5月25日(木)10時少し過ぎから11時35分くらいまで、衆議院憲法審査会が開かれました。3月2日の第1回から、5月4日の休日を挟んで、12回連続の定例日開催です。
この日は、国民投票を主なテーマとして、委員間の討議が行われました。最初に各会派の委員7人が7分以内で見解を表明し、続いて発言を希望する委員(その日の発言者はあらかじめ決まっています)が5分以内で意見を開陳するという慣例となっているパターンで議事が進められました。これもいつもと同じく、多くの委員が少しずつ制限時間をオーバーし、予定された終了時刻を数分経過して閉会となりました。
今回もやや唐突にテーマが変わった感がありますが、その背景はわかりません。前回の参考人質疑でコテンパンにやられた改憲勢力がどのように態勢を立て直すか、少し時間がほしかったということだったのかもしれませんが、考えすぎでしょうか。

今回も、まず、この日の各委員の発言の要旨をまとめた『東京新聞』のウェブサイトに掲載された記事を転載させていただきます。
衆院憲法審査会・発言の要旨 自民は国民投票手続き規定の整備、立民はCM規制を主張
『東京新聞TOKYO Web』2023年5月25日
衆院憲法審査会は25日開かれ、改憲の手続きの国民投票を巡って与野党の委員が討議した。発言の要旨は次の通り。
◆各会派代表の意見
新藤義孝氏(自民)
国民投票広報協議会は、憲法改正の発議があったときに国会に設けられる機関だ。現在、協議会の規定はまだ定められていない。放送・新聞広告に関する規定、事務局規定の制定や法改正は全く手が付けられていない。三つの規定と関連法の改正について、まずは事務方によるたたき台を作成し、(憲法審の)幹事懇談会等で成案を得るべく、各会派との協議を提案する。
国民投票広報協議会は、憲法改正の発議があったときに国会に設けられる機関だ。現在、協議会の規定はまだ定められていない。放送・新聞広告に関する規定、事務局規定の制定や法改正は全く手が付けられていない。三つの規定と関連法の改正について、まずは事務方によるたたき台を作成し、(憲法審の)幹事懇談会等で成案を得るべく、各会派との協議を提案する。
階猛氏(立憲民主)
わが党の国民投票法改正案では、放送CMについて、勧誘のCMは禁止。意見表明のCMは、政党は禁止するものの、それ以外の主体は資金規制に抵触しない限り自由に行える。ネットCMについては、政党は禁止した上で、それ以外はCM主体の情報を表示し、資金規制を守る限りは自由とする。ネットCM規制を国民投票法に盛り込むことは最優先で行うべき課題だ。
わが党の国民投票法改正案では、放送CMについて、勧誘のCMは禁止。意見表明のCMは、政党は禁止するものの、それ以外の主体は資金規制に抵触しない限り自由に行える。ネットCMについては、政党は禁止した上で、それ以外はCM主体の情報を表示し、資金規制を守る限りは自由とする。ネットCM規制を国民投票法に盛り込むことは最優先で行うべき課題だ。
三木圭恵氏(維新)
立民案は、勧誘のCMは主体を問わず全期間禁止され、政党は賛否の意見表明のCMも一律禁止するという案だ。表現の自由を侵害し、憲法違反の恐れがある。いつまでもCM規制の件で国民投票法案が膠着状態のままなのは問題だ。国民投票広報協議会の組織に関する課題、細則や規定をどうするか等の議論を深め、早急に結論を出すことをお願いする。
立民案は、勧誘のCMは主体を問わず全期間禁止され、政党は賛否の意見表明のCMも一律禁止するという案だ。表現の自由を侵害し、憲法違反の恐れがある。いつまでもCM規制の件で国民投票法案が膠着状態のままなのは問題だ。国民投票広報協議会の組織に関する課題、細則や規定をどうするか等の議論を深め、早急に結論を出すことをお願いする。
国重徹氏(公明)
デジタル社会の問題に対し、国民のリテラシー向上も必要だ。国民が、どこに正確な情報が掲載されているかを容易に知ることができることも極めて重要。国民投票広報協議会がネット上で正確な情報を多く発信し、その情報に国民が簡単にアクセスできるようにする必要がある。国民投票広報協議会の具体的な役割について一定の合意を形成していくべき時期にある。
