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カテゴリ: 憲法

6月1日(木)10時から衆議院憲法審査会が開かれ、予定された時間を少しオーバーして11時40分頃閉会しました。3月2日の第1回から、5月4日の休日を挟んで13回連続の定例日開催となりました。
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この日は、参議院の緊急集会をテーマとして委員間の討議が行われ、最初に各会派の委員7人が1人7分以内で、続いて発言を希望する委員が1人5分以内で意見を表明しました。改憲勢力の委員たちは前々回、5月18日の参考人質疑で長谷部恭男氏(早稲田大学大学院教授)が述べた見解にこぞって反論していましたが、その内容は従来の主張を繰り返すもので新たな論点は見られず、参考人質疑を経た後も彼らの思考回路は全く変わらなかったことが明らかになりました。
それを象徴していたのが、今回も新藤義孝氏が配布した「論点」ペーパー(下図)です。

衆院憲法審新藤資料

上図で、例えば、「論点」の「1.場面の限定」について、「参考人の見解」は2人とも任期満了時にも「(b) 類推適用可能」であったにもかかわらず、新藤氏は「今後の議論の方向性」として「条文上は (a) が適当」だが「(b) もあり得る」と歪曲しています。

また、「2.期間の限定」について、長谷部氏は「70日間を超えることも可」という見解を示していましたが、新藤氏はこれを「多少の延長もあり得る」と矮小化しています。

さらに、私がいちばんひどいと思ったのは下段の「議論に当たって留意すべき事項」の部分で、「議員任期延長などは喫緊かつ必須」、「緊急事態条項の創設について議論を深める」などと記したばかりでなく、改憲勢力の中でも合意されていない(公明党が明確に反対している)「緊急政令・緊急財政処分について整備が必要」とまで書いていることです。

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こんな人物が筆頭幹事として我が物顔で憲法審査会の議論を仕切っているのは、本当におそろしいことです。少なくとも形式上は公正に、最低でも公正に見えるように運営すべきところ、自分だけ「論点」ペーパーを出しまくっておきながら階猛氏(立民)の資料提出は認めないなど、今国会での新藤氏の傍若無人ぶりは目に余ります。

今回の報告では、まず『産経新聞』のウェブサイトの記事を転載させていただきます。改憲勢力寄りにバイアスが強くかかっている記事で、例えば最初の段落の「識者の意見は尊重しつつ」とか最後の段落の「立民や共産党からは長谷部氏を絶賛する声が相次ぎ」という表現は私の実感と大きく異なりますが、全体としてこの日の審査会の雰囲気をよく反映していると思ったからです。

参考人の長谷部氏に改憲勢力から反論 衆院憲法審
『産経ニュース』2023年6月1 日

1日の衆院憲法審査会では、前々回の参考人として改憲による国会議員の任期延長論を批判した早大大学院の長谷部恭男教授に対し、憲法改正に前向きな政党が違和感を表明する場面が目立った。長谷部氏はかつて憲法審の場で「安保法制は違憲」と断じ、護憲派などの反対運動が盛り上がるきっかけを作った。識者の意見は尊重しつつ、反論すべきは反論する狙いがある。

この日の憲法審で国民民主党の玉木雄一郎代表は「蓋然性が低くても可能性がある限り、(国会議員は)国民の生命や権利を守るために『あるべき法制度』を構築する責任を負っている。危機に備えるかどうかを決めるのは学者ではない」と述べた。これは5月18日の憲法審で長谷部氏が示した見解への反論だ。

衆院解散後の緊急事態に参院が国会機能を代行する「参院の緊急集会」を巡っては、総選挙を経て特別国会までの衆院不在の70日間に限られるとの見方がある。このため、自民党や公明党、日本維新の会、国民民主などは国民の安全を守るため改憲で緊急事態条項を新設し、国会議員の任期延長などを可能にしておくべきだと訴えてきた。

ただ、緊急集会の活用に前向きな長谷部氏は先月18日の憲法審で「日数を限った文言にこだわり、任期延長議論を進めるべきではない」と主張。国政選挙が長期間困難となるような緊急事態に関しても「実際に発生し得るかというと、かなり疑いを持ってもよいのではないか」と述べた。

国会では新型コロナウイルスの蔓延などを踏まえ、広範囲で選挙の実施が困難となる事態は発生し得るとの声が根強い。1日の憲法審では、司法試験考査委員として憲法の科目で問題作成などの経験を持つ自民の山下貴司元法相が「緊急集会に関する見解を正解とするわけにはいかない。(衆院不在の)国会の片翼飛行を長期化させかねない」と長谷部氏の見解に懸念を表明。また、維新の小野泰輔氏も「有事が起こったときになりふり構わずに何でもありだというのが本当に立憲主義なのか」と違和感を口にした。

長谷部氏は平成27年(引用者注:『産経』は元号表記を原則としています。西暦では1995年です)に安全保障関連法案が衆院憲法審で取り上げられた際、与党側が推薦した参考人だったにもかかわらず「違憲」と明言し、護憲派を勢いづけた。1日の衆院憲法審では立民や共産党からは長谷部氏を絶賛する声が相次ぎ、立民の階猛氏は「立憲主義の本質を踏まえたものであり、まさに正論だ」と持ち上げた。(太田泰、内藤慎二)
* 引用、ここまで。

続いて、今回もこの日の各委員の発言の要旨をまとめた『東京新聞』のウェブサイトに掲載された記事を転載させていただきます。

衆院憲法審査会の要旨(2023年6月1日)
『東京新聞TOKYO Web』2023年6月1日

衆院憲法審査会が1日に開かれた。発言の要旨は次の通り。
◆各会派代表の意見
新藤義孝氏(自民)
参院の緊急集会は平時の制度として、適用範囲を拡張できるか検討してはどうか。有事においても国会機能を維持するため、議員任期の延長をはじめ、どのような緊急事態条項を整備すべきか議論を煮詰める必要が深まった。内閣の緊急政令や緊急財政処分の議論を深めるべきとも考える。緊急事態条項の創設について、憲法審査会として総括的な論点整理を行ってはどうか。

中川正春氏(立憲民主)
70日を超えて選挙困難事態が想定される場合、議員任期を延長して対応する案が出ているが、現時点で必要ない。70日を超えたからといって緊急集会の機能が否定されることはない。緊急集会の期間に一定の制約があるとの共通認識に達した場合、議員任期延長の議論を進めることもあり得る。緊急集会の議論は、参院の論点整理を尊重していくことが必要だ。

岩谷良平氏(維新)
議員任期延長は国民の選挙権を奪うため、認めるべきではないとの主張がある。しかし、あらかじめ憲法で緊急事態における議員任期延長を規定しておけば、民主的正統性は確保される。70日を超える有事の際、参院の緊急集会で対応することには多くの問題があるため、いつ起こるかわからない有事に備え、一刻も早く憲法を改正して、緊急事態条項を創設すべきだ。

浜地雅一氏(公明)
70日間を超えるような選挙困難事態には、一定の要件のもと、国会議員の任期延長を認めていくべきとの立場だ。乱用の危険性の指摘がある。わが党としては、任期延長の議決要件を出席議員の3分の2の特別議決とし、延長期間は原則6カ月、再延長できる場合も1年間を上限とする案を提示している。時の政権が選挙期日を無用に引き延ばす乱用の危険は回避できる。

玉木雄一郎氏(国民民主)
緊急集会の期間は最大70日間とすべきだ。70日という数字が書いてあることの意味は捨てがたく、それを破られたら、どこまでが限界か分からなくなる。仮に70日を超えて緊急集会を適用できるとして、いつまで可能か、期間を決めるのは誰か、憲法に規定がない以上、その決定は時の内閣が行うことになり、権力の乱用につながる恐れを払拭できない。

