4月16日(水)13時から14時30分頃まで、今通常国会2回目の参議院憲法審査会が2週間ぶりに開催され、「参議院の緊急集会」をテーマとして委員間の意見交換が行われました。
いつもは最初に各会派の代表が7分以内で、続いて他の委員が3分以内で発言するという形で審議が進められていますが、今回は発言順は変わらないものの全員が5分以内で意見を述べることとされていました。また、参議院の法制局長と憲法審事務局長が出席し、委員からの質問に回答していました。

まず、この日の審議について簡潔に報じた『共同通信』の記事を転載させていただきます。
自民、緊急事態へ改憲主張 立民は法整備訴え、参院憲法審
『共同通信』2025年4月16日
参院憲法審査会は16日、衆院解散後の緊急時に参院が国会権能を暫定的に代行する「参院の緊急集会」を巡り討議した。自民党は緊急集会の機能の明確化や、憲法改正による緊急事態条項の創設を主張した。立憲民主党は機能強化に向けた法整備を論議すべきだと訴えた。
自民の佐藤正久氏は「緊急集会を万全に機能させる課題への対応はもちろん、憲法に緊急事態対応の規定を置くことは必要だ」と述べた。緊急事態時の国会議員任期延長についても話し合う必要があるとも指摘した。
立民の熊谷裕人氏は緊急集会に関し「基本的な仕組みが整備されており、現状でも国民のために機能する」と反論。「緊急集会の機能強化と必要な法整備、選挙制度の連携を含めた運用改善の議論」を精力的に行うよう提案した。
公明党の佐々木さやか氏は、大規模災害時でも国政選挙が実施できるよう選挙人名簿のバックアップや郵便投票制度の改善が欠かせないとした。
日本維新の会の松沢成文氏は、緊急集会は中長期の活動を想定していないとし、参院でも緊急事態条項の新設に向けた議論を進めるよう要請した。
* 引用、ここまで。
あくまで「緊急事態条項」新設を主張する自民党の狙いは緊急政令規定
上掲の『共同通信』の記事で紹介されている佐藤氏の意見は、「参議院の緊急集会の権能は原則として国会の権能全てに及び、衆議院に先議権のある予算も含めて対応可能と考えている」と述べた後に表明されたものです。
佐藤氏は参院憲法審の与党側筆頭幹事ですが、同じく自民党の幹事である中西祐介氏は、さらに明確に次のように主張しました。
「(緊急集会は)平時の制度だから内閣総理大臣の指名や条約の締結の承認、本予算の議決は不可とする見解は受け入れられない。制定経緯等を踏まえれば、内閣が緊急の必要があると判断し提案した案件である限り、参院の緊急集会が審議することができるというのが我が会派の共通認識だ。
参院の緊急集会で議員が発議できる議案の範囲は、内閣総理大臣から示された案件に関連のあるものである限り、予算関連法案も含めて幅広く発議可能だと考えている。
参院の緊急集会でとられた措置は衆院の同意が得られなければ失効することから、内閣不信任決議案、内閣総理大臣の指名、本予算の議決、条約の締結の承認等は緊急集会で扱う案件としては適切でないという意見もあるが、衆院の同意がない場合の失効の範囲は将来に対するもので過去に遡及するものではないと解されており、参院の緊急集会の権能は原則として国会の権能の全てに及ぶと考えている。」
しかしながら、佐藤氏は『共同』の記事にあるように緊急事態対応の規定の必要性を提起し、発言の最後には「参議院の緊急集会と衆議院の任期特例の関係は、画一的にどちらかしか機能しないという棲み分けの考え方から離れて、任期特例により両院で対応すべき国難と言える具体的な場面を整理するための議論を深めていくべきと考えている」と述べました。つまり、佐藤氏は「衆議院の任期特例」を否定したわけではありません。
また、『共同』の記事で紹介されている「緊急集会を万全に機能させる課題への対応はもちろん」と「憲法に緊急事態対応の規定を置くことは必要だ」という発言の間には、「衆議院の任期特例等の様々な対処法についても議論を深めたうえで」との文言が挟まれていました。私は、佐藤氏の言う「様々な対処法」には緊急政令や緊急財政処分が含まれていると考えます。要するに、佐藤氏らの参議院の緊急集会の権能を最大限に認めるべきだとの主張の裏には、緊急政令、緊急財政処分を規定する改憲への策動が隠されているのではないかということです。警戒を緩めるわけにはいきません。
