6月13日(木)10時から11時35分頃まで、今国会10度目の衆議院憲法審査会が開催され、9回目の実質審議が行われました。通常国会の会期は23日(日)までですが、事実上の会期末が21日(金)に迫る中、会期は延長されないだろう、終盤には内閣不信任案が提出されるだろう(提出された場合、その採決まで全ての審議がストップします)との見方が広がる中で、この日がおそらく今国会最後の実質的審議が行われる衆院憲法審となるだろうとの暗黙の了解の下、自由討議が行われました。

この日の審議では、冒頭、自民党の中谷元憲法審筆頭幹事が、『中谷の個人的メモ』という奇異なタイトルを付けたA4版一枚紙を提示し、「昨年6月15日の論点整理とその後の各委員の発言を踏まえて、国会機能維持条項に盛り込むことが考えられる事項の骨格を私なりに整理したものだ」、「資料の作成に当たっては公明党北側幹事、日本維新の会馬場幹事、国民民主党玉木委員、有志の会北神委員から詳細かつていねいなアドバイスをいただいた」と前置きした上で、その内容を説明しました。
『産経新聞』の記事がそれを詳細に紹介していますので、転載させていただきます。
衆院憲法審、自民が国会機能維持の論点整理を発表
『産経新聞』2024年6月13日
自民党は13日の衆院憲法審査会で、選挙困難時に国会議員の任期延長を可能にする憲法改正案の「たたき台」となる論点整理を提示した。必要性を共有する公明党や日本維新の会、国民民主党など5党派で調整した上で取りまとめられた。今国会の会期末が23日に迫っており、憲法改正の機運を盛り上げる狙いがある。
5党派は論点整理をもとに条文化を進め、国民投票で賛否を問うことを目指す。しかし、立憲民主党は憲法改正には慎重で、発議の時期は見通せない。野党筆頭幹事の逢坂誠二氏(立民)は憲法審終了後、記者団に「憲法改正が目的化している。(条文化は)今の段階ですべき状況にはない」と語った。
衆院憲法審の与党筆頭幹事を務める中谷元氏(自民)は憲法審で、緊急事態の対象として①自然災害②感染症③武力攻撃④テロ・内乱―を例示。選挙の一体性が害されるほど広範な地域に及び、解散や任期満了日から70日を超えて難しい場合を「選挙困難事態」の認定要件とした。
選挙困難事態が認定された場合、議員任期を延長する。選挙困難事態の期間の上限は最大1年とした。行政監視機能を維持するため、期間中は国会閉会や衆院解散、憲法改正を禁止。一方、危機管理能力を欠く首相を代える事態を想定し、内閣不信任決議案の提出は認める。
参院側には現行憲法に規定されている「参院の緊急集会」が軽視されることを懸念する声があるため、論点整理では緊急集会の機能拡充にも言及した。また、オンライン国会の活用にも触れた。
* 引用、ここまで。
そして中谷幹事の『個人的メモ』の説明に始まったこの日の審議の概要について、『産経新聞』の記事をもう1本転載させていただきます。
衆院憲法審、「閉会中審査」の要求相次ぐ 公明、維新、国民民主が自民の論点整理に賛意
『産経新聞』2024年6月13日
自民党が13日の衆院憲法審査会で提示した国会議員の任期延長に関する論点整理をめぐっては、必要性を共有する公明党や日本維新の会、国民民主党、衆院会派「有志の会」からも賛意の声が上がった。今国会の会期末が23日に迫る中、改憲案を作成するための閉会中審査の開催要求も相次いだ。改憲5党派のスクラムで立憲民主党と共産党の「護憲の壁」を崩せるかが焦点となる。
「発言内容に全面的に賛同申し上げたい」。公明の北側一雄氏はこの日の憲法審で、論点整理を公表した与党筆頭幹事の中谷元氏(自民)に同調した。
一方、自民の船田元氏は「閉会中審査を開くことを強く望みたい」と主張。維新の岩谷良平氏も「憲法議論に夏休みは必要ない。賛成会派のみでも(改憲案の)条文を起草し、国民投票で民意を問うべきだ」と訴えた。
