参両院の憲法審査会がどのように運営されていくのか、最大限の警戒心を持って注視していきたいと思います。

今回も委員全員が出席していました。
この日の傍聴者は20人弱で少なく、記者は最初3、4人いましたが最後は1人になりました。(銀)

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