報告が遅れて申し訳ありませんが、11月16日(木)10時から、衆議院憲法審査会が開かれました。今国会3度目の開催でしたが、11月2日は幹事の選任のみで1分弱で散会、9日は海外視察の報告だけで40分あまりで終了しましたので、今回が初の実質的な審議となりました。自由討議が行われ、予定時間を10分ほどオーバーして11時40分頃散会となりましたが、後述のようにその内容が「実質」を伴うものであったかどうかは大いに疑問です。
議事は、通例に従ってまず各会派1名ずつが大会派順に発言し、その後他の委員が意見を述べたり質疑を行ったりという形で進められました。
以下、各会派1巡目の発言の要旨をまとめた『NHK』のウェブサイトの記事を転載させていただきます。なお、(NHKの記事ではいつもそうなのですが)有志の会の北神圭朗氏の発言は掲載されていません。有志の会が政党ではないからかもしれませんが、衆院で活動している会派には違いないのですから、NHKは他の委員と同様に扱うべきではないでしょうか。
なお、この日、北神氏は国民投票時の偽情報対策の重要性を指摘し、「国民投票広報協議会などが監視や調査を行い、プラットフォーム事業者などに削除やアクセス遮断を命じる制度を導入することも検討に値すると思う」などと述べていました。
衆院憲法審査会自由討議 緊急事態条項などめぐり各党が主張
『NHK NEWS WEB』2023年11月16日
衆議院憲法審査会は、今の国会では初めてとなる自由討議を行い、大規模災害など緊急事態での対応を憲法に規定するかどうかや、憲法9条を改正して自衛隊を明記するかどうかをめぐり各党が主張を展開しました。
この中で自民党の中谷・元防衛大臣は「緊急時の国会機能維持は重要で、議員任期の延長をはじめとした議論を詰めるべきだ。また憲法に自衛隊を明記し、平和のために用いるという憲法を頂点とする法体系を完成させなければならない」と述べました。
立憲民主党の中川憲法調査会長は「緊急事態条項や自衛隊を憲法に明記する必要はない。衆議院の解散権の乱用の問題は、憲法69条の内閣不信任を前提とした解散に限る憲法改正も視野に入れて検討する必要がある」と述べました。
日本維新の会の岩谷良平氏は「日本維新の会などがまとめた緊急事態条項の条文案をたたき台に早急に改正条文を確定すべきだ。スケジュールが厳しければ開催日を増やし集中討議を行うべきだ」と述べました。
公明党の北側副代表は「大事なことは緊急時に立法府が必要な措置をとれるための条文が憲法に存在していることで、できるかぎり速やかに結論を出さなければならない」と述べました。
国民民主党の玉木代表は「岸田総理大臣が総裁任期中に憲法改正をしたいのなら、議員任期の延長規定の創設に絞って成案づくりを進めるしかないのではないか」と述べました。
国民民主党の玉木代表は「岸田総理大臣が総裁任期中に憲法改正をしたいのなら、議員任期の延長規定の創設に絞って成案づくりを進めるしかないのではないか」と述べました。
共産党の赤嶺政賢氏は「憲法の原点は先の戦争によって犠牲者を出したことの痛苦の反省であり、9条は絶対に戦争をしないことを求めている」と述べました。
* 引用、ここまで。
続いてもう1本、この日の審査会について報じた『時事通信』のウェブサイトの記事を転載させていただきます。
維国、今国会中の改憲案主張 自民との違い強調―衆院憲法審
『時事ドットコムニュース』2023年11月17日
衆院憲法審査会は16日、今国会初の自由討議を行った。岸田文雄首相が所信表明演説で「条文案の具体化」を求めたことを踏まえ、憲法改正に前向きな日本維新の会と国民民主党が今国会中に改憲案を作成すべきだと主張。首相の掛け声と裏腹に論議加速に慎重な自民党との違いを強調し、保守層の取り込みを図る狙いとみられる。
憲法改正に関し、首相は先月30日の衆院予算委員会で「目の前の(自民党総裁)任期中に改正できるよう最大限努力する」と明言した。
維新の岩谷良平氏は、首相発言を実現するには12月13日までの今国会中に改憲原案をまとめる必要があると指摘。「憲法審の開催日を増やし、集中討議を行うべきだ」と述べた。
国民民主の玉木雄一郎代表も「自民党に熱意と本気度が感じられない」と批判。「議論するテーマを明確にすべきだ」として、緊急事態条項の創設に絞って条文案を作るよう求めた。
これに対し、自民の中谷元氏は「できる限り幅広い会派による合意形成が得られるよう努めたい」と述べた。同党には、野党第1党の賛同を得ずに強引に国会発議すれば、国民投票で否決される可能性があるとの懸念が根強く存在する。中谷氏は首相が目指す改憲の期限についても「総裁の身分を持っているうちにという意味で、再選の可能性もある」とし、必ずしも来年9月とは限らないとの認識を示した。
一方、立憲民主党の中川正春氏は「審査会の議論が国民的議論になっているかと言えば、程遠い現実がある」とくぎを刺した。
* 引用、ここまで。
聞くに堪えなかった岸田の「自民党総裁任期中改憲」の解釈をめぐる議論
『時事通信』の記事で紹介されている岩谷氏(維新)、玉木氏(国民)の主張と中谷氏(自民)の応答ですが、岸田首相の「自民党総裁任期中の改憲」発言をめぐっては、今年の通常国会最後の6月15日の憲法審でも三木圭恵氏(維新)と上川陽子氏(自民:このときは憲法審査会の幹事を務めていましたが、その後外相に就任し現在は憲法審から抜けています)との間で、同様のやり取りがありました。三木氏は、つい先日、11月22日の衆院予算委員会でもこの話題を持ち出し、岸田首相から「私の総裁任期は来年9月までという区切りがある。その目の前の任期において最大限努力すると申し上げている」という答弁を引き出していました。
