11月7日(木)10時から今国会2回目の衆議院憲法審査会が開催され、久しぶりに自由討議が行われました。
なお、初回の審査会は臨時国会召集日の10月4日(金)に安倍首相の所信表明に先立って開かれており、前会長の辞任及び新会長の互選、幹事の補欠選任が行われました。新たに会長に就いたのは佐藤勉氏で、これまで自民党国会対策委員長として戦争法、共謀罪など数々の悪法の強行成立を主導してきた人物ですので、今後審査会がどのように運営されていくのか注視していきたいと思います。

また、幹事や委員にも異動がありました。とくに、国民民主党の玉木雄一郎氏(党代表)と前原誠司氏(元民進党代表)が委員となったことは要注目(要警戒と言うべきかもしれません)です。
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今回の審査会では、9月19日から29日まで実施された欧州4カ国(ドイツ、ウクライナ、リトアニア、エストニア)での調査の概要や感想が派遣された委員たちから報告され、その後自由討議が行われました。報告者は、団長の森英介前会長と副団長の山花郁夫氏(立憲)、そして新藤義孝氏(自民)と奥野総一郎氏(国民)、北側一雄氏(公明)の5人でした。

ところで、欧州調査にはもう1人、江渡聡徳(えとあきのり)氏(自民)も参加していましたが、なぜか憲法審の委員を辞任していて、報告も行いませんでした。なぜそんな人物を派遣したのか、安くない費用をかけて調査に出かけたのだからその経験を今後の審議に生かすべきだったのではないかと批判されてもしかたがないと思います(その意思や能力があるかどうかはまた別の話になりますが)。

さて、衆議院の憲法審査会で実質的な審議が行われたのは、国民投票時のCM規制について民放連の意見を聴取した上で質疑が行われた5月9日以来で、自由討議となると2017年11月30日以来ほぼ2年ぶり、このときも欧州調査(イギリス、スウェーデン、イタリア)の報告が行われたのでした。今回の傍聴報告の表題を「まるで2年前のビデオを見ているよう」としたのはそのためであり、前回のように今後も憲法審の審議が停滞すればいいのにと切に願っています。
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この日の審議のポイントについては、今後の見通しも含めてまとめられていた11月8日の『毎日新聞』朝刊の記事を引用させていただきます。
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国民投票法改正案 野党「視察討議継続を」 審議日程圧迫

立憲民主党など野党は7日、衆院憲法審査会の与党幹事との協議で、次回の14日も欧州視察に対する自由討議を続けるよう要求した。自民党は国民投票法改正案の質疑・採決を提案していたが、野党との協調を優先する方向だ。会期末までの国民投票法改正案の審議日程は限られ、与党が目指す今国会成立はますます見通せない。

審査会での審議中に開かれた与野党協議で、野党の山花郁夫筆頭幹事(立憲)は欧州視察への質問が尽きない様子に「来週も続けられないか」と要請。与党の新藤義孝筆頭幹事(自民)は持ち帰ったが、佐藤勉審査会長(自民)は記者団に「今日の感覚をみれば、ちょっと足りない」と野党の提案に理解を示した。

国民投票法改正案の来週の質疑を見送ると、それ以降の衆参憲法審の定例日は各3回しかない。立憲は▽国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」への補助金不交付を巡る「表現の自由」の問題▽国民投票時のテレビCM規制――を議題にするよう要求している。要求に応じれば日程がさらに厳しくなり、与党は難しい対応を迫られる。

立憲・山尾氏が議論推進表明

野党側も足元に不安を抱える。立憲の山尾志桜里氏はこの日の憲法審で「手続き(国民投票法改正案)の議論が終わらない限り、一切憲法の中身に入らないのはおかしい」と訴えた。党の方針に反する恐れがあり、立憲執行部は山尾氏の発言を精査する方針だ。

国民民主党も玉木雄一郎代表が改憲に積極的な発言を繰り返す。「安倍改憲阻止」のため、時間稼ぎを図る立憲だが、野党の結束を保てるかが課題だ。【東久保逸夫、野間口陽】

◆衆院憲法審査会 7日の主な発言

自民党:(欧州視察を通じ)我が国の実情を踏まえた改憲議論の重要性を痛感した=新藤義孝氏
公明党:大規模災害時の国会議員の任期延長など緊急事態条項は論議を進めるべき課題だ=北側一雄氏
立憲民主党:ドイツの(憲法にあたる)基本法は国会議員定数や地方議員任期が規定されているが、日本では法改正で対処している=山花郁夫氏
国民民主党:公正に民意を反映できる国民投票法と中立的な憲法裁判所がセットで初めて改憲議論ができる=奥野総一郎氏
共産党:憲法9条を生かす政治が求められており、国民の多数は改憲を望んでいない=赤嶺政賢氏
日本維新の会:維新は教育無償化など改憲3項目を決めている。他党も改憲項目を出してほしい=馬場伸幸氏
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発言希望者を残したまま強制終了

