自民の尻を叩く維新、国民
3月2日(木)10時から11時30分すぎまで、今国会初の衆議院憲法審査会が開催されました。
日本維新の会の小野泰輔氏は、冒頭の発言で「立民が来年度予算案の審議中は他の委員会は開かないという慣例を盾に審査会の開催にブレーキをかけ、2週間も空費した」と非難しました。
小野氏は、「憲法改正を党是に掲げている自民党は、本気であることを行動で示すべきだ」、「岸田総理は来年9月末の自民党総裁任期中の改憲実現を明言しているのだから、遅くとも来年7月末までに発議しなければならない。国民投票をいつ実施するのか、ゴールから逆算してスケジュールを設定することを求める」とまで言い募っていました。なぜ自民党総裁の任期と改憲のスケジュールをリンクさせなければいけないのか、安倍元首相もそうでしたが、本当に不思議な論理だと思います。
国民民主党の玉木雄一郎氏も「今国会の初会合が3月にずれ込んだことは残念だ」と述べていて、この2会派が改憲に向けて自民を後押ししている構図がますます明確になってきました。
この日の審査会は、今国会初の開催であったためでしょう、テーマを特定の問題に絞ることなく、「日本国憲法及び憲法改正国民投票法の改正をめぐる諸問題」について、各会派の代表が1人7分ずつの持ち時間で発言した後、会長に指名された委員が5分以内で意見を述べるという形で進められました。
この日の議論の概要
ここで、この日の発言者の意見が簡潔に紹介されている『東京新聞』のウェブサイトに掲載された記事を転載させていただきます。
改憲勢力、緊急事態条項の具体化主張 立民は国民投票の法整備を優先 今国会初の衆院憲法審【詳報あり】
『東京新聞TOKYO Web』2023年3月2日
衆院憲法審査会は2日、今国会で初めての討議を行った。自民党や日本維新の会などの改憲勢力は緊急事態条項の新設を巡り、意見集約に向けた議論の加速や、条文案の策定などを主張。立憲民主党は「時期尚早だ」と反発し、国民投票の公正性を確保する法整備を優先すべきだと強調した。
自民の新藤義孝氏は、大規模自然災害や戦争などの際、憲法が定める衆参両院議員の任期延長を認める規定を設けることについて、一部の野党を除いて「おおむね意見集約された」との認識を表明。具体的な延長幅や国会の関与のあり方などに関する議論を深めることに期待感を示した。
公明党の北側一雄氏は「この国会で一定の合意形成が図られるべきだ」と同調。維新と国民民主党、無所属議員でつくる「有志の会」は、改憲原案のたたき台となる条文案の作成に着手するよう求めた。
これに対し、立民の階猛氏は緊急事態に該当する災害などで議員が欠けることも想定されると指摘し、「選挙を急ぐべき場合もある。任期の延長ありきで拙速に議論を進めるべきではない」と反論。インターネット上にあふれる偽情報を放置すれば、国会が発議した改憲案に対する国民の判断にも影響を与えかねないとして、国民投票法の改正を訴えた。
共産党の赤嶺政賢氏は憲法審開催に反対し、政府が取り組む防衛力強化にも触れながら「今、必要なのは改憲の議論ではなく、憲法9条に基づく徹底した外交努力だ」と述べた。
今国会初の討議を終え、新藤氏は改憲について「既に時機は到来している」と記者団に語ったが、国会発議を目指す時期は明示しなかった。安倍晋三元首相が2020年の改憲施行を打ち出した後、野党が期限を区切った改憲論議に強く反対した経緯があるため、踏み込んだ発言を避けたとみられる。(佐藤裕介)
◆衆院憲法審査会詳報
2日の衆院憲法審査会での発言の要旨は次の通り。
【各会派代表の意見】
新藤義孝氏(自民)
憲法改正の論議について残った論点をさらに具体的に深掘りするとともに、国民投票法改正の議論を進めていかなければならない。国民投票法は審査会に付託された案について早急に成立を図るべきだ。投票環境の向上を図るもので、内容は各会派とも異論がないと考える。
