昨年12月19日、11月28日に始まっていた臨時国会で衆議院憲法審査会が開催され、特別国会中(11/11~11/14)の13日に開かれた憲法審で新たに会長に選任されていた立憲民主党の枝野幸男会長の下で初めての実質討議が行われました。

傍聴人への注意から始まった憲法審
会議の冒頭、枝野会長から傍聴人に対して、傍聴のルールを守るようにとの「注意」がありました(傍聴券の裏面に記載されている『傍聴人心得』に、「委員会の言論に対して賛否を表明し、又は拍手をしないこと」との項目があります)。『産経新聞』によれば(下に2本の記事を転載させていただきます)維新の会の馬場伸幸幹事の幹事会での申し出がきっかけだったようですが、私は長らく憲法審を傍聴してきて傍聴人の振る舞いが審議の妨げになったと感じたことは一度もありませんし(一部の委員が聞き流せば済むところを過剰に反応した場面はときどき目にしましたが)、しばしば議場でヤジを飛ばしている馬場委員にそれを言う資格があるのか、本当に度量の狭い人間だなとあきれました。
なお、枝野会長の発言を正確に記そうと考えて『衆議院インターネット審議中継』のアーカイブを確認したところ、該当する部分の音声は見事に消去されていました。おそらく後日公表される『国会会議録』にも掲載されないでしょう。会長にも他の幹事会メンバーに対しても、記録に残せないような「注意」をするな、させるなと苦言を呈しておきたいと思います。
「拍手やヤジは控えて」 衆院憲法審が傍聴人に注意へ 維新が「目に余る」と問題提起
『産経ニュース』2024年12月13日
衆院憲法審査会幹事会は13日、憲法審の傍聴者に対し、審議中の拍手やヤジを控えるよう注意する方針を決めた。日本維新の会の馬場伸幸氏が6日の幹事懇談会で、傍聴ルールの再考を求めていた。馬場氏は産経新聞の取材に「拍手やヤジなど目に余るときがある」と説明した。
衆院憲法審には多くの傍聴者が集まるが、委員らの発言中にヤジなどが飛ぶことが少なくない。衆院関係者は「拍手やヤジは衆院規則で禁じられている」と説明する。
今年4月の衆院憲法審では維新の青柳仁士氏が、「共産党の発言の際に『そうだ』という声が聞こえてきた。わが党の馬場氏の発言の際にはヤジが聞こえてきた。特定の政党の応援をする行為はこの議場で許されるのか」と指摘。与党筆頭幹事を務めていた自民の中谷元氏が「憲法の議論は落ち着いた環境で冷静に行うことが大事だ。静かに議論を傍聴してほしい」と呼びかける場面があった。
枝野会長が傍聴ルール厳守呼びかけ 衆院憲法審 特定政党への拍手など問題視
『産経ニュース』2024年12月19日
衆院憲法審査会の枝野幸男会長は19日の憲法審の来場者に対し、傍聴ルールを守るよう呼び掛けた。これまでの国会で特定の政党に対する拍手や、意見を異にする政党へのヤジが相次いだことへの措置。同日の憲法審に臨んだ野党議員は「本日は静かだった」と振り返った。衆院憲法審への関心は高く、毎回、多くの傍聴者が集まる。拍手やヤジは衆院規則で禁じられている。
* 引用、ここまで。
まずはジャブの応酬? 静かな幕開け
この日の衆院憲法審では、昨年の衆院選を経て初めて憲法審の委員となった者が多いこともあり(会派別の委員、幹事の数も大きく変わりました)、最初に衆議院法制局の橘幸信氏から「衆議院憲法審査会における憲法論議の経過」について報告がありました。衆院憲法審のホームページにその説明資料が掲載されており、1997年の憲法施行50年を機に「憲法調査委員会設置推進議連」が結成されて以来今日までの議論の経過が簡潔に整理されていていろいろ参考になりますので、興味のある方はご覧いただくといいと思います。
橘氏の報告の後、今後の憲法審の議論の進め方をテーマとした自由討議に入り、まず各会派1人ずつ7分の持ち時間での意見表明があり、続いて発言を希望する委員からの質問が行われました。この「質問」はこれまでの憲法審とは異なるやり方で、従来の憲法審では意見表明も質疑も含めて1人5分以内とされていた制限時間が、今回は答弁の時間を含まずに1人3分以内で質問する形に変わりました。おそらく委員間の意見交換を促そうとの意図で枝野会長が主導して採用されたのでしょうが、今後も同様の議事進行が続けられるのか注目したいと思います。
