12月7日(水)13時から15時少し前まで、参議院憲法審査会が4週間ぶりに開催されました。今国会で実質的な討議が行われるのは2回目で、今回が最後でした。

この日のテーマは、「憲法における参議院の在り方並びに参議院議員の選挙区の一票の格差及び合区問題を中心として」とされ、参議院の法制局長と憲法審査会事務局長からの説明の聴取と委員間の意見交換が行われました。
前半の説明は25分弱で終わり、後半の意見交換では20名近くの委員が発言しました。
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この日の審議の概略について、今回も『東京新聞』のウェブサイトに掲載された記事を転載させていただきます。

参院憲法審査会・発言の要旨
『東京新聞TOKYO Web』2022年12月7日

2022年12月7日の参院憲法審査会での主な発言の要旨は次の通り。

【説明聴取】
川崎政司参院法制局長
 最高裁が参院選について、投票価値の平等が憲法上の要請だとしたのは、1983年判決だ。当初は格差が5倍台でも合憲としたが、次第に厳格な姿勢を示すようになる。これまでに、96年、2012年、14年の3度、違憲状態判決を出した。12年判決以降、投票価値の平等を重視する姿勢をより強め、14年判決では、4.77倍の格差を違憲状態とした。
 国会は、選挙区間での定数増減により、最大格差を縮小する改正で対応してきたが、それには限界もあり、15年改正で4県2合区を含む10増10減を行い、最大格差は2.97倍にまで縮小。17年判決は(16年選挙時の)最大格差3.08倍を合憲と判断した。
 最高裁は「何倍未満」といった格差基準は採用しておらず、投票価値の著しい不平等状態が生じ、相当期間継続しているにもかかわらず、是正措置を講じないことが国会の裁量権の限界を超えると判断される場合に、憲法に違反するとの考えを示している。
加賀谷ちひろ参院憲法審査会事務局長
 15年法改正で合区が導入されたことを契機に、毎年全国知事会などから合区に関連する決議、提言がなされている。知事会の直近の決議では「鳥取県では合区制度開始以降、連続で過去最低の投票率を更新した。島根、徳島、高知の3県では、合区制度の導入前と比べると低い水準のままで、合区を起因とした弊害が常態化しており、深刻度が増している」とされている。

【各会派の主な意見】
矢倉克夫氏(公明)
 私どもは、全国を11のブロック単位とする個人名投票による大選挙区制を提唱している。これは、議員1人あたりの人口格差の縮小と地域代表的な性格を両立させることを通じ、参院の全国民の代表としての性格を堅持する方策だ。
東徹氏(維新)
 合区解消しようとする憲法改正には反対だ。都道府県を選挙区の単位としなければならないという憲法上の要請はない。統治機構改革を視野に入れ、都道府県選挙区をブロック制へ変更するなど、選挙制度の抜本的な改革を実行すべきだ。
舟山康江氏(国民民主)
 都道府県を単位とする選挙区が基本である中で、ほんの一部のみ合区を含むというあり方は、むしろ平等原則に反している。特定枠は合区により候補者が出せなかった県の救済策として生み出されたもので、むしろ特定の県を優遇する。
山添拓氏(共産)
 参院の選挙制度の議論は、参院改革協議会などで行うべきで、憲法審査会で論じるべきではない。総定数を削減することなく、多様な民意が正確に反映される比例代表を中心に、全国10ブロックの非拘束名簿式の選挙制度とすることを提案する。
山本太郎氏(れいわ)
 一票の格差問題について、憲法審査会で議論すべきではない。本年の参院選に対する訴訟の高裁判決が出そろった。合憲、違憲が分かれている。最高裁判決が出るまでは、国会で高裁判決の是非を論ずるような議論は避けるべきだ。
進藤金日子氏(自民)
 合区制度が対象4県の投票率を下げた大きな要因だ。民主主義にとって極めて重要な選挙において、合区制度の導入によって有権者の政治参加が阻害されることは由々しき問題だ。合区解消を図るための憲法改正を行うべきだ。
小西洋之氏(立憲民主)
 自民党は合区解消で改憲ということを言っているが、改憲しても一緒だ。(法の下の平等を定めた)憲法14条は残るので、参院だけすさまじい格差で各都道府県1人(参院議員を)出すことは問われ続ける。裁判は起き続ける。
*引用、ここまで。

