4月28日(木)13時40分頃から15時過ぎまで、衆議院憲法審査会が開催されました。今国会11回目、7週連続になります。今回で通算開催回数は過去最多だった2015年の通常国会に並び、連続開催回数はこれまで何度かあった4回を超えて新記録を更新中です。
この日の審査会では、最後に唐突に改憲手続法改正案の趣旨説明が押し込まれ、審議入りするという「事件」がありました。今回は、そこに至る経緯を時系列で報告したいと思います。

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まず、審査会前日の4月27日、自民、維新、公明、有志の会の4会派の議員7名が、「日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正する法律案」を衆議院に提出し、受理されました(当ブログ『4/27参院憲法審査会傍聴記』の後半部分をご参照ください)。

そして、審査会当日の4月28日正午から開かれた衆議院議院運営委員会で、同案は「本会議において趣旨の説明を聴取しないこととし、憲法審査会に付託することに決した」そうです(衆議院ホームページに掲載されている『第208国会 衆議院公報第72号』による)。

ここで、こうした経緯を報じた『NHK NEWS WEB』の記事を2本転載させていただきます。

憲法改正の手続き定めた国民投票法 改正案を自民など共同提出
『NHK NEWS WEB』2022年4月27日

憲法改正の手続きを定めた国民投票法をめぐり、自民・公明両党と日本維新の会などは、公職選挙法に合わせて、投票の立会人になるための居住地の要件の緩和などを盛り込んだ改正案を衆議院に提出しま
自民・公明両党と日本維新の会などが共同で衆議院に提出した国民投票法の改正案は、3年前とことしに改正された公職選挙法に合わせて、投票環境を整備するものです。

具体的には、投票の立会人のなり手不足が指摘される中、居住地などの要件を緩和することや、悪天候で離島から投票箱を運べない場合、現地で開票所を設けることを可能にすること、それに、ラジオのAMだけでなくFMでも憲法改正案を広報するための放送を可能にするとしています。

一方、立憲民主党が求めている、テレビやインターネットの広告規制は、今回の改正案には盛り込まれていません。
法案を提出した、自民党の新藤義孝氏は「テレビなどの広告規制については衆議院憲法審査会で議論が始まっていて、しっかり議論して法改正できるよう取り組んでいきたい」と述べました。

自民 石井幹事長代理「今国会で成立はありえない」
参議院憲法審査会の筆頭幹事を務める自民党の石井準一 幹事長代理は27日夜、取材に対し「日程的に今の国会で成立することはありえない。参議院では受け付けない」と述べ、今の国会の会期内に国民投票法の改正案を成立させるのは困難だとの見通しを示しました。

国民投票法改正案 憲法審査会への付託決定
『NHK NEWS WEB』2022年4月28日

憲法改正の手続きを定めた国民投票法を、公職選挙法に合わせて投票環境を整備する改正案の扱いについて、28日の衆議院議院運営委員会で採決が行われ、自民・公明両党や日本維新の会、国民民主党の賛成多数で憲法審査会に付託することが決まりました。

国民投票法の改正案は、公職選挙法に合わせて投票環境を整備するため、投票の立会人になるための居住地の要件の緩和などが盛り込まれたもので、27日、自民・公明両党や日本維新の会などが衆議院に提出しました。

これを受けて28日午前の衆議院議院運営委員会の理事会で自民党が「1日も早く議論することが大事だ」として憲法審査会に付託するよう提案したのに対し、立憲民主党は「改正案には広告規制が盛り込まれていない」などとして反対し、共産党も反対しました。

このため、このあと開かれた議院運営委員会で採決が行われた結果、自民・公明両党や日本維新の会、国民民主党の賛成多数で憲法審査会に付託することが決まりました。
* 引用、ここまで。

衆議院の憲法審査会は木曜日の午前中に(10時からのことが多いです)開かれることが通例になっていますが、この日の開始予定時刻が13時30分になったのは(実際には少し遅れて13時40分頃でしたが)、上記の議運の決定を待っていたからだったのです。

いつもと違った議場の様子

私を含めた傍聴者のほとんどはこうした経緯を知りませんでしたので、この後改憲手続法改正案が突然審議入りしたことに驚き、怒りを覚えることになるわけですが、議場に入ったとき、いつもと様子が違うことには気づいていました。

それは次の2点です。
1つは、名札のない席(4席分ありました)にマイクが置かれていたことです。
下の写真は『衆議院インターネット審議中継』からキャプチャーした審査会開会直前の議場の様子ですが、閉会直前に改憲手続法改正案の趣旨説明が行われた際には、ここに提出者たちが居並ぶことになりました。
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そしてもう1つは、野党側の委員の席順がいつもと違っていたことです。
通常は森英介会長(上掲の写真で、向こう側の少し前にせり出した座席に着いています)から向かって右側に立民、維新、国民、共産、有志の会と衆院の勢力順に並んでいるのですが、この日は立民、国民、共産、維新、有志の会の順になっていました。
維新と有志の会は改憲手続法改正案の提出者であり、後で移動しなくて済むようにあらかじめいつもと席順を変えていたものと思われます。