この日の審議は、今後の進め方がテーマだったこともあるかもしれませんが、全体として軽いジャブの応酬という感じで、落ち着いた雰囲気の中で進行しました。自公与党の過半数割れ、改憲勢力も3分の2割れという新たな情勢の下で、各会派ともまずは様子見というところだったのでしょうか。定刻の10時に始まった審査会は、ほぼ予定どおり12時頃に閉会となりました。
以下、閉会後の枝野会長や自民党憲法改正実現本部長・古屋圭司委員の談話も含めて当日の論議のポイントが簡潔に整理されている『毎日新聞』と『NHK』のウェブサイトに掲載された記事を転載させていただきます。
衆院憲法審、枝野会長下で初討議 議員任期延長巡り各党に溝
『毎日新聞』2024年12月19日
衆院憲法審査会は19日、今国会初の自由討議を実施し、各党が今後の議論の進め方を巡って意見を交わした。10月の衆院選で自民党や日本維新の会などの改憲勢力が発議に必要な3分の2を割り込み、憲法審会長には立憲民主党の枝野幸男元代表が就任。枝野氏の下で、緊急事態での国会議員の任期延長を巡る議論がどう取り扱われるかが焦点となりそうだ。
先の通常国会では、自民、公明、維新、国民民主など4党1会派が緊急事態での議員任期を延長する条項について条文化を提案。6月13日の審査会では4党1会派の合意の下、自民の中谷元・与党筆頭幹事(当時)が緊急事態の範囲や任期延長の手続きなどをまとめた論点整理を提示したがその後、進展はなかった。
この日の審査会では、引き続き議員任期延長を優先して議論すべきかで各党の意見が割れた。自民の船田元・与党筆頭幹事は論点整理に触れ「これを発射台として、優先的に議論を進めていくべきだ」と主張。維新の馬場伸幸前代表も「総選挙を経ても、これまでの議論の積み上げを無にしてはならないことは言うまでもない。議員の任期延長などを規定する緊急事態条項の創設の論点は出尽くしている」と訴えた。
一方、立憲の山花郁夫氏は、避難所などでも投票を可能とする方法や、インターネット投票などの仕組みを検討することを優先すべきだと主張。現行憲法には、緊急時に国会の機能を代行できる参院の「緊急集会」の規定があることから「緊急集会で国会機能が維持できないという結論が参院で出されるのであれば、その後に衆院憲法審で議論するのが2院制のあり方、エチケットだ」と述べた。共産党の赤嶺政賢氏は「今、国民の多数が改憲を求めていない中で、憲法審査会は動かすべきではない」と強調した。
審査会では、船田氏を会長代理に指名。枝野氏は終了後、記者団に、今後の進め方について「今日の議論を踏まえて、船田氏や幹事会などと年明けに速やかに整理していきたい」と述べた。議員任期延長については「一般論で申し上げても、従来の積み重ねを100%無視をすることはありえないし、委員ががらっと替わっているわけだから100%継続するということもおかしなことだ。それだけに拘束されることはない」と指摘した。
一方、自民は同日、党憲法改正実現本部を国会内で開催。古屋圭司本部長は「間違っても憲法審で議論が拡散することがあってはいけない。しっかり議論を集約していくための戦略をどうするか、知恵を絞っていきたい」とけん制した。【池田直、小田中大】
衆院憲法審査会 枝野審査会長のもと初討議
『NHK NEWS WEB』2024年12月19日
衆議院憲法審査会は、先の衆議院選挙のあと就任した立憲民主党の枝野審査会長のもとで初めての討議が行われ、今後の議論の進め方について各党が意見を表明しました。
19日の討議は「今後の議論の進め方」がテーマで、与党側の筆頭幹事を務める自民党の船田元経済企画庁長官は、緊急時の政府の権限や国会のルールを定める「緊急事態条項」に関連して国会議員の任期延長を最優先に議論を進めるべきだと主張しました。
そのうえで「韓国の非常戒厳を引き合いに『緊急事態条項は乱用のおそれがある』と言われるが、政治活動を禁止したり報道や集会を規制したりするものとは性質が異なる」と述べました。
日本維新の会、公明党、国民民主党、無所属の衆議院議員でつくる会派「有志の会」も、緊急時の議員の任期延長を優先して議論を進めることに賛同する考えを示しました。
これに対し、野党側の筆頭幹事を務める立憲民主党の武正公一氏は、緊急事態条項よりも、テレビCMを規制する国民投票法の改正が最優先課題だと主張し、SNS上での偽情報の拡散などへの対応もあわせて検討すべきだという考えを示しました。
そのうえで「選挙妨害やポスターなどの問題に対して法整備の必要性が指摘される一方、選挙運動や表現の自由の保障も重要であり、憲法の観点から議論すべきだ」と述べました。