本当にくだらない議論で(自民党総裁の任期と改憲のスケジュールとは何の関係もないはずです)、安倍晋三元首相のついに実現されなかった「任期中の改憲」という無責任な放言を岩盤保守層の支持をつなぎとめるために繰り返している岸田首相も、上掲の記事で的確に指摘されているように「自民党との違いを強調し、保守層の取り込みを図る狙い」が見え見えの維新、国民両党の委員も、自らの低次元の発言を恥ずかしいと思わないのでしょうか。
筆頭幹事であるがために、自民党を代表して「総裁の身分を持っているうちにという意味で、再選の可能性もある」などといかにも苦しい言い訳をせざるを得なかった中谷氏(自民)が(少しだけですが)気の毒に思えるほどでした。氏は「国民投票によって国民に分断を生んではならないし、政権に対する信任投票にすり替わりがちでもあるので、私としては審査会において各党がしっかりと議論できるよう努力していきたい」とも述べていましたので、今後、前任の新藤義孝氏(現在は経済再生担当相を務めており憲法審のメンバーではありません)のような強引な運営を行わないかどうか、注視していきたいと思います。
議員任期延長論と緊急政令必要論の矛盾
この日の審査会では、「地獄行こう」(自国維公)あるいは「悪政4党連合」(共産党が11月14日に採択した『党大会決議案』で打ち出した言葉で、この日玉木氏から「不毛なレッテル貼り」だと苦言を呈されていましたが、私も(共産党らしいと言えばそれまでですが)センスの悪いネーミングだと思います)の多くの委員が緊急事態時の国会議員の任期延長の必要性に言及し、さらに緊急政令の規定も設けるべきだと主張する者もいました。
これに対して、階猛委員(立民)は「任期を延長して国会がフルスペックで機能するようにしても、最後は政府が独断で緊急政令を出せるということであれば矛盾だと思う」と指摘しましたが、自民党の委員だけでなく、玉木氏も「議員任期を延長しオンライン審議を可能にしても、規定できない何かがあったときに国家の機能に隙間を作ってはならないということで、緊急政令の規定を設けてはどうかと提案している」と述べていました。「規定できない何か」って何なんでしょうか。6月7日の参院憲法審で山本太郎氏(れいわ)が皮肉っていましたが、火星人の襲来かアルマゲドンなんでしょうか。
ガザ情勢に言及したのは赤嶺政賢氏(共産)だけ
最後にもう1点、強調しておきたいのは、ロシアのウクライナ侵攻の後には改憲勢力の委員たちがこぞって緊急事態条項の必要性と結びつけてこれに言及していたのに、今回のイスラエルのガザ侵攻について発言したのは赤嶺政賢氏(共産)1人たけだったことです。
確かに改憲派のアメリカべったりの立ち位置からはイスラエルへの非難を包含する文脈で議論を展開することは難しいのでしょうが、ハマスの「テロ」との両成敗的な主張さえ聞かれませんでした。改憲勢力のご都合主義が典型的に現れた事例だと思います。
確かに改憲派のアメリカべったりの立ち位置からはイスラエルへの非難を包含する文脈で議論を展開することは難しいのでしょうが、ハマスの「テロ」との両成敗的な主張さえ聞かれませんでした。改憲勢力のご都合主義が典型的に現れた事例だと思います。
赤嶺氏は、これもただ1人でしたが、辺野古新基地建設の代執行をめぐる問題も取り上げました。以下、赤嶺氏の主張を紹介した『しんぶん赤旗』の記事を転載させていただきます。
憲法に基づく外交こそ 赤嶺氏 ガザ危機で政府に要求 衆院憲法審
『しんぶん赤旗』2023年11月17日
衆院憲法審査会は16日、自由討議を行いました。日本共産党の赤嶺政賢議員は、深刻な人道危機が起きているイスラエル・ガザ紛争について、日本政府には「日本国憲法の平和主義に基づく外交が強く求められる」と主張しました。
赤嶺氏は、イスラエルの大規模な無差別攻撃により、ガザがジェノサイドの重大な危機に陥っている中で、国際社会による停戦に向けた緊急の働きかけが必要だと指摘。米国に追従し、イスラエルの軍事攻撃の即時中止を正面から求めない日本政府の姿勢を厳しく批判し、「イスラエルとパレスチナの問題は、武力で平和は絶対につくれないことを示している。憲法9条を持つ日本政府こそ、積極的な役割を果たすべきだ」と主張しました。
また、政府が沖縄県名護市辺野古の米軍新基地建設強行のために、玉城デニー知事の権限を奪う「代執行」訴訟を提起したのは「憲法に基づく地方自治を真っ向から否定する暴挙だ」と批判しました。
政府は沖縄県の民意を一顧だにせず、行政不服審査法を乱用し基地建設を強行してきたと指摘。最高裁も政府を追認する不当判決を出したと批判。「憲法が保障する民主主義も地方自治も無視し、新基地建設を強行することは絶対に認められない」と強調しました。
* 引用、ここまで。
この日の傍聴者は40人弱くらいでしたが、驚いたのは開会時に記者席に誰もいなかったことです。その後も入退場を繰り返す記者が1人いただけで、記者がゼロという時間が長かったように思います。
この日も自民党の委員の欠席が目立ち、終始5~7人程度が席を外していました。公明党の委員も早い時間から1人が退場し最後まで戻りませんでした。
(銀)