閉会中審査への言及が相次いだ背景には窮屈な国会日程がある。衆院憲法審は20日が最後の定例日となるが、会期末間際の与野党攻防のあおりで開催は困難視されている。政府与党が会期延長を決断しない限り、閉会中審査で改憲案提出の環境を整えることが次善の策となる。
中谷氏は憲法審終了後、記者団に「閉会中審査と(改憲案を協議する)起草委員会を開いて議論していきたい」と述べた。昨年の臨時国会で維新と国民民主が自民に要求した閉会中審査は実現しなかったが、関係者は「あの時とは空気感が違う。改憲勢力は本気だ」と語る。
通常国会が延長されなければ自民が模索した改憲案提出は見送られる。ただ、閉会中審査で改憲案作りが進めば秋の臨時国会以降への提出が視野に入る。
野党筆頭幹事の逢坂誠二氏(立民)は閉会中審査に関して記者団に「現時点ではあまり現実的ではないと思っている」と述べた。中谷氏の説得が実らなければ森英介会長の職権で開く展開も予想される。
「今国会では起草委も設置されず、(岸田文雄首相が掲げた)自民総裁任期中の発議は不可能となった。猛烈な徒労感を覚えている。首相の政治責任が問われる事態だ」。国民民主の玉木雄一郎氏は衆院憲法審でこう強調した上で、閉会中審査の必要性に言及。「9月までに条文化作業が全く進まないのであれば総裁の職を辞すべきではないか」と述べた。(内藤慎二)
* 引用、ここまで。
船田幹事の狡猾な発言、北側幹事の筋の通らない発言
上掲の記事の見出しで強調されているように、この日の審議では改憲勢力の各会派の幹事・委員たちが、口をそろえて閉会中審査を求めました。
中でも私が特に警戒すべきだと感じたのは、船田元幹事(自民)の発言でした。
まず、船田幹事は
「中谷委員の発言を基に今後要綱案あるいは条文案を詰めていく必要がある。」
とした後、
「憲法審査会に起草委員会をつくる、あるいは衆議院法制局に原案の作成・提出を求めるという段取りが必要だと思っている。」
と述べました。法制局に作業を委ねれば短期間でそれなりの体裁の整ったものが出てくるはずで、本当に狡猾な発言だと思いました。

もう1つ船田幹事の発言でずる賢いなと感じたのは、閉会中審査が必要な理由として、次のように附則第4条の課題を持ち出したことです。

もう1つ船田幹事の発言でずる賢いなと感じたのは、閉会中審査が必要な理由として、次のように附則第4条の課題を持ち出したことです。
「テレビCMあるいはネットの規制のあり方、総量規制のあり方についてはまだ結論が出ていないが、2021年(船田氏は令和3年と言いましたが)に行われた国民投票法改正の附則で『法施行後3年を目途として検討する』とされた時期が今年9月18日に迫っている。このことを考え、当然のこととして閉会中審査を開くことを望みたい。」
一方、私がこれはひどい、支離滅裂だなと感じたのは、公明党の北側一雄幹事の発言です。
北側幹事は、改憲勢力の言う選挙困難事態における繰延べ投票の問題点を縷々訴える中で、こんなことを口走りました。
「広範な地域で選挙の適正な実施が困難な場合、その地域の選挙期日だけが長期間延期されると、選挙困難な地域の多くの有権者にとって、そのときの争点について投票機会を失うことになり、公平公正な選挙と言えなくなるのではないか。また、民意を十分に反映した選挙と言えるのかも問題になる。」


しかし、全国的に選挙を延期すれば、選挙が可能なはずのより広範な地域の有権者が「そのときの争点について投票機会を失う」ことになります。そして解散や任期満了によってすでに国会議員としての身分を失った議員たちは「そのときの争点」について支持を得て当選したわけではありませんから、彼らの任期を延長して開かれる国会は「民意を十分に反映した」ものとはなり得ません。極端に言えばゾンビ国会ではないでしょうか。