このほか、審査会では自民党の船田氏を会長代理に指名しました。
このほか、審査会では自民党の船田氏を会長代理に指名しました。
枝野審査会長「議論の進め方 各党の最大公約数探っていきたい」
衆議院憲法審査会の枝野審査会長は、19日の会合のあと記者団に対し「各党の協力で審査会を開催できたことは、議論の中身を含めて大変有意義だった。議論の進め方について党派間で大きな違いがあるので、これからその中の最大公約数をしっかりと探っていきたい」と述べました。
自民 古屋氏「工夫しながら改正に向けた取り組みを進めたい」
自民党の憲法改正実現本部の本部長を務める古屋元国家公安委員長は会合のあと記者団に対し「憲法改正について党でも広く国民に訴え、正しい理解を醸成していくことは一番重要な役割だ。自民党は衆議院で過半数に達していないが、工夫しながら改正に向けた取り組みを進めていきたい」と述べました。
* 引用、ここまで。
衆院憲法審初のれいわ新選組・櫛渕委員の発言
次に、この日の審議から、いろいろな意味で気になった発言をいくつか紹介したいと思います。
まずは、先の総選挙の結果議席を大幅に増やし、初めて衆院憲法審に委員を送り込んだれいわ新選組・櫛渕万里氏(憲法審の委員は大石晃子氏ですが、今回は大石氏が新型コロナに罹患したため櫛渕氏が代理で出席したようです)の『X』への投稿から発言の冒頭部分を転載します。
「このかん、国民生活を取り巻く環境は大きく変化してきました。能登半島地震をはじめ多発する大災害や新型コロナ感染症のまん延、国際的な環境も厳しくなっています。さらに30年に渡る不況と物価高など、本来なら、憲法に基づいた政治を行うべきであるのに、『憲法を無視する政治』によって国民は苦しみ続けています。
反省すべきは自分たちであるはずが、改憲勢力は、あろうことか憲法に責任を押し付け、その改正を企んでいます。
わが党の山本太郎代表がたびたび述べるように、『憲法改正を語る前に今ある憲法を守れ。やるべきことをやれ』というのが、今日の、私の発言の趣旨です。」
この後、櫛渕委員は韓国における戒厳令の発令と解除にかこつけて緊急事態条項導入の必要性を『X』に投稿した維新の馬場伸幸氏と「国民民主党の元憲法調査会長で今は民間人の方」(菅野志桜里氏だと思われます)を厳しく批判するなどしていました。
櫛渕氏の発言を聞いていて、これまで改憲勢力が幅をきかせていた衆院憲法審にれいわの委員が加わったことで、議場の空気が多少なりとも変わっていくことが期待できるのではないかと思いました。
相変わらず???の維新・馬場幹事の発言
上述のようにれいわ・櫛渕委員に非難された維新の馬場幹事の意見表明の内容は、「非常事態時の国会議員の任期延長、国会機能の維持等を規定する緊急事態条項の創設」の一点張りでした。しかし、さすがに韓国の戒厳令発令・解除の顛末をその根拠にすることはできず、「どこかで議論に区切りを付け、多数決で結論を得ることが民主主義の原則だ」、「これまでの議論の積み上げを無にしてはならない」などと述べることで精一杯でした。
そしてあろうことか、「憲法審での実質討議は6月13日以来半年ぶりで、今国会では本日が最後だ」、「放っておけば、予算審議中は審査会を開かないという『因習』から、年明けの通常国会でも3月初めまで休眠状態になる」と言い募り、「年末年始の国会閉会中も審査会を開いて議論を前に進めよう」と呼びかけました。閉会中審査などあり得ないことを承知の上で、「因習」という言葉まで持ち出して暴論を吐いたのです。
そしてそれ以上に驚いたのは、維新、国民民主、有志の会が作成した緊急事態条項の条文案を「西修駒澤大学名誉教授が非常に優れた規定だと高く評価された」という発言でした。西修氏と言えば、2015年に強行された安保法制を合憲だとした極少数派の憲法学者の一人で、百地章日本大学名誉教授と並ぶ改憲派の憲法学者の二大巨頭です。馬場幹事は、その西氏が高く評価したことが条文案の正当性を裏付ける根拠になると信じているのでしょうか。
なぜか「環境権」を持ち出した公明・濱地委員
先の総選挙で議席を減らし、憲法審の幹事の座を失った公明党の濱地雅一委員は、「国会議員の任期延長を始めとする緊急事態への対応」と「国民投票を行うための広報協議会を含む議論の集積」が最優先の課題だとした上で、唐突に(と私は感じました)「公明党は以前環境権を提案したことがある」と切り出し、「気候変動や温暖化に対する国際社会の動きには大変激しいものがあり、もう一度環境権の問題にも取り組んでいきたい」と述べました。改憲をめぐって党内でそういう議論があるのか、あるいは「COP28に政府の一員として行った」という濱地氏の個人的な見解なのかわかりませんが、気になった発言でした。
