改憲手続法改正案をめぐる攻防:5月6日には採決か?

4月22日(木)10時から、今国会2回目の衆議院憲法審査会が開かれました。2週連続の開催で、前回と同じく改憲手続法改正案に関する質疑(約40分)と自由討論(約60分)が行われました。

この日も「本会議及び委員会の傍聴については、適切な身体的距離を確保できる人数の入室を認めることと」するという「傍聴の制限措置」の内容(衆議院ホームページ昨年9月10日付の告知)は守られず、25人ほどの傍聴者が詰めかけて傍聴席は「密」状態、立ち見の方も数人いました。
多くの委員の出席で、議場もかなりの「密」になっていました(写真参照)。
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4月22日の衆院憲法審査会(山花郁夫氏のホームページから転載させていただきました)

与野党間で事前に改憲手続法の採決を行わないことが合意されていたためメディアの関心は低かったようで、記者席にはけっこう空席があり、テレビカメラを持ちこんだのも3社と少なめでした。
メディア各社の報道も、憲法審査会そのものより、その前に開かれた幹事懇談会で与党が5月6日開催予定の次回の憲法審で改憲手続法改正案の採決を行うことを提案したことに焦点を当てたものが多かったようです。以下、『毎日新聞』のウェブサイトに掲載された記事を転載させていただきます。

国民投票法改正案採決 与党、来月6日提案 衆院憲法審『毎日新聞』2021年4月23日
衆院憲法審査会は22日、今国会2度目の国民投票法改正案の審議と自由討議を行った。これに先立つ幹事会で、与党側は5月6日の審査会開催と改正案の採決を提案した。野党側は採決については回答を保留し、質疑の実施のみ合意した。
野党側は採決の前提として、改正案の付則などにCM規制や外国人寄付規制などの審議を行うことを担保する文言を書き込むよう求める方針で、与党側が応じるかが焦点となっている。
野党幹事の奥野総一郎氏(立憲民主党)は審査会後、記者団に「CM規制など提案したものについて、抜本改正の明確な担保がない限りは採決というわけにはいかない」と述べた。【遠藤修平、宮原健太】
* 引用、ここまで

この日の質疑でも、公職選挙法に合わせた改憲手続法の改正について、今井雅人氏(立憲)から期日前投票の公平性が損なわれる恐れがあるのではないかとの発言がありましたが、自公と維新、国民の委員たちは「議論は尽くされた。直ちに採決を」の一点張りで、まともな回答はありませんでした。

特に、質疑の一番手として発言した新藤義孝氏(自民)が、前回15日の自由討議で「改憲国民投票と一般の(議員、首長の)選挙では基本的な性格が異なるのだから、根本から議論すべきだ」という指摘があったことに対して、「3年前になぜ議論が出なかったのか」と述べたのには本当に驚き、あきれました。法案提出時に注目されなかった論点は一切取り上げるべきではないとでも言いたいのでしょうか。こういう人物が与党筆頭理事として憲法審の運営を担っているわけで、本当に由々しきことだと思います。

もう一人、別の意味であきれたのが足立康史氏(維新)の発言でした。氏は、「改憲手続法改正案については審議が尽くされたとの立場なので質問することはない」と述べたうえで、馬場伸幸氏(維新)に対し、かつて憲法調査会長、憲法調査特別委員長として国会での憲法審議を取り仕切っていた中山太郎氏(自民)の考えやエピソードを聞きたいとか、憲法審の開催自体を否定する共産党の姿勢をどう考えるかとか質問しました。後者に関する馬場氏の返答は「審査会があれば出席して議論に参加されている共産党の姿勢には敬意を表したい」というもので、こんなどうでもいいやり取りを黙って聞いていなければならない苦痛たるや……本当にいい加減にしてほしいと思いました。
yurusuna
後半の自由討議については、今回もその内容を詳しく報じた『東京新聞』の記事を、同社のウェブサイトから転載させていただきます。

