5月9日(木)午前9時から衆議院憲法審査会が開催され、2018年2月21日の参議院憲法審査会以来、本当に久しぶりに実質的な審議が行われました(衆院に限って言えば、憲法審での実質審議は2017年11月30日以来となります)。

審査会、幹事会の構成
この間、2018年5月に国民民主党が結成されるなど旧民主党勢力を中心に政党・会派の離合集散があったため、審査会の構成が少し変化しました。すなわち、衆院憲法審の会派別の人数は、2017年11月30日時点では自民30、立憲6、希望6、公明3、無所属の会2、共産1、維新1、社民1であったのが、今回は自民28、立憲8、国民5,公明3、共産1、維新1、社保(社会保障を立て直す国民会議)1、社民1、希望1、未来(未来日本)1となっています。少数会派が増えて社保や未来に委員が配分された結果、自民党の委員が2人減った形になりました。

また、幹事会の構成は自民7(会長を含む)、立憲1、国民1、公明1となり、希望が国民に置き換わりました。注目すべきは自民党の幹事の入れ替えで、これまで一貫して幹事の座にあった船田元、中谷元の両氏が外れています。2人とも委員には残っていますが、特に国会での改憲論議の経緯を熟知し、野党との協調を重視してきた船田氏が幹事の役を解かれたことは、今後の審議のありように少なからず影響を及ぼすかもしれません。
 
多くの記者、傍聴者で立ち見に
この日は久しぶりの開催であったためでしょうか、特に記者、カメラマンが多く集まっていて、記者席は満杯、テレビカメラは最初7台も入っていました(閉会時には3台に減っていましたが)。大きなレンズを付けたスチルカメラを構えたカメラマンも冒頭には10人ほどいたでしょうか、カシャカシャカシャという連射のシャッター音が頻繁に聞こえていました。

傍聴者は30~40人で、記者も同じくらいだったと思いますが、立ち見を余儀なくされた(私もその1人でした)多くの人が狭いスペースに入り交じっていたので、はっきりした人数はわかりませんでした。
委員の出席率は比較的高く、2時間と予定されていた審議時間を過ぎた11時頃までは空席が10を超えることはありませんでした。閉会は11時13分頃でした。

さて、今回の審査会では、民放連(一般社団法人日本民間放送連盟)の専務理事・永原伸氏と理事待遇番組・著作権部長田嶋炎氏を参考人として招き、「憲法改正国民投票に係る有料広告の自主規制の検討状況」について議論が交わされました。審議は、最初に参考人の永原氏が意見を述べ、その後会長代理の山花郁夫氏(立憲)が5分、10会派の代表1人ずつが各10分の質疑を行うという形で進められました。

以下、この日の審議のポイントについて、『朝日新聞デジタル』の記事を引用させてもらいます。

改憲論議めぐり与野党が神経戦 CM規制で民放連聴取(5月9日21時59分配信)
 衆院憲法審査会は9日、憲法改正の賛否を問う国民投票の際のテレビCM規制について、日本民間放送連盟(民放連)から意見聴取した。CM規制を呼び水に改憲論議の進展を目指す自民党に対し、野党は警戒を強めており、夏の参院選を見据えた神経戦が続く。
 2007年成立の国民投票法は、投票の14日前から賛否の投票を促すテレビCMを禁じる。ただそれ以前の規制はなく、立憲民主党などは、資金力のある政党や団体が大量のCMを流すことの影響を懸念し、規制の必要性を訴える。
 cm規制
 この日の憲法審で、民放連は法規制に慎重な姿勢を示すとともに、CMの量的自主規制も行わない方針を説明。永原伸専務理事は「国民の表現の自由に制約を課すことは、放送事業者の勝手な判断で行うべきではない」と述べた。
 これに対し、07年当時、国民投票法案作成の野党側責任者だった立憲民主党の枝野幸男代表は、民放連が量的自主規制をすることを前提に法がつくられたと主張。自主規制をしないのであれば、「欠陥法だと言わざるを得ない」と述べ、自民党で法案作成に関わった船田元・元経済企画庁長官らの参考人招致を求めた。
 民放連の田嶋炎番組・著作権部長は「当時の(国会での民放連の)参考人の発言の真意は、日常的に放送事業者が放送法で義務づけられている番組基準、あるいは日常的な運用の中で対応する(ということ)」などと説明した。
 また共産党の赤嶺政賢氏が資金力によって賛否のCM量が偏る可能性を問うと、田嶋氏は「特定の広告主にCM枠のほとんどが買い占められることは想定のできないこと」と回答。特定の広告主が集中的にCM枠を設けられるかを尋ねた希望の党の井上一徳氏には「過去70年の民放の実績を振り返っても、集中するようなケースは起こらないのではないか」と述べた。
 民放連は、そもそも量的規制は現実的に困難との立場をとる。永原氏は賛成1団体に対し、異なる立場から反対する3団体がCMを希望した場合にどうさばくことが平等と言えるのかなどの具体例を挙げ、「実務におろすと非常に難しい問題が発生する」などと述べ、理解を求めた。(鈴木友里子)