選挙困難事態への対処をめぐる立民・山花郁夫幹事の主張
先の総選挙で議席数を伸ばした立憲民主党は、衆院憲法審の幹事会に枝野会長を含む4名を送り込むことになりました。うち武正公一氏(野党側の筆頭理事に就きました)と山花郁夫氏はかつて会長代理を務めた経験を持っており、なかなか強力な布陣だと思います。
その山花幹事が今回の衆院憲法審での自身の発言について『note』に投稿した記事から、後半部分を転載させていただきます。
選挙困難事態(緊急事態)について#憲法審査会
『note』2024年12月19日
2024年12月19日に衆議院憲法審査会が開かれました。表題の件について3回ほど答弁する機会があったのですが、全体をまとめてみました。
(中略)
昭和21年7月15日の第90回帝国議会における衆議院・帝国憲法改正案委員会において、北浦圭太郎委員から、日本国憲法においても明治憲法下における天皇の大権のような規定が必要ではないか、という趣旨の質問に対して、金森国務大臣は、「……特殊の必要が起りますれば、臨時議會を召集して之に應ずる處置をする、又衆議院が解散後であつて處置の出來ない時は、參議院の緊急集會を促して暫定の處置をする……」と答弁されています。すなわち、いわゆる緊急事態に対しては臨時会や参議院の緊急集会で対応するというのが制憲意思と考えられます。東京大空襲、広島・長崎被爆からまだ月日がたっていない時期であります。
緊急事態において参議院の緊急集会で対応可能かどうか、という議論については参議院での議論を先行させたうえで、もし、「緊急集会では国会機能が維持できない」という結論が出たのであれば、その後に、衆議院・憲法審査会で議論を行う、というのが日本国憲法の下での二院制の在り方、エチケットではないかと考えられます。したがって、少なくとも現時点で衆議院で議論すべき課題とはいえないと考えられます。
* 引用、ここまで。
この日の傍聴者は50人ほどでいつもより多めでしたが、新たな体制の下での最初の憲法審でしたし、この日の開催は早くから告知されていましたので、私はもっと多くの方が駆けつけるのではないかと考えていました。
それ以上に意外で残念だったのは記者の数で、3~5人しかいませんでした。今は議場でなくネットで視聴する記者が多数派なのでしょう。
カメラマンも最初は10人以上いたと思いますが、開会後5分ほどでほとんど姿を消してしまいました。自由討議の最初に自民党の船田幹事が発言を始めたときには数人が戻りましたが、またすぐに退出しました。
カメラマンも最初は10人以上いたと思いますが、開会後5分ほどでほとんど姿を消してしまいました。自由討議の最初に自民党の船田幹事が発言を始めたときには数人が戻りましたが、またすぐに退出しました。
テレビカメラは最初3台入っていて、途中から2台、最後は1台になりました。
委員の出席状況は、自民は3~4人、立民は2~3人が欠席していましたが、他の会派は全員が出席していました。また、名前は書かないことにしますが、ある立民の委員が長時間居眠りをしていたことが目に付きました。
この日の審議は全体として落ち着いた雰囲気の中で進行したと書きましたが、その背景にはいわゆる改憲勢力が3分の2を割り込んで、改憲の発議が当面は遠ざかったこと、なかでもこれまで声高に議員任期延長を規定する緊急事態条項の創設が必要だと主張してきた国民民主党の玉木雄一郎氏と公明党の北側一雄氏が憲法審の委員でなくなったことがあると思います(北側氏は先の総選挙に出馬せず引退しました)。
ただ、韓国の戒厳令の発布にすぐさま反応して緊急事態条項の必要性を主張する輩が現われるなど、改憲を実現するためにはどんなことでも利用しようと手ぐすねを引いている勢力が国会には存在しています。何より国会の外では日米軍事一体化のもと中国を敵国と名指しした日米軍事演習が繰り返され、戦争のための軍事費大増強が始まっています。国家緊急権の新設・9条改悪を軸とする改憲情勢の動向は予断を許しません。
2025年も気を緩めることなく、改憲・戦争絶対阻止の闘いに取り組んでいきましょう。その一助となるよう、憲法審の傍聴を続けます。(銀)