4月10日、今通常国会4回目の衆議院憲法審査会が開かれました。春分の日を挟んで、毎週定例日の開催が続いています。
この日は、「ネットの適正利用、特にフェイクニュース対策」をテーマとして自由討議が行われ、衆議院法制局の橘幸信局長から同テーマをめぐるこれまでの議論の概要について、続いて国会図書館の遠藤厚志専門調査員から諸外国のフェイクニュース対策について説明を受けた後、委員からの意見の表明や委員間および委員と遠藤氏との質疑応答がありました。

以下、当日の論議について報じた『NHK』の記事を転載させていただきます。
衆院憲法審 憲法改正是非問う国民投票“偽情報拡散 対応必要”
『NHK NEWS WEB』2025年4月10日
10日開かれた衆議院憲法審査会で、憲法改正の是非を問う国民投票のあり方について意見が交わされ、SNS上での偽情報の拡散が、結果に影響を及ぼすおそれがあるとして何らかの対応が必要だという意見が与野党双方から出されました。
10日の衆議院憲法審査会では、憲法改正の国民投票が行われる際のSNSなどの利用について議論が行われました。
自民党の寺田稔氏は「最近のフェイクニュースの手法は巧妙化している。選挙の際に偽情報が拡散されると民主主義が揺らぐが、国民投票でも罰則規定を備えるべきかが論点になる」と指摘しました。
立憲民主党の岡田悟氏は「最近の選挙ではSNSで虚偽の情報やひぼう中傷が拡散され、選挙結果を左右しているが、単純な規制は表現の自由などを制限しかねず慎重な検討が求められる」と述べました。
日本維新の会や国民民主党などは、SNSを通じた外国勢力の介入に懸念を示し、対処が必要だと主張しました。
また、情報の真偽を確認する「ファクトチェック」については、複数の政党から、公権力の介入を避けるため、民間の機関に委ねるべきだという意見が出されました。
* 引用、ここまで。
外国勢力の介入阻止の方策は? 広報協議会の役割は?
上掲の記事に記されているように、この日は主として改憲勢力の委員たちから「外国勢力の介入に懸念を示し、対処が必要だと主張」する意見が表明されました。
その典型が阿部圭史氏(維新)で、「外国勢力からのフェイクニュースを通じた改憲国民投票プロセスへの介入は断固として防がなければならない」と述べたうえで、「4月8日の衆院本会議で可決された能動的サイバー防御法案の役割は大きい」が、これは「あくまで第一歩で、能動的サイバー防御はまだまだ強化すべき領域」であり、国民投票のプロセスでは「国民投票広報協議会と警察、自衛隊との連携が重要になってくるのではないか」と主張しました。現時点で実施される見込みのない改憲国民投票のフェイクニュース対策にまだ成立していない能動的サイバー防御法が持ち出され、警察や自衛隊との連携にまで言及するとは…… 本当に驚きました。


もう一つ驚かされたのは、阿部氏ほどの極論ではありませんでしたが、立憲民主党の重徳和彦氏までもが「能動的サイバー防御法案」は「国家安全保障の観点から成立を目指しているもので、外国勢力からの防衛を目的としているものである」ので、「こうした法制も活用していくべきではなかと考えている」と発言したことです。
ただ、重徳氏の「ネット情報の支配力の根源は、SNSサービスを提供する外国資本のデジタルプラットフォーマーにあると言っても過言ではない」、「外国からの干渉が犯罪として規定されているイギリスの2023年のオンライン安全法なども参考に規制について考えていくべきではないかと思う」という指摘はそのとおりだなと感じました。
一方、赤嶺政賢氏(共産)は維新・阿部氏の発言に異を唱え、「国会に設置される広報協議会の委員の大多数は改憲に賛成した会派から選ばれる仕組みであり、改憲に有利な意見がまかり通り、少数派の意見が抑圧される危険性がある。協議会がファクトチェックを行えば、恣意的なものになりかねない」、「国家がネットの書き込みや動画の内容を調べることは、国民の意見表明に対する検閲にほかならない」、「広報協議会の規程作りを進め、ファクトチェックまで担わせることは絶対に認められない」と強調しました。重要な指摘だと思います。
また、意外にも、自民党を代表して最初に発言した憲法審幹事の寺田稔氏が「党としてまだ正式に意見を集約していないが、私は、公権力の表現の自由への介入を極力避ける観点から、ファクトチェックは(広報協議会ではなく)ファクトチェック機関に委ねるべきであると考える」と述べていたことを記しておきたいと思います。
問題は国内発のフェイクであり、とりわけ権力者側からの発信だ
改憲各派の委員たちは、中国やロシアを名指しして外国勢力の介入を阻止する必要性を言い募っていました。いくつかの具体的な事例も挙げられ、彼らの主張にそれなりの根拠があることは否定できないと思いますが、私は外国勢力と言うならいちばん警戒すべきなのはアメリカだろう、そして最近の政治・社会情勢を考えれば国内で発せられ、拡散されるフェイクニュースの方がより深刻な脅威なのではないかと考えながら聞いていました。
この日、その国内の問題をはっきりと指摘したのが、立民の岡田悟氏と米山隆一氏、れいわの大石あきこ氏でした。このうち岡田氏は、自身の『X』で下記のように報告しています。
岡田 悟 衆議院議員 立憲民主党兵庫7区(西宮市・芦屋市)総支部長
4月10日の衆議院憲法審査会で、憲法改正の国民投票におけるフェイクニュース対策について、会派を代表して意見表明を行いました。虚偽情報や誹謗中傷にあふれた昨年の兵庫県知事選挙は、大変残念なことに格好のサンプルとなりました。日本維新の会の責任に言及しています。
ちなみに馬場伸幸氏ら日本維新の会の委員からは、何の反論も説明もなく、米山隆一委員から質問されて初めて「誰が悪いとかどの党が悪いといったことはなく、社会全体の問題」という趣旨の、壊滅的で意味不明な驚きの答弁があったのみでした。反省の色なし。