次に、各会派1巡目の発言者の中から、『共同』の記事では取り上げられていない山添拓氏(共産)と山本太郎氏(れいわ)の発言を紹介します。前者は『しんぶん赤旗』のウェブサイトから、後者は山本氏のオフィシャルサイトから転載させていただきますが、私はいずれも「本当にそのとおりだな」と思いながら聞いていました。
任期延長で権力乱用 山添氏 参院憲法審意見交換
『しんぶん赤旗』2025年4月17日
参院憲法審査会が16日開かれ、憲法54条の参院緊急集会に関する意見交換を行いました。
日本共産党の山添拓議員は、自民党などが緊急集会は臨時的で緊急時に対応できないとして、国会議員の任期延長などを主張しているのに対し、緊急事態を口実に権力が乱用された事例を挙げ批判しました。
日中戦争下の1941年に「国政について不必要に議論を誘発」するとして衆院任期が1年延長され、その1年後には「政治力の結集が戦争遂行のため緊要」だとして任期満了選挙が行われたことを示し、「選挙困難事態が恣意的に判断され、その結果が戦争の惨禍だった事実は決して看過できない」と強調しました。
また、内乱首謀罪で起訴された韓国の尹錫悦前大統領による「非常戒厳」や、経済的非常事態として国際緊急経済権限法を根拠にトランプ米大統領が強行した関税引き上げを挙げ「緊急時に名を借りた権力の乱用は至る所に実例があり、教訓を明らかにしている」と指摘。「危機をあおり緊急事態条項をと喧伝するのでなく、憲法に基づき権利を擁護する政治こそ国会に求められている」と強調しました。
* 引用、ここまで。
2025.4.16 憲法審査会「緊急事態条項? 改憲派はググれカス 公文式に行け!」
『山本太郎(れいわ新選組代表)』2025年4月16日
過去3年間の本審査会開催状況を確認すると、委員派遣など含む手続開催を除き、調査だけで、本日含め23回。そのうち3分の1以上に当たる8回が参議院緊急集会が議題に。そして、本日の議題も緊急集会。正直、またですかという気持ち。
参議院緊急集会の考え方の答えはもう出ている。衆議院憲法審査会に引っ張られ、足並みをそろえようとする動きは愚の骨頂、やめていただきたい。
参議院緊急集会の考え方の答えはもう出ている。衆議院憲法審査会に引っ張られ、足並みをそろえようとする動きは愚の骨頂、やめていただきたい。
国会議員の選挙なしで任期延長を含む改憲案を推し進めたいと考える衆議院憲法審査会の人々にとっては、この緊急集会の存在こそが邪魔で仕方ない。卑しい衆議院議員の中には、政府が緊急事態を宣言すれば、選挙の審判を受けることなく議員任期が無限延長できるというインチキを形にしようとする者たちがいる。この、選挙なしで議員任期延長の制度をつくるためには、邪魔になるものが参議院緊急集会。選挙できない状況になったら困るから選挙なしで任期延長をできるようにしたいといっても、緊急集会があるからその必要はない、それで終わってしまう。だからこそ、選挙なしで任期延長を実現したい者は、あの手この手で、参議院緊急集会は使えない、非常事態の制度ではないなどと言ってやり玉に上げてきた。
そうやって、無理やり何度も何度も緊急集会をテーマに審査会を開催し、事実と違う緊急集会の内容を流布し、会の開催回数を稼ぐのが彼らの戦略。そして、十分に議論はし尽くした、論点は出尽くした、改憲発議に進もうと、力ずくで前に進めようとしている。
そうやって、無理やり何度も何度も緊急集会をテーマに審査会を開催し、事実と違う緊急集会の内容を流布し、会の開催回数を稼ぐのが彼らの戦略。そして、十分に議論はし尽くした、論点は出尽くした、改憲発議に進もうと、力ずくで前に進めようとしている。
改憲を進めたい委員たちは、事実関係を示した上で反論されても、全くその反論に応えようとしない。例を1つ挙げるなら、参議院緊急集会は平時の制度だから緊急事態に備える改憲が必要という意見。これまでも、そして今でも繰り返し提示され続けている。