赤嶺政賢氏(共産)
議員任期延長の口実として、国会機能や二院制の維持が強調されているが、その大前提は、国会が国民に正当に選挙された議員で構成されていることだ。人為的に任期を延長し、国民から信任を受けていない議員が長期にわたって居座り続けることは許されない。選挙制度の改善を議論すればよいのであって、憲法を変えて任期延長を可能にするのは、本末転倒の議論だ。

北神圭朗氏(有志の会)
憲法54条1項は内閣の権力乱用を防止する規定で、(緊急集会の)日数を限定しているのは重たい。条文の性質から厳格に解釈されるべきで、緊急集会が70日間を超えることは難しい。70日間を超える選挙困難事案には、緊急集会よりも、憲法上国会における事前の厳格な手続きと事後の司法による関与を要件とする議員任期の延長制度の明文化が望ましい。

◆各委員の発言
柴山昌彦氏(自民)
緊急事態が終了した後には、選挙が実施され、新たに政策の見直しが行われる。民主主義が健全に機能していれば、民意を反映していない政権の居座りなどを考える余地はない。

近藤昭一氏(立民)
緊急事態における国会議員の任期延長は、結局、国会議員を固定化し、内閣の独裁を生む恐れがある。緊急事態に必要なのは、どんな状況でも選挙ができるようにする平時からの備えだ。

小野泰輔氏(維新)
平時は(緊急集会を最大70日とする)数字を守らなければいけないが、有事には守らなくていいというのは乱暴な議論だ。われわれは有事にギリギリでルールを守る議論をしている。

山下貴司氏(自民)
緊急事態条項について、各党から相当な意見の蓄積がなされている。各党の主な意見を衆院法制局にまとめさせ、国民に見える形で、論点の議論ができるようにしていただきたい。

階猛氏(立民)
解散から次の国会召集までの期間を縛る70日ルールにより、論理必然的に緊急集会の期間を最大70日に縛る解釈は成り立たない。不確かな解釈を根拠に憲法改正することは許されない。

北側一雄氏(公明)
緊急事態における国会議員の任期延長問題は昨年来、議論を積み重ねてきた。5会派の考え方はほぼ共通している。立民、共産との争点、違いは明確になってきている。論点整理すべきだ。
* 引用、ここまで。
 
改憲勢力の暴論、空論の数々

と小見出しを付けましたが、以下、この日の発言から私が選んだワースト3を紹介します。

まず、玉木雄一郎氏(国民)は次のように述べました。
40日や30日といった具体的な数字の入った準則規定は平時には100%守らなければならないが、緊急時にはまず生き延びることが大事だから従わなくてもいいという(長谷部恭男氏の)主張は、緊急事態を理由に行政の解釈で憲法に書かれているルールを恣意的に拡大することに道を開くものであり、権力の乱用につながる危険性をはらんでいる。
こうした緊急事態の法理を認めれば、憲法9条の規定や解釈が全く意味がなくなってしまう。国家の存亡をかけた究極の緊急事態が戦争であり、そのとき国家の生き残りのためなら敵基地攻撃どころかフルスペックの集団的自衛権の行使も可能となる。条文解釈から導かれる専守防衛や必要最小限の制限も消え失せてしまうだろう。

これは、前回の憲法審で、国民投票がテーマとされていたにもかかわらず玉木氏が行った発言をほとんどそのまま繰り返したものですが、あまりにも論理が飛躍していて全く付いていけません。任期延長で失職した衆院議員が居すわることは「権力の乱用」につながらないのか、(憲法9条の条文から導かれるかどうかはともかく)「専守防衛や必要最小限の制限」がすでに大きく毀損されている実態をどう捉えているのか、玉木氏の見解を質したいところです。
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憲法審の幹事である柴山昌彦氏(自民)の発言にも驚きました。
「もし議員任期の延長を想定しなければ、今日この後ひじょうに毒性の高い感染症が発生して、今後5年間選挙困難事態が継続した場合には、衆議院議員のみならず参議院議員も1人もいなくなってしまう。緊急集会も開催されないということになりかねない。」

仮にこんな途方もない緊急事態が発生した場合、柴山氏は衆院議員の任期延長でそれを乗り切れると考えているのでしょうか。なんとも論評のしようもない意見であり、「何をか言わんや」という言葉しか浮かんできません。

3人目は、これも憲法審幹事の山下貴司氏(自民)の発言。上掲の『産経ニュース』の記事でも紹介されていますが、氏はこのように述べました。
「私は議員になる前、憲法担当の司法試験考査委員として様々な憲法学者の学説に触れる機会があったが、その経験に照らしても、立法府の一員として長谷部参考人の見解を正解とするわけにはいかない。」
山下氏はこれに続けて自身の考えを語りましたが、言うまでもなく司法試験考査委員の経験は氏の所論の正当性を保証するものではなく、氏に他者の見解を「正解とするわけにはいかない」とする資格はありません。それぞれの主張の当否はともかく、長年にわたって憲法の研究に取り組んでこられた長谷部氏に対してとんでもなく失礼な言い方ではなかったでしょうか。

最後に、この日改憲勢力の何人かの委員がそろって口にしたことを報告しておきます。それは、緊急事態条項に関する議論を今国会中に整理しておきたいということでした。

新藤義孝氏(自民)は「議員任期の延長をはじめとする緊急事態条項の創設について、総括的な論点整理を行ってはどうか」、山下貴司氏(自民)は「緊急事態条項について出された主な意見を衆議院法制局に取りまとめさせ、国民に見える形で議論できるように」、北側一雄氏(公明)は「国会議員の任期延長問題について(各会派の意見を)この国会中に是非整理してもらえれば」と述べました。

自民の2氏は任期延長だけでなく緊急事態条項全般について、北側氏は任期延長に限定しての発言であるという違いはありますが、終盤に差しかかった今国会でどこまで議論が進むのか警戒しなければなりません。それにしても、山下氏の衆院法制局に対する「取りまとめさせ」という上から目線丸出しの言い方はどうでしょう。私はとても不愉快に感じました。
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この日の傍聴者は30人強で、記者は5人いました。
最初3、4人だった自民党の欠席者は、開会後30分も経たないうちに6~10人に増え、頻繁に入退場を繰り返す委員が目立ちました。立民の委員も1、2人欠席している時間が長かったです。(銀)


5月31日(水)13時を少し回ってから15時頃まで、今国会6度目の参議院憲法審査会が行われました。4月5日の第1回以降、4月19日と休日の5月3日を除き、ほぼ毎週の開催が続いていましたが、先週は開かれず、2週間ぶりの開催となりました。

この日の議題は参議院の緊急集会で、このテーマを取り上げるのは今国会4回目でしたが、今回は3名の憲法学者を招いて参考人質疑が行われました。まず、松浦一夫・防衛大教授(自民党推薦=推薦した会派名は同日付の『朝日新聞デジタル』の記事による/以下同じ)、長谷部恭男・早稲田大大学院教授(立憲民主党推薦)、土井真一・京大教授(立憲・公明党推薦)から1人15分程度で意見を聴取し、次に7会派の代表が1人8分以内で、さらに予定時刻まで3人の委員が1人5分以内で質疑を行いました。

長谷部氏は5月18日の衆院憲法審に続く登場で、当然ですがそのときと同様の意見を述べていました。また、「サル」発言で(特に維新の会から)厳しく批判され野党側筆頭幹事を辞任した小西洋之氏(立民)が、今国会の参院憲法審で初めて発言しましたが、氏が指名されると維新と国民の委員がニヤニヤしながら顔を見合わせていました。
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以下、この日の参考人、委員の発言の要旨を報じた『東京新聞』のウェブサイトに掲載された記事を転載させていただきます。

