11月19日(木)13時45分頃から、今国会初の衆議院憲法審査会が開催されました。「頃」というのは、下記のような事情があったからです。

私たちが委員室(衆院では委員室、参院では委員会室と、なぜか呼び名が違います)に入ったとき、すでに審議が始まっていました。検温などのため傍聴前の手続きにいつもより時間が掛かったからです。もう少し早めに手続きを始めるとか、開会を1、2分遅らせるとか、そういう配慮がなぜできないのでしょうか。

この文章は、6月2日付のこのブログに掲載した前回5月28日の衆院憲法審レポートをそのまま写したものです。「傍聴の権利を尊重しろ! もういい加減にしてくれ!」と言いたいところです。
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今回の衆院憲法審査会は、午後の開催、所要わずか1時間という形で実施されました。通例では午前9時か10時頃から2時間以上を確保して行われてきたところ、この日は本会議や他の委員会との兼ね合いで、かなり無理をして日程が押し込まれたのではないかと思います。

ところで、衆議院のホームページでは、「新型コロナウイルス感染症対策のため」下記のような傍聴の制限措置が講じられていることが告知されています。
「本会議及び委員会の傍聴については、適切な身体的距離を確保できる人数の入室を認めることとし、体温計の計測により、37.5以上の発熱その他感染を疑わせる症状(発熱・風邪の症状、息苦しさ・強いだるさ、味覚・嗅覚異常、過去14日以内の海外渡航歴)がないことを確認し、マスクの着用を求めた上で傍聴を認めることとなります。」
また、前日の18日には、東京都内で新たに確認された新型コロナウイルス感染者数が493人で過去最多になったと報じられていました。

そんな中、今回の審査会は、改憲勢力に「やってる感」をアピールすることを一つの目的として開催されたものだと言わざるを得ません。自民党は憲法審査会長に細田博之氏を、党憲法改正推進本部長に衛藤征士郎氏を充てるという新体制を発足させており、目に見えるアクションを起こさないまま臨時国会を終えることはできなかったのでしょう。ここでもう一度、「もういい加減にしてくれ!」と書いておきます。

なお、上記の「傍聴の制限措置」は完全に無視されており、この日の傍聴席は満杯で少し動くと隣りの方と腕や肩が触れあうような状態となっていて、「適切な身体距離を確保できる人数」どころではありませんでした(傍聴者は25人ぐらい、記者席もほぼ埋まっていました)。また、検温は非接触の機器を使って行われていましたが、「その他感染を疑わせる症状がないこと」の確認は一切ありませんでした(そもそも国会の職員にそんなことができるはずがありません)。

委員の出席率が高かった(定数50人中常に45人以上が着席していました)こともあって議場もそこそこの「密」になり、コロナウイルスなどどこ吹く風という様子でした。(* この一文も6月2日付のブログに掲載した前回5月28日の衆院憲法審レポートを丸写ししたものです。)
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さて、衆議院憲法審査会で実質的な審議が行われたのは5月28日以来、今臨時国会では初めてでした。ただ、主なテーマは「憲法改正国民投票法を巡る諸問題」で半年前と同じ、審議時間が短かったこともあって目新しい論点はなく、聞いたことのある議論が繰り返されただけという印象でした。
以下、まず『東京新聞』のウェブサイトから、当日の議事内容がわかりやすくまとめられた記事を転載させていただきます。

衆院憲法審査会、国民投票法改正案など議論 菅政権発足後初の自由討議(2020年11月19日)
 衆院憲法審査会は19日、菅政権発足後初めての実質的な憲法論議となる自由討議を行った。継続審議となっている国民投票法改正案を巡っては、与党が早期成立を主張。立憲民主党などは反対したが、国民民主党は条件付きで採決を容認した。日本学術会議の新会員任命拒否問題を受け、学問の自由を保障するよう求める発言もあった。
 自民党の新藤義孝氏と公明党の北側一雄氏は、駅や商業施設に「共通投票所」の設置を認めるなど7項目を見直す国民投票法改正案について、主な野党にも異論はないなどと指摘し、採決に理解を求めた。
 これに対し、立民の辻元清美氏らは今月1日に実施された大阪都構想の住民投票を踏まえて、国民投票運動の期間中に放送されるテレビCMなどの規制も並行して議論すべきだと主張。投票日当日の運動の制限や、国民投票で否決された改憲案を再び発議するまで一定期間空けることの是非も検討課題になるという認識を示した。
 一方、この臨時国会から野党統一会派を離脱した国民の山尾志桜里氏は、CM規制などの議論を速やかに行うことを条件に与党の採決提案に応じる姿勢を示し、野党の対応が分かれた。
共産党の赤嶺政賢氏は、自民党が自衛隊明記など改憲4項目の条文化作業を進めていることに強く反発。日本学術会議問題に触れ、菅政権を「憲法で保障された基本的人権を蹂躙する政治」と断じた。
衆院憲法審は26日も自由討議を行う。(川田篤志)