これについては、昨年5月15日の本審査会で川崎法制局長から、金森国務大臣は、帝国議会において、参議院の緊急集会について、予測すべからざる緊急の事態に対して暫定の措置をとり得る方途として規定したと、こう述べております、したがいまして、緊急集会の要件である国に緊急の必要があるときには緊急事態が含まれることは明らかであると思われますと答弁。
緊急事態のための制度であることが明確に示されている。これを聞いて、参議院緊急集会は平時の制度と言っていた人々は考えを改めるべきだろう。
(中略)
衆議院憲法審査会を冒涜するのかと言われても困る。その台詞はぜひ、その意味不明な発言を続ける者たちに向けていただきたい。このような形で参議院緊急集会を狙い撃ちした審査や憲法破壊につながる審査を繰り返すことは日本国にとって有害である。
前回述べたとおり、現行憲法が守られているかチェックすることが憲法審査会の第一の役割、それらをしっかり時間を掛け厳しく点検する必要がある。今まで審議されてこなかった議題の設定を求めます。
* 引用、ここまで。
衆院憲法審委員・藤原氏(立民)「学説のねつ造」発言に信ぴょう性あり
(なぜか参院憲法審では小西洋之氏(立民)が最終発言者となることが多いのですが)今回の審査会でも最後に発言した小西氏は、参議院法制局長から興味深い回答を引き出しました(下は、衆院憲法審委員の藤原規眞氏(立民)の『X』への4月18日付ポストから転載しました)。
また、自民党!の藤木眞也氏は、本多恵美参議院憲法審査会事務局長と、次のような質疑を交わしました。
藤木氏:参議院の緊急集会に関する近年の議論以前に、国会において、憲法54条1項と2項、3項との形式的な位置関係と参議院の緊急集会の開催期間を結びつける形で、いわゆる30日プラス40日で70日以内と限定する議論がなされたことはあったか。
本多氏:憲法54条の条文構造を根拠に、緊急集会の開催期間を70日以内と限定すべきとする発言は見当たらなかった。
なお、憲法54条の条文は次のとおりです。
第五十四条 衆議院が解散されたときは、解散の日から四十日以内に、衆議院議員の総選挙を行ひ、その選挙の日から三十日以内に、国会を召集しなければならない。
② 衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。但し、内閣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる。
③ 前項但書の緊急集会において採られた措置は、臨時のものであつて、次の国会開会の後十日以内に、衆議院の同意がない場合には、その効力を失ふ。
つまり、参議院の緊急集会は平時の制度でありその期間は70日に限定されるという議論は、近年の衆院憲法審での審議あるいはそこに提出された資料の中でいわば「発明」されるまで、学界でも国会でも一切行われてこなかったということです。
藤原氏はこれを「学説のねつ造」だとして、衆議院法制局の作成した『衆憲資102号』(今国会の3月27日の衆院憲法審で配布された『補訂版』のオリジナル版)と、与党側の筆頭幹事として衆院憲法審を取り仕切っていた新藤義孝氏(自民)が作成した「『参議院の緊急集会』に関する論点」というペーパーが、「奇しくも同じ日(2023年5月11日)に(衆院憲法審で)配布された」と、4月22日に『X』にポストしています。

私は、藤原氏の主張する「学説のねつ造」説の信ぴょう性は極めて高いことが明らかになってきていると思います。枝野幸男会長ほか衆院憲法審のメンバーに検証を求めましょう。そして小西氏が発言の最後に主張したように、「もはや矛盾、過ちだらけのカオスと化した緊急集会の暴論に依拠する任期延長改憲の即刻の破棄」を訴えていきましょう。
今回も、短時間席を外す者はいましたが、委員全員が出席していました。
傍聴者は前回と同じ25人ほどでしたが、審査会の終盤になって国会見学に来られたと思しい10人以上のグループが傍聴席に入ってこられました。また、残念なことに記者は一人もいませんでした。(銀)