参院憲法審査会・発言の要旨(2023年5月31日)
『東京新聞TOKYO Web』2023年5月31日

31日の参院憲法審査会での主な発言の要旨は次の通り。
◆参考人の意見陳述
松浦一夫防衛大教授 
衆院解散後、あるいは任期満了後に重大かつ長期の緊急事態が発生し、総選挙の実施が困難となり、長期に衆院不在となる場合を、現行憲法は想定していない。

参院の緊急集会に国会の権能を必要な期間代行させればいいという主張は、現行憲法の中にあえて緊急事態対応の根拠を読み込み、このような解釈があると主張するものにすぎない。緊急時の政府の迅速な対応と議会による民主的統制の確保に最も有効な方法は何かという視点を欠いている。

憲法改正により緊急事態宣言の制度を設定し、宣言下での衆院議員の任期の延長や衆院解散の禁止などの措置を認め、国会が両院完全な形で政府を統制するほうが民主的観点からはるかに効果的であると考える。

長谷部恭男早稲田大大学院教授 
参院の緊急集会による対応は、限られた期間しか通用しない臨時措置だ。平時の状況が回復したときは速やかに通常の制度への復帰が予定される。

非常事態は、あらゆる考慮要素がくまなく総合的に勘案されるべきで、日数を限った規定の文言にこだわり、それを動かし得ない切り札のように捉えて議論を進めるべきではない。
(緊急集会を定める)憲法54条が日数を限っているのは、現在の民意を反映していない政府がそのまま政権の座に居座り続けることのないようにという考慮からだ。緊急集会の期間が限定されているように見えることを根拠として、衆院議員の任期を延長し、政権の居座りを認めるのは、本末転倒の議論ではないか。

土井真一京都大教授 
緊急事態において、国民の生命、権利等を守るために必要な措置を講じることは、政府の重要な役割だ。同時に、緊急事態は権力の簒奪や乱用が行われる危険性の高い時期なので、これを防止するための仕組みは国会で慎重に検討いただくべきだ。

その際、緊急事態から通常時への復元力の高い仕組みを検討し、通常時に復帰した後、緊急事態で講じた措置について、合憲性、合法性を審査する機会を適切に確保していただきたい。

この点、緊急集会は合理的な設計に基づく制度の一つで、もし緊急集会に代わる仕組みを検討するのであれば、緊急集会よりも優れた仕組みだと国民が納得するようなものとなるよう検討いただく必要がある。

◆各会派代表の質疑
浅尾慶一郎氏(自民)
70日を超えて緊急集会を開くことができるか。
土井氏 
総選挙ができず、衆院解散から70日過ぎた段階で参院が(緊急集会での)法案や予算案の審議を打ち切れるか。70日を超えて緊急集会を認めることはできる。
杉尾秀哉氏(立憲民主)
参院の緊急集会と、任期延長された国会、どちらに正統性があるか。
長谷部氏 
任期延長は民意の反映という点で問題。参院の緊急集会制度を活用し、早く選挙を行い、新たな国会を召集するのが民主的な制度の運用だ。
西田実仁氏(公明)
議員の任期延長も暫定的、一時的で、参院の緊急集会と根本的な差異があるとまで言えないのではないか。
松浦氏 
緊急事態を宣言することはめったにやってはいけない。それをやらざるを得ない状況をはっきりさせなければいけない。
音喜多駿氏(維新)
参院の緊急集会を延ばして復元しないという権力の居座り方も考えられるのでは。
長谷部氏 
現行制度では、内閣が提示した案件が全て終了すれば、そこで緊急集会は閉じることになっている。いつまでも続くことは考えられない。
礒崎哲史氏(国民民主)
どれくらいの期間まで緊急集会は認められるか。
土井氏 
自然災害等の緊急事態の実情に即した対応を行うほかない。東日本大震災の際、最大7カ月程度の(地方選挙の)延期が行われた事実は参考になろうかと思う。
山添拓氏(共産)
任期延長された議員は次の総選挙を行おうというインセンティブが働かないのでは。
松浦氏 
国家の緊急事態に、任期を一時的に延長する。その必要がなければ緊急事態宣言を解除するというシステムを作れば、乱用の危険はない。
山本太郎氏(れいわ)
緊急事態に備えよという議論がされ、憲法改正を目指すのなら、まず原発の即時停止が憲法上の要請にもかなうのではないか。
長谷部氏 
憲法で対処する以前の問題として、喫緊に対処が必要な政策課題があるのは、その通り。
*引用、ここまで。

衆院とは異なる? 参院公明党の立ち位置

この日の議論を聞いていてやや意外に感じたのは、公明党の西田実仁氏の発言でした。
氏は、「まず、私の考えを述べる」として、「緊急事態時には政府に権限を集中させる必要があり、その活動を国会が適切に監視しなければならないため、国会議員の民主的正当性の確保が重要だ。できる限り選挙を行うべきであり、参議院の緊急集会と繰延べ投票での対応を基本としつつ、衆院選が相当数の選挙区で長期間実施できないというきわめて例外的な場合にのみ、議員の任期延長や前議員の身分復活を認めるかどうか慎重に検討すべきだ。その際には、参議院の緊急集会で議決を行うことで民主的な正当性を担保すべきだ」と表明しました。

また、長谷部氏に「繰延べ投票ではなく、緊急事態が収束するまで議員の任期を延長した上で全国で一律の投票を行うべきとの指摘がある。そういう憲法学説を聞いたことはないが、先生はどうお考えか」と質問し、「私自身は、全国一律でなければいけないという要請は憲法上それほど強いものではないと考えている」という回答を引き出していました。

なお、同じく公明党の佐々木さやか氏も、「冒頭、私の考えを申し上げる」として、「基本的に、緊急事態については参議院の緊急集会と繰延べ投票で対応できると思っている」と述べました。

衆院の憲法審では、北側一雄氏が東日本大震災後の地方選での繰延べ投票実施の事例を挙げながら、何度も何度も議員任期延長の必要性を強調しており、同じ党でも衆参両院でだいぶ考え方が異なっているのだなと思いました。
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旗色が悪かった緊急集会の70日限定説と衆院議員の任期延長論

上掲の『東京新聞』の記事にあるように、3名の参考人の中で、松浦一夫氏は「憲法改正により緊急事態宣言の制度を設定し、宣言下での衆院議員の任期の延長や衆院解散の禁止などの措置を認め、国会が両院完全な形で政府を統制する」べきだと表明し、参議院の緊急集会は70日を超えて開けないと主張しましたが、長谷部恭男氏は衆院議員の任期延長に否定的、土井真一氏は慎重な立場を明らかにし、両氏とも緊急集会は70日を超えて継続できると述べました。

わずか3名の憲法学者の見解から学界の有力説を推測することはできませんが、少なくともこの日の参考人質疑では、緊急集会の開催期間が70日に限定されるという見解と、緊急事態時に多くの地域で国政選挙の実施が70日を超えて困難となる場合には衆院議員の任期延長によって二院制の国会を維持すべきだという主張は、旗色が悪かったように感じました。

特に、後者をめぐって、「私の学説を申し上げる」として土井氏が述べた「参議院の緊急集会は、参議院という国家機関が国会の権能を代行するもので、その意味で民主的正当性に問題がある。ただ、そういう状態であるからこそ、緊急集会の方が、任期を延長し選挙が行えていない存在を完全な国会であるかのようにするよりは、国会を正規の状態に戻そうとするレジリエンス(復元力)が働くのではないか」という見解には、私は確かな説得力があると思いました。
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なお、想定される選挙困難事態の期間について、今国会でも北側一雄氏などが度々言及してきた「東日本大震災後の最大7カ月程度の延期」に加えて、土井真一氏が紹介した終戦後最初の衆院総選挙の事例はとても興味深いものでした。土井氏の指摘は、
(東日本大震災のほか)もう1つの事実は、終戦後最初の帝国議会衆議院議員総選挙が、昭和21年4月10日に行われている事態だ。東京・大阪等大都市の大空襲、広島・長崎の原爆投下、ポツダム宣言の受諾という未曾有の緊急事態にあって、12月8日には衆議院の解散が行われ、GHQとの関係で4月まで延びたが、政府は1月に総選挙を実施する予定だった。
というものでした。