デジタル社会の問題に対し、国民のリテラシー向上も必要だ。国民が、どこに正確な情報が掲載されているかを容易に知ることができることも極めて重要。国民投票広報協議会がネット上で正確な情報を多く発信し、その情報に国民が簡単にアクセスできるようにする必要がある。国民投票広報協議会の具体的な役割について一定の合意を形成していくべき時期にある。
玉木雄一郎氏(国民民主)
ネットがテレビやラジオ以上に国民が情報を獲得する媒体となっている状況を考えると、国民投票広報協議会がネットを利用した広報や、禁止期間における政党の広告を行うための法整備が必要だ。その際、どのようなルールを定めれば公平性、公正性が担保されるかが重要だ。国民投票広報協議会に何らかのファクトチェック機能を持たせることも検討すべきだ。
ネットがテレビやラジオ以上に国民が情報を獲得する媒体となっている状況を考えると、国民投票広報協議会がネットを利用した広報や、禁止期間における政党の広告を行うための法整備が必要だ。その際、どのようなルールを定めれば公平性、公正性が担保されるかが重要だ。国民投票広報協議会に何らかのファクトチェック機能を持たせることも検討すべきだ。
赤嶺政賢氏(共産)
現行の国民投票法は、国民の民意をくみ尽くし、正確に反映させるという点で重大な欠陥がある。具体的には、最低投票率の規定がないこと、公務員や教育に携わる者の投票運動を不当に制限していること、改定案に対する広告や意見表明の仕組みが公平公正なものになっていないことの3点。欠陥を放置したまま、改憲論議だけを推し進めることは、幾重にも許されない。
現行の国民投票法は、国民の民意をくみ尽くし、正確に反映させるという点で重大な欠陥がある。具体的には、最低投票率の規定がないこと、公務員や教育に携わる者の投票運動を不当に制限していること、改定案に対する広告や意見表明の仕組みが公平公正なものになっていないことの3点。欠陥を放置したまま、改憲論議だけを推し進めることは、幾重にも許されない。
北神圭朗氏(有志の会)
国民投票だけでなく、あらゆる選挙で外国からのよからぬ意図を持った偽情報に備える必要がある。国民投票広報協議会と民間団体が連携するだけで、氾濫する偽情報に対応しきれるか。民間任せでなく、国民投票広報協議会にファクトチェック機能を担わせる必要がある。外国からの選挙介入を突き止める能力の向上、有権者に真実を伝達する体制が強く求められる。
国民投票だけでなく、あらゆる選挙で外国からのよからぬ意図を持った偽情報に備える必要がある。国民投票広報協議会と民間団体が連携するだけで、氾濫する偽情報に対応しきれるか。民間任せでなく、国民投票広報協議会にファクトチェック機能を担わせる必要がある。外国からの選挙介入を突き止める能力の向上、有権者に真実を伝達する体制が強く求められる。
◆各委員の発言
神田憲次氏(自民)
政党のCM規制については、慎重な議論が必要だ。国会の議論を一番よく知っている政党が、国民投票の公平公正を担保しつつ、国民に対し国会での議論を知らせていくことは重要だ。
政党のCM規制については、慎重な議論が必要だ。国会の議論を一番よく知っている政党が、国民投票の公平公正を担保しつつ、国民に対し国会での議論を知らせていくことは重要だ。
奥野総一郎氏(立民)
改正国民投票法付則4条は施行後3年をめどに、CM規制、ネット規制等について、必要な法制上の措置を講じることを求めている。措置が講じられるまで、憲法改正発議はできない。
改正国民投票法付則4条は施行後3年をめどに、CM規制、ネット規制等について、必要な法制上の措置を講じることを求めている。措置が講じられるまで、憲法改正発議はできない。
岩谷良平氏(維新)
2005年の衆院憲法調査会報告書は緊急事態条項について「憲法に規定すべきとの意見が多く述べられた」とあるが、いまだに消極的、否定的な党がある。結論を出すべき時が来ている。
2005年の衆院憲法調査会報告書は緊急事態条項について「憲法に規定すべきとの意見が多く述べられた」とあるが、いまだに消極的、否定的な党がある。結論を出すべき時が来ている。
北側一雄氏(公明)
国民投票広報協議会で何ができるのか、どういう役割を持たせるのかということがだんだん議論されていくと、CM規制をどうしていくのかについての議論の参考、前提になってくる。
