2月17日(木)10時から11時30分頃まで、先週に続いて衆議院憲法審査会が開催されました。今回も衆院では同時刻に(9時から)予算委員会(8つの分科会)が開かれており、昨年12月16日から3回続けて予算委との同時開催が行われたことになります。もはや「異例」とは言えません。

この日のテーマは、憲法56条第1項の「出席」の解釈でした。同項には「両議院は、各々その総議員の三分の一以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない」と記されているので、今回のコロナ禍のような事態で感染者や濃厚接触者が多数発生した場合、あるいは災害時などに「出席」者が定足数に達せず国会の機能がマヒしてしまうことを避けるため、「オンライン」で審議や採決に参加することも「出席」として認めるべきではないか、そのためにはどのような措置を講じなければならないのかという問題です。
初めに衆議院法制局長から、この問題に関する説明があり、その後自由討議が行われました。
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まず、この日の審議の内容が簡潔に整理されている『東京新聞』の記事を転載させていただきます。

国会のオンライン審議、導入議論は緊急事態条項の改憲とセット?別々? 各会派の主張は
『東京新聞TOKYO Web』2022年2月17日

 衆院憲法審査会は17日、各会派による自由討議を行い、国会のオンライン審議について議論した。自民党はオンライン審議を契機として、緊急事態条項などの改憲論議につなげたい考えを示した一方、立憲民主党は、オンライン審議の実現は改憲ではなく、衆院規則の変更で対応可能だと主張した。(木谷孝洋)
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 憲法審の冒頭、衆院法制局の橘幸信局長が、国会の定足数を定めた憲法56条1項などの「出席」の解釈について(1)実際に国会にいることが義務である(2)オンラインでの審議や採決も許容される―の2つの学説を説明。オンライン審議を認める場合でも、あくまで例外的制度として位置付けるべきだとの見解が多いと紹介した。
 自民の新藤義孝氏は「『出席』の概念も、緊急事態条項に関する改憲の中に位置づけるべきだ」と指摘。日本維新の会の三木圭恵氏もオンライン審議にとどまらず改憲の議論まで進めるべきだとの考えを示し、「緊急事態条項をつくり上げることが国会議員の責務だ」と訴えた。
 立民の奥野総一郎氏はオンライン審議の導入を求めた上で「強権的な緊急事態条項に反対だ」と、論点が憲法本体に及ぶことをけん制した。多くの会派がオンライン審議に賛同する一方、共産党は「慎重な検討が必要」とした。
 衆院憲法審は10日に続き、今国会2回目。新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえ、オンライン審議の憲法上の論点を集中的に議論することで与野党が合意していた。今後、憲法の専門家らを招いて意見を聴取する方針。
* 引用、ここまで。

◆ 議論を緊急事態条項に広げようとする改憲勢力

上記の記事に記されているように、「多くの会派がオンライン審議に賛同」しましたが、奥野総一郎氏(立民)、中野洋昌氏(公明)、玉木雄一郎氏(国民)らが、その実現に改憲は不要で衆議院規則の変更などで早急に認めるべきだと主張したのに対して、新藤義孝氏(自民)、三木圭恵氏(維新)、稲田朋美氏(自民)らは、緊急事態への対応は改憲によって規定するべきだと述べ、憲法審の議論を改憲案の検討に誘導しようとしていました。

また、玉木氏や北側一雄氏(公明)は、速やかに憲法審としての合意形成を行い、衆議院議長や議院運営委員会に提起すべきだとも主張しました。一方、赤嶺政賢氏(共産)や新垣邦男氏(社民)は、この問題は憲法審ではなく、議院運営委員会で協議すべきだと指摘しました。

こうしたやりとりの背景には、憲法第58条第2項の「両議院は、各々その会議その他の手続及び内部の規律に関する規則を定め……ることができる」との規定があります。「オンライン審議」の問題は衆議院全体に関わることですから、憲法審では議論するなとまでは言えないでしょうが、基本的には議運マターだという赤嶺氏や新垣氏の発言の方が当を得ているのではないでしょうか。

