3月9日(木)10時5分から11時40分すぎまで、今国会2回目の衆議院憲法審査会が開催されました(開会時間が少し遅れたのは幹事会が長引いたためと思われますが、その理由はわかりません)。
この日の審査会も、前回に引き続きテーマを特定の問題に絞ることなく、「日本国憲法及び憲法改正国民投票法の改正をめぐる諸問題」について各会派の代表が1人7分ずつの持ち時間で発言した後、会長に指名された委員が5分以内で意見を述べるという形で進められました。
この日の審査会も、前回に引き続きテーマを特定の問題に絞ることなく、「日本国憲法及び憲法改正国民投票法の改正をめぐる諸問題」について各会派の代表が1人7分ずつの持ち時間で発言した後、会長に指名された委員が5分以内で意見を述べるという形で進められました。

今回の報告でも、まず、発言者の意見が簡潔に紹介されている『東京新聞』のウェブサイトに掲載された記事を転載させていただきます。また、今回は『NHK NEWS WEB』にも有志の会を除く各会派代表者の発言の要旨が「衆院憲法審査会 緊急事態の認定の在り方などについて各党主張」と題して掲載されていましたので、あわせてご紹介します(『東京新聞』の記事の間に▽で挿入)。
緊急事態条項めぐり議論 「条文案作成」に維新・国民民主など着手 衆院憲法審【詳報あり】
『東京新聞TOKYO Web』2023年3月9日
衆院憲法審査会は9日、今国会2回目の自由討議を行い、与野党が憲法への緊急事態条項の新設を巡って意見を交わした。自民党は論点整理の議論の加速を訴え、改憲を目指す3会派は条文案作成を主張。立憲民主党や共産党といったリベラル系の野党は改憲しなくても現行憲法下で有事に対応できると反論した。
自民党の新藤義孝氏は緊急事態時の任期延長について「上限を1年とし、再延長も可能とするのが合理的だ」と提案。内閣に国会が議決していない予算の執行と法律の制定を認めることなど八つの論点の資料を配布し、議論するよう各党に促した。
公明党の北側一雄氏は、2011年3月の東日本大震災を受けて地方選挙が延期されたことに触れて「巨大地震が起こった時は被災地だけでなく、全国的に国政選挙などできない」として、任期を延ばす規定の必要性を訴えた。
公明党の北側一雄氏は、2011年3月の東日本大震災を受けて地方選挙が延期されたことに触れて「巨大地震が起こった時は被災地だけでなく、全国的に国政選挙などできない」として、任期を延ばす規定の必要性を訴えた。
日本維新の会と国民民主党、無所属議員でつくる「有志の会」は、月内に緊急事態条項の条文案をとりまとめる方向で実務者協議を始めたと説明。国民の玉木雄一郎氏は、審査会の議論加速に「寄与したい」と意欲を示した。
一方、立憲民主党の奥野総一郎氏は、衆院が解散されていても参院で緊急集会を開催できると指摘した上で「非常時でも国会をまず動かすべきだ。緊急事態条項を設けるまでもなく、現在の制度でかなりのことができる」と主張。
共産党の赤嶺政賢氏は「『緊急事態』と称して政府に権力を集中させ、国民の権利制限を強化しようとしている」と批判した。(佐藤裕介)
共産党の赤嶺政賢氏は「『緊急事態』と称して政府に権力を集中させ、国民の権利制限を強化しようとしている」と批判した。(佐藤裕介)
◆詳報
9日の衆院憲法審査会での発言の要旨は次の通り。
【各会派代表の意見】
新藤義孝氏(自民)
大規模自然災害など四事態、その他これらに匹敵する事態、五つの事態の発生により適正な選挙実施が困難な状況に陥ったときに議員任期の延長が必要になること、選挙困難の認定は内閣が行い国会の事前承認を必要とすることは、自民、公明、維新、国民、有志の会の5会派で一致している。任期延長期間の上限を1年とし、再延長も可能とすることが合理的ではないか。
大規模自然災害など四事態、その他これらに匹敵する事態、五つの事態の発生により適正な選挙実施が困難な状況に陥ったときに議員任期の延長が必要になること、選挙困難の認定は内閣が行い国会の事前承認を必要とすることは、自民、公明、維新、国民、有志の会の5会派で一致している。任期延長期間の上限を1年とし、再延長も可能とすることが合理的ではないか。
▽ 自民党の新藤政務調査会長代行は、緊急事態の対応を憲法に規定すべきだとしたうえで「緊急事態の認定と国会議員の任期延長の判断は、内閣と国会が責任を持って行い、裁判所に委ねるべきではない。国会機能が維持できない場合に備え、内閣が緊急に立法措置や財政支出をできる制度の整備も必要だ」と述べました。
