5月8日、2週間ぶりに今通常国会6回目の衆議院憲法審査会が開かれました。この日のテーマは、「解散権制限」とされ、衆議院法制局の橘幸信局長から説明を聴取した後、自由討議が行われました。

まず、「解散権」とは何かについて『NHK』のホームページに掲載されている簡潔な説明をご紹介した上で、この日の憲法審について報じた『NHK』の記事を転載させていただきます。
衆議院の解散権とは
『NHK政治マガジン ねほりはほり聞いて!政治のことば』
衆議院の解散について、憲法では、◇内閣の助言と承認により、天皇の国事行為として行うとする7条と、◇衆議院で内閣不信任決議案が可決された場合(注1)に、10日以内に衆議院を解散するか、内閣総辞職をしなければならないとする69条に規定されています。日本国憲法の施行後に行われた24回の解散(注2)のうち、◇69条による解散は4回で、◇20回は、7条だけに基づいて行われました。7条による解散は、事実上、総理大臣が、最も都合が良い時期を選んで決めることができることから、解散権は総理大臣の『専権事項』、『伝家の宝刀』などと言われています。
注1:憲法69条には、内閣不信任決議案可決とともに信任決議案否決という条件が規定されています。
注2:この記事の作成日は不明ですが、下の記事にあるように、現在までに衆議院解散は26回行われています。
衆院憲法審 解散権制限めぐり 立民“法律で” 自民“慎重に”
『NHK NEWS WEB』2025年5月8日
衆議院の憲法審査会が開かれ、解散権の制限をめぐり、立憲民主党が、法律で恣意的な解散を抑制すべきだと主張したのに対し、自民党は、政治判断の機会をあらかじめ法律で縛ることは慎重であるべきだという考えを示しました
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衆議院事務局によりますと、今の憲法の施行後に行われた26回の衆議院の解散のうち、7条による解散が22回、69条による解散が4回だったということです。
このうち、7条による解散は、事実上、総理大臣が、最も都合がよい時期を選んで決めることができることから、解散権は、総理大臣の「専権事項」などと言われています。
8日の衆議院憲法審査会では、解散権の制限をめぐって議論が行われました。
このうち、自民党の山下貴司氏は「解散によって国民の意思を問うことは、国民主権の趣旨に沿うもので、政治判断の機会をあらかじめ法律で縛ることには慎重であるべきで、ましてや憲法上制限することは反対だ」と述べました。
立憲民主党の谷田川元氏は7条による解散のケースを挙げ「今やれば勝てるという判断で解散が強行され、時の政権が権力を維持するために国民の血税が使われた」と述べたうえで、法律で恣意的な解散を抑制すべきだと主張しました。
日本維新の会の青柳仁士氏は「今の憲法では解釈に幅が生じ、恣意的な解散を容認する余地が残る。乱用を防ぐためには、発動要件などを憲法上に明文化することが重要だ」と述べ、憲法を改正して対応すべきだと主張しました。
* 引用、ここまで。
デマと言っても過言ではない公明党、濱地雅一氏のとんでもない言い草
上掲の記事で紹介されている山下貴司氏(自民)、青柳仁士氏(維新)の発言は、それぞれ「衆議院の解散については党内議論は行っていないので、あくまで個人的見解として述べる」、「衆議院の解散について意見の集約は行っていないので、今日は個人的な見解として意見を述べる」と、ほとんど同じ表現で前置きをした上でのものでしたが、2人の解散権についての見解は、山下氏は憲法で制限することに反対だ、青柳氏は憲法で発動要件を明文化すべきだと対立していました。
そしてもうひとり公明の濱地雅一氏も、「解散権のあり方についてはこれまで党派としての見解を示していない。先日も党内議論を行ったが様々な意見が出て党としての統一見解に至っていないので、そのことを踏まえた上で発言したい」と述べていました。
過半数の議席を有する自公維の各党が意見をまとめることができていないなら、これまでの憲法審でできるだけ会派としての意見を述べるようにと促してきた枝野幸男会長(立民)は、この日このテーマでの憲法審の開催を避けるべきだったし、少なくとも自公維の委員を厳しく注意すべきだったのではないでしょうか。