国民投票広報協議会で何ができるのか、どういう役割を持たせるのかということがだんだん議論されていくと、CM規制をどうしていくのかについての議論の参考、前提になってくる。
中西健治氏(自民)
投票環境整備については、今後も公職選挙法改正により国民投票法に反映させるべき項目が発生すると予想される。機械的に反映させるような仕組み作りを検討すべきではないか。
投票環境整備については、今後も公職選挙法改正により国民投票法に反映させるべき項目が発生すると予想される。機械的に反映させるような仕組み作りを検討すべきではないか。
本庄知史氏(立民)
外国勢力によるフェイクニュース、偽情報の流布、巨額の資金を用いた世論操作等も想定される中、これらを規制するための国民投票法の改正こそ、今国会で行うべき安全保障論議だ。
外国勢力によるフェイクニュース、偽情報の流布、巨額の資金を用いた世論操作等も想定される中、これらを規制するための国民投票法の改正こそ、今国会で行うべき安全保障論議だ。
* 引用、ここまで。
この記事では、各委員が国民投票をめぐる課題について述べた意見が要領よくまとめられていますが、私は、特に赤嶺政賢氏(共産)が指摘した最低投票率の規定、公務員や教育に携わる者の投票運動の規制のあり方が、2007年の改憲手続法成立時の附帯決議において検討課題として掲げられ、その後も法改正の度に取り上げられてきた事項であるにもかかわらず、最近の憲法審では全く議論されなくなっていることは大きな問題だと思います。
また、上掲の記事で要約されている階猛氏(立民)の意見表明に関連して、氏が発言の冒頭で「論点を明確にするため、昨年の通常国会以降の各会派の発言について私なりの視点で衆院法制局にまとめていただいた一覧表を提出することを幹事会に提案したが、本日もかなわなかった」、「(新藤義孝与党側筆頭理事=自民が)緊急事態における議員任期延長については早々と論点整理の資料を審査会に提出する一方、国民投票時の放送CM、ネットCM規制について我が党が論点整理を行おうとすると妨害するという手前勝手でご都合主義の態度は許されない」と述べ、新藤氏の専横ぶりを暴露したことは、私たちが憲法審の運営の実情を知る上でとても有益でした。
国民投票をめぐるこの日の議論は、(このテーマに全く関係なく、内容的にも理解しがたい意見を述べた岩谷良平氏(維新)を除けば)、国民投票広報協議会のあり方、テレビCM規制・ネット規制(CM、フェイクニュースなど)の可否やその方法、外国からの介入防止の重要性とその方法などをめぐって行われました。
このうち国民投票広報協議会について、『産経新聞』のウェブサイトの記事から、その位置づけや役割がわかりやすくまとめられている部分を転載させていただきます。
改憲発議にらみ事務作業も本格化 国民投票広報協議会
『産経ニュース』2023年5月25日
『産経ニュース』2023年5月25日
25日の衆院憲法審査会で焦点が当たった「国民投票広報協議会」は、憲法改正のルールを定めた国民投票法に基づき設置される組織だ。改憲発議から国民投票までの間、改憲の賛否両論をまとめた公報や新聞・放送広告などを介して国民の判断材料の提供を担う。(中略)
広報協議会は憲法改正案の内容や賛成・反対の意見などを記した「国民投票公報」の原稿作成▽投票所に掲げる憲法改正案の要旨の作成▽放送・新聞広告を介した広報-などを担う。(中略)
とはいえ、広告の掲載回数やインターネットを利用した広報の在り方、広報協議会事務局の人員などの細則は決まっていない。
また、事実に基づかない「フェイクニュース」の拡散を懸念し、「広報協議会にファクトチェック機能を持たせるか検討すべきだ」(中略)といった新たな提案もある。前例のない組織だけに、解決すべき課題は少なくない。(太田泰、内藤慎二)
* 引用、ここまで。
この広報協議会については、今後、新藤氏が提出したペーパーに沿って、上掲の『東京新聞』の記事にあるように、衆院憲法審の事務局が必要とされる規定のたたき台の作成等を行うことになると思われます。北側一雄氏(公明)もこれを歓迎する発言をしていますし、やや行き詰まっている感のある改憲項目の絞り込みに先だって、まずはこちらの議論が進められていくのかもしれません。