奥野総一郎氏(立憲民主)
非常時でもウクライナのように国会をまず動かすべきだ。緊急事態条項を設けるまでもなく、現在の制度でかなりのことができる。拙速な議論を進めることは反対だ。国民投票法の付則に、インターネット等の適正な利用の確保をはかるための方策やCM規制など国民投票の公平公正を確保するための検討を加え、必要な法制上の措置を講じると規定している。
非常時でもウクライナのように国会をまず動かすべきだ。緊急事態条項を設けるまでもなく、現在の制度でかなりのことができる。拙速な議論を進めることは反対だ。国民投票法の付則に、インターネット等の適正な利用の確保をはかるための方策やCM規制など国民投票の公平公正を確保するための検討を加え、必要な法制上の措置を講じると規定している。
▽ 立憲民主党の奥野総一郎氏は「非常時でも、ウクライナのように国会は動かすべきで、憲法に緊急事態条項を設けなくても、現在の制度でかなりのことができる。参議院の緊急集会や裁判所の関与の在り方などの議論も必要で、拙速に進めるべきではない」と述べ、慎重な姿勢を示しました。
岩谷良平氏(維新)
国会の事前承認の際の議決要件について、維新、公明、国民、有志は「出席議員の3分の2以上の賛成」で一致。自民は「議論が必要」だ。裁判所の関与については、維新は憲法裁判所、国民と有志は最高裁判所による事後統制を考えている。公明は裁判所の関与は「疑問あり」、自民党は「不要」だ。細部について詰めの議論を行い、考え方を集約していくべきだ。
国会の事前承認の際の議決要件について、維新、公明、国民、有志は「出席議員の3分の2以上の賛成」で一致。自民は「議論が必要」だ。裁判所の関与については、維新は憲法裁判所、国民と有志は最高裁判所による事後統制を考えている。公明は裁判所の関与は「疑問あり」、自民党は「不要」だ。細部について詰めの議論を行い、考え方を集約していくべきだ。
▽ 日本維新の会の岩谷良平氏は「議員任期の延長は、詰めの議論を行って、考え方を集約していくべきだ。緊急事態で立法府や行政府によって特例的な権限が乱用されないよう、憲法裁判所による事後統制が必要だ」と述べました。
浜地雅一氏(公明)
東日本大震災の影響を受けた地域において、臨時特例法で地方議会選挙の期日を延長し、議員の任期も延長した。仮に国政選挙が予定されていれば、国会議員の任期延長の問題に直面していた。また、コロナ以上の感染症がまん延した場合、国政選挙の実施が困難となることはあり得るとの危機意識のもとに、この問題を議論している。一定の結論を出すのは今だ。
東日本大震災の影響を受けた地域において、臨時特例法で地方議会選挙の期日を延長し、議員の任期も延長した。仮に国政選挙が予定されていれば、国会議員の任期延長の問題に直面していた。また、コロナ以上の感染症がまん延した場合、国政選挙の実施が困難となることはあり得るとの危機意識のもとに、この問題を議論している。一定の結論を出すのは今だ。
▽ 公明党の濱地雅一氏は「参議院の緊急集会は、通常国会や臨時国会のような機能を有していない。緊急事態には、二院制の原則のもと、フルサイズの国会機能を行使する必要があり、今こそ、議員任期の延長に一定の結論を出さなければならない」と述べました。
玉木雄一郎氏(国民民主)
維新、有志とともに緊急事態条項の条文案をまとめるための実務者協議をスタートさせた。今月中には成案を得て、条文案を審査会に示し、議論の加速化に寄与していきたい。「選挙実施困難」要件の具体的な中身について、70日間、あるいは、80日間以上の長期にわたって衆院の開会が見込めない場合には、議員任期の特例延長を認めるべきと考える。
維新、有志とともに緊急事態条項の条文案をまとめるための実務者協議をスタートさせた。今月中には成案を得て、条文案を審査会に示し、議論の加速化に寄与していきたい。「選挙実施困難」要件の具体的な中身について、70日間、あるいは、80日間以上の長期にわたって衆院の開会が見込めない場合には、議員任期の特例延長を認めるべきと考える。
▽ 国民民主党の玉木代表は「議員任期の延長は、議員のお手盛りを防止するため、一定の司法の関与を盛り込むべきだ。緊急事態条項の具体的な条文案づくりに入るべきで、今月中にも、日本維新の会などと案をまとめ、審査会に示したい」と述べました。