今回は参考人質疑が行われたにもかかわらず委員の出席率がやや悪く(とは言っても衆院に比べればずいぶんましですが)、自民党はほぼ全時間にわたって1、2人が欠席しており、立民や公明、維新の委員も時折席を外していました。
傍聴者数は25人ほどでいつもと同程度でしたが、記者は1人しか姿を見せませんでした。

今国会の参院憲法審査会では緊急集会が4回、合区が2回テーマとされてきました。会期末が近づく中、衆院とは違って強引に議論を集約して何らかの結論を出そうなどという雰囲気は感じられませんが、警戒を怠ることなく、今後の展開を注視し続けていきたいと思います。(銀)


5月25日(木)10時少し過ぎから11時35分くらいまで、衆議院憲法審査会が開かれました。3月2日の第1回から、5月4日の休日を挟んで、12回連続の定例日開催です。

この日は、国民投票を主なテーマとして、委員間の討議が行われました。最初に各会派の委員7人が7分以内で見解を表明し、続いて発言を希望する委員(その日の発言者はあらかじめ決まっています)が5分以内で意見を開陳するという慣例となっているパターンで議事が進められました。これもいつもと同じく、多くの委員が少しずつ制限時間をオーバーし、予定された終了時刻を数分経過して閉会となりました。
今回もやや唐突にテーマが変わった感がありますが、その背景はわかりません。前回の参考人質疑でコテンパンにやられた改憲勢力がどのように態勢を立て直すか、少し時間がほしかったということだったのかもしれませんが、考えすぎでしょうか。
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今回も、まず、この日の各委員の発言の要旨をまとめた『東京新聞』のウェブサイトに掲載された記事を転載させていただきます。

衆院憲法審査会・発言の要旨 自民は国民投票手続き規定の整備、立民はCM規制を主張
『東京新聞TOKYO Web』2023年5月25日

衆院憲法審査会は25日開かれ、改憲の手続きの国民投票を巡って与野党の委員が討議した。発言の要旨は次の通り。
◆各会派代表の意見

新藤義孝氏(自民)
国民投票広報協議会は、憲法改正の発議があったときに国会に設けられる機関だ。現在、協議会の規定はまだ定められていない。放送・新聞広告に関する規定、事務局規定の制定や法改正は全く手が付けられていない。三つの規定と関連法の改正について、まずは事務方によるたたき台を作成し、(憲法審の)幹事懇談会等で成案を得るべく、各会派との協議を提案する。
階猛氏(立憲民主)
わが党の国民投票法改正案では、放送CMについて、勧誘のCMは禁止。意見表明のCMは、政党は禁止するものの、それ以外の主体は資金規制に抵触しない限り自由に行える。ネットCMについては、政党は禁止した上で、それ以外はCM主体の情報を表示し、資金規制を守る限りは自由とする。ネットCM規制を国民投票法に盛り込むことは最優先で行うべき課題だ。
三木圭恵氏(維新)
立民案は、勧誘のCMは主体を問わず全期間禁止され、政党は賛否の意見表明のCMも一律禁止するという案だ。表現の自由を侵害し、憲法違反の恐れがある。いつまでもCM規制の件で国民投票法案が膠着状態のままなのは問題だ。国民投票広報協議会の組織に関する課題、細則や規定をどうするか等の議論を深め、早急に結論を出すことをお願いする。
国重徹氏(公明)
デジタル社会の問題に対し、国民のリテラシー向上も必要だ。国民が、どこに正確な情報が掲載されているかを容易に知ることができることも極めて重要。国民投票広報協議会がネット上で正確な情報を多く発信し、その情報に国民が簡単にアクセスできるようにする必要がある。国民投票広報協議会の具体的な役割について一定の合意を形成していくべき時期にある。
玉木雄一郎氏(国民民主)
ネットがテレビやラジオ以上に国民が情報を獲得する媒体となっている状況を考えると、国民投票広報協議会がネットを利用した広報や、禁止期間における政党の広告を行うための法整備が必要だ。その際、どのようなルールを定めれば公平性、公正性が担保されるかが重要だ。国民投票広報協議会に何らかのファクトチェック機能を持たせることも検討すべきだ。
赤嶺政賢氏(共産)
現行の国民投票法は、国民の民意をくみ尽くし、正確に反映させるという点で重大な欠陥がある。具体的には、最低投票率の規定がないこと、公務員や教育に携わる者の投票運動を不当に制限していること、改定案に対する広告や意見表明の仕組みが公平公正なものになっていないことの3点。欠陥を放置したまま、改憲論議だけを推し進めることは、幾重にも許されない。
北神圭朗氏(有志の会)
国民投票だけでなく、あらゆる選挙で外国からのよからぬ意図を持った偽情報に備える必要がある。国民投票広報協議会と民間団体が連携するだけで、氾濫する偽情報に対応しきれるか。民間任せでなく、国民投票広報協議会にファクトチェック機能を担わせる必要がある。外国からの選挙介入を突き止める能力の向上、有権者に真実を伝達する体制が強く求められる。

◆各委員の発言

神田憲次氏(自民)
政党のCM規制については、慎重な議論が必要だ。国会の議論を一番よく知っている政党が、国民投票の公平公正を担保しつつ、国民に対し国会での議論を知らせていくことは重要だ。
奥野総一郎氏(立民)
改正国民投票法付則4条は施行後3年をめどに、CM規制、ネット規制等について、必要な法制上の措置を講じることを求めている。措置が講じられるまで、憲法改正発議はできない。
岩谷良平氏(維新)
2005年の衆院憲法調査会報告書は緊急事態条項について「憲法に規定すべきとの意見が多く述べられた」とあるが、いまだに消極的、否定的な党がある。結論を出すべき時が来ている。
北側一雄氏(公明)
国民投票広報協議会で何ができるのか、どういう役割を持たせるのかということがだんだん議論されていくと、CM規制をどうしていくのかについての議論の参考、前提になってくる。
中西健治氏(自民)
投票環境整備については、今後も公職選挙法改正により国民投票法に反映させるべき項目が発生すると予想される。機械的に反映させるような仕組み作りを検討すべきではないか。
本庄知史氏(立民)
外国勢力によるフェイクニュース、偽情報の流布、巨額の資金を用いた世論操作等も想定される中、これらを規制するための国民投票法の改正こそ、今国会で行うべき安全保障論議だ。
* 引用、ここまで。

この記事では、各委員が国民投票をめぐる課題について述べた意見が要領よくまとめられていますが、私は、特に赤嶺政賢氏(共産)が指摘した最低投票率の規定、公務員や教育に携わる者の投票運動の規制のあり方が、2007年の改憲手続法成立時の附帯決議において検討課題として掲げられ、その後も法改正の度に取り上げられてきた事項であるにもかかわらず、最近の憲法審では全く議論されなくなっていることは大きな問題だと思います。

また、上掲の記事で要約されている階猛氏(立民)の意見表明に関連して、氏が発言の冒頭で「論点を明確にするため、昨年の通常国会以降の各会派の発言について私なりの視点で衆院法制局にまとめていただいた一覧表を提出することを幹事会に提案したが、本日もかなわなかった」、「(新藤義孝与党側筆頭理事=自民が)緊急事態における議員任期延長については早々と論点整理の資料を審査会に提出する一方、国民投票時の放送CM、ネットCM規制について我が党が論点整理を行おうとすると妨害するという手前勝手でご都合主義の態度は許されない」と述べ、新藤氏の専横ぶりを暴露したことは、私たちが憲法審の運営の実情を知る上でとても有益でした。