また、濱地氏は安倍政権下での2017年9月の解散は、「幼児教育無償化に対する増税分の財源の使途変更」という、「その前の選挙の争点ではなかった新しい重大な政治課題に対処するためだったと思われる」という看過できない発言を行いました。
このときの解散の理由を、当時、自民党は次のように説明していました。
「今回の衆院解散は、世界的にも前例のない速さで進むわが国の“少子高齢化”と、核実験と弾道ミサイル発射を繰り返す“北朝鮮による脅威”の、2つの国難を国民の皆様と共に乗り越えていくにあたり、国民の皆様の信を問うために行われます。」(出典:自民党ホームページに掲載されている9月25日付の記事、「記者会見 安倍晋三総理・総裁が“国難突破解散”を表明」)
そして、この日赤嶺政賢氏(共産)が指摘したように、「その実態は、森友学園や加計学園の疑惑を隠すために解散権を乱用したもの」でした。
このことは常識です。確かに当時の安倍首相は解散の理由として消費税の使途変更にも言及してはいましたが、安倍氏、自民党が掲げたスローガンは「国難突破解散」だったのです。濱地氏の発言はデマ、フェイクと言われてもしかたのないとんでもないものだったと思います。
このことは常識です。確かに当時の安倍首相は解散の理由として消費税の使途変更にも言及してはいましたが、安倍氏、自民党が掲げたスローガンは「国難突破解散」だったのです。濱地氏の発言はデマ、フェイクと言われてもしかたのないとんでもないものだったと思います。

恣意的解散を抑制する法案を準備していると胸を張った谷田川元氏(立民)だが…
立憲民主党の谷田川元氏は、「恣意的解散を抑制するため、衆議院解散決定の手続き等を定めた法案を準備している」として次のようにその内容を述べ、各会派に共同提出を呼びかけました。
「内閣は、衆議院の解散を決定しようとするときは、その予定日と理由を10日前までに衆議院に通告し、あわせて議院運営委員会における質疑を義務づける。これにより、衆議院の解散が妥当なのか、総選挙の争点が何なのか、国民に判断材料を提供する。
また、過去2回の衆議院選では解散から選挙の期日までの期間が極めて短く(引用者注:2021年岸田内閣時には10月14日に解散、17日後の31日に投開票、2024年石破内閣時には10月9日に解散、18日後の27日に投開票でした)、地方選挙管理委員会の準備が整わず問題が生じたため、あらかじめ中央選管が全都道府県選管の意見を聴取し、それに基づいた中央選管の意見聴取後に内閣が選挙の日程を決めることを義務づける。」
この提案のうち前半の内閣から衆議院への通告、議運における質疑の義務づけの理由については、山花郁夫氏(立民、憲法審幹事)が自身のホームページでわかりやすく説明していますので、以下に転載させていただきます。
【憲法審査会】衆議院の解散について。
『衆議院議員山花郁夫』2025年5月8日
本日(5/8)の衆議院憲法審査会では、衆議院の解散がテーマになりました。衆議院の解散は、法的には、議員の任期満了前に、全員の議員としての身分を失わせる行為と定義されます。
ところで、国会は、全国民を代表する(43条1項)議員で構成されていることから、たとえば総理が施政方針演説を国会で行うのは、全国民の代表の前で演説することにより、間接的に全国民に対して行っている、という建前になっています。
にもかかわらず、いわゆる7条解散の運用では、本会議場に天皇の詔書がやってきて、これを議長が読み上げるという手続で解散が行われています。全国民の代表に対してはなぜ解散を行うのかという理由は説明されず、その後に総理談話あるいは記者会見で解散理由が説明されるということか行われています。
衆議院が解散されると、参議院は同時に閉会となることも憲法に規定されています(54条2項)。つまり、国会が閉会してから解散理由を対外的に発信しているわけで、こうした運用は国会軽視も甚だしいと言っても過言ではないと思います。衆議院議員が一人もいなくなって、参議院も閉会してから解散の理由を述べているのですから。
そもそも7条解散が適切かどうかという議論もありますが、仮に7条解散が認められるとしても、国会開会中に解散を行う理由について説明、あるいはそれに対する質疑などが行われるような運用に改める必要があるのではないでしょうか。
* 引用、ここまで。
説得力のある提案だと思いましたが、残念なことに谷田川氏はこんな意味不明の発言もしていました。
