5月18日(木)10時から11時30分過ぎまで、衆議院憲法審査会が開かれました。3月2日の第1回から、5月4日の休日を挟んで、11回連続の定例日開催です。

この日は、参議院の緊急集会について、大石眞京都大学名誉教授と長谷部恭男早稲田大学大学院教授を招いて、参考人質疑が行われました。最初に両参考人が意見を述べ、続いて各会派の委員7人が質疑を行うという形式でしたが、持ち時間20分の参考人は大石氏が11分強、長谷部氏も約16分で発言を終了したのに対して、各会派委員の質疑は7人とも持ち時間の7分を超過したため、結果的に予定されていた1時間30分の所要時間をややオーバーして閉会となりました。
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まず、この日の審議の概要をまとめた『東京新聞』のウェブサイトに掲載された2本の記事を転載させていただきます。

衆院憲法審査会で参院緊急集会巡り参考人質疑 長谷部恭男氏は「本末転倒の議論の疑いもあり得る」と指摘
『東京新聞TOKYO Web』2023年5月18日

衆院憲法審査会は18日、憲法が衆院解散時に国会の権能を代行する制度と定める参院の緊急集会を巡り、憲法学者の大石真・京都大名誉教授と長谷部恭男・早稲田大大学院教授を招いて参考人質疑を行った。(佐藤裕介)

戦争や大規模自然災害といった緊急時の国会機能維持策としては、緊急集会でどこまで対応できるかが主要な論点に浮上している。衆院解散から40日以内の総選挙、その後30日以内の国会召集という規定を根拠に、改憲勢力は緊急集会を開ける期間が最大70日間にとどまると主張。それを超えて選挙の実施が困難な場合に備え、国会議員の任期延長を可能とする緊急事態条項の新設が必要だと訴えている。

大石氏は「緊急集会が両院同時活動の原則に対する例外であることを考えれば、最大70日という制約に服すると考えるのが合理的」と、改憲勢力の意見に理解を示した。
これに対して、長谷部氏は憲法が衆院解散から総選挙、国会召集までの期間を限定していることに関して、平時を前提に「民意を反映しない従前の政権がそのまま居座り続けることを阻止する目的だ」と指摘。緊急時は70日間という日数に縛られる必要はないとした上で、衆院議員の任期を延長し、総選挙を経ることなく立法など全ての権能を与えることは「本末転倒の議論ではないかとの疑いもあり得る」と強調した。
参考人は意見陳述の後、各党からの質問に答えた。


衆院憲法審査会・発言の要旨
『東京新聞TOKYO Web』2023年5月18日 23時00分

18日の衆院憲法審査会での主な発言の要旨は次の通り。
参考人の意見聴取

大石真・京都大名誉教授 
憲法は、衆院解散時に参院の緊急集会を開催可能と規定している。任期満了後の総選挙実施不能の場合について、解散時の類推解釈として、緊急集会を開催することは可能だと考える。

解散に起因する衆院の不在期間は憲法上最長70日と限定されている。任期満了後の選挙不能事態の場合も70日という制約に服すると考えるのが合理的だ。これをはるかに超えて緊急集会の期間を認めるとすれば、類推解釈の名の下に正当化できるものではない。

緊急集会中の参院議員には、内閣から示された案件に関する議案の発議権が認められている。この限定は国会法という法律によるものにすぎない。改正は緊急集会でも行えると考えられるので、参院議員の発議権に対する制約は原理上、存しないことになる。緊急集会の権限拡大は、内閣と参院の関係を大きく変える。

長谷部恭男・早稲田大大学院教授 
総選挙を長期にわたって先送りしなければならない状況は簡単には発生しないだろう。繰り延べ投票などの実施も可能なのに、将来のことが確実にわかっているかのように総選挙を先送りすることは、国民の目にどう映るか、という問題もある。

衆院議員の任期を延長すると、総選挙を経た正規のものとは異なる国会が存在し、法律が成立することになる。緊急時の名を借りて、通常時の法制度を大きく変革する法律が次々に制定されるリスクも含まれかねない。任期延長された衆院と、それに支えられた政権が長期に居座り続ける「緊急事態の恒久化」を招くことにもなりかねない。

(緊急集会を定める)憲法54条が日数を限っているのは、現在の民意を反映していない政府がそのまま政権の座に居座り続けることがないようにとの考慮からだ。緊急集会の継続期間が限定されているように見えることを根拠として衆院議員の任期を延長し、政権の居座りを認めるのは、本末転倒の議論ではないか。
参院の緊急集会は十分な理由に支えられた制度で、新たな制度を追加する必要性は見いだしにくい。