◆衆院憲法審査会の自由討議の要旨
新藤義孝氏(自民)投票環境の整備を行う国民投票法改正案はCM規制など別の論点を議論するためにも速やかに(審議の)手続きを進めるべきだ。憲法改正の議論を国会で深めてほしいという国民の声に応えるため、与野党を超え憲法論議を深めていくべきだ。
山花郁夫氏(立憲民主)大阪(都構想)の住民投票でCMの量は公平だったと言えるか。法的規制は不要と考えるのは難しい。同一テーマの国民投票に一定のインターバルを定める議論があってもよい。
北側一雄氏(公明)商業施設などに共通投票所を設けるなど国民投票法改正案の7項目について各党に異論はない。速やかに成立を図るべきだ。成立したから一気に憲法改正に進むわけではない。
赤嶺政賢氏(共産)菅義偉首相が日本学術会議の会員候補6人を任命拒否したこの違憲なやり方に対する批判は広がっている。任命拒否を撤回すべきだ。憲法で保障された基本的人権を蹂躙する政治を正し、現実に生かすための憲法議論こそ必要だ。
足立康史氏(維新)国民投票で過半数の賛成を得ることは容易ではないことを大阪都構想の住民投票を通じて痛感した。大阪で何が起こったか明らかにすることは憲法改正の国民投票の公正な実施にも資する。国会で検証すべきだ。
山尾志桜里氏(国民民主)国民民主党は年内にも新憲法改正草案の要綱で論点や具体策を示し、議論の活性化に役立てたい。CMやネット広告の規制、外国人の寄付規制など必要な議論の場を確保し、必要な改正が行われるなら、7項目の先行採決に応じる。
石破茂氏(自民)憲法審を頻繁に開催し、北海道から沖縄まで全国各地で行うことが必要。可能な限り多くの党の賛成が得られるものは何かを考えるべきだ。
大串博志氏(立民)社会の分断があおられがちな時代背景を踏まえれば、憲法審でも融和をより意識した運営が必要になってきている。国民投票法にはCM規制などの問題があると新藤氏も認めている中で7項目だけ先に(改正する)というのは理屈に合わない。
船田元氏(自民)CMを法的に規制することは表現、報道の自由に抵触する可能性もある。憲法改正の発議と同時に国会に置かれるはずの広報協議会に監視してもらい、公平性、公正性を担保することが現実的ではないか。
中川正春氏(立民)憲法の何を論じるか、改正が必要だとすればどの項目から論じるかという各党の合意を作っていかなければ次のステップには行けない。与野党の信頼関係が崩れている限り、前には進まない。
鬼木誠氏(自民)憲法審を動かすべきでないとの発言も一部あったが、民主主義は議論することから始まる。議論すら否定するのは国民の代表、立法府として責任を果たしているとは思えない。
辻元清美氏(立民)国論を二分するような問題は国民投票になじまない。議会のコンセンサスが取れなかったから国民に決着させようというのは、国民を戦わせることになり、社会の分断を招く。
* 引用、ここまで
 
【改憲手続法改正案成立の可能性高まる】
上掲の記事にあるとおり、この日の審議の焦点は、自公・維新の議員により2018年6月に提出されて以来(細田会長は提案者の一人でした)、7国会にわたり継続審議となっている改憲手続法(いわゆる国民投票法)改正案(商業施設等への共通投票所の設置、洋上投票の拡充など7項目の改正案)の取扱いでした。そこで注目されたのは、早期採決を主張する自民・公明の委員と、CMやインターネットの規制等について議論するのが先決だとする立憲・共産の委員が、コロナ禍や大阪の住民投票、米国大統領選挙などの話題に言及しながら従来の主張を繰り返す中で(いつものことですが、牽強付会を絵に描いたような意見も目立ちました)、新・立憲民主党に参加しなかったメンバーで設立された新・国民民主党が、改憲の議論に積極的に関与する立場をこれまで以上に鮮明に打ち出してきたことでした。