「これまで日本国憲法下で27回の衆院選が実施された。このうち任期満了によるものは1回だけだったが、全てが任期満了で行われたとすれば19回で済んだ。そうすると一度も解散がなければ8回分の経費が節約できたことになり、1回当たり約600億円、計4800億円の税金が使われずに済んだことになる。
2024年の政府の純債務残高の対GNP比を見ると、日本は236.66%で世界ワースト2位となっている。私は、日本がこれほどの借金大国になってしまったのは、頻繁に国政選挙が行われていることが大きな要因だと考える。」
この発言を聞いて、私の頭は中は「?(クエスチョンマーク)」で一杯になりました。谷田川氏はいったい何が言いたかったのでしょうか。解散を否定するなら金勘定の話ではなくもっとまともな根拠を示すべきだし、国政選挙の頻度と日本の政府債務の残高はほとんど無関係だと思います。
高市早苗氏(自民)の暴言を受けた船田元氏(自民)の情けない対応
さて、ある意味この日の憲法審査会で最も注目されたのは、高市早苗氏(自民)の発言でした。
まず、その伏線となった青柳仁士氏(維新)と船田氏のやりとりを紹介します。青柳氏は、維新の委員が臆面もなく毎回繰り返していることですが、この日のテーマとは関係なく、下記のように条文起草委員会の話題を持ち出しました。
「5月3日の記念日に開かれた民間憲法臨調と美しい日本の憲法をつくる国民の会共催の公開憲法フォーラムで、自民党の古屋圭司憲法改正実現本部長が条文起草委員会の必要性を強く訴えられていて、私も賛同の意を申し上げたが、ああいう(改憲の)支持者の前で勇ましく言うだけでなく、この審査会の場で実際にこれを作るんだと示すことが誠実な姿勢ではないか。」
これに対して、船田氏は次のようにもってまわった言い回しで答えました。
「起草委員会の設定については私も賛同したいと思っており、条文化の一歩手前までいった案件があることも事実だが、憲法改正についてはできる限り幅広く議論していく必要があり、他の項目についてはまだまだ議論が煮詰まっている状況にないと理解しているので、やや慎重に考えざるを得ないと思っている。」
そして審議会の終盤になり、おそらくは初めて発言した高市氏が、これもこの日のテーマとは全く無関係のことを述べたのです。
「先ほど古屋委員の外部の会での発言について言及された会派があったが、古屋委員には何の責任もない。私自身、政府から戻って所属委員会を選ぶに当たって、憲法審査会では緊急事態条項について議論が深まっていることを知り、条文の検討作業に加われることを楽しみにこの審査会に参加したが、その気配がない。先ほどの船田幹事の発言には落胆しており、毎回議題が変わって、条文案を持ち寄り議論する機会が持てないことを残念に思っている。」
これまでの事情を知らない新人委員が愚痴をこぼしたというだけのことだと思うのですが、なんと審査会終了後の記者団の取材に、船田氏は「15日の憲法審幹事懇談会で起草委設置を提案したい」と述べたというのです(『産経新聞』5月8日付記事「高市早苗氏、衆院憲法審の船田元・与党筆頭幹事に不満 “改憲条文案の議論なく残念”」による)。
そしてあろうことか、15日の幹事懇で船田氏はそれを実行し、武正公一氏(立民)に「ありえない」と一蹴されると、懇談会後の記者団の取材に対して、「場合によっては、憲法審とは別に改憲派5会派での起草委員会を作る」とまで述べたというのです(下に『時事通信』の記事を転載させていただきます)。それにしてもなぜ船田氏は自身の意見を会議の場で述べずに記者団に話すのでしょうか。


自民、起草委設置を提案 衆院憲法審、立民は反対
『時事ドットコムニュース』2025年5月15日
衆院憲法審査会の幹事懇談会が15日開かれ、自民党の船田元・与党筆頭幹事は憲法改正の条文案を作成する起草委員会の設置を提案した。立憲民主党の武正公一・野党筆頭幹事は「あり得ない」と反対した。
この後、船田氏は記者団に「場合によっては(改憲に前向きな)5会派での起草協議会を憲法審とは別の場所で作ることで対応せざるを得ない」と述べた。一方、憲法審の枝野幸男会長(立民)は「何をしたくて起草委員会と言うのか意味が分からない。起草委員会にこだわると破裂する。全部審査会が止まる」と否定的な見解を示した。(後略)
* 引用、ここまで。
いずれにせよ、憲法審の動向、特に起草委員会の設置をめぐる攻防には、今後も最大限の注意を払っていかなければならないとあらためて痛感しています。
憲法審査会で言論統制か?