なお、玉木氏が「憲法第4章の『国会』は、国会自身が解釈権を持つ部分である」(これはトンデモ論だと言われてもしかたがないでしょう)のだから、「コロナ禍で明らかになった憲法上の課題に憲法審のメンバーとして、立法府の一員として責任ある解決策を示していこうではありませんか」と、まるで安倍元首相が乗り移ったかのような言葉づかいで述べたのには、本当に驚かされました。
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◆「仕事をしたふり」の開催という指摘

この日の開催について、新垣氏は「本日の課題設定は、審査会の毎週開催の実績作りを目的とした意味合いが強く、コロナ禍に乗じた改憲論議の促進と軌を一にするものである」と、鋭く指摘しました。また、全く逆の立場からではありますが、足立康史氏(維新)は野党側の憲法審筆頭幹事の奥野氏がこの日の審議に同意したことについて、「立憲の(立場である)論憲の形を示すためであり、仕事をしたふりができる」からだろうと揶揄しました。

私は、これらの発言は案外正鵠を射ているのではないかと思いました。と言うのも、新藤氏がオンライン審議に関して方向性の整理を深めるため、「本日の幹事会で、来週も審査会を開催し、学識的見地からの意見をうかがうことも含めてさらに議論を進めていくことを提案した」、北側氏が「来週も議論がなされると思うが、是非幹事会で、オンライン国会の憲法上の許容性について合意文書のたたき台を作成すべきである」と述べていたからです。

ところで、維新の委員は、この日も立民をディスる(否定する、侮辱する)発言を繰り返しました。上記の足立氏のほか、三木氏も「緊急事態が発動された2020年4月からの約2年間、どこかの政党が様々な理屈で憲法審を開くことを拒否し続けた結果、こういった危機的事態に陥りかけている今も、何も準備ができていないことは残念で、国民の皆様に申し訳ない」と言ってのけました。
こうした批判は国会の開催・延長を拒否し続けてきた与党に向けるべきですし、今全国で最悪の危機的事態に陥っているのは維新の本拠地である大阪です。「恥を知れ」と言うしかありません。
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異彩を放った船田元氏(自民)の発言

いつもはこの傍聴記の最後にその日の「トンデモ論」を紹介することが多いのですが、すでに玉木氏、足立氏、三木氏などの発言に触れましたので、今回は少し目先を変えて、数年前まで自民党憲法族の中心人物として、憲法審の前身の憲法調査会時代から憲法議論を主導していた船田氏の発言を取り上げたいと思います。

「いよいよ憲法の改正について議論をすることが可能になってきたことは感慨無量だが、拙速な議論は避けるべきだ。幅広い政党間の合意、各党が平等に取り扱われること、賛否平等な扱いを行うことという『中山方式』が、これからも守るべき原則だと思う。」
「テーマごとに分科会を作るべきだという意見もあったが、全体会の中で進めていくのが順当な方法であると思っている。」
「国政選挙と同時に憲法改正の発議をすべきであるという議論があったが、政権、政党、人間を選ぶのと同じときに憲法の議論をするのはなじまないし、混乱を起こすと思う。選挙運動と国民投票運動は別々に行うべきであると思っている。」

私には、まるで一人だけ別の次元から発言しているように感じられました。
この日の発言の最後は、「今年7月の参院選が終わった後、衆院の解散がなければ3年近く国政選挙のない状況が生まれる。この3年の間に憲法改正について歩みを進めるべきだと思っている」というものでしたが、船田氏は憲法のどこに問題があるのか、どこを改正すべきなのかということは言わないんですね。やっぱり本質は狸親父なんでしょうか。

この日は自民党の委員の出席率が低く、最初から最後まで3、4人から7、8人が欠席していました。傍聴者は30人以上いて立ち見の方もいましたが、記者やカメラマンはいつもより少なめだと感じました。(銀)


この日、国会前では、改憲・戦争阻止!大行進の呼びかけで、10時~12時まで、戦争国会弾劾の抗議行動がありました。労働者や学生など40名ほどが集まり、憲法審査会の開催弾劾!大軍拡の防衛予算を許さない!と抗議の声を上げました。百万人署名運動の仲間も参加しました。各団体のリレーアピールの最後に傍聴者も駆けつけ憲法審査会の様子を報告しました。
国会前