6月12日(水)13時から、参議院憲法審査会が行われました。今国会6回目、4週連続の開催で、前々回、前回に引き続き「新しい人権」についての審議が行われました。
今回は「新しい人権」に関する締めくくりの審査という位置づけで、各会派(参院審査会では10もの会派が委員を出しています)の代表者の意見表明と自由討議が行われました。
わずか1時間で散会に
各会派代表者の意見表明では、舛添要一氏(改革)が1分30秒ほど、水戸将史氏(維新)も約2分30秒で発言を終えるなど、割り当てられた5分ずつの持ち時間を使い切らなかった委員が多く、10会派の発言が40分ほどで終わってしまいました。
また、小坂憲次会長(自民)が「発言は『新しい人権』だけでなく『二院制』など他のテーマに及んでもかまわない」と述べたうえで始められた(つまり、憲法に関わることなら何を言ってもよかった)自由討議の発言者は4人しかおらず、こちらは何と15分あまりで終了、所要2時間程度と予定されていたこの日の審査会は、開会から1時間も経たないうちに散会になってしまいました。
今回も委員の出席者は30人前後と少なく(定数は45名です)、とくに民主党は17人の委員中5~10人しか出席していないという体たらくでした。
参院選を控えて「終盤国会、開店休業」(6月6日付の『朝日新聞DIGITAL』の記事の見出し)の状態になっているとしても、開催するからにはもっと真剣に取り組んでもらいたいと思いました。
この日の傍聴者は20人前後(百万人署名運動は4人)、記者は5人ほどで、小林節氏が参考人として出席した前回に比べると、いずれも3割減という感じでした。
各会派代表者の意見表明
この日の審査会の内容については、まず、各会派の代表者が表明した意見をひととおり報じていた『NHK NEWS WEB』の記事(タイトルは「参院憲法審『新しい人権』巡り意見表明」)を引用しておきます(発言者の氏名は私が付記しました)。
参議院の憲法審査会で、憲法に「環境権」や「プライバシー権」などの新しい人権に関する条文を加えるかどうかを巡って、与野党10党が意見を表明し、自民党、公明党、生活の党、日本維新の会、新党改革の5党が憲法に明記すべきだと主張したのに対し、共産党と社民党は反対しました。
この中で、民主党(藤本祐司氏)は、「今の憲法に、保障すべき人権がすべて網羅されているわけではないが、容易に増やせば人権のインフレ化を招きかねない。環境権の確立は、まずは立法措置で対応できるかどうかを検討すべきだ」と述べました。
自民党(中川雅治氏)は、「時代の変化に的確に対応し、国民の権利の保障を充実させるため、新しい人権を憲法上も規定すべきだ。『法律で保障すればいい』という意見もあるが、憲法に規定することで権利が確実なものになる」と述べました。
公明党(西田昌司氏)は、「環境権など、時代の進展に伴って提起されている新たな理念を憲法に加えて補強する『加憲』が最も現実的で妥当だ。憲法に明記することで、積極的な立法措置を可能とするのが望ましい」と述べました。
みんなの党(松田公太氏)は、「時代の流れとともに、現実とのそごが生じ、新しい人権の概念が求められる可能性は否定しないが、立法措置で十分なのか、憲法に明記すべきなのかは、さらに議論を深めるべきだ」と述べました。
生活の党(はたともこ氏)は、「戦後の発展で、憲法制定過程で想定していなかった権利が発生したのは明らかで、憲法に明記することが不可欠だ。プライバシー権や環境権を明確に位置づけることは喫緊の課題だ」と述べました。
共産党(井上哲士氏)は、「今の憲法は懐の深い構造になっており、環境やプライバシーを本気で擁護するならば、憲法に基づいて立法で具体化することが可能だ。現実に合わせて憲法を変えるべきではない」と述べました。
みどりの風(亀井亜紀子氏)は、「新しい人権を明記するためだけに憲法を改正する必要はないのではないか。具体的な人権を個々に書き込むことで人権のインフレ化が起きると懸念している」と述べました。
社民党(福島みずほ氏)は、「新しい人権について憲法上の規定を設ける必要はない。憲法は時代に弾力的に対応できる構造になっており、包括的に保障されている人権の中に新しい人権も含まれている」と述べました。
日本維新の会(水戸将史氏)は、「良好な環境を享受することは国民の権利であり、その保全は国家と国民の義務だ。プライバシー権や知る権利、さらには公的な情報開示についての国の責任などを、憲法上もしっかりと明記すべきだ」と述べました。
新党改革(舛添要一氏)は、「現代社会の状況は大きく変わっており、新しい人権も付け加えるのが望ましい。障害者に対する差別の禁止や個人情報の保護などを憲法で定めることが、権利の不可侵性を担保する」と述べました。