コロナ禍での衆院議員任期延長や国会オンライン会議など議論【衆院憲法審査会自由討議要旨】『東京新聞TOKYO Web』2021年4月22日
衆院憲法審査会で22日行われた各党による自由討議の要旨は次の通り。(国民投票法改正案に関する法案審議部分は省略)
新藤義孝氏(自民)国会議員の任期延長は、コロナ禍の厳しい状態でも国権の最高機関を機能させるためのもの。国会の定足数、オンライン会議の問題も議論しなければならない。この提案は既に自由討議で行ったが、なかなか議論できないのは忸怩たる思いだ。
山花郁夫氏(立憲民主)国民投票と選挙の投票は、場合によって異なった視点が必要ではないか。選挙の場合は任期満了で議会に議員がいないということがあってはならず、早期確定の要請は間違いなくある。だが国民投票は多少ずれても大きな支障が生じることはあまり想定できない。公職選挙法から(国民投票法に)置き換えて大丈夫なのか検証する必要がある。
北側一雄氏(公明)任期満了直前に感染症の著しいまん延などで国政選挙の実施が困難となることが想定される。任期満了で衆院議員は全員、地位を失う。憲法45条で任期は4年と明記しているからだ。国家の危機時に衆院が機能しなくていいのか。任期延長は憲法改正が必要になる。その是非の議論が必要だ。
赤嶺政賢氏(共産)世論は改憲が政治の優先課題だとしていない。安倍晋三前首相自身が退任会見で「国民的な世論が十分に盛り上がらなかった」と述べている。2015年6月、審査会で3人の憲法学者が安全保障関連法制は憲法違反だと述べ、「憲法を壊すな」と国民の声がわき上がり、1年半も審査会を動かさなかったのは自民党ではないか。国民が改憲を望んでいない以上、審査会は開くべきではない。
足立康史氏(維新)新型コロナ感染症のまん延という脅威に対応する中で、緊急事態条項にかかる議論を今こそ深める必要がある。そのためにも国民投票法改正案の速やかな可決、成立を図り、憲法改正議論にかかる実質的な審査に入るべきだ。
山尾志桜里氏(国民民主)コロナ禍の進行中に憲法との問題を洗い出し、国際社会がどう対応しているか調査を開始すべきだ。落ち着いたら、調査に基づいてコロナ特別措置法改正、憲法での緊急事態条項の具体的な検討を進める。併せて、緊急事態での人権救済問題を解決するのに有効と考えられる憲法裁判所の議論を進めるべきだ。
船田元氏(自民)憲法改正に関するテレビCMの問題では、民放連が2年前に意見聴取で量的(自主)規制を現時点で考えていないと答弁し、驚いた次第だ。そのことで国民投票法そのものが欠陥だとは考えていない。
斎藤健氏(自民)衆院議員の任期は公職選挙法で最長1カ月延ばせるが、憲法で4年としか書いてないものを法律で延ばせるか憲法上の大議論を惹起しかねない。憲法上疑義のある状況でいろんな意思決定をして本当にいいのか。半年後にも起こり得る。立憲主義を標ぼうする政党こそ、この問題をはっきりさせるべきだ。
奥野総一郎氏(立民)(改正案の)7項目の採決を急ぐことは、CM規制や外国人寄付の問題で結論を得るつもりが本当にあるのかと疑念に思う。安倍前首相が自民党憲法改正推進本部の最高顧問に就任するとの報道がある。CM規制等そっちのけで(9条改憲など自民党の)改憲4項目の議論に走る懸念もある。
柴山昌彦氏(自民)英国(議会)などでは当たり前のようにオンラインで審議、投票している。日本では憲法56条のもと班分けをして実際に議論し、全員で採決する状況だ。デジタルトランスフォーメーション(デジタル化による社会の変容)といった時代の大きな流れを経ているのに、全く議論が進捗していないのは由々しき状況だ。
* 引用、ここまで
 
記事の見出しに掲げられているように、コロナ禍を理由に衆議院議員の任期延長など緊急事態条項の検討を求める意見が目立ちましたが、発言時間が1人5分に制限されていることもあってか、あるいはコロナに便乗してちょっと思いついたことを発言してみたという程度のことなのか、説得力の感じられる議論はありませんでした。