ちなみに、新藤氏はこの日も『「国民投票広報協議会」の概要とその課題』と題したペーパーを配布して、これからの議論を仕切ろうという意図をあからさまにしていました。

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国民投票をめぐるこの日の議論は、(このテーマに全く関係なく、内容的にも理解しがたい意見を述べた岩谷良平氏(維新)を除けば)、国民投票広報協議会のあり方、テレビCM規制・ネット規制(CM、フェイクニュースなど)の可否やその方法、外国からの介入防止の重要性とその方法などをめぐって行われました。

このうち国民投票広報協議会について、『産経新聞』のウェブサイトの記事から、その位置づけや役割がわかりやすくまとめられている部分を転載させていただきます。

改憲発議にらみ事務作業も本格化 国民投票広報協議会
『産経ニュース』2023年5月25日

25日の衆院憲法審査会で焦点が当たった「国民投票広報協議会」は、憲法改正のルールを定めた国民投票法に基づき設置される組織だ。改憲発議から国民投票までの間、改憲の賛否両論をまとめた公報や新聞・放送広告などを介して国民の判断材料の提供を担う。(中略)
広報協議会は憲法改正案の内容や賛成・反対の意見などを記した「国民投票公報」の原稿作成▽投票所に掲げる憲法改正案の要旨の作成▽放送・新聞広告を介した広報-などを担う。(中略)
とはいえ、広告の掲載回数やインターネットを利用した広報の在り方、広報協議会事務局の人員などの細則は決まっていない。

また、事実に基づかない「フェイクニュース」の拡散を懸念し、「広報協議会にファクトチェック機能を持たせるか検討すべきだ」(中略)といった新たな提案もある。前例のない組織だけに、解決すべき課題は少なくない。(太田泰、内藤慎二)
 * 引用、ここまで。

この広報協議会については、今後、新藤氏が提出したペーパーに沿って、上掲の『東京新聞』の記事にあるように、衆院憲法審の事務局が必要とされる規定のたたき台の作成等を行うことになると思われます。北側一雄氏(公明)もこれを歓迎する発言をしていますし、やや行き詰まっている感のある改憲項目の絞り込みに先だって、まずはこちらの議論が進められていくのかもしれません。

テレビやネットのCM規制、ネットやSNSによる意見表明の制限やフェイクニュース対策などについては、階猛氏が立憲民主党の方針をかなり具体的に説明したのに対して、三木圭恵氏(維新)がやれ「表現の自由を侵害するおそれがある」だの、やれ「ネットの規制は難しい」だの、否定的な意見を繰り返したことが印象的でした。その意図はよくわかりませんが、この問題を本格的に議論すればいつまでかかるかわからない、それで改憲が遠のくようなことは避けたいということかもしれません。

国重徹氏(公明)も、三木氏ほど露骨な言い方ではありませんでしたが同様の見解を述べ、さらに「この問題は国民投票に限られるものではなく、デジタル社会の問題は個人の尊重や平等など幅広い議論が必要で、国民のリテラシーの向上も必要だ」と、議論を拡散して雲散霧消させようとするかのような発言をしていました(酷評しすぎかもしれませんが、私はこのように感じてしまいました)。
これに対して、玉木雄一郎氏(国民)と北神圭朗氏(有志)は、広報協議会のファクトチェック機能の充実などを積極的に議論すべきだとの立場で、このテーマについては改憲勢力の中でもスタンスが異なることが明らかになりました。

やはり自説を曲げなかった改憲勢力の面々

参議院の緊急集会をめぐる前回の参考人質疑の内容がよほど悔しかったのか、この日のテーマとは無関係に、玉木氏(国民)と北側氏(公明)が参考人のいない場で反論を行いました。
特にあきれたのは玉木氏のこのような発言でした。

「40日、30日と憲法に具体的な数字が明記されている準則規定は、平時には100%守らなければいけないが、緊急時には生き残ることが最優先だから従わなくてもいいという(長谷部恭男氏の)主張は危険だ。この法理が許されるなら、例えば憲法9条の規定や解釈は全く意味がなくなってしまう。国家の存亡をかけた究極の緊急事態が戦争であり、そのとき国家の生き残りのためなら敵基地攻撃どころかフルスペックの集団的自衛権の行使も可能となる(からだ)。」
支離滅裂とはこのことで、何を言いたかったのかまったくわかりませんでした。

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北側氏の発言にも驚きました。
「(長谷部氏によれば)憲法54条で40日、30日と日数を限っているのは、解散後いつまでも選挙を実施しない、選挙の後いつまでも国会を召集しないなど現在の民意を反映していない従前の政府が居すわり続けることのないようにとの考慮からだということだが、そんなことはない。(長谷部氏は)それほど日本の民主主義は熟度がないと思われているのかと私は感じた。54条の目的は、国会の二院制、同時活動の大原則から、衆議院が不在の期間をできるだけ短くしないといけないというところにある。

北側氏は、戦時中、創価学会に対する大弾圧の中で創設者が獄死した教訓として、緊急事態時に権力が振るう圧政の底知れない恐ろしさを感じていないのでしょうか。また、憲法43条の「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する」という「原則」についてはどう考えているのでしょうか。

この日の傍聴者は30人弱でしたが、11時過ぎに20人ほどの団体が入場してきました。記者は5、6人でした。
前回の参考人質疑のときとはうってかわって自民の欠席者がいつも以上に多く、3、4人だった時間帯もありましたが、だいたい7、8人から10人くらいが席を外していました。他の会派は、一時的に離席した委員はいましたが、全員が出席していました。

今国会での衆議院憲法審査会は、緊急事態条項、特に議員任期の延長問題から、憲法9条、参議院の緊急集会、そしてこの日の国民投票と、次々にテーマを変えて開かれてきましたが、それは改憲勢力が発議・国民投票に向けたシナリオを描き切れていないことの表れだと思います。もちろん両院の勢力から見ても楽観は許されませんが、改憲阻止の展望は間違いなくあります。
会期延長がなければあと3回の審査会で、改憲勢力が一致して取り組めるような項目を打ち出せるのか、引き続き注視していきたいと思います。(銀)


5月18日(木)10時から11時30分過ぎまで、衆議院憲法審査会が開かれました。3月2日の第1回から、5月4日の休日を挟んで、11回連続の定例日開催です。

この日は、参議院の緊急集会について、大石眞京都大学名誉教授と長谷部恭男早稲田大学大学院教授を招いて、参考人質疑が行われました。最初に両参考人が意見を述べ、続いて各会派の委員7人が質疑を行うという形式でしたが、持ち時間20分の参考人は大石氏が11分強、長谷部氏も約16分で発言を終了したのに対して、各会派委員の質疑は7人とも持ち時間の7分を超過したため、結果的に予定されていた1時間30分の所要時間をややオーバーして閉会となりました。
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まず、この日の審議の概要をまとめた『東京新聞』のウェブサイトに掲載された2本の記事を転載させていただきます。

衆院憲法審査会で参院緊急集会巡り参考人質疑 長谷部恭男氏は「本末転倒の議論の疑いもあり得る」と指摘
『東京新聞TOKYO Web』2023年5月18日

衆院憲法審査会は18日、憲法が衆院解散時に国会の権能を代行する制度と定める参院の緊急集会を巡り、憲法学者の大石真・京都大名誉教授と長谷部恭男・早稲田大大学院教授を招いて参考人質疑を行った。(佐藤裕介)