不鮮明ですが、上述した名札がないのにマイクが置かれている席の左側の北神委員(有志)、馬場幹事(維新)の名札が読めるでしょうか。趣旨説明時には馬場氏、北神氏の右側の名札がなかった席に自民党の4人(新藤義孝幹事、上川陽子幹事と審査会メンバーではない逢沢一郎氏、加藤勝信氏)が着席し、さらにその右側に北側一雄幹事(公明)が座って、改正案の提出者7人が並びました。

つまり、この日の審査会で改憲手続法改正案の趣旨説明が行われることは開会前に決まっていて、「知らぬは傍聴者ばかりなり」ということだったわけです。

サンフランシスコ講和条約発効70年の日に

審査会では、まず、「国民投票法」について、各会派の代表が1人ずつ意見を表明しました。
今回も『東京新聞』のウェブサイトから、その要旨を転載させていただきます。

国民投票のCM規制に賛否 衆院憲法審査会・意見表明の要旨
『東京新聞TOKYO Web』2022年4月28日

28日の衆院憲法審査会での各会派代表による意見表明の要旨は次の通り。
新藤義孝氏(自民)
国民投票法において整備すべきとされるのは、CM規制などの投票の質に関する事項と、投票の環境整備に関する事項だ。本日、国民投票法改正案が審査会に付託された。内容は開票立会人の選任要件緩和、投票立会人の選任要件緩和、ラジオ広報に、AMに加え、FM放送を追加する。この3項目だ。これらは全会一致で成立した公職選挙法の規定を国民投票法に反映させるもので、既に内容は審議済みのものだ。
奥野総一郎氏(立憲民主)
先ほど、国民投票法改正案が多数決によって憲法審査会に付託され、法案の趣旨説明が決められた。強く抗議したい。今回の与党法案は、投票環境向上のための措置だけを手当てするもので、CM規制等、公平公正を確保するための措置は含まれていない。なぜ今回、公職選挙法に平仄を合わせるだけの3項目改正を優先させるのか。これで発議の準備ができたというアリバイづくりではないか。
三木圭恵氏(維新)
CM規制は、民放連の自主的取り組みに加え、政党の紳士協定、国民投票広報協議会による公営放送の充実や指針の策定などで対応は十分ではないか。ネット広告に規制をかけることは難しい。テレビ、ラジオは規制しているのに、ネットは規制できないことは、公平性の観点から問題だ。よって、民放連が策定した考査ガイドライン以上の規制は必要ない。論点も整理されてきている。早急に結論を出すことをお願いしたい。
北側一雄氏(公明)
デジタル技術の進展に伴い、メディアは急速に多様化、複雑化し、大きく変化していく。対応するには、広告主である政党側で自主規制のルールを決める方が、より柔軟に実効的な規制ができる。政党側の自主規制と、事業者側の自主的な取り組みをあわせて推進することにより、法規制をしなくても、表現の自由の保障と投票の公平公正の確保のバランスが図られる。
玉木雄一郎氏(国民民主)
国民投票法にはネット広告に対する規制が何ら存在しない。ネット事業者の業界団体の自主規制もなく、外国人からの寄付も何ら規定されていない。より高度化したデジタル社会で、外部勢力が交流サイト(SNS)等を活用して選挙や国民投票の結果に影響を与えることは可能になっている。健全な民主主義を守るためには何らかの法規制が必要だ。
赤嶺政賢氏(共産)
国民が改憲を望んでいないもとで、改憲のための手続きを作る必要はない。どの世論調査を見ても、国民が改憲を優先課題とは考えていない。国民投票法を性急に整備する必要は全くない。現行法にはいくつもの欠陥がある。欠陥を放置したまま新たな改正案が与党から提出された。投票法を形だけ整えて、次は憲法本体の議論に進もうというものであることは明らかだ。
北神圭朗氏(有志の会)
前回の参考人質疑から、広告量の自主規制について、民放連がそれなりに実効力のある自主規制を実施する用意ができていることを確認した。ネットに対して取るべき方針は、政党関係の広告などを大量に流すことだ。「言論の自由市場」で悪貨が良貨を駆逐しないように努めることが、最も言論の自由を圧迫せずに公平性、公正性を確保する方法だ。
* 引用、ここまで。

その場では聞き取れなかったのですが、上掲の記事によれば、奥野総一郎氏(立憲)が「先ほど、国民投票法改正案が多数決によって憲法審査会に付託され、法案の趣旨説明が決められた」と述べていたことがわかります。

そのほか各会派代表の意見表明で注目すべきは、改正案の提出者に名を連ねた維新、公明、有志の会の委員が、公選法並びの改正さえ済ませれば改憲案の審議、発議、そして国民投票を行うことに支障はないのだと言わんばかりに、今回の改正案には含まれていないCM規制等について、テレビ・ラジオCMの法規制は必要ない、ネット広告の規制は難しいなどと主張していることです。