赤嶺政賢氏(共産)
東日本大震災やコロナ感染症の拡大においても、緊急事態条項がなかったから対応できなかったという問題は起きていない。緊急事態と称して政府に権力を集中させ、国民の権利制限の強化をしようとしている。国会の権能を奪い、基本的人権を抑圧する憲法停止条項だ。一方で、国会議員の身分だけは延長する規定を盛り込もうなど、保身のための議論も甚だしい。
東日本大震災やコロナ感染症の拡大においても、緊急事態条項がなかったから対応できなかったという問題は起きていない。緊急事態と称して政府に権力を集中させ、国民の権利制限の強化をしようとしている。国会の権能を奪い、基本的人権を抑圧する憲法停止条項だ。一方で、国会議員の身分だけは延長する規定を盛り込もうなど、保身のための議論も甚だしい。
▽ 共産党の赤嶺政賢氏は「東日本大震災や新型コロナの拡大でも、緊急事態条項がなかったから対応できなかったという問題は起きていない。極端な事例を出して議論すれば間違う危険性が高く、改憲議論自体が問題だ」と述べました。
北神圭朗氏(有志の会)
「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」という憲法9条2項の文言は変わらないまま、解釈だけで集団的自衛権、反撃能力も認められることになった。条文としての統制力はないようなもの。9条の統制力の形骸化を止めるためにも、2項を削除し、必要最小限度の実力については法律や政策で柔軟に対応することが望ましい。
「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」という憲法9条2項の文言は変わらないまま、解釈だけで集団的自衛権、反撃能力も認められることになった。条文としての統制力はないようなもの。9条の統制力の形骸化を止めるためにも、2項を削除し、必要最小限度の実力については法律や政策で柔軟に対応することが望ましい。
【各委員の発言】
船田元氏(自民)国民投票運動は基本的に自由で、法的な規制はなるべく避けるべきだ。ネット特有のゆがみを是正するには、情報の総量を増やし、言論の自由市場で淘汰していくしかない。
城井崇氏(立民)憲法53条の臨時国会の召集義務について、政府の対応に問題がある。召集期限の明確化が必要だ。野党4党は、要求から20日以内の臨時国会召集を規定する議員立法を提案している。
小野泰輔氏(維新)緊急事態において、緊急政令を発出するような場合、最高裁が判断する枠組みの中で機能するのかという問題がある。憲法裁判所でこそ、政府の判断が適切かどうかきっちり判断できる。
務台俊介氏(自民)最近の世論調査でも6割以上が憲法改正の必要性を認識している。社会環境や安全保障環境の変化に対応した憲法議論の必要性について、多くの国民がその意識を高めている。
篠原孝氏(立民)岸田首相は「安保政策の大転換」と言うが、平和な時代にすら国会に諮ることなく政府で決めた。緊急事態になったら、国会は全く無視されて、今以上に行政が突っ走るのではないか。
北側一雄氏(公明)東日本大震災から12年たつ。そのときに国会がどういう対応をしたのか検証し、(国会議員の)任期延長の問題についてもさらに詰めた議論をしていきたい。
* 引用、ここまで(太字は引用者)。
毎週定例日開催論の欠陥が露呈
上掲の記事で、城井崇氏(立憲民主党)が憲法53条に規定されている臨時国会の召集義務に政府が対応しない事例が相次いでいると指摘したことが紹介されていますが、これに対して、小野泰輔氏(日本維新の会)は「それをおっしゃるのなら予算委員会の開催中も憲法審査会の開催に応じるべきだ」と発言しました。牽強付会もいいところです。
ところで、この日衆議院では憲法審査会と同時刻に安全保障委員会が開かれていました。安保委は9時から12時過ぎまで行われていましたので、憲法審と完全に重なっていたわけです。このため、憲法審では下記のような事態が起こりました。
立憲民主党の新垣邦男氏は、開会後短時間だけ顔を見せ、すぐに代理の阿部知子氏と交代しました。新垣氏は、その後安保委で10時31分から28分間質疑に立っていました(「衆議院インターネット審議中継」による/以下、同じ)。