憲法改正の論議について残った論点をさらに具体的に深掘りするとともに、国民投票法改正の議論を進めていかなければならない。国民投票法は審査会に付託された案について早急に成立を図るべきだ。投票環境の向上を図るもので、内容は各会派とも異論がないと考える。
階猛氏(立憲民主)
議員任期の延長は参院に配慮した慎重な議論を行う必要がある。参院の緊急集会は独自の権限だ。一定の場合に衆院議員の任期延長を認めるのであれば、緊急集会が開催される可能性が狭まる。実質的に参院の権限を弱めることになる議論を衆院だけで進めることは問題だ。
議員任期の延長は参院に配慮した慎重な議論を行う必要がある。参院の緊急集会は独自の権限だ。一定の場合に衆院議員の任期延長を認めるのであれば、緊急集会が開催される可能性が狭まる。実質的に参院の権限を弱めることになる議論を衆院だけで進めることは問題だ。
小野泰輔氏(維新)
防衛力の抜本的強化と憲法改正は表裏一体の関係にある。戦後日本の平和を守ってきたのは9条ではなく、自衛隊の存在と日米安保条約に基づく抑止力だ。自衛隊を憲法上明確に位置付け、抑止のための防衛力を着実かつ迅速に整備することが不可欠。教育の無償化、統治機構改革、憲法裁判所の設置、緊急事態条項の創設の4項目も意見集約を急ぐべきだ。
防衛力の抜本的強化と憲法改正は表裏一体の関係にある。戦後日本の平和を守ってきたのは9条ではなく、自衛隊の存在と日米安保条約に基づく抑止力だ。自衛隊を憲法上明確に位置付け、抑止のための防衛力を着実かつ迅速に整備することが不可欠。教育の無償化、統治機構改革、憲法裁判所の設置、緊急事態条項の創設の4項目も意見集約を急ぐべきだ。
北側一雄氏(公明)
緊急事態における国会議員の任期延長、国民投票法とCM規制のあり方は論点がほぼ出尽くしている。この国会で一定の合意形成が図られるべきだ。国会議員の任期延長は、参院の権能を弱めるわけではない。緊急集会の役割、位置付け、適用範囲を明確にするということだ。
緊急事態における国会議員の任期延長、国民投票法とCM規制のあり方は論点がほぼ出尽くしている。この国会で一定の合意形成が図られるべきだ。国会議員の任期延長は、参院の権能を弱めるわけではない。緊急集会の役割、位置付け、適用範囲を明確にするということだ。
玉木雄一郎氏(国民民主)
緊急事態条項、議論がかなり積み上がってきた議員任期の延長規定を議論し、残された論点について意見を集約した上で、具体的な憲法改正の条文案作りに入るべきだ。憲法54条2項の参院の緊急集会を解散時だけでなく、任期満了時も内閣が開催を求めることができるかなど、解釈を審査会で確定することを提案したい。
緊急事態条項、議論がかなり積み上がってきた議員任期の延長規定を議論し、残された論点について意見を集約した上で、具体的な憲法改正の条文案作りに入るべきだ。憲法54条2項の参院の緊急集会を解散時だけでなく、任期満了時も内閣が開催を求めることができるかなど、解釈を審査会で確定することを提案したい。
赤嶺政賢氏(共産)
国民の多くは、改憲を重要課題と考えておらず、憲法審査会は動かすべきではない。岸田政権が進めている大軍拡は憲法を破壊するもので、平和国家から軍事国家へ作り替えようとしている。今、必要なのは、改憲のための議論ではなく、憲法9条に基づく徹底した外交努力だ。
国民の多くは、改憲を重要課題と考えておらず、憲法審査会は動かすべきではない。岸田政権が進めている大軍拡は憲法を破壊するもので、平和国家から軍事国家へ作り替えようとしている。今、必要なのは、改憲のための議論ではなく、憲法9条に基づく徹底した外交努力だ。
北神圭朗氏(有志の会)
