6月13日(木)、今国会11回目の衆議院憲法審査会が開催されました。
今回のテーマは、「日本国憲法の改正手続に関する法律における『3つの宿題』」のうち前回の審査会で時間切れのため積み残しとなった「国民投票の対象拡大」と、今国会の衆院憲法審査会を(おそらくは)締めくくる自由討議でした。

前回に引き続き、この日も自民党の委員が20~25人くらい出席していたため、全体の出席者数は35~40人程度となり、座席の7~8割が埋まっていました。
傍聴者は27~28人(百万人署名運動は4人)、記者は10人前後でした。また、冒頭だけNHKのカメラが入っていました。

国民投票の対象拡大について

国民投票法(改憲手続法)の附則第12条には「国は、この規定の施行後速やかに、憲法改正を要する問題及び憲法改正の対象となり得る問題についての国民投票制度に関し、その意義及び必要性の有無について、日本国憲法の採用する間接民主制との整合性の確保その他の観点から検討を加え、必要な措置を講ずるものとする」と規定されており、これが3つの宿題のうちのひとつ、「国民投票の対象拡大」の問題です。

今回も、最初に衆議院法制局からこの条文のポイントや国民投票法の制定過程での議論の経緯、内容等の説明があり、その後、自由討議が行われました。

自由討議では、自民党3名、民主党2名、みんなの党1名が発言しましたが、総じて自民党の委員は「国民投票の対象拡大」に消極的、民主党、みんなの党の委員は積極的なニュアンスが強かったように感じました。ただ、いずれも幹事である船田元氏(自民)は「議論を続けていかざる得ない問題である」、武正公一氏(民主)も「与野党が真摯な議論、ていねいな合意形成に努める対象になり得る」と述べていて、この宿題を速やかに片付けようという雰囲気は感じられませんでした。

なお、葉梨康弘氏(自民、幹事)は、「2回の、熟議の国民投票を行うという制度設計がなされた場合には、国会は一歩引いて、3分の2ではなく、たとえば2分の1というような発議要件にすることも検討課題になってくるのではないかと考えている」という、看過できない意見を表明しました。

要するに、改憲に関わるテーマについて諮問的(予備的と言った方がわかりやすいかもしれません)国民投票を行い賛成が多数という結果が出た場合、その問題については改憲案の国会発議の要件を2分の1に緩和すべきだと言っているわけです。

つまり、「国民投票の対象拡大」には反対だが、もし意に反して諮問的国民投票の制度ができてしまった場合には、今度はそれを逆手にとって改憲の発議のハードルを下げてしまおうともくろんでいるわけで、転んでもただでは起きないぞということなのです。
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今国会最後の自由討議の中身は?

次に、これまで今国会で行われてきた憲法の各条章、緊急事態、3つの宿題に関する審議を締めくくる自由討議が行われ、最初に各会派の代表者から、続いて発言を希望する委員からの意見表明が行われました。

まず、各会派の代表者の見解を要領よく網羅した『NHK NEWS WEB』の記事「衆憲法審査会 7党が意見表明 」を引用します(発言者の氏名は私が補いました)。

衆議院の憲法審査会は、今の国会での実質的な議論が13日で最後となる見通しで、審査会に委員がいる与野党7党が、憲法改正の是非や今後の憲法論議の進め方などについてそれぞれ意見を表明しました。

この中で、自民党(中谷元氏)は「わが党は憲法改正案を提案しており、これを基に早期に政党間の協議に入るべきだ。各党が改正案を持ち寄って修文を進める手法が考えられ、一致点を見いだす努力をすることが、まず必要だ」と述べました。

民主党(武正公一氏)は「憲法は、時の政権がみずからの価値をうたい、国民に義務や道徳を課すものではない。真の立憲主義を確立すべく、国民と対話しながら補うべき点や改めるべき点の議論を深め、未来志向の憲法を構想したい」と述べました。

日本維新の会(馬場伸幸氏)は「憲法を改正できる状況を整えるのが最優先課題であり、まずは憲法96条を改正し、国会が改正を発議できる要件を現実的なものに変更すべきだ。そのうえで統治機構改革などに向けて改正を進めていきたい」と述べました。

公明党(斉藤鉄夫氏)は「憲法に新たな理念を加えて補強する『加憲』こそ、最も現実的で妥当だ。基本的人権の尊重など憲法の3原則以外の条文について、改正の発議要件を緩和することは議論の余地があり、党内論議を加速させたい」と述べました。

みんなの党(小池正就氏)は「憲法改正案を提出することは、必ずしも困難ではない。国会議員には、真に必要な改正案であれば、審議を通して意義や課題を明らかにする役割がある」と述べました。

共産党(笠井亮氏)は「今国会では96条の改正などを巡る発言が繰り返されたが、憲法を守り抜き現実の政治に生かすことが国民的な要請だ。国民からかけ離れた改憲論議は、きっぱりとやめるべきだ」と述べました。

生活の党(鈴木克昌氏)は「昨今は、『わが国を覆う閉塞感の根源は憲法である』という議論が横行している。必要なら変え、そうでなければ変えないだけであり、冷静で理性的な議論が求められている」と述べました。

いかがでしょうか。この記事で紹介されている範囲で私が注目、警戒すべきだと考える点を2つ上げるとすれば、第一に、自民党の中谷元氏が、政党間で「協議会を立ち上げ、各党で改正案を持ち寄り、それぞれの草案をたたき台に修文をしていく」として、改憲案の発議に向けた具体的な仕組みや進め方を提案したこと、第二に、公明党の斉藤鉄夫氏が「3原則以外については、(改憲の発議要件を)一定程度緩和することについて議論の余地があり得る」と述べ、96条の改正について、最近は維新の会と一線を画そうとしているみんなの党以上に積極的な姿勢を示したことです。