戦争や大規模自然災害といった緊急時の国会機能維持策としては、緊急集会でどこまで対応できるかが主要な論点に浮上している。衆院解散から40日以内の総選挙、その後30日以内の国会召集という規定を根拠に、改憲勢力は緊急集会を開ける期間が最大70日間にとどまると主張。それを超えて選挙の実施が困難な場合に備え、国会議員の任期延長を可能とする緊急事態条項の新設が必要だと訴えている。

大石氏は「緊急集会が両院同時活動の原則に対する例外であることを考えれば、最大70日という制約に服すると考えるのが合理的」と、改憲勢力の意見に理解を示した。
これに対して、長谷部氏は憲法が衆院解散から総選挙、国会召集までの期間を限定していることに関して、平時を前提に「民意を反映しない従前の政権がそのまま居座り続けることを阻止する目的だ」と指摘。緊急時は70日間という日数に縛られる必要はないとした上で、衆院議員の任期を延長し、総選挙を経ることなく立法など全ての権能を与えることは「本末転倒の議論ではないかとの疑いもあり得る」と強調した。
参考人は意見陳述の後、各党からの質問に答えた。


衆院憲法審査会・発言の要旨
『東京新聞TOKYO Web』2023年5月18日 23時00分

18日の衆院憲法審査会での主な発言の要旨は次の通り。
参考人の意見聴取

大石真・京都大名誉教授 
憲法は、衆院解散時に参院の緊急集会を開催可能と規定している。任期満了後の総選挙実施不能の場合について、解散時の類推解釈として、緊急集会を開催することは可能だと考える。

解散に起因する衆院の不在期間は憲法上最長70日と限定されている。任期満了後の選挙不能事態の場合も70日という制約に服すると考えるのが合理的だ。これをはるかに超えて緊急集会の期間を認めるとすれば、類推解釈の名の下に正当化できるものではない。

緊急集会中の参院議員には、内閣から示された案件に関する議案の発議権が認められている。この限定は国会法という法律によるものにすぎない。改正は緊急集会でも行えると考えられるので、参院議員の発議権に対する制約は原理上、存しないことになる。緊急集会の権限拡大は、内閣と参院の関係を大きく変える。

長谷部恭男・早稲田大大学院教授 
総選挙を長期にわたって先送りしなければならない状況は簡単には発生しないだろう。繰り延べ投票などの実施も可能なのに、将来のことが確実にわかっているかのように総選挙を先送りすることは、国民の目にどう映るか、という問題もある。

衆院議員の任期を延長すると、総選挙を経た正規のものとは異なる国会が存在し、法律が成立することになる。緊急時の名を借りて、通常時の法制度を大きく変革する法律が次々に制定されるリスクも含まれかねない。任期延長された衆院と、それに支えられた政権が長期に居座り続ける「緊急事態の恒久化」を招くことにもなりかねない。

(緊急集会を定める)憲法54条が日数を限っているのは、現在の民意を反映していない政府がそのまま政権の座に居座り続けることがないようにとの考慮からだ。緊急集会の継続期間が限定されているように見えることを根拠として衆院議員の任期を延長し、政権の居座りを認めるのは、本末転倒の議論ではないか。
参院の緊急集会は十分な理由に支えられた制度で、新たな制度を追加する必要性は見いだしにくい。

◆各会派代表の質疑

新藤義孝氏(自民)
憲法は、選挙実施の見通しがつかない事態でも、緊急集会のみを活用した議会機能維持を想定しているのか。
長谷部氏 選挙が実施できない困難が解消され次第、全選挙区で選挙を速やかに実施していくことを、むしろ憲法は求めている。

階猛氏(立憲民主)
現に起きている解散権の乱用や臨時国会召集の先送りという国会機能の不全を議論すべきではないか。
大石氏 
私も危惧を共有している。解散権の問題は憲法改正事項になる。それも含め、トータルに議論すべきではないか。

小野泰輔氏(維新)
緊急集会が70日以上続くことが許容されたとして、その場合、歯止めはなくていいのか。
長谷部氏 
国家の存立がかかっている事態で、この数字にこだわるべきなのか。そこはやはり、考え直さなくてはいけない。

北側一雄氏(公明)
長期間、衆院選、参院選を適正に実施することが困難なことは十分あり得る。
長谷部氏 
衆院選がかなりの選挙区で実施困難でも、同じ地域選出の参院議員がいる。緊急集会で対応している限り、問題ない。両院制の妙味が生かされる。

玉木雄一郎氏(国民民主)
ずるずると解釈で緊急集会の権限を広げてしまうと、緊急集会の乱用が起こる可能性がある。
大石氏 
確かに(乱用の)恐れがないわけではない。問題は緊急集会の持ち方だ。議長の議事整理権で歯止めを設けられる。

赤嶺政賢氏(共産)
緊急集会に関する規定は、国民の自由と権利を奪い、侵略戦争に突き進んだ歴史への反省と一体のものだ。
長谷部氏 
この規定の目的は、民意を反映しない政権の居座りを防ぐことだ。この目的を第一に物事を考えることが必要だ。

北神圭朗氏(有志の会)
衆院解散時の緊急集会の規定を、衆院議員の任期満了時に類推適用することは、限定的な法解釈か。
大石氏 
それなりの類似性が認められ、合理的な理由があれば、直接は(条文に)書いていないが、解釈でカバーできる。
* 引用、ここまで。
 
こんなことくらいで喜ぶのも我ながら情けないと思いますが、この日の参考人質疑は改憲勢力の目論見に肩すかしを食わせるものになりました。上掲の『東京新聞』の2本目の記事、「衆院憲法審査会・発言の要旨」の「参考人の意見聴取」をお読みいただければ、参考人の発言の中で改憲勢力の主張に近いのは、大石眞氏が緊急集会の期間について述べた「70日という制約に服すると考えるのが合理的だ。これをはるかに超えて緊急集会の期間を認めるとすれば、類推解釈の名の下に正当化できるものではない」という見解だけで、しかもそこには「はるかに超えて」という条件が付されていることがおわかりいただけると思います。

参議院の緊急集会に関する改憲派のその他の主張については、両参考人はことごとく否定的な意見を表明しました。私もそうでしたが、傍聴者の中には、この日の審議を目の当たりにして、2015年6月4日の衆議院憲法審査会で、長谷部恭男氏をはじめ3人の参考人がそろって集団的自衛権を認める安保関連法は違憲だと述べたことを思い出した方が多かったと思います。赤嶺政賢氏(共産)も質疑の中でこのことに言及していました。

しかしながら、あのとき安倍政権は、反対するあるいは慎重審議を求める意見が多数を占めていた世論をものともせず、安保法制を強行成立させました。今回も、参議院の緊急集会の期間は70日間に限定される、だから衆院の解散後あるいは任期満了後に総選挙の実施が長期間かつ広域的に困難となる緊急事態が発生した場合には、前衆院議員の任期を延長して二院制の国会の機能を維持しなければならない、そのためには憲法改正が必要だという主張がいかに無理筋のものであっても、改憲派がそれを簡単に引っ込めるとは考えられません。

ところで、長谷部氏は最初の意見表明の中で、改憲勢力の改憲条文案で任期延長の対象とされている前衆院議員を「すでに失職をした、あるいはこれから失職するはずの衆議院議員」と表現していましたが、私は「失職」という言葉を使うことで任期延長案の異常さがより鮮明に浮かび上がってくると思いました。