緊急事態条項について審議を重ね、法制局から論点整理もされた。議員の任期延長の議論が煮詰まってきている。今後はそれぞれ条文案を持ち寄って具体案を取りまとめる方向で審議を進めていただきたい。憲法の趣旨にのっとって国会機能を確保するために任期の延長制度を創設すべきだ。
緊急事態条項について審議を重ね、法制局から論点整理もされた。議員の任期延長の議論が煮詰まってきている。今後はそれぞれ条文案を持ち寄って具体案を取りまとめる方向で審議を進めていただきたい。憲法の趣旨にのっとって国会機能を確保するために任期の延長制度を創設すべきだ。
【各委員の発言】
新藤氏
参院の緊急集会は二院制の例外的な制度であり、衆院としても、しっかりと対処しなければならない。参議院側との連携も取っていきたい。
参院の緊急集会は二院制の例外的な制度であり、衆院としても、しっかりと対処しなければならない。参議院側との連携も取っていきたい。
吉田晴美氏(立民)
そもそも平時に国会は機能しているのか。憲法53条に基づく臨時会召集要求を内閣が放置する憲法違反が常態化し、時の政権が自分たちに都合良く衆院解散権を行使している。平時における臨時会召集期限の法制化、衆院解散権の制限事項の検討をすべきだ。
そもそも平時に国会は機能しているのか。憲法53条に基づく臨時会召集要求を内閣が放置する憲法違反が常態化し、時の政権が自分たちに都合良く衆院解散権を行使している。平時における臨時会召集期限の法制化、衆院解散権の制限事項の検討をすべきだ。
柴山昌彦氏(自民)
憲法には防衛、自衛隊に関する規定が欠落しており、緊急事態条項とともに、早急に是正を要する問題と言わざるを得ない。自衛隊を憲法に明記することで、内閣および国会による統制を明記できる。
憲法には防衛、自衛隊に関する規定が欠落しており、緊急事態条項とともに、早急に是正を要する問題と言わざるを得ない。自衛隊を憲法に明記することで、内閣および国会による統制を明記できる。
三木圭恵氏(維新)
衆参の合同の審査会も開けると思うので、衆参で足並みをそろえてきっちりと議論していかなければならない。何度も何度も同じような話を審査会でするのは時間の無駄だ。煮詰めてきた任期延長について結論を出していただくようお願い申し上げる。
衆参の合同の審査会も開けると思うので、衆参で足並みをそろえてきっちりと議論していかなければならない。何度も何度も同じような話を審査会でするのは時間の無駄だ。煮詰めてきた任期延長について結論を出していただくようお願い申し上げる。
国重徹氏(公明)
同性婚を巡る議論に注目が集まっているが、多くの学説は、憲法24条1項は同性婚を許容していると解釈している。立法府として、同性婚の議論をより深めていくことが重要だ。人権や多様性の尊重といった価値観を世界に発信していくためにも、G7広島サミットに向けて、性的少数者への理解増進法を成立させることに力を入れるべきだ。
同性婚を巡る議論に注目が集まっているが、多くの学説は、憲法24条1項は同性婚を許容していると解釈している。立法府として、同性婚の議論をより深めていくことが重要だ。人権や多様性の尊重といった価値観を世界に発信していくためにも、G7広島サミットに向けて、性的少数者への理解増進法を成立させることに力を入れるべきだ。
* 引用、ここまで(太字は引用者)。
この記事にあるように、この日の審査会では、立民、共産を除く5会派の代表が、緊急事態条項、特に緊急事態時の国会議員の任期延長について、「論点はほぼ出尽くしているので、今国会で一定の合意形成が図られるべきであり、改正条項案の表現ぶりも念頭に議論を進めていくべきだ」(公明党、北側一雄氏の発言)などと主張しました。維新と国民は、それぞれ『緊急事態条項について』と題した資料を提出しましたが、その内容は酷似していました。