すなわち、国民民主党の山尾志桜里氏(党の憲法調査会長でもあるそうです)は、憲法審査会は定例日(木曜日)に原則として毎週開催すべきだと訴えるとともに、自民党が自公など提出の改憲手続法改正案の可決後にCM規制などの追加的な議論を行うことを確約するなら採決に応じたいと明言したのです。これに対して、自民党の新藤義孝氏は早速審査会の場で「いまのご意見はしっかり受け止めて、憲法審査会で議論の場をつくって前に進めていきたいとお約束したいと思う」と応答し、報道によれば、山尾氏は「審査会後、CM規制などの議論を続けることを与党側が約束したとして、採決に応じる考えを示した」(『FNNプライムオンライン』11月19日)とのことです(写真参照)。
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これによって、自公が改憲手続法7項目改正案の採決に突き進む可能性が大いに高まったのではないかと思います。誰も野党とは認識していない維新だけでなく国民民主党も採決に応じて賛成したとなれば、「強行採決」との批判を受けるおそれがなくなるからです。この日、あらかじめ練り上げられていたシナリオ通りにことが進められたというのは、うがちすぎた見方でしょうか。

先に今回の審査会は改憲勢力に「やってる感」をアピールすることを一つの目的として開催されたものだと書きましたが、もう一つの目的は改憲手続法改正案の採決・成立に向けた地ならしを進めることにあったのだと思います。

なお、今臨時国会は延長されずに12月5日に閉会を迎える見込みですので、今のところ採決は次期国会に持ち越されることになると想定されます。残念ながら私たちがそれを阻止することは難しいでしょうが、その後にはより重大な闘いが控えています。自民はCM規制などの議論に応じるとしていますが、仮にこの約束を反故にしないとしても、平行して改憲案そのものの議論を仕掛けてくることは必定でしょう。それが緊急事態条項なのか自衛隊明記なのか、あるいは別の内容になるのかはわかりませんが、いまから緊張感を持って改憲反対闘争の強化を準備していかなければならないと思います。

【その他、びっくりしたことなど】
この日、私がいちばん驚いたのは、審査会に委員を出している各会派1人ずつの発言が終わった後、真っ先に石破茂氏(自民)が指名されたことでした。というのも、安倍晋三前首相の最大の政敵であった石破氏は、前回5月28日の審議会で指名され発言するまでおよそ4年間にわたって国会での発言の機会を封じられていたからです。
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そして、びっくりしたのはそれだけではありません。石破氏は脈絡なく次々に持論を繰り出していましたが、その中で多くの党の賛成が得られる可能性がある改憲案として、自民党が野党時代の2012年に公表した改憲草案で打ち出した憲法53条の改正案(いずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があったときは……20日以内に臨時国会が召集されなければならない)に触れたとき、「もちろん、召集は畏れ多くも陛下の名によって行われるべきものではありますが」と述べたのです
これには本当に仰天しました(もしかしたら聞き間違いかもしれないと思って『衆議院インターネット審議中継』で確認しました)。
キリスト者として知られる石破氏は、本当に天皇の存在を「畏れ多い」と感じているのでしょうか、天皇について言及するときいつも「畏れ多くも」と前置きしているのでしょうか。

もう1人、この人物はトンデモ発言の常連で、そう書いただけで、ああ、あの議員かとお察しの方も多いと思いますが、そう、足立康史氏(維新)です。上掲の記事では「大阪で何が起こったか明らかにすることは憲法改正の国民投票の公正な実施にも資する。国会で検証すべきだ。」とまとめられていますが、大阪で起こったことの説明がトランプ氏もあきれるような内容でした。
自民党の一部と共産党が一緒になって明らかなデマを拡散したからいわゆる都構想が否決されたというのですが、そもそも都構想という名称からしてフェイクだったわけで、国会で検証されれば維新側にとってとんだやぶ蛇になることは間違いないと思います。足立氏には、この発言に責任を持って、国会での検証の実施を今後も主張し続けてほしいものです。

話は変わりますが、この日、憲法審を傍聴するために衆議院の議員面会所で待機しているとき、そこに設置されているモニターで衆院本会議で種苗法改正案が可決されるのを見ました。菅義偉政権の発足直後に大きな混乱が生じないよう、政府は今国会では与野党が激しく対決するような法案の提出を見送ったと報じられていますが、実際には悪法が次々と通されていっています。
それでも前を向いて、異議申し立ての活動を続けていきましょう。(銀)