自公の痛いところを突いた城井委員の発言、憲法審の運営に違和感を表明した國重委員の発言
改憲勢力の発言ばかり取り上げるのも苦々しいですから、口直しとして参議院の緊急集会をめぐる自公両党の衆参両院での意見の違いを理路整然と追及した城井崇委員(立民)の発言を紹介したいと思います。以下、城井委員のホームページから要約して転載させていただきます。
緊急事態への対応を議論する際、参議院の緊急集会の権能については、当事者である参議院議員の意見も尊重すべきです。
本審査会での議論と今国会の参議院憲法審査会における議論を比較すると、参議院の緊急集会の案件及び権限を中心に、参議院の自民、公明両党の委員に衆議院側と異なる意見が少なからず見受けられます。
まず、自民党です。
昨年6月15日の本審査会で、当時の新藤筆頭幹事は、参議院の緊急集会は、有事を含むあらゆる事態に対応することを想定しておらず、このことは、中略、権限の限定や、中略、案件の限定があることといった二重の限定が付されていることに端的に表れていますと述べています。
一方で、先月29日、参議院で、自民党の佐藤正久筆頭幹事は、案件に関して、参議院の緊急集会において議員が発議できる議案の範囲に関しても、国会法に規定する内閣総理大臣から示された案件に関連のあるものという要件を幅広く解釈し、緊急の必要がある限り、予算関連法案を含め、広く発議を行うことができると述べておられます。
臼井正一委員も同じ趣旨の発言をされています。
また、権限についても、佐藤筆頭幹事は、仮に、参議院の緊急集会であるがゆえに、審議対象法案や予算に制限をかけ、緊急の対応が停滞すれば、民主政治を徹底させて、生命、自由及び身体の安全に対する権利を含む国民の権利を十分に擁護するという憲法の趣旨に反するとして、参議院の緊急集会における審議の対象となる法案や予算の範囲は、緊急の必要がある限り、制限はないと考えますと述べています。
参議院のこれらの意見は、首都直下地震という大規模災害を想定した議論の中で出てきたものです。
案件にしても権限にしても、衆議院での意見と参議院での意見、自民党内での議論の集約結果はどちらでしょうか。
次に、公明党です。
まず、案件について、昨年5月11日の本審査会で、濵地委員が、緊急集会で議論すべき案件も内閣の示したものに限られ、議員立法や行政監視機能といった一般の議員権能は制限されると発言されています。
これに対し、先月29日、参議院で、公明党の西田実仁幹事は、大規模な自然災害等の緊急事態においては、内閣が開催要求時に示すべき案件も包括的なものにするほかなく、それに応じて参議院議員の議案発議権等が及ぶ範囲も広範になりましょうと述べています。
これに対し、先月29日、参議院で、公明党の西田実仁幹事は、大規模な自然災害等の緊急事態においては、内閣が開催要求時に示すべき案件も包括的なものにするほかなく、それに応じて参議院議員の議案発議権等が及ぶ範囲も広範になりましょうと述べています。
次に、権限について、昨年12月7日の本審査会で、また本日の本審査会で、北側幹事が、参議院の緊急集会で本予算の審議はできない趣旨の発言をされているのに対し、先月29日、参議院で、西田幹事は、本予算についても、内閣の専断を抑制し、衆議院が構成されていない間にあっても民主的統制を及ぼすため、全国民の代表と位置づけられている参議院の緊急集会によって決めていかざるを得ないと述べ、本予算の議決も可能との立場を明確にされています。
5月16日の本審査会で、北側幹事は、党内でも意見調整、私はできると思っているんですけれども、しっかり合意が形成できるように今後努めていきたいと述べておられましたが、参議院の西田幹事の御発言はその約2週間後です。