◆各会派代表の質疑

新藤義孝氏(自民)
憲法は、選挙実施の見通しがつかない事態でも、緊急集会のみを活用した議会機能維持を想定しているのか。
長谷部氏 選挙が実施できない困難が解消され次第、全選挙区で選挙を速やかに実施していくことを、むしろ憲法は求めている。

階猛氏(立憲民主)
現に起きている解散権の乱用や臨時国会召集の先送りという国会機能の不全を議論すべきではないか。
大石氏 
私も危惧を共有している。解散権の問題は憲法改正事項になる。それも含め、トータルに議論すべきではないか。

小野泰輔氏(維新)
緊急集会が70日以上続くことが許容されたとして、その場合、歯止めはなくていいのか。
長谷部氏 
国家の存立がかかっている事態で、この数字にこだわるべきなのか。そこはやはり、考え直さなくてはいけない。

北側一雄氏(公明)
長期間、衆院選、参院選を適正に実施することが困難なことは十分あり得る。
長谷部氏 
衆院選がかなりの選挙区で実施困難でも、同じ地域選出の参院議員がいる。緊急集会で対応している限り、問題ない。両院制の妙味が生かされる。

玉木雄一郎氏(国民民主)
ずるずると解釈で緊急集会の権限を広げてしまうと、緊急集会の乱用が起こる可能性がある。
大石氏 
確かに(乱用の)恐れがないわけではない。問題は緊急集会の持ち方だ。議長の議事整理権で歯止めを設けられる。

赤嶺政賢氏(共産)
緊急集会に関する規定は、国民の自由と権利を奪い、侵略戦争に突き進んだ歴史への反省と一体のものだ。
長谷部氏 
この規定の目的は、民意を反映しない政権の居座りを防ぐことだ。この目的を第一に物事を考えることが必要だ。

北神圭朗氏(有志の会)
衆院解散時の緊急集会の規定を、衆院議員の任期満了時に類推適用することは、限定的な法解釈か。
大石氏 
それなりの類似性が認められ、合理的な理由があれば、直接は(条文に)書いていないが、解釈でカバーできる。
* 引用、ここまで。
 
こんなことくらいで喜ぶのも我ながら情けないと思いますが、この日の参考人質疑は改憲勢力の目論見に肩すかしを食わせるものになりました。上掲の『東京新聞』の2本目の記事、「衆院憲法審査会・発言の要旨」の「参考人の意見聴取」をお読みいただければ、参考人の発言の中で改憲勢力の主張に近いのは、大石眞氏が緊急集会の期間について述べた「70日という制約に服すると考えるのが合理的だ。これをはるかに超えて緊急集会の期間を認めるとすれば、類推解釈の名の下に正当化できるものではない」という見解だけで、しかもそこには「はるかに超えて」という条件が付されていることがおわかりいただけると思います。

参議院の緊急集会に関する改憲派のその他の主張については、両参考人はことごとく否定的な意見を表明しました。私もそうでしたが、傍聴者の中には、この日の審議を目の当たりにして、2015年6月4日の衆議院憲法審査会で、長谷部恭男氏をはじめ3人の参考人がそろって集団的自衛権を認める安保関連法は違憲だと述べたことを思い出した方が多かったと思います。赤嶺政賢氏(共産)も質疑の中でこのことに言及していました。

しかしながら、あのとき安倍政権は、反対するあるいは慎重審議を求める意見が多数を占めていた世論をものともせず、安保法制を強行成立させました。今回も、参議院の緊急集会の期間は70日間に限定される、だから衆院の解散後あるいは任期満了後に総選挙の実施が長期間かつ広域的に困難となる緊急事態が発生した場合には、前衆院議員の任期を延長して二院制の国会の機能を維持しなければならない、そのためには憲法改正が必要だという主張がいかに無理筋のものであっても、改憲派がそれを簡単に引っ込めるとは考えられません。

ところで、長谷部氏は最初の意見表明の中で、改憲勢力の改憲条文案で任期延長の対象とされている前衆院議員を「すでに失職をした、あるいはこれから失職するはずの衆議院議員」と表現していましたが、私は「失職」という言葉を使うことで任期延長案の異常さがより鮮明に浮かび上がってくると思いました。