また、この日、4月28日がサンフランシスコ講和条約が発効した日であることから、憲法と矛盾する沖縄の現実を告発した赤嶺政賢氏(共産)の発言(『東京新聞』の記事では触れていない部分です)も紹介しておきたいと思います(4月29日付『しんぶん赤旗』から転載させていただきます)。

憲法違反の現実 正せ 国民投票法改定案 赤嶺氏が批判 衆院憲法審
『しんぶん赤旗』2022年4月29日

衆院憲法審査会は28日、国民投票法などについて自由討議を行いました。
日本共産党の赤嶺政賢議員は、国民投票法は「改憲作業と地続き」のものだと指摘し、「国民が改憲を政治の優先課題と考えていないもとで、投票法を整備する必要はない」と主張。

自民党などが提出した新たな「公選法並びに(注:「並びの」の誤植だと思います)国民投票法改定案」について、「投票法を形だけ整えて、いつでも動かせるようにしておき、次は憲法本体の議論に進もうというものだ」と批判しました。

その上で、「今やるべきは憲法に反する現実をただす議論だ」と述べ、憲法と矛盾する沖縄の実態を告発。1952年4月28日は沖縄がサンフランシスコ条約によって本土から切り離され、米軍統治下に取り残された「屈辱の日」だとして、72年の本土復帰後も、安保条約に基づき米軍基地が温存され、「米軍関係者による事件・事故などで県民の命と暮らしが脅かされ続けている」と指摘しました。

衆院本会議で可決された沖縄の本土復帰50年決議は、県民の願いに反して米軍基地を存続させた政府の責任を明らかにせず、基地の整理・縮小や日米地位協定改定にも一切触れていないと厳しく批判。「憲法の上に日米地位協定があり、国会の上に日米合同委員会がある沖縄の現実こそ変えるべきだ」と強調しました。
* 引用、ここまで。

この後、発言を希望する委員による自由討議が行われましたが、名札を立てて発言したいとの意思を示したのは自民1人、立民3人、維新1人、公明1人の6人だけでした。このうち発言を認められたのは各党1人ずつの4名のみで(つまり、立民の2人は発言できずじまいでした)、少しでも早く趣旨説明に入りたいとの思惑が見え見えの議事の進行でした。

奥野氏の抗議、足立氏のヤジ、新藤氏の失態

そして新藤義孝氏(自民)による修正案の趣旨説明が行われました。
新藤氏と上川洋子氏(自民)は、森英介会長(自民)が、「まだ発言の希望があるようだが、予定した時間が経過した」と述べたタイミングで早くも席を立ち、提案者の席に早足で向かいました(下の写真、『衆議院インターネット審議中継』よりキャプチャーしたもの)。
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そして、森会長が「これにて討議は終了した。次に本日付託になった改正案を議題とする」と言うと、奥野総一郎氏(立民)が立ち上がって「反対! まだ発言を希望する者がいる。なぜ議論の途中でこんな話が入ってくるのか。パフォーマンスじゃないか」と声を上げました。

このとき他の立民の委員も一緒に立って抗議してほしかったのですが、残念ながらそういう動きはなく、聞こえたのは足立康史氏(維新)の「懲罰動議を出すぞ」という声でした。ちなみに、足立氏は懲罰動議を出される側の常連で、憲法審でもしばしば品位にかけるヤジを飛ばしていますので、出来の悪いジョークを聞かされた思いがしました。

この直後、新藤氏が信じがたい失態を演じました。まだ森会長が指名してもいないのに改正案の趣旨説明を始め、森氏の「ご静粛に。ただいまより提出者から趣旨の説明を聴取します」との発言でようやくフライングに気づいて、「えっ、あっ、すいません」と言って趣旨説明を最初からやりなおしたのです。

ともあれ、これで改憲手続法改正案が審議入りしました。
ただ、今後の展開は予断を許しません。最初に転載したNHKの記事によれば、「参議院憲法審査会の筆頭幹事を務める自民党の石井準一幹事長代理は…『日程的に今の国会で成立することはありえない。参議院では受け付けない』と述べ、今の国会の会期内に国民投票法の改正案を成立させるのは困難だとの見通しを示し」たとのことです。そうなると、衆議院を通過させることも不可能になります。

なぜなら、通常国会閉会後には参院選が行われますので、参議院で審議未了の法案は継続審議とすることができず、廃案になってしまうからです。つまり、この改正案を廃案としないためには、無理やり参議院まで通してしまうか、衆議院で採決せずに継続審議とするかしかありません。

私に法案の先行きを心配しなければならない義理はありませんが、自民党などがなぜこのタイミングで審議入りを強行したのかよくわかりません。何か奥の手が隠されているのかもしれず、今後も注視していきたいと思います。

この日の傍聴者は40人弱で、記者・カメラマンは10人ほど、今回はTVカメラは入っていませんでした。また、開会から閉会までずっと自民の委員5~7人ほどが欠席していました。(銀)