今回のテーマの「一票の格差及び合区問題」については、今年の通常国会でも5月18日、6月8日の2回にわたって審議が行われており(5月18日は今回と同じ形式、6月8日は憲法学者2名を招いての参考人質疑でした)、様々な意見が飛び交い、取っ散らかったまま終始した印象を受けましたが、それは今回も変わりませんでした。

その大きな要因は、自民党の委員の多くが何の根拠もなく過疎化によって地方から選出される議員の数が減少すれば国政に地方の声が届けられなくなるという主張を繰り返していることだと思います。例えば「大分県の私の田舎にバスが来るのは1週間に1本だ」(古庄玄知氏)と言われても、議員定数を地方に手厚く配分することでその状況が解消できるとは思えません。そもそも、こうした言説を垂れ流している自民党の委員諸氏は、沖縄県選出の参議院議員2人が揃って反対している辺野古新基地の建設が強行され続けていることをどう説明するのでしょうか。
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速記をストップさせた山谷えり子氏の発言

上掲の『東京新聞』の記事では紹介されていませんが、委員間の意見交換で最初に発言したのは自民党の山谷えり子氏でした。氏は「合区問題については同僚の議員が意見を述べると思うので、(私は)国家国民を守る安全保障、危機管理の視点で考え方を述べたい」と前置きして、自衛隊違憲論に終止符を打つための改憲の必要性をまくしたてました。

発言の途中から、「こういうやり方なら審査会止めましょうよ」、「テーマと違うじゃないか」、「休憩だよ」、「審査会を愚弄してるよ」、「続けられないよ。幹事会再開ですよ」などヤジが飛び交いましたが、中曽根弘文会長(自民)は「ご静粛にお願いします」と言うだけで持ち時間の最後まで山谷氏を制止しませんでした。
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その後もヤジが続き審議が続けられない状況になって、ようやく中曽根氏が「速記を止めてください」と指示、与党側筆頭幹事の山本順三氏(自民)と野党側筆頭幹事の小西洋之氏(立民)が議場の外に出ていきました。2人で収拾策を相談したのでしょうか、最終的には山谷氏を議場外に呼び出して(おそらくは)注意し、4分余りの中断を経て審議が再開されました。

憲法審
左上のグレーの上下を着ているのが山谷氏。議場の外から戻り着席しようとしているところ(「参議院インターネット審議中継」からキャプチャーしました)。

再開に当たって、山本氏は「先ほどの山谷委員の意見発表は今回の議題に即した形のものではなかった。その点については陳謝したい」、小西氏は「山本筆頭から謝罪の言葉があったが、この問題は幹事会で協議しなければいけないと思うので、会長の取り計らいをお願いする」とそれぞれ発言しましたが、どのような後始末がなされるでしょうか(来年の通常国会まで間が空きますので、うやむやになりそうな気もします)。

この日の傍聴者は、開会時には10人ほどで、ほどなく16、7人になりましたが、いつもよりかなり少なかったです。記者は開会時に4人、その後は3人と、やはり少なめでした。委員の出席状況は衆院とは違ってたいへんよく、この日も与野党を問わずほとんどの委員が席についていました。

最後に、参院憲法審の事務局に苦言を呈しておきたいと思います。この日、法制局長と憲法審事務局長の説明がありましたが、その資料が傍聴人には配布されませんでした。後日ホームページに掲載されることもありません。衆議院と比較して、たいへん遅れた対応であり(衆院憲法審では数十ページに上るような資料も配布されますし、すぐにホームページにアップされます)、早急な改善を求めます。(銀)