テレビやネットのCM規制、ネットやSNSによる意見表明の制限やフェイクニュース対策などについては、階猛氏が立憲民主党の方針をかなり具体的に説明したのに対して、三木圭恵氏(維新)がやれ「表現の自由を侵害するおそれがある」だの、やれ「ネットの規制は難しい」だの、否定的な意見を繰り返したことが印象的でした。その意図はよくわかりませんが、この問題を本格的に議論すればいつまでかかるかわからない、それで改憲が遠のくようなことは避けたいということかもしれません。
国重徹氏(公明)も、三木氏ほど露骨な言い方ではありませんでしたが同様の見解を述べ、さらに「この問題は国民投票に限られるものではなく、デジタル社会の問題は個人の尊重や平等など幅広い議論が必要で、国民のリテラシーの向上も必要だ」と、議論を拡散して雲散霧消させようとするかのような発言をしていました(酷評しすぎかもしれませんが、私はこのように感じてしまいました)。
これに対して、玉木雄一郎氏(国民)と北神圭朗氏(有志)は、広報協議会のファクトチェック機能の充実などを積極的に議論すべきだとの立場で、このテーマについては改憲勢力の中でもスタンスが異なることが明らかになりました。
やはり自説を曲げなかった改憲勢力の面々
参議院の緊急集会をめぐる前回の参考人質疑の内容がよほど悔しかったのか、この日のテーマとは無関係に、玉木氏(国民)と北側氏(公明)が参考人のいない場で反論を行いました。
特にあきれたのは玉木氏のこのような発言でした。
「40日、30日と憲法に具体的な数字が明記されている準則規定は、平時には100%守らなければいけないが、緊急時には生き残ることが最優先だから従わなくてもいいという(長谷部恭男氏の)主張は危険だ。この法理が許されるなら、例えば憲法9条の規定や解釈は全く意味がなくなってしまう。国家の存亡をかけた究極の緊急事態が戦争であり、そのとき国家の生き残りのためなら敵基地攻撃どころかフルスペックの集団的自衛権の行使も可能となる(からだ)。」
支離滅裂とはこのことで、何を言いたかったのかまったくわかりませんでした。


北側氏の発言にも驚きました。
「(長谷部氏によれば)憲法54条で40日、30日と日数を限っているのは、解散後いつまでも選挙を実施しない、選挙の後いつまでも国会を召集しないなど現在の民意を反映していない従前の政府が居すわり続けることのないようにとの考慮からだということだが、そんなことはない。(長谷部氏は)それほど日本の民主主義は熟度がないと思われているのかと私は感じた。54条の目的は、国会の二院制、同時活動の大原則から、衆議院が不在の期間をできるだけ短くしないといけないというところにある。」
北側氏は、戦時中、創価学会に対する大弾圧の中で創設者が獄死した教訓として、緊急事態時に権力が振るう圧政の底知れない恐ろしさを感じていないのでしょうか。また、憲法43条の「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する」という「原則」についてはどう考えているのでしょうか。
この日の傍聴者は30人弱でしたが、11時過ぎに20人ほどの団体が入場してきました。記者は5、6人でした。
前回の参考人質疑のときとはうってかわって自民の欠席者がいつも以上に多く、3、4人だった時間帯もありましたが、だいたい7、8人から10人くらいが席を外していました。他の会派は、一時的に離席した委員はいましたが、全員が出席していました。
今国会での衆議院憲法審査会は、緊急事態条項、特に議員任期の延長問題から、憲法9条、参議院の緊急集会、そしてこの日の国民投票と、次々にテーマを変えて開かれてきましたが、それは改憲勢力が発議・国民投票に向けたシナリオを描き切れていないことの表れだと思います。もちろん両院の勢力から見ても楽観は許されませんが、改憲阻止の展望は間違いなくあります。
会期延長がなければあと3回の審査会で、改憲勢力が一致して取り組めるような項目を打ち出せるのか、引き続き注視していきたいと思います。(銀)
会期延長がなければあと3回の審査会で、改憲勢力が一致して取り組めるような項目を打ち出せるのか、引き続き注視していきたいと思います。(銀)