今回、いちばん驚かされたのは上記の記事でも紹介されている山尾志桜里氏の発言でしたが、いい意味で意外に思ったのは森団長の報告中、『団長所見』として示された下記の一節でした。

「ドイツでは、基本法改正が63回も行われていたことは承知していましたが、今回の調査を通じて、『63』という数字の背後にある事情について、改めて考えさせられました。……63回という改正回数に目を奪われがちですが、表面的な数字のみにとらわれることなく、その国の憲法をめぐる政治文化や背景も考慮しなければならないことに気付かされたところです。」

そんなことは常識だ、わざわざ欧州まで行かなくてもわかることだろうと言ってしまえばそのとおりなのですが、それでも自民党の団長からこの『所見』が表明されたことには意味があったと思います。というのも、自民党の改憲勢力にとっての今回の欧州調査の主目的は、憲法改正を繰り返してきた各国と比較して一度も改憲をしていない日本の特殊性(もっと言えば異常性)を浮き彫りにして、改憲論議を前に進める材料のひとつにしたいということだったからです。なお、ウクライナでは6回、リトアニアでは10回、エストニアでは5回の憲法改正が行われているそうです。

自民党憲法改正推進本部の皆さんには、森氏の認識を真摯に受け止め、改憲の必要性を訴えるビラに掲載した下の資料を直ちに取り下げていただきたいと思います。(そもそも政治体制の全く異なる中国を例に出すなんて、一体どういう了見なんでしょうか。この一事だけでも皆さんの見識が疑われますよ。)
自民党ビラ
それはともかく、この日の審査会は、後に他の日程が詰まっていたからなのか、多くの発言希望者を残したまま11時30分少し前に散会となりました(憲法審では、発言を希望する委員は名札を立てて会長に示すことになっていますが、終了時にはまだ10人近くの希望者がいました)。その過半は自民党の委員で、特に幹事はほぼ全員が名札を立てていたように見えました。

『毎日』の記事によれば、「野党は……次回の14日も欧州視察に対する自由討議を続けるよう要求した」ということですが、(どのくらい意味のある討議が行われるかはともかく)根拠のある主張だと思います。ただ、私としては安倍首相の「桜を見る会」問題で国会が紛糾し、あらゆる審議がストップすることを期待しているのですが、どうなるでしょうか。

ひとり我が道を行く日本維新の会・馬場氏の発言

もうひとつ、この日の発言で印象に残ったのは、日本維新の会の馬場伸幸氏の発言です。(傍聴報告のたびに維新の委員の発言を取り上げているような気がしますが、それだけ異色の政党だということなのでしょう。)
維新は2年前の欧州調査には参加していましたが、今回は辞退しました。馬場氏はその理由を下記のように述べました。

「7年前、旧民主党、自民党、公明党が3党合意を行って税と社会保障の一体改革を決定した際に、当時の野田総理と安倍総裁が国会議員の数を大幅に減らす合意をしたはずなのに、さきの通常国会では参議院議員の定数を6人も増やしてしまっている。こういう状況の中で、大変な税金を使った海外調査に我が党は反対している。今回の調査でも、総費用12,999,104円という税金を使っている。
憲法審査会では真っ当な議論が全く行われておらず、仕事をしないのに海外調査にいくのはどういうことだという怒りの声が私のもとにも届いている。」

約1,300万円と言えば済むところを1円単位までの数字を挙げた馬場氏の発言にはある意味感心させられますが、政府はもっと桁の違う無駄遣いをやりたい放題していますので、維新には是非もっと影響の大きいところを追及していただきたいと思います。
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さらに馬場氏は「我が党はすでに改憲3項目を決定している」と述べ、審査会での討議を呼びかけましたが、維新の改憲3項目のひとつは憲法裁判所の設置です。この日の自由討議でも憲法裁判所の話題が出ていました(憲法裁判所がある国とない国がありました)が、憲法裁判所について海外で調査するせっかくの機会を逸したのは判断ミスだったのではないでしょうか。たとえば、維新の改憲草案では、憲法裁判所は衆議院、参議院、最高裁が4人ずつ任命した12人の裁判官で構成することになっていますが、この案に大きな不安を覚えるのは私だけではないでしょう。

この日の委員の出席率はきわめて高く、空席はずっと4~5人くらいでした。
議場に入るとすでに5台のテレビカメラがスタンバイしていて、大きなレンズを付けたスチルカメラを持ったカメラマンも10人ほどいたと思います。傍聴者は30人くらい、記者は25人くらいだったでしょうか。議場には傍聴席が20しかなく、いつもは空いている記者席に座らせてもらえるのですが、この日は記者席も満杯だったので、かなりの方が立ち見を余儀なくされていました。(G)