さて、次回の衆院憲法審は連休明けの5月6日に開催されることが決まっています。4月28日には参議院でも憲法審査会が始動します。今通常国会の会期末に向けて、改憲手続法改正案が成立するのかどうかに注目が集まっていますが、改憲勢力の立場から見ると、2018年7月に提出された改正案がいまだに成立せず、改憲の議論が遅々として進まない憲法審の現状は歯がゆい限りだと思います。
9rogo
これに業を煮やしたのか、このところ、安倍晋三前首相があちこちで改憲推進の旗を振っており、しばしばその動静が報じられています。次の『産経新聞』の記事はその一つです。

「枝野さん、議論しろよ」 安倍前首相が憲法シンポで改憲議論呼びかけ『産経新聞』2021年4月23日
安倍晋三前首相は22日、東京都内で開かれた「日本国憲法のあり方を考えるシンポジウム3」(夕刊フジ主催)にパネリストとして出席し、立憲民主党の枝野幸男代表に憲法改正議論を呼びかけた。「枝野さんは『安倍晋三が首相の間は議論しない』と言っていた。私はもう首相ではないのだから議論しろよ、という感じだ」と述べた。
国会の憲法審査会で改憲議論が進まない現状には「国会議員としては恥ずかしいと思わないといけない」と語った。改憲手続きを定める国民投票法改正案の採決も訴えた。
自衛隊に関しては「最大の実力組織について憲法に明文規定がないのはおかしい」と憲法への明記を改めて主張。「打撃力を抑止力として考えるべきだ。実際の手段と作戦計画も整える必要がある」とも述べ敵基地攻撃能力を保有すべきだとの意向を重ねて示した。
* 引用、ここまで

安倍氏は自民党憲法改正推進本部の「最高顧問」に就いたそうですが(ずいぶん大層な肩書ですね)、そのことを報じた『朝日新聞デジタル』掲載記事の末尾に紹介されている「あんまり表に出てこないほうがいい。逆効果だ」という「会合の出席者の一人」のコメントが笑えます。

安倍氏、憲法改正推進本部最高顧問に 「喜んで」と快諾『朝日新聞デジタル』2021年4月20日
自民党の衛藤征士郎・憲法改正推進本部長は20日にあった同本部の会合で、同本部最高顧問に安倍晋三・前首相が就任したと明らかにした。衛藤氏が安倍氏と直接会って就任を要請し、安倍氏は「喜んで」と快諾したという。
最高顧問には高村正彦氏が就いており、安倍氏が2人目となる。この日の会合後、衛藤氏は記者団に安倍氏の起用について「菅総裁から『憲法改正推進については挙党態勢でお願いします』と言われた」と説明。「挙党態勢でやろうということだ」と語った。
憲法改正の動きをめぐっては、衆院憲法審査会で改正の手続きを定める国民投票法改正案の審議が行われており、今国会での成立に向けた与野党の神経戦が続いている。会合の出席者の一人は、安倍氏の最高顧問就任について「あんまり表に出てこないほうがいい。逆効果だ」と述べた。(楢崎貴司)
* 引用、ここまで

最後に、院外での改憲勢力の動きを一つ、紹介しておきます。
5月3日の憲法記念日に「美しい日本の憲法をつくる国民の会」が開催する「憲法フォーラム」で、オンラインでライブ中継されるとのことです。
その出席者の顔ぶれを以前ご紹介した昨年12月2日のイベントと比較すると、今回は公明党の国会議員が参加しないこと、今回も山尾志桜里氏(国民)が参加することがわかります。また、今回は河野克俊氏(前自衛隊統合幕僚長)と中山義隆氏(沖縄県石垣市長)が出席します。この「フォーラム」では、自衛隊の憲法明記と緊急事態条項の必要性が強調されるのでしょう。
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今後も、改憲派の動向に目を配りながら、明文改憲への地ならしのための憲法審査会の開催絶対反対!改憲手続法もいらない!という立場から、監視を続けていきたいと思います。(銀)