案件、権限、それぞれに、公明党の意見集約結果はどちらでしょうか。
このように、緊急事態への対応を議論する大前提となる参議院の緊急集会に関する解釈が、与党両党内の衆議院と参議院で一致しない現状です。
条文化の議論を求める声もありますが、そのような段階に至っていないことが明らかであることを申し上げて、私の発言といたします。
* 引用、ここまで。
また、公明党の國重徹委員の発言からは、衆院の公明党も必ずしも一枚岩ではないのかもと思ってしまいました。
國重委員は、
「憲法審で選挙困難事態における国会機能の維持に集中して課題解決に向けた議論が展開されてきたことはいい流れだと思う。」
と前置きしながらも、NHKの朝ドラ『虎に翼』で、戦争で夫、兄、父を亡くして砕けそうになった主人公の心に希望を与えたのが、制定されたばかりの日本国憲法だったことを引いて、
「それ以外の重要な憲法のテーマが軽視されるようなことがあってはならない。」
「とりわけある問題、法律について違憲判決が出されたときには、具体の制度は所管の委員会に委ねるべきであるとしても、憲法問題についてはこの審査会で真摯に議論し、委員間で問題意識を共有しその議論を国民に知らせていくことが必要だ。
中谷筆頭幹事をはじめ幹事の皆さんにはこうした視点を取り入れたテーマ設定を今後の憲法審の運営において是非考えていただきたい。」
などと述べていましたが、私には今の憲法審の乱暴な進め方にやんわりと異を唱えているように思えてなりませんでした。
この日の傍聴者は55人ほどで今国会で最多だったと思います。うち10人強は細野豪志委員(自民)の後援者のようで、後援会関係のグループはたいてい20~30分ほどで退出するのですが、最初から最後まで傍聴を続けていました。
記者はこの日が今国会最後の憲法審になると想定されていたからでしょうか、いつもより多い6~8人が記者席にいて、日テレとTBSのテレビカメラも入っていました。
委員の出席状況は、自民党の欠席者は最初は0~3人だったのが中盤で7~8人に増え、閉会間際になると3~4人ほどに減るといういつものパターンでした。他党では立民の本庄知史幹事が終始欠席していたこと、共産の赤嶺政賢委員が会派代表としての発言を終えた後すぐに退席して戻らなかったことが目立ちました(後で調べてみると、赤嶺委員は同じ日の9時から始まっていた安全保障委員会で11時31分から30分間質疑に立っていたことが分かりました)。
さて、各メディアはこの日の憲法審の後、一斉に「改憲原案提出見送りへ 今国会 首相任期中の改正頓挫」(6月14日付『朝日新聞』)などと報じていましたが、議員任期延長の改憲など全く議論されていない参院憲法審も含めてフォローしていればとっくにわかっていたことで、何をいまさらと思わざるを得ませんでした。
しかし、これで一安心というわけにはいきません。改憲勢力はそろって衆院憲法審の閉会中審査を求めており、これが実現することは十分にあり得ると思います。また、改憲の発議に備えて国民投票広報協議会に関連する諸規程を整備する必要性についても合意しています。
また、今国会では、国から地方自治体への指示権を創設する改正地方自治法をはじめ、重要経済安保情報保護・活用法や食料供給困難事態対策法など、戦争ができる国づくりに向けた悪法が次々に成立しました。特に改正地方自治法の指示権は、自民党が2012年の「憲法改正草案」、18年の「改憲4項目条文イメージ」で示してきた緊急事態条項の緊急政令に酷似した制度であり、その発動を絶対に阻止しなければなりません。
これからも改憲に反対することはもちろん、戦争に向かうあらゆる策動に立ち向かっていきましょう。(銀)