11月17日(木)10時から、衆議院憲法審査会が開催されました。文化の日を挟んで、10月27日から3回連続の定例日(木曜日)開催でした。

前2回と同様、今回もテーマを絞ることなく、「日本国憲法及び憲法改正国民投票法の改正をめぐる諸問題」について、各会派の代表が1人ずつ7分の持ち時間で発言した後、会長に指名された委員が5分以内で意見を述べるという形で審議が進められました。

後半の各委員の発言の際には、発言を希望する者が名札を立ててその意思を示すことになっているのですが、この日はこれまでおそらく一度もなかった出来事がありました。それは、最初に名札を立てた委員全員が発言の機会を得たことです。通常は名札を立てても時間切れで指名されない者が何人か残されます。また、他の委員の議論を聞き、途中で名札を立てて発言を求める者がいることもしばしばあるのですが、今回はそれもありませんでした。つまり、審査会が始まる前から誰がどんな順番で発言するかの段取りがつけられていて、最後までそのシナリオどおりに事が運んだということです。それもあってか、この日の審査会は終了予定時刻だった11時30分の少し前に閉会となりました。これも珍しいことでした。
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私は憲法の改悪に反対ですので、憲法審で丁々発止の議論が交わされることを望んでいるわけではありませんが、改憲勢力の大根役者たちが筋書の読める退屈な芝居を演じるのをヤジを飛ばすことも許されずに90分間聞かされ続けるのは、率直に言って苦痛ではあります(嫌なら傍聴するなと言われるかもしれませんが)。

ここで「筋書」というのは、いわゆる改憲勢力の自民、維新、公明、国民民主、有志の会の委員たちが、緊急事態条項、特に議員任期の延長の必要性をこぞって主張し、早期に論点を集約し発議に向けて改憲案を取りまとめることを訴えたことです。

今回も『東京新聞』に掲載された委員の発言の要旨を転載させていただきます。これを読んでいただければ、上記の「筋書」を確認していただけると思います。下の記事には記されていませんが、この日は立民の篠原孝氏までもが、国会議員の任期延長について熱心に話が進んでいることは「非常にいいことじゃないか」と思っていると述べ、呆気に取られてしまいました。

憲法審査会・発言の要旨(2022年11月17日)
『東京新聞TOKYO Web』2022年11月17日

 17日の衆院憲法審査会での発言の要旨は次の通り。
【各会派代表の意見】
新藤義孝氏(自民)議員任期延長の規定は早急に憲法に盛り込むべきだ。議員任期を延長するなどして最大限国会機能の維持を追求しても、国会を開けず、法律や予算の議決ができないことはあり得る。内閣に一時的、暫定的だが緊急政令と緊急財政処分を行う権限を付与する規定を設けることを提案する。
中川正春氏(立憲民主)国民投票法の見直し議論を加速させることを提案する。国会召集義務の無視、過剰な予備費の計上など、憲法が求める民主主義が機能しているとは言えない中、与党が提案する緊急事態条項には疑念を抱かざるを得ない。憲法審査会でも安保三文書と憲法について議論する必要がある。
岩谷良平氏(維新)緊急事態条項、とりわけ議員任期延長については、多くの党派が必要性について一致しており、具体的に論点整理を行い議論していくべきとの考えに同意する。国会の事前承認における議決要件、司法の関与、延長の期間、延長の要件と効果などについて、各党にうかがえればと思う。
浜地雅一氏(公明)憲法にも営業の自由、財産の内容などに対する公共の福祉による制約が規定されている。それぞれの危機管理法制の中で、私権に対する一定の制約と手続き、必要な補償規定を具体的に整備していくべきだ。既存の危機管理法制において、加えるべき内容、メニューを充実させることが急務だ。
玉木雄一郎氏(国民民主)緊急事態条項、とりわけ議員任期延長の必要性については、スピード感を持って合意を得るべきテーマとして認識されたと思う。①延長規定の必要性の有無②緊急事態の範囲や手続き③任期延長の効果④緊急政令と緊急財政処分、こういった論点について法制局に整理をお願いしたい。
赤嶺政賢氏(共産)岸田政権は安保関連三文書を改定し、敵基地攻撃能力を具体化するとともに、軍事費を倍増する大軍拡の動きを加速し、大増税まで検討している。憲法を破壊する極めて重大な動きだ。予算の編成から執行に至るまで、国の財政と施策の全てを軍事に従属させようというものにほかならない。
北神圭朗氏(有志の会)議員の任期延長について、合意できそうな論点はかなり多い。対象とする緊急事態の範囲については、ほぼ一致している。(緊急事態の)認定機関を内閣とすることについては完全に一致している。調整すれば合意できそうな論点は延長の期間。まだ議論の足りない論点は司法の関与だ。