聞き逃せない中谷氏(自民)の暴論

そして、皆さんにどうしても報告しておきたいのが、中谷元氏の発言の詳細です。全体的にとんでもないものでしたが、中でもとくに「これはひどい」と感じた部分を、これも2つだけ挙げておきます。

まず、「前文」についての発言です。「全体が翻訳調であり、その原案には、アメリカの憲法やマッカーサー・ノートなど歴史的文章から取り入れられたと見られる西洋の思想が並んでいる。中でも自国の安全保障について『平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した』とは、まさにユートピア的発想による自衛権の放棄にほかならない。現行憲法の前文を全面的に書き換え、日本の歴史や文化、国や郷土を自ら守る気概など、国家の基本原理をわかりやすく述べたものにすべきだ。」

そして、第3章「国民の権利及び義務」に関する発言。「これまで権利偏重の憲法論であったが、国民も国家に対して何らかの義務を負っているものと考える。第一に、国民は国家を構成する一員として国家に対しての責任と義務を負うものだ。国家の命運は国民につながっており、国民は国家の存立とその進運に貢献することをその本分となすものである。第二に、国民は社会生活の一員として社会の安寧秩序を保持し、その秩序を乱すべからざる義務を負うものであり、さらに進んで積極的に社会の福利に寄与すべき義務を負っている。第三に、国民は個人として各自が自己の存立の目的の主体であり、他の人の自由及び権利を尊重し、これを侵害してはならぬ義務を負うものである。以上により、自民党改正草案では『自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない』と規定した。」

     国会内の売店でこんな飴が売られていてビックリ!
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共感を呼んだ河野氏の発言、しかし・・・

最後の自由討議では、河野太郎氏が自らの所属する自民党の改憲草案を痛烈に批判して、傍聴席に共感の空気が流れました。
『東京新聞TOKYO Web』の記事、「自民草案を河野氏批判」を引用します。

自民党の河野太郎氏は13日の衆院憲法審査会で、同党が昨年まとめた改憲草案について「憲法の名を借りて、国民の権利を制限する方向に安易に行くことは断固反対を申し上げたい」と批判した。

河野氏は、憲法の在り方として「多くの国民が歴史を通じて、国家権力にたがをはめてきた」と説明。「権利を制限し、義務を課すのは、今の日本にはふさわしくない」と指摘した。

さらに、草案に「家族の助け合い義務」が盛り込まれたことも疑問視。元衆院議長の父・洋平氏への生体肝移植の経験を話し「いいことをしたと思うが、それができる人もいれば、できない人もいる。家族は助け合うべきだが、道徳を憲法で定義するのは少し違う。個人に任せるべきものだ」と述べた。

草案への身内からの手厳しい批判に、自民党の衛藤征士郎氏は「憲法が国民を抑えつけ、拘束するという観念で言っているが、ちょっと違う」と反論した。

憲法論議で自民党と対立する共産党だが、同党の笠井亮氏は「河野さんに共感する。自民党の中にもいろいろ議論があるとあらためて感じた」とエールを送った。

なお、河野氏は、これまでの審査会でときどき顔を出してはいましたがいつもすぐに退席してしまっていて、長い時間席に着いていたのも発言したのも今回が初めてでした。

しかし、河野氏以外の自民、維新の委員たちの発言は、耳を覆いたくなるものばかりでした。
たとえば、船田元氏(自民)は、中谷元氏に続いて、改憲に向けた今後の検討の進め方について発言し、笠井亮(共産)に手厳しく反論されました。
『しんぶん赤旗』(ネット版)では、そのやりとりが次のように報道されています。

自民党の船田元議員は13日の衆院憲法審査会で、改憲手続き法で残された課題を解決したのちに、「憲法改正原案を作成していく作業にかかりたい」と述べ、審査会として改憲原案作成に取り組むよう主張しました。

日本共産党の笠井亮議員は「国民の多数がいま改憲を望んでいないもとで、審査会での改憲の議論はきっぱりやめるべきだ。ましてや原案作成など必要ない」と主張。「今後の議論の進め方は、幹事会の場で協議すべきだ。審査会の場で突然、憲法原案作成の作業をやろうなどと表明することは許されない」と批判しました。

船田氏は「(今後の議論のあり方を)決めるのは幹事会で、それに影響を与えようと思って議論しているつもりはない」と釈明しました。

そして、聞いていて気の毒になるくらいの支離滅裂な意見を開陳したのが、土屋正忠氏(自民)です。それは、「憲法論議をすると、憲法は国家権力を抑制し国民の権利を守るんだという立場のみから語られることが多い。しかし、現憲法でも国民に子弟に教育を受けさせる義務、勤労の義務、納税の義務を課している条項があるのだから、国民に義務を課すのは憲法ではないというような意見は、現憲法も否定していることになる」というものでした。

また、河野氏の意見に対して「憲法に家族という価値観をしっかり書き込むべきだと思う。たとえば夫婦別姓のような、日本の家族という価値観を根底から覆すような法律を国家権力が作らないように、国に対して、家族という価値観をしっかり守れという意味で、書き込むことは大事なのではないかと思っている」と述べた西野弘一氏(維新)に対しては、私の隣で傍聴していた女性が、思わず「若いのにかわいそうに」とつぶやいていました。

いずれ劣らぬ迷論ですが、今国会における憲法審査会の締めくくりの議論の水準がこれですから、「かわいそう」なのは国民の方だと思わざるを得ませんでした。(G)



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傍聴を終えて外に出たら、目の前を大きな車(写真上)が大音量で通過しました。何を言っているのかよくわかりませんでしたが、これも自民党改憲草案(「天皇は、日本国の元首であり、…」)に関係しての動きでしょうか?