一方、立憲民主党の階猛氏は、「議員任期の延長について、早急に改正条文を起草すべきとの意見があるが、時期尚早だ」として、その理由(上掲の記事に簡潔にまとめられています)を述べた後、『国民投票法改正(国民投票の公平・公正の確保)について』と題した資料に基づき、立民の国民投票法改正案のポイントを説明しました。
改憲手続法(国民投票法)については自民(新藤氏)、公明(北側氏)も言及していましたので、今国会の憲法審査会でも、「憲法改正の本体議論」(新藤氏による表現)の合間に討議のテーマとして取り上げられると思いますが、検討が進んで法改正が行われれば改憲発議、国民投票のハードルが1つ除去されることになります。
なお、上記の各配布資料は、衆議院憲法審査会のホームページで「会議日誌・会議資料」、「第211回国会」とクリックしていくと見ることができます。
9条改憲の主張を強める自民、維新
9条を改定して自衛権、自衛隊を明記すべきだとの主張はこれまでの憲法審でも何度も行われてきましたが、今回の憲法審ではその内容がますますエスカレートしてきている印象を受けました。
上掲の記事でも維新の小野氏、自民の柴山昌彦氏の発言が紹介されていますが、山下貴司氏(自民)も「自衛力に関する規範について憲法学が迷走する一方、これを憲法上明らかにすべきとの方向性については与野党幹部を含めて同じである以上、この点についても議論すべきだ」と早口でまくし立てていました。柴山氏の主張は「ロシアのウクライナ侵攻、中国や北朝鮮の弾道ミサイル発射」から始まるお決まりのパターン、山下氏の言う「野党幹部」とは立民の枝野幸男氏、岡田克也氏で、両氏の10年近く前の論文やインタビューを持ちだして「方向性は同じ」だと決めつけていました。後半の意見表明で指名された自民党の委員2人がそろって持ち時間5分すべてを9条改憲の議論に費やしたわけで、大いに警戒すべきだと思います。
最後にようやくまともな議論が
緊急事態条項と9条、改憲手続法(国民投票法)以外のテーマとしては、吉田はるみ氏(立民)と國重徹氏(公明)が同性婚の問題を取り上げていました。
また、赤嶺政賢氏(共産)と新垣邦男氏(社民)が、昨年末に行われた安保3文書の閣議決定など岸田政権の軍拡政策を手厳しく批判しました。以下、この日の憲法審の最後に発言した新垣氏の主張を紹介して、今回の傍聴報告を締めくくりたいと思います。
「岸田総理は今回の安保3文書の改定を戦後政策の大転換と繰り返し発信しているが、事前に国会で説明することなく、臨時国会の閉会後に閣議決定し、通常国会を待たずにアメリカのバイデン大統領と約束し既成事実化してしまった。国のあり方を最終的に決める権力は主権者である国民にあり、岸田政権の今回のやり方はとうてい認められない。
本憲法審査会ではむやみに改憲論議に突き進むのではなく、まず立ち止まって立憲主義に根差した政治、憲法の理念が息づく政治が実践されているのかをじっくり議論すべきではないか。今急ぐべきは、緊急事態における国会機能の維持よりも平時における国会機能の回復だ。民主主義、立憲主義に基づく正当な手続きを踏まず、重大な政策決定を繰り返す政府の国会対応こそ今すぐ是正すべきだ。」
この日の傍聴者は40人強、記者は10人ほどで、今国会初の開催であったためか三脚付きのTVカメラが3台入っており、大きなレンズを付けたカメラマンも7、8人いました。
委員の出席状況はいつもと同様で、自民党以外は全員が出席(短時間席を外す委員はいましたが)、自民党ははじめほぼ全員が着席していて今日はいつもと違うなと思いましたが、途中からは5人前後が欠席で、常態に戻っていました。
今国会の会期は6月21日まで、憲法審の定例日は来週以降14回も残されており、正直今からげんなりしていますが、今後も傍聴を続けていきたいと思います。なお、この憲法審査会に対し、国会前で"戦争のための改憲反対!憲法審査会を開くな!"と市民有志などの抗議行動が行われています。この声をさらに大きく広げていきましょう。(銀)