【各委員の発言】
務台俊介氏(自民)非常事態における国会の機能維持、議員の任期延長については、憲法の規定整備の必要があることのコンセンサスが出来上がりつつある。早急に修正案文を固めていくことが大切だ。
篠原孝氏(立民)国会の機能を重視するなら、衆参ダブル選挙は絶対に避けなければならない。政局でするのは良くない。臨時国会の召集要求をほったらかして、開催されないというのはいかがなものか。
北側一雄氏(公明)緊急事態における議員任期の延長について、必要性、方向性がかなり共有されている。具体的な論点もほぼ出尽くしている。改めて、衆院法制局に論点整理をお願いしたい。
前川清成氏(維新)安倍政権は憲法9条の解釈を閣議決定で変更した。あれほど大きな変更を許してしまう9条の文言は、法の支配の観点から不十分。時の政権による恣意的な解釈変更を許さないよう明確に規定する必要がある。
新垣邦男氏(社民)改憲論議のための論点整理や発議に向けた手続き論は不要不急だ。旧統一教会と国葬の憲法上の問題を素通りしたまま、改憲項目の議論に踏み込んだところで、国民の理解は得られない。
* 引用、ここまで。

公明・北側氏、緊急政令と緊急財政措置に否定的な立場を表明

上掲の記事に紹介されているように、この日、新藤義孝氏(自民)ははっきりと「一時的、暫定的ではあるが、内閣に緊急政令と緊急財政処分を行う権限を付与する規定を設けてはどうか」と表明しました。
これに対して、公明党の北側一雄氏は、
「憲法で唯一の立法機関、国権の最高機関として位置づけられている国会が、緊急事態だからといって白紙委任的な緊急政令制度を憲法に設けることは国会の責任を放棄することにつながる。想定外の事態は当然起こり得るが、危機管理法制には政令に委任する事項が設けられているので、不足があるならそれを充実していくということではないか。私は、憲法に緊急政令制度を設けることには慎重であるべきだと考えている。
緊急財政処分についても、憲法83条以下に国家の財政はすべて国会が議決するんだ、税金についても国会が法律で定めるんだとされているわけで、緊急財政処分を認めていくのは財政民主主義という観点から問題があると思っている。そのために憲法上予備費が規定されていると理解しているところだ。」
と反論しました。
公明党には、これまでの自公連立政権の運営の経緯から、結局は自民党に迎合してしまうのではないかという疑念がぬぐえないのですが、今度こそはこの立場を貫いてほしいものだと思います。

対抗勢力の主張は取り上げられるのか?

一方、これに対抗する立民、共産、社民の委員たちの主張は、大きく①緊急事態条項に優先して議論すべき憲法上の問題がある、②国民投票法(改憲手続法)附則4条の議論を先行させるべきだという2点に分けられます。このほかに、緊急事態条項は不要だという主張もあってしかるべきなのですが、これまでそうした指摘はあったものの、本格的な議論は行われていません。

前者については、この日も、統一教会問題など政治と宗教、国葬、国会と政権運営(内閣による憲法53条の国会召集義務の無視、過剰な予備費の計上、解散権の乱用など)、1票の格差、そして何よりも大軍拡の動きなどが指摘されました。

赤嶺政賢氏(共産)は、上掲の記事で紹介されている発言に続けて、「地方自治体が管理する空港や港湾を、自衛隊が必要とする機能や施設を満たすことを最優先に整備しようとしている」、「いま南西諸島を中心に大規模な日米共同演習が行われ、県が管理する空港や港湾を自衛隊が使用し、戦闘車を一般道で走行させることまで強行している」、「科学技術の研究・開発の分野で防衛省の目的に沿った課題を設定し、その研究開発に文科省や総務省などの予算を組み込もうとしている」、「殺傷能力のある兵器の輸出を可能にするよう防衛装備移転三原則を見直し、軍事産業を成長産業に押し上げようとしている」などと述べ、「幅広い国民と連帯して憲法違反の大軍拡を断固阻止する」との言葉で発言を締めくくりました。
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また、新垣邦男氏(社民)は、「社民党は改憲発議に向けた地ならしとしての憲法審査会開催には反対するが、憲法に関連する基本法制について広範かつ総合的な調査を行うための審査会であれば反対するものではない」と述べ、上掲の記事にあるように、旧統一教会と国葬の憲法上の問題について憲法審で議論することを主張しました。

ただし、現在の憲法審査会の勢力図や最近の審議の様子から見て、こうしたテーマが取り上げられることはなさそうです。

一方、後者については、この日は中川正春氏(立民)が「審査会では国民投票法の議論を先行させるべきだ」と述べた程度で、他に言及する委員はいませんでしたが、昨年6月の改憲手続法改正は自民、公明も賛成して行われたものですし、中川氏は憲法審で野党側の筆頭幹事を務めていますので、今後、附則第4条の課題がテーマとなる可能性はあるように思います。

ただ、当面は国会議員の任期延長問題についての議論が優先され、今年3月、通常国会で憲法56条の「出席」にはオンライン出席も含まれるとの解釈を「議論の大勢」として衆院議長に報告したときのように、何らかの形での取りまとめがなされることは確実であるように感じられます。
現時点でそれが改憲原案の作成から発議、国民投票まで進展するのかどうかは定かではありませんが、改憲派はそれを狙っています。私たちは、事態の進展に応じて改憲・戦争絶対反対の運動を強め、広げていきましょう。

この日の傍聴者は35人ほどで前回よりやや多く、前回は開会時にわずか3人だった記者は10人ほどいました(最後は5、6人に減っていましたが)。
委員の出席状況は、自民党は席を立ったり戻ったりする委員が多く、平均するといつもより多めの5~6人前後が欠席、他党派の委員は短時間退席する者はいましたが、全員が出席していました。(銀)