長谷部氏は、次のようにも述べていました。『東京新聞』の記事と重複する部分が多いのですが、もう少し詳しく紹介したいと思います。
衆議院議員の任期を延長すると、そこには総選挙を経た正規のものではない異形のものだが、国会に付与されたすべての権能を行使し得るある種の国会が存在し、通常の一般的な法律が成立することになる。そこには、緊急時の名を借りて通常時の法制度を大きく変革する法律が次々に制定されるリスクも含まれている。悪くすると、任期の延長された衆議院とそれに支えられた従前の政権が長期にわたって居すわり続ける緊急事態の恒常化を招きかねない。」(「異形のもの」、「ある種の国会」という表現もなかなかのものですね。)
なるほどマーク

憲法54条が(解散から総選挙まで)40日、(総選挙から国会召集まで)30日と日数を限っているのは、解散後も何かと理由を構えていつまでも総選挙を実施しない、あるいは総選挙の後いつまでも国会を召集しないなど、現在の民意を反映していない従前の政府が政権の座に居すわり続けることのないようにとの考慮からだ。緊急集会の継続期間が限定されているかのように見えるのは、その派生的な効果にすぎない。それにもかかわらず、結果として緊急集会の継続期間が限定されているかのように見えることを根拠として従前の衆院議員の任期を延長する、そして従前の政権の居すわりを認めるのは、本末転倒の議論ではないかとの疑いもあり得る。」

私は、改憲勢力の衆院議員任期延長論の薄っぺらさや牽強付会ぶりを弾劾するうえで、これ以上説得力のある議論はないだろうと思いました。

自説を曲げない改憲勢力の面々をたしなめる参考人

参考人と委員との質疑は、委員(立民の階猛氏と共産の赤嶺政賢氏を除く)の意見や質問を参考人(特に長谷部氏)がたしなめるという体で進みました。

それは改憲勢力の面々が、参考人の意見表明に反論し、自説を開陳しながら「本当にそんな考え方でいいんですか?」というふうに質疑を行ったからですが、例えば以下に紹介するやりとりからも明らかなように、改憲派がこれまでの主張を見直す可能性はぼぼないと言っても過言ではないと思います。

長谷部氏「40日、30日という数字だが、憲法に限らず法律でもこういう数字が定められていることはよくある。ただ、どうしても40日、30日でなければならないという根拠はない。例えば道路交通法で(自動車が走行するのは)左と決まっているが、右を通るという国もある。これは、左右どちらがいいのかを議論しても仕方がなく、とにかく日本では左と決まっていることが重要だという問題だ。
40日、30日という期限もそういう問題で、平時なら必ず守らなくてはいけないが、国家の存立がかかっているような事態のときこの数字にどれほどこだわるべきなのかは考え直さなければいけないところがあると私は考えている。」

小野泰輔氏(維新)「本当にそんなことをおっしゃっていいのか私はわからない。選挙が全国で一体的に実施できなくても定足数を確保できるならそれでいいというお話もあったが、それによって特定の災害を受けた地域の民意が反映されない状態より、従前に選挙で選ばれた全国会議員の任期を延長する方が正当性が高く妥当ではないかと私は思う。」
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この日の傍聴者は35人ほどで、審査会が定刻の10時に始まったため、前回ほど多くはありませんでしたが開会に間に合わない方がいらっしゃいました。定時に始まると傍聴できない審査会っておかしいんじゃないでしょうか。記者は5人でした。

この日は参考人に失礼にならないようにということか自民の欠席者が少なめで、6、7人になった時間帯もあったもののだいたい1~3人で推移していました。短時間とはいえ全員が席に着いているという滅多にない光景を目にすることもできましたが、与党側筆頭理事の新藤義孝氏(自民)は、途中かなり長く席を外していました。他の会派は、一時的に離席した委員はいましたが、全員が出席していました。

上述のように、今回の参考人質疑によって参議院の緊急集会に関する改憲勢力の見解が修正されるとは思えません。むしろ参考人質疑の実施で「議論は尽くした」と主張してくるおそれがあり、議員任期の延長がダメならやっぱり緊急政令や緊急財政処分の規定が必要じゃないかという議論を強く押し出してくるかもしれません。
衆院ではほぼ100%の確率で憲法審の毎週定例日開催が続くと思われます。今国会の会期末まであと4回の審査会で改憲勢力が発議、国民投票に向けてどのような方向性を打ち出してくるのか、引き続き注視していきます。(銀)