日本維新の会の三木圭恵氏は最初から代理を立てて欠席、安保委で11時21分から21分間質疑を行いました。三木氏は安保委の理事を務めています。
公明党の浜地雅一氏は憲法審で10時29分から9分間意見を述べ、しばらくすると代理を立てずに席を外しました。浜地氏は安保委の理事を務めていますので、おそらくそちらに回ったものと思われます。
共産党の赤嶺政賢氏は憲法審で10時48分から8分間意見を述べるとすぐに代理を立てずに退席、その後安保委で12時2分から20分間質疑に立ちました。
つまり、憲法審と安保委が同時刻に開催されたため、両者の委員を兼ねる何人かが憲法審の審議に(安保委の審議にも)参加できない時間帯が生じたわけです。それでも憲法審は毎週定例日に必ず開催すべきなのでしょうか。全委員が出席できるように日程を調整し、それができないときは開催を見送るのが当然だと思います。
新藤筆頭理事(自民)、緊急政令・緊急財政処分の議論を主張
下の図は、新藤義孝氏(自民)がこの日の発言のために配布した資料です。これまでの議論を整理したものということですが、「論点」の1つとして抜け目なく「緊急政令・緊急財政処分」が組み込まれています。岩谷良平氏(維新)も、この論点について「引き続き議論を前に進めていくべき」だと言及していました。玉木雄一郎氏(国民)は、維新、有志の会とともに緊急事態条項の条文案をまとめ、「今月中に成案を得て審査会に示したい」と述べていましたが、そこに緊急政令等が含まれるのか否か、注視していく必要があります。
奥野氏(立民)まで9条の議論を呼びかけ
この日、いちばん驚いたのは奥野総一郎氏(立憲民主党)の以下のような発言でした。奥野氏は、「今回、反撃能力の保有を認めたことにより専守防衛の中身も変わってしまい、9条2項の空文化、削除に等しい効果が生まれると思う」と指摘したうえで、「憲法審査会で9条が許容する必要最小限度の実力の新たな歯止めについて議論し結論を出したらどうか。参考人質疑、集中討議を求める」と述べ、さらには「石破先生が詳しいのでご意見をうかがえれば」とまで言ったのです。上掲の記事を含めて大手メディアでは(私がザッと調べた範囲では)奥野氏の意見表明のこの部分は報じられていませんが、まさに驚天動地の内容ではないでしょうか。


9条については、北神圭朗氏(有志の会)も「憲法の統制力の形骸化に歯止めをかけ、防衛政策の論議を現実に即したものにし、自衛隊違憲論を払拭するという3つの理由から、2項の削減を主張する」と述べました。
自民、維新がこれに便乗し、緊急事態条項とあわせて9条改憲を早い時期に憲法審の議論の俎上に載せようとしてくる恐れがあるかもしれません。
赤嶺氏(共産)の発言に傍聴席から拍手が
最後に、赤嶺政賢氏(共産)の発言を紹介しておきましょう。赤嶺氏は上掲の記事にあるように緊急事態条項の議論を非難した後、岸田政権が進めている軍拡政策についても批判を加えました。
以下、『しんぶん赤旗』のウェブサイトから引用します(「軍拡反対の声 受け止めよ 衆院憲法審 赤嶺議員が主張」と題した記事の一部です)。
「赤嶺氏は、岸田政権が、政府が存立危機事態と認定すれば、集団的自衛権を行使して相手国領土へのミサイル攻撃まで可能だとしたことは「憲法上絶対に許されない海外での武力行使そのものだ」と厳しく批判。国民から軍拡反対の声が上がっているとし、「この声を正面から受け止めるべきだ」と述べ、徹底した外交努力こそ憲法は求めていると主張しました。」
赤嶺氏の前に意見を述べた新藤、奥野、岩谷、浜地、玉木の各氏の発言にうんざりしていたのでしょう(私もそうでした)、傍聴席の数人から思わず(傍聴席では禁じられているのですが)拍手が起こりました。
この日の傍聴者は30人強、記者は5~8人ほどで、今国会初の開催であった前回より少なかったです。TVカメラも入っていませんでした。
委員の出席状況は、上述のとおりいつもと違って途中から公明、共産の各1名が退席しました。自民党はいつになく欠席者が少なく、1~3人程度の時間帯が長かったです。
今国会で憲法審の定例日はまだ13回も残されています。今回報告したとおり、今後、緊急事態条項の議論が緊急政令・緊急財政処分に進んだり、9条の改憲が取り上げられたりする可能性があります。改憲をめぐる情勢はたいへん厳しいですが、今できることをやっていくしかありません。ともに頑張りましょう!(銀)