長谷部氏は、次のようにも述べていました。『東京新聞』の記事と重複する部分が多いのですが、もう少し詳しく紹介したいと思います。
衆議院議員の任期を延長すると、そこには総選挙を経た正規のものではない異形のものだが、国会に付与されたすべての権能を行使し得るある種の国会が存在し、通常の一般的な法律が成立することになる。そこには、緊急時の名を借りて通常時の法制度を大きく変革する法律が次々に制定されるリスクも含まれている。悪くすると、任期の延長された衆議院とそれに支えられた従前の政権が長期にわたって居すわり続ける緊急事態の恒常化を招きかねない。」(「異形のもの」、「ある種の国会」という表現もなかなかのものですね。)
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憲法54条が(解散から総選挙まで)40日、(総選挙から国会召集まで)30日と日数を限っているのは、解散後も何かと理由を構えていつまでも総選挙を実施しない、あるいは総選挙の後いつまでも国会を召集しないなど、現在の民意を反映していない従前の政府が政権の座に居すわり続けることのないようにとの考慮からだ。緊急集会の継続期間が限定されているかのように見えるのは、その派生的な効果にすぎない。それにもかかわらず、結果として緊急集会の継続期間が限定されているかのように見えることを根拠として従前の衆院議員の任期を延長する、そして従前の政権の居すわりを認めるのは、本末転倒の議論ではないかとの疑いもあり得る。」

私は、改憲勢力の衆院議員任期延長論の薄っぺらさや牽強付会ぶりを弾劾するうえで、これ以上説得力のある議論はないだろうと思いました。

自説を曲げない改憲勢力の面々をたしなめる参考人

参考人と委員との質疑は、委員(立民の階猛氏と共産の赤嶺政賢氏を除く)の意見や質問を参考人(特に長谷部氏)がたしなめるという体で進みました。

それは改憲勢力の面々が、参考人の意見表明に反論し、自説を開陳しながら「本当にそんな考え方でいいんですか?」というふうに質疑を行ったからですが、例えば以下に紹介するやりとりからも明らかなように、改憲派がこれまでの主張を見直す可能性はぼぼないと言っても過言ではないと思います。

長谷部氏「40日、30日という数字だが、憲法に限らず法律でもこういう数字が定められていることはよくある。ただ、どうしても40日、30日でなければならないという根拠はない。例えば道路交通法で(自動車が走行するのは)左と決まっているが、右を通るという国もある。これは、左右どちらがいいのかを議論しても仕方がなく、とにかく日本では左と決まっていることが重要だという問題だ。
40日、30日という期限もそういう問題で、平時なら必ず守らなくてはいけないが、国家の存立がかかっているような事態のときこの数字にどれほどこだわるべきなのかは考え直さなければいけないところがあると私は考えている。」

小野泰輔氏(維新)「本当にそんなことをおっしゃっていいのか私はわからない。選挙が全国で一体的に実施できなくても定足数を確保できるならそれでいいというお話もあったが、それによって特定の災害を受けた地域の民意が反映されない状態より、従前に選挙で選ばれた全国会議員の任期を延長する方が正当性が高く妥当ではないかと私は思う。」
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この日の傍聴者は35人ほどで、審査会が定刻の10時に始まったため、前回ほど多くはありませんでしたが開会に間に合わない方がいらっしゃいました。定時に始まると傍聴できない審査会っておかしいんじゃないでしょうか。記者は5人でした。

この日は参考人に失礼にならないようにということか自民の欠席者が少なめで、6、7人になった時間帯もあったもののだいたい1~3人で推移していました。短時間とはいえ全員が席に着いているという滅多にない光景を目にすることもできましたが、与党側筆頭理事の新藤義孝氏(自民)は、途中かなり長く席を外していました。他の会派は、一時的に離席した委員はいましたが、全員が出席していました。

上述のように、今回の参考人質疑によって参議院の緊急集会に関する改憲勢力の見解が修正されるとは思えません。むしろ参考人質疑の実施で「議論は尽くした」と主張してくるおそれがあり、議員任期の延長がダメならやっぱり緊急政令や緊急財政処分の規定が必要じゃないかという議論を強く押し出してくるかもしれません。
衆院ではほぼ100%の確率で憲法審の毎週定例日開催が続くと思われます。今国会の会期末まであと4回の審査会で改憲勢力が発議、国民投票に向けてどのような方向性を打ち出してくるのか、引き続き注視していきます。(銀)


5月17日(水)13時から14時20分頃まで、今国会5度目の参議院憲法審査会が行われました。4月5日の第1回以降、4月19日と休日の5月3日を除き、ほぼ毎週の開催が続いています。今回の議題は参議院議員選挙区の合区問題で、このテーマでは今国会2度目の審議となりました。4月26日には、合区の対象となっている4県の知事、副知事を招いて参考人質疑が行われましたが、今回は川崎政司参院法制局長が出席し、委員からの質問に答えていました。
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参議院の憲法審査会では、衆議院とは大違いで早めに傍聴席に入ることができますので、この日も10分以上前から座席を確保していたところ、いつもなら開会予定時刻の13時ギリギリに議場に姿を現す幹事の面々が、5分ほど前に入場してきました。審査会の運営について話し合う12時50分開始の幹事会が5分以内であっさり終了したからですが、私の記憶する限りこんなことは初めてでした。
また、審査会の冒頭、中曽根弘文会長(自民)が「本日は、委員間の意見交換を1時間30分を目途に行います」と述べましたが、実際には10分も短い約1時間20分で閉会となりました。

これらのこと、つまり幹事会と審査会の早期終了は、現時点では参議院憲法審査会でどうしても議論しなければならないテーマが、改憲勢力の側にも見いだせていないことを示しているのではないでしょうか。この日各委員から表明された意見を聞いていても新たな論点はほとんどなく(これはもちろん私の主観ですが)、いったい何のために開かれたのかと感じざるを得ませんでした。あえて言えば、審議会を毎週のように開催すること自体が目的だったのでしょう。

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以下、この日の審議の概要を報じた『東京新聞』のウェブサイトに掲載された記事を転載させていただきます。

「合区解消」は改憲の理由になるのか? 自民は検討加速を訴え、立民は法改正で対応可能と主張
参院憲法審【詳報あり】
『東京新聞TOKYO Web』2023年5月17日

参院憲法審査会が17日に開かれ、参院選で隣接県を一つの選挙区にする「合区」をテーマに討議した。自民党は改憲による合区解消を求めつつ、2025年の参院選に間に合わせるため、当面は法改正で実現すべきだとの見解を示した。立憲民主党は法改正で対応できるとの認識を繰り返した。

合区は一票の格差是正を目的に導入され、2016年参院選から「鳥取・島根」と「徳島・高知」が設けられた。だが、地方の声が国政に届きにくくなるとして、都道府県単位での議員選出を求める声が根強い。

自民党の片山さつき氏は「都道府県という境目を取り払うのは、中長期的に見て民主主義の衰退なのではないか」と述べ、合区解消に向けた検討の加速を訴えた。党が掲げる改憲による実現のほか、法改正での対応もあり得るとした。

立民の杉尾秀哉氏は、改憲による合区解消について「投票価値の平等という憲法14条に基づく人権を犠牲にすることを考えれば、正当性の根拠が不十分と言わざるを得ない」と指摘。参院独自の役割や機能を定めることなどにより、国会法と公選法の改正で都道府県単位の議員選出は可能になると主張した。

日本維新の会は合区に関し、選挙制度の見直しでの対応を求めた。共産党とれいわ新選組は合区解消を改憲の理由とすることに反対した。(佐藤裕介)