この記事のリード(冒頭のまとめ)は、「自民党、公明党、生活の党、日本維新の会、新党改革の5党が憲法に明記すべきだと主張したのに対し、共産党と社民党は反対しました」となっていますが、みどりの風も否定的であり、民主党は慎重論、みんなの党はさらに検討すべきという立場でした。
特徴的だったのは、新しい人権の明記に反対または否定的であった3党(共産、みどり、社民)の代表者が参考人の見解を引用しながら意見を表明したのに対し、他の党派の代表者は参考人質疑の内容にまったく言及しなかったことです。いったい何のための参考人質疑だったのか、疑問を感じざるを得ませんでした。
この建物の4階角が憲法審査会が開かれている会議室です。
「討議」の名に値しない低調な自由討議
次に自由討議が行われましたが、上記のように発言者は4人しかいませんでした。
最初に足立信也氏(民主)が、「立憲主義は人類の到達した英知である」と前置きしたうえで、審査会での自民党の委員の発言の多くが立憲主義に立脚していないものであったことに「違和感を覚える」と苦言を呈し、続いて前川清成氏(民主)が、自民党の改憲草案で「公共の福祉」を「公益及び公の秩序」と置き換えていることについて、それが単なる言い換えではなく「人権相互の調整原理」を超えて「国のため、社会のため、お上のため」に基本的人権が制約される道を開こうとするものであるとするなら「私は大反対である」と述べましたが、なぜか自民党の委員たちからの反論はありませんでした。
あと2人の発言者は、会長代理の松井孝治氏(民主)と会長の小坂憲次氏(自民)でしたが、その内容は聞き捨てならないものでした。
すなわち、松井氏が「会長の下で活発な意見交換ができ」、「この間の会長のリーダーシップに心から敬意を表したい」と小坂氏をヨイショしてから、「この議論が引き続き次の国会に建設的につながっていけばいい」、「憲法を不磨の大典とすることなく、現代社会の潮流の変化に即応してしっかりと議論を深めていくべきである」と述べると、
小坂氏は「二院制」と「新しい人権」のテーマについては一区切りとして、「さらなる憲法ならびに憲法に関わる基本的法制について調査を進めていただきたい」、「日本のあるべき姿、そして市民生活の根底にある基本法制としての憲法のあるべき姿を、皆さんとともに追求していきたい」と呼応し、2人そろって今後も憲法審査会で改憲のための議論を進めていくという意志を明言した形で、今国会の憲法審査会を閉じたのです。(G)
今回は「新しい人権」に関する締めくくりの審査という位置づけで、各会派(参院審査会では10もの会派が委員を出しています)の代表者の意見表明と自由討議が行われました。
わずか1時間で散会に
各会派代表者の意見表明では、舛添要一氏(改革)が1分30秒ほど、水戸将史氏(維新)も約2分30秒で発言を終えるなど、割り当てられた5分ずつの持ち時間を使い切らなかった委員が多く、10会派の発言が40分ほどで終わってしまいました。
また、小坂憲次会長(自民)が「発言は『新しい人権』だけでなく『二院制』など他のテーマに及んでもかまわない」と述べたうえで始められた(つまり、憲法に関わることなら何を言ってもよかった)自由討議の発言者は4人しかおらず、こちらは何と15分あまりで終了、所要2時間程度と予定されていたこの日の審査会は、開会から1時間も経たないうちに散会になってしまいました。
今回も委員の出席者は30人前後と少なく(定数は45名です)、とくに民主党は17人の委員中5~10人しか出席していないという体たらくでした。
参院選を控えて「終盤国会、開店休業」(6月6日付の『朝日新聞DIGITAL』の記事の見出し)の状態になっているとしても、開催するからにはもっと真剣に取り組んでもらいたいと思いました。
この日の傍聴者は20人前後(百万人署名運動は4人)、記者は5人ほどで、小林節氏が参考人として出席した前回に比べると、いずれも3割減という感じでした。
各会派代表者の意見表明
この日の審査会の内容については、まず、各会派の代表者が表明した意見をひととおり報じていた『NHK NEWS WEB』の記事(タイトルは「参院憲法審『新しい人権』巡り意見表明」)を引用しておきます(発言者の氏名は私が付記しました)。
参議院の憲法審査会で、憲法に「環境権」や「プライバシー権」などの新しい人権に関する条文を加えるかどうかを巡って、与野党10党が意見を表明し、自民党、公明党、生活の党、日本維新の会、新党改革の5党が憲法に明記すべきだと主張したのに対し、共産党と社民党は反対しました。
この中で、民主党(藤本祐司氏)は、「今の憲法に、保障すべき人権がすべて網羅されているわけではないが、容易に増やせば人権のインフレ化を招きかねない。環境権の確立は、まずは立法措置で対応できるかどうかを検討すべきだ」と述べました。