* 引用、ここまで。
米山委員の質問は、氏が表明した「今現になされているSNS上での偽情報や誹謗中傷に対して、言論の自由の観点を考慮しつつ諸法令を改正・整備し、適正な言論空間を確立する必要がある」という見解に対して、「先ほど外国勢力からの介入に対しては熱心に対策を訴えられた一方で、先の兵庫県知事選で誹謗中傷の原因となった真偽不明の情報の流布に加担した県議が所属していた維新の会のご意見を伺いたい」というものでした。
これに答えた維新の委員は和田有一朗氏で、発言の最初に「この問題は単純に見えるものではなく、もっと深いものがあるだろうと思う」と述べました。岡田氏が評したとおりの「壊滅的で意味不明な驚きの」内容で、傍聴席から思わず失笑が漏れたのですが、これに対して枝野幸男会長(立民)が(私は和田氏の発言以上にびっくりさせられたのですが)間髪を入れずに「傍聴席はお静かにお願いします」と言ったのです。野次や拍手ならともかく、思わず漏れた失笑に対して条件反射的に反応した枝野氏。「いったいどういう人なんだろう?」と思わずにはいられませんでした(12日にはさいたま市で開かれた支持者との会合で「(党内で消費減税を主張する声が高まっていることに対して)減税ポピュリズムに走りたいなら、別の党を作ってください」と述べたというニュースが流れましたが、それを知ってますますちょっとヤバい強権的な体質の人なんじゃないかとの疑念が強まりました)。
続いてもう一人、大石あきこ氏(れいわ)の発言を紹介したいと思います。以下、氏が自身の『X』に投稿した記事を転載します(読みやすくなるよう、適宜改行しました)。なお、これは要約で、氏のブログ(https://www.oishiakiko.net/2025-04-10-kenpoushi-oishi/)には全文が掲載されていますので、興味のある方はそちらもご覧ください。とてもおもしろくためになり(個人的な感想です)、お勧めです。
大石あきこ れいわ新選組 衆議院議員 大阪5区
大石あきこです。フェイクニュースの対策について議論をしておりますが、議論の大前提を間違った時に、全く異なる結果が生まれてしまう。まずフェイクニュースを流す主体というのが、一般国民、国会議員や権力者ではなくて国民側が訳のわからない事実をゆがめた、フェイクニュースをやるんだという前提をしておられると思うんですね。違うんじゃないか。
自民党の寺田委員が本日、「フィンランドの国民の情報リテラシーが高い、しかしながら我が国においては、残念ながら国民の情報リテラシーが追いついていない」。これおかしいんじゃないかと。ここに座っている国会議員のリテラシーはどうなんだ。憲法を遵守するという意識はどうなんだ。事実をゆがめていないか。実際の事例に基づき解像度を上げて検証しなければ、全く間違った結果になる。
オフィシャル側、権力者側が事実ではないことを発信する場合がある。1つは都構想。そしてもう1つは万博ですね。そういった事例で検証するべき。2020年の都構想の住民投票の2日前、毎日新聞が4つの特別区に分割するときに218億円の追加コストがいるという試算を大阪市自身がやったということを、スクープで報道しています。かなりもっともらしい試算でした。これをオフィシャル側、大阪府や大阪市自身が、大問題だと、事実ではないということで大騒ぎしまして、大阪市のその試算を出した人の処分にまで至っています。
やはり、オフィシャルが何がファクトなのかどうかということを、検閲する制度を加えるということの問題は、この審査会でも起きているのではないか。 前回の審査会の後に、枝野審査会長が私を注意したんですね。審査会長室に来るようにということで。キーワードとしては、国賊、チンピラ。失礼だという注意を行われました。これはなぜなのか、維新の方が壊れたテープレコーダーと、改憲を反対する人たちのことを何度も言ってますが、これは失礼ではないのか、注意したのかという、公平性の観点。それから、予見性です。
私の言ったワードっていうのは、単に、あなたはチンピラと言ったわけじゃなくて、なぜそう言ったのか事実に基づいて、事実を念頭に公益性の高い論評として行っておりますので、単なる注意というやり方で萎縮させるのではなくて、明確な基準、公平性と予見可能性という基準で、説明責任を伴うように注意をしてください。
* 引用、ここまで。
「本日の法制局の資料でいいますと10ページと11ページですけれども、広報協議会がファクトチェックを実施すべきではないという見解がありますよね。国家権力による情報統制の危険が生じる可能性があると。
まさにそうでありますし、11ページにおいても、有識者の参考人の意見として、政府自身がファクトチェックをやることが、何がファクトなのかどうかということを政府がやるということは、憲法上、検閲のリスクにもなりますからというふうに言っています。
こういった権力者側の情報統制の危険、憲法上の問題というのに加えて、事実ではないこと、事実をゆがめることをやる権力者側、そういった現状もあるという前提をしかなければ、これは全く違った、外にいる国民があくまでフェイクニュースを流すんだ、じゃ、権力者側が十分権力に注意して検閲にならないようにしましょうねという議論では、これは不足していると考えています。」
この日の傍聴者は35人ほど、記者は4~5人でした。
委員の欠席者は、審査会冒頭の衆院法制局橘氏、国会図書館遠藤氏の説明聴取のときは自民1人、立民1人で珍しいこともあるものだなあと思っていたところ、その後は自民が2~5人、立民が1~3人と、いつもの状態になってしまいました。また、この日は維新の委員が1人、長時間席を外していました。(銀)