17日の参院憲法審査会での主な発言の要旨は次の通り。

【各会派代表の意見】
片山さつき氏(自民)
現行憲法では都道府県、市町村の位置付けは明確になっていない。条文にしっかり位置付けるべきだ。投票価値の平等という観点で機械的に都道府県という境目を取り払うのは、中長期的に見て民主主義の衰退なのではないかと懸念する。抜本的には憲法改正して合区を解消してはどうかと考えているが、法改正による合区解消についても議論を進めるのはあり得る。
杉尾秀哉氏(立憲民主)
都道府県からの選出が投票価値の平等という憲法14条に基づく人権を犠牲にすることを考えれば、正当性の根拠が不十分。参院を「地方の府」とすべきとの主張も、参院が憲法43条が規定する全国民の代表であることと矛盾する。憲法改正による合区解消も、別の憲法上の矛盾を生じさせる。合区の廃止は国会法、公職選挙法の改正で解決する方策がある。
佐々木さやか氏(公明)
公明党は全国を11のブロック単位とする個人名投票による大選挙区制を提唱している。投票価値の平等と地域代表的性格の調和の観点に立つものだ。一票の価値の平等が重要な憲法上の要請となっており、都道府県を参院の選挙区の単位としなければならないという憲法上の要請はない。現行憲法下で参院の選挙区を都道府県単位とし、合区を解消することは難しい。
東徹氏(維新)
合区解消は維新の考え方にはない。憲法審で合区解消(の議論)はやめてほしい。憲法改正ではなく、選挙制度をどうするかという話だ。どうしても参院選で都道府県選挙区を維持し、毎回1人以上が当選できるようにするのであれば、比例区の定数を大幅に減らし、都道府県選挙区の定数に回すことで、議員定数を増やさなくても選挙区の一票の格差を抑えることができる。
大塚耕平氏(国民民主)
わが党は、参院における法の下の平等とは単純な一票の平等ではなく、自身の居住する都道府県から少なくとも1人は代表を選出できる権利であることを立法府の意思として明確に主張すべきだと、従前から申し上げている。参院に関しては、裁判所が単純な一票の格差で判決を下すことのないように求めるという意思すら、明確に立法府が述べるべきだ。
山添拓氏(共産)
民意は多様で、一つの県でも一つの意見ということはあり得ない。小選挙区制では死票が多く、民意が反映されにくくなる。合区されれば一層深刻で、地域の声が国政により届かなくなる。共産党は投票価値の平等を実現するとともに、多様な民意が正確に議席に反映する制度とするため、比例代表を中心とする全国10ブロックの非拘束名簿式の選挙制度を提案してきた。
山本太郎氏(れいわ)
合区によって生み出された弊害は、事前に警鐘が鳴らされた通りになっている。一度合区にしてしまえば、当事者たちから「憲法改正が必要だ」と声が上がらざるを得ない。憲法改正につなげる動きの一つとして仕込んだのではないかと推察する。合区が必要だと先頭で旗を振ってきた者が、返す刀で「合区の解消を憲法改正で」とは話がおかしすぎる。迷惑でしかない。

【各委員の発言】
山谷えり子氏(自民)
最高裁は合区解消のために国会がどのような努力をしたかで判断するようになっている。憲法14条の平等論の議論であるはずなのに、立法の不作為の違憲性の議論になっている。
福島瑞穂氏(社民)
自民党は合区を提案しながら、合区解消のための憲法改正を言っていることが理解できない。100年、200年単位で憲法を考えるべきで、選挙制度改革は公職選挙法改正で行うべきだ。
中西祐介氏(自民)
2025年の参院選までの合区解消を実現するためには、今後の参院改革協議会の中での議論を合わせて、あらゆる手だてを尽くして法律改正による合区解消をするべきだ。
猪瀬直樹氏(維新)
ウクライナでロシアが侵略しているとき、憲法9条、自衛隊の位置付けをテーマにしないと、この場は一体何なのかとなる。(合区問題の議論は)時事的な当事者性に欠けていると思う。
矢倉克夫氏(公明)
合区解消を目的に憲法に参院の地域代表制を書き込むと、規定ぶりによっては、国会議員が選出母体である地方の指令の枠内でのみ代表権を持つにすぎないという形になってしまう。
*引用、ここまで。

合区導入から合区解消のための改憲まで2年半、あまりにも身勝手な自民党の主張

上述したように、今回の憲法審で合区問題について新たな論点はほとんど提示されませんでしたが、上掲の『東京新聞』の記事に紹介されているように、自民党の委員が「法律改正による合区解消についても議論を進めることはあり得る」(片山さつき氏)、「2025年の参院選までの合区解消を実現するためには、第一に、参院改革協議会の下で超党派での法律改正による合区解消を目指す」(中西祐介氏)と明言したことが注目されます。合区の解消は、まずは改憲ではなく法改正で行うべきだと認めたことになるからです。

この日も山本太郎氏(れいわ)が「『合区にしろ』から『合区解消のための改憲を』まで約2年半というのは話がおかしすぎる」、福島瑞穗氏(社民)が「合区を提案し成立させながら、合区解消のための改憲を言っていることが理解できない」と自民党を厳しく批判していましたが、自民の委員たちにしてみればぐうの音も出なかったというところでしょう。
なるほどマーク

ちなみに、山本氏は「合区にすれば地元から改憲が必要だと声が上がることをわかった上でトラップを仕込んだのではないか」とまで述べ、「ただの無能か確信犯か、どちらにしても迷惑でしかない」と論難していましたが、この間の自民の委員たちの議論を聞いていると、私は「ただの無能」だと判断します。福島氏が指摘したように、「選挙制度はめまぐるしく変わっている。憲法は100年、200年単位で考えるべきであり(私はちょっと長すぎるような気がしますが)、選挙制度の改正は公職選挙法で行うべきだ」というのが正論だと思います。

自民以外の改憲勢力の主張はバラバラ

上掲の『東京新聞』の記事にあるように、佐々木さやか氏は「公明党は全国を11ブロック単位とする個人名投票による大選挙区制を提唱している」と述べました。これは山添拓氏の「共産党は全国10ブロックの非拘束名簿方式の選挙制度とすることを提案してきた」という発言とほぼ同じように聞こえますが、公明党が個人名投票を推すのは支持票の割り振りに自信を持っているからだと思います。つまり、当落線の少し上の順位のところで目一杯の議席を確保しようという算段なのでしょう。

これに対して維新は、東徹氏が「都道府県の合併や道州制を検討すべきだ」、「先日の審査会での丸山島根県知事の『両院ともに投票価値の平等に重きを置くのなら一院制で足りるのではないか』という発言を聞いて、同じ思いだと思った」などと主張、猪瀬直樹氏にいたっては「今、合区問題を取り上げるのに僕は非常に消極的な気分だ」、「人口減少で過疎化が進行するのは不可避で、前向きな解決策はないと思っている」と、よく言えば独創的な、悪く言えば場違いの意見を開陳していました。

驚いたのは大塚耕平氏(国民)の発言で、氏は「参議院に関しては各都道府県最低1人は選出できるようにすることが立法府の意思であることを明確にし、裁判所に対して単純な1票の較差で判決を下すことのないように求めるべきだ」と、三権分立を否定しているとも解されかねないちょっと危ない見解を披露していました。
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このように、公明、維新、国民の主張はバラバラで、現状では自民を含めて合区問題で改憲案が提起されるような気運は見られませんし、公職選挙法改正の議論もほとんど行われていませんが、小林一大氏(自民)によれば、「合区問題については、今年秋に新たな最高裁の判断が示される旨が報じられている」そうですので、その内容によっては新たな展開があるかもしれません。ただ、今後公選法改正の検討が軌道に乗るとしても、それは参議院改革協議会など憲法審査会以外の場で行われることになると思われます。

今回も委員の出席率はとても高かったのですが、珍しく自民党の委員1人がずっと欠席していたように見えました(自民の委員は五十音順に並んでおらず、名札の文字も遠くて読み取りづらいので、確信はありませんが)。
傍聴者数は20人弱でいつもより少なめで、記者は4、5人でした。

次回以降、参議院の憲法審査会がどのように進められていくのか、衆院のように毎週定例日開催が強行されるのか、どんなテーマが取り上げられるのか、引き続き注視していきたいと思います。(銀)

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