自民党(中川雅治氏)は、「時代の変化に的確に対応し、国民の権利の保障を充実させるため、新しい人権を憲法上も規定すべきだ。『法律で保障すればいい』という意見もあるが、憲法に規定することで権利が確実なものになる」と述べました。
公明党(西田昌司氏)は、「環境権など、時代の進展に伴って提起されている新たな理念を憲法に加えて補強する『加憲』が最も現実的で妥当だ。憲法に明記することで、積極的な立法措置を可能とするのが望ましい」と述べました。
みんなの党(松田公太氏)は、「時代の流れとともに、現実とのそごが生じ、新しい人権の概念が求められる可能性は否定しないが、立法措置で十分なのか、憲法に明記すべきなのかは、さらに議論を深めるべきだ」と述べました。
生活の党(はたともこ氏)は、「戦後の発展で、憲法制定過程で想定していなかった権利が発生したのは明らかで、憲法に明記することが不可欠だ。プライバシー権や環境権を明確に位置づけることは喫緊の課題だ」と述べました。
共産党(井上哲士氏)は、「今の憲法は懐の深い構造になっており、環境やプライバシーを本気で擁護するならば、憲法に基づいて立法で具体化することが可能だ。現実に合わせて憲法を変えるべきではない」と述べました。
みどりの風(亀井亜紀子氏)は、「新しい人権を明記するためだけに憲法を改正する必要はないのではないか。具体的な人権を個々に書き込むことで人権のインフレ化が起きると懸念している」と述べました。
社民党(福島みずほ氏)は、「新しい人権について憲法上の規定を設ける必要はない。憲法は時代に弾力的に対応できる構造になっており、包括的に保障されている人権の中に新しい人権も含まれている」と述べました。
日本維新の会(水戸将史氏)は、「良好な環境を享受することは国民の権利であり、その保全は国家と国民の義務だ。プライバシー権や知る権利、さらには公的な情報開示についての国の責任などを、憲法上もしっかりと明記すべきだ」と述べました。
新党改革(舛添要一氏)は、「現代社会の状況は大きく変わっており、新しい人権も付け加えるのが望ましい。障害者に対する差別の禁止や個人情報の保護などを憲法で定めることが、権利の不可侵性を担保する」と述べました。
この記事のリード(冒頭のまとめ)は、「自民党、公明党、生活の党、日本維新の会、新党改革の5党が憲法に明記すべきだと主張したのに対し、共産党と社民党は反対しました」となっていますが、みどりの風も否定的であり、民主党は慎重論、みんなの党はさらに検討すべきという立場でした。
特徴的だったのは、新しい人権の明記に反対または否定的であった3党(共産、みどり、社民)の代表者が参考人の見解を引用しながら意見を表明したのに対し、他の党派の代表者は参考人質疑の内容にまったく言及しなかったことです。いったい何のための参考人質疑だったのか、疑問を感じざるを得ませんでした。
この建物の4階角が憲法審査会が開かれている会議室です。
「討議」の名に値しない低調な自由討議
次に自由討議が行われましたが、上記のように発言者は4人しかいませんでした。
最初に足立信也氏(民主)が、「立憲主義は人類の到達した英知である」と前置きしたうえで、審査会での自民党の委員の発言の多くが立憲主義に立脚していないものであったことに「違和感を覚える」と苦言を呈し、続いて前川清成氏(民主)が、自民党の改憲草案で「公共の福祉」を「公益及び公の秩序」と置き換えていることについて、それが単なる言い換えではなく「人権相互の調整原理」を超えて「国のため、社会のため、お上のため」に基本的人権が制約される道を開こうとするものであるとするなら「私は大反対である」と述べましたが、なぜか自民党の委員たちからの反論はありませんでした。
あと2人の発言者は、会長代理の松井孝治氏(民主)と会長の小坂憲次氏(自民)でしたが、その内容は聞き捨てならないものでした。
すなわち、松井氏が「会長の下で活発な意見交換ができ」、「この間の会長のリーダーシップに心から敬意を表したい」と小坂氏をヨイショしてから、「この議論が引き続き次の国会に建設的につながっていけばいい」、「憲法を不磨の大典とすることなく、現代社会の潮流の変化に即応してしっかりと議論を深めていくべきである」と述べると、
小坂氏は「二院制」と「新しい人権」のテーマについては一区切りとして、「さらなる憲法ならびに憲法に関わる基本的法制について調査を進めていただきたい」、「日本のあるべき姿、そして市民生活の根底にある基本法制としての憲法のあるべき姿を、皆さんとともに追求していきたい」と呼応し、2人そろって今後も憲法審査会で改憲のための議論を進めていくという意志を明言した形で、今国会の憲法審査会を閉じたのです。(G)