最後にもうひとつ、審査会の最終盤でのやり取りを報告しておきます。今国会の傍聴レポートではいつも大石あきこ氏(れいわ)の発言を大きく取り上げているので今回は控えようと考えていたのですが、そういうわけにはいきませんでした。以下、大石氏の『X』から転載させていただきます(適宜改行しました)。
大石あきこ れいわ新選組 衆議院議員 大阪5区
【2025/5/8憲法審査会2】
れいわ新選組の大石あきこです。枝野会長にお伺いします。
前回ぐらいから、事前に質問要旨をできるだけ出してくれというルールに変わりました。私としてはこの場で、何度も打ち合いがあった方が、議論が深まるからという意見はしていたんですけれども。逆やんっては思っていますよ。だけどルールに従って、それやっているんですよ。
今回、衆議院法制局に質問要旨を出したんですね。ルールとして憲法審査会事務局というのが窓口で、まず質問要旨を出すんですね。
私の質問したかったことというのが、参議院緊急集会の70日限定説がおかしいでしょ、結局各会派内だったり衆参で一致していなくて、そこは崩れていますよね、任期延長改憲にとって、これは最大の矛盾点、ボトルネックであって、ちゃんと議論してそこを問うていく必要があると考えていたので質問したんですよ。
事務局が、今の段階では答弁ライン難しいって言ってきた。私の質問通告、衆議院法制局に70日限定説みたいな資料を出した、その資料がおかしいんじゃないかという趣旨のものなんですけれども、その質問については、今日の議題外なので現状答弁ラインは今の段階では難しいという。
質問、事前に通告したのに、それテーマ外だからダメだと言われたことになりますので。再発防止、枝野会長にどう考えるか。ご質問いたします。
枝野会長:私や船田会長代理、そして野党の武正筆頭等のところで、いま大石さんからご指摘ありましたとおり、今日のテーマとちょっとずれてますねと。できればそれは避けていただきたいということで、今回は私の責任で事務局にできれば避けていただきたいということを、お伝えをいただいたというふうに思っておりますので、質問自体を止めるわけのものではないし、できれば避けていただきたいというご要請でありましたので、質問を止めるものではないと申し上げましたので、質問をしていただければいいんだというふうに思っております。
(「できれば」って話ではなかった陰湿なやり方するな??)
* 引用、ここまで。

大石氏が問いただそうとしたこと、衆院法制局が作成した資料への疑問(より明確に言えば、衆院法制局の公正性への疑問)は、今国会の衆院憲法審での最大の焦点だと思います。枝野氏は「質問していただければいいんだ」と述べていますので、今後の成り行きを注視したいと思います。
この日の傍聴者は30人弱、記者は1~2人で、前回よりさらに少なくなりました。漸減傾向が続いています。
委員の欠席者は、自民も立民も最初は少な目でしたが少しずつ増えていき減少に転じるというパターンでした。自民は2~3人から6~8人になり最後は3人ほど、立民も2人から5~7人、3人と推移していました。委員数は自民が21人、立民が16人ですので、全体を通してみれば立民の方が出席率が低かったかもしれません。(銀)