次に、この日の審議を受けた今後の見通しについて解説した『毎日新聞』の記事を転載させてもらいます。

憲法審再開でも野党硬化 首相「20年改憲」辻元氏「出直せ」(5月9日21時04分配信)
 自民党は国会での実質審議が衆院憲法審査会で1年3カ月ぶりに再開したことを受け、改憲議論を加速化し、安倍晋三首相が掲げる「2020年新憲法施行」の実現に結び付けたい考えだ。だが、野党は警戒を強めて態度を硬化しており、先行きは見通せなくなっている。
 与党筆頭幹事の新藤義孝氏(自民)は9日の衆院憲法審査会後、記者団に「憲法審査のスピードを速めていかなくてはいけない」と強調した。だが、野党は与党が同日の憲法審幹事会で、国民投票法改正案の質疑と採決を16日に行うよう改めて提案したことに対し回答を保留した。
 そもそも自民党が今回、民放連の参考人招致に応じたのは、安倍首相の下での改憲に慎重姿勢を崩さない野党に対し、改憲論議への呼び水にしようと狙ったためだ。だが、野党側は「20年新憲法施行」にこだわる首相に対し「公平、公正な国民投票ができない状況。顔を洗って出直してこい」(立憲の辻元清美国対委員長)と批判を強め、今後の改憲議論のスケジュールは見通せなくなっている。
 自衛隊明記など4項目の改憲条文案を策定した自民は衆院憲法審開催を狙い、現行の国民投票法に公職選挙法とのずれがあることに着目。共通投票所の設置など公選法の規定にそろえる国民投票法改正案を昨年の通常国会に提出した。「改憲の中身と関係ないため、野党も憲法審で審議に応じざるをえない」と見たためだが、野党側はさらに改憲の国民投票で賛否を呼びかけるCMを問題視。積み残しの国民投票法改正案の審議より、CM規制強化の議論を優先するよう要求。逆に対立は深まった。
 立憲はCMの全面禁止に向けた独自の改正案作りを進めており、枝野幸男代表は9日の憲法審を受け、インターネット広告も規制対象とするよう党内に指示。立憲は憲法審でのさらなる参考人招致を求め「自民がのまないなら審議に応じない」(幹部)とハードルを上げる。国民民主党も既に策定した党独自の改正案の議論を求め、立憲と足並みをそろえる。【野間口陽】

ということで、今国会中の道筋としては、自民党など改憲勢力が
① 継続審議となっている国民投票法改正案を強引に成立させ、さらに日程に余裕があれば自民党改憲案の審議入りを強行するという「ワイルド」(萩生田光一自民党幹事長代行)路線か、
② 当面は無理をせず再び審査会が停滞すること、国民投票法改正案が一旦廃案となることも容認するという「マイルド」路線または「死んだふり」路線
のいずれかを選択する可能性が高いように思われます。彼らにとって立憲など野党のペースにはまってCM規制など国民投票法の抜本的な改正議論の袋小路に入り込むことは受け入れがたいからです。

①、②のどちらを取るかは、参院選(あるいは衆参ダブル選)への影響を見極めながら決定することになるのでしょう。いずれにせよ、9条自衛隊明記などをめぐる本格的な攻防は参院選(あるいは衆参ダブル選)後に持ち越されます。私たちはそれに備えて改憲絶対阻止の態勢を強化していかなければなりません。

維新・馬場氏の驚くべき発言
最後に、今回の憲法審査会で私がいちばん驚いた日本維新の会幹事長の馬場伸幸氏の発言を紹介したいと思います。参考人に対する質疑に入る前に、憲法審査会の進め方についての意見を述べた部分の要旨です。
 
「真っ当な憲法審査会は久しぶりだ。前回、真っ当な憲法審査会が開かれたのは平成29年11月。この間10連休があったが、29年11月からカウントすると憲法審査会は約600連休だったわけで、国民の要望から外れた運営になっているとたいへん危惧している。
今日、野党の皆さん方、日本維新の会も野党だが、の質問を聞いていると、CM問題であの人を呼べとかこの人を参考人にしろとかいろんなご意見があって、この先CM規制で憲法審査会がダラダラと開催されるのではないかとたいへん心配している。本来、憲法審査会は憲法改正項目を審査することが主たる目的の場であるので、CM問題などいろいろな課題は同時並行的に片付けていくべきではないかと提言しておきたいと思う。
自民党の皆様方も、幹部の方から『ゴールデンウィークが明ければワイルドな憲法審査会を開催するという発言があったので、その言葉どおりやっていただきたいと思う。やるやるといいながらなかなかやらない<オオカミと少年>のようにならないように、『やると言った以上どんどんやっていただく。この審査会の前向きな運営をぜひお願いしたい。」

いまや維新は自民党以上の改憲勢力であることを明確に打ち出してきています。「日本維新の会も野党だが」という言いようには思わず笑ってしまいましたが、与党に追従するだけの野党などあり得ません。なお、未来日本の長島昭久氏も、表現ぶりは穏やかでしたが同趣旨の発言をしていたことを付記しておきます。(G)