6月8日(木)9時から(の予定でしたが、幹事会が長引いたためでしょうか、実際には9時6、7分頃から)、衆議院憲法審査会が開催されました。

今国会、参議院では1回も開かれていないのに対して、衆議院では8回目(実質的な審議は7回目)、今回で4週連続の開催となりました。

まず、今回の報告の前に、前回の『憲法審査会レポート』で紹介した自民党・古屋圭司氏の日本会議国会議員懇談会の勉強会(6月1日)での発言について、「これ(=今回の審査会)に先立って開かれた審査会の幹事会で、自民党の古屋選挙対策委員長は、先に、改正項目を絞り込む際に多数決で決めることもありえるという認識を示したことに触れ、『個人的な発言だ』と釈明しました」との報道があった(6月8日の『NHK NEWS WEB』による)ことを備忘として記しておきたいと思います。

なお、古屋氏は幹事会の後の審査会には出席しておらず、『産経ニュース』の「安倍日誌」によれば、審査会開会中の10時24分から11時24分まで安倍首相と面会していました(1時間も何を話していたのでしょうか?)。

さて、今回のテーマは「第1章 天皇」で、各会派の代表者6人からの意見表明と委員間での自由討議が行われました。
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今回も、まず、この日の審議の内容が的確に整理されている6月9日付の『朝日新聞』の記事2本を引用させてもらいますが、私としては、予想されたこととはいえ、委員の誰1人として、たとえば皇室の人々の基本的人権の問題として、あるいはまた長期的な課題としてさえも天皇制不要論、廃止論に言及しなかったこと(したがって、もちろん記事にもなっていません)こそが最大のポイントではなかったかと思います。
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衆院憲法審が「天皇」議論 陛下お気持ち表明後、初

衆院憲法審査会は8日、天皇陛下による昨年8月の「お気持ち」の表明後初めて、「天皇」をテーマに自由討議を行った。天皇陛下の退位を実現する特例法案の成立を9日に控え、今後の検討課題となる皇族減少対策や皇位継承のあり方、天皇の公的行為の位置づけを中心に議論した。

与野党は今年1月から退位についての協議を開始。3月に衆参両院の正副議長が国会の意見を取りまとめた。民進党は協議の間も、審査会で「天皇」をテーマにするよう求めていたが、与党が難色を示していた。退位と憲法上の位置づけが絡む事態になれば、安倍政権が思い描く改憲スケジュールが狂いかねないとの懸念があったからだ。

民進党は、女性宮家の創設に加えて、女性・女系天皇の検討を「速やかに開始すべきだ」(山尾志桜里氏)と主張。自民からは女性宮家に対し、「天皇の定義さえも変わりかねない」(鬼木誠氏)と否定的な意見が続いた。ただ、両党の議員から党の枠を超えた異論も出た。

一方、自民は憲法を改正して、天皇の公的行為を明記したり、元首として位置づけたりすることにも言及。公明党を含め各党から反対論が相次いだ。

安倍晋三首相が5月に打ち出した改憲提案を受けた動きも。複数の自民委員が「9条も正々堂々議論すべきだ」(中谷元氏)と主張。上川陽子氏も昨年から今年にかけての議論を総括する文書をまとめるよう審査会長らに要請した。改憲項目の絞り込みへ、流れをつくる狙いがある。(藤原慎一)

女性宮家、党派超え賛否 各党、幅広い天皇観 衆院憲法審

「天皇」がテーマとなった8日の衆院憲法審査会は、皇位継承のほか、公的行為を憲法に位置づけるかが論点となった。天皇陛下の退位を実現する特例法案をめぐっては国会の「総意」を優先して、各党とも抑え気味だった天皇制の議論だが、今回は党の枠組みを超えてさまざまな意見が表明され、天皇観の幅広さが浮き彫りとなった。

この日、議論が最も白熱したのが、いまの皇室典範で「男系男子」に限られている皇位継承についてだ。
菅義偉官房長官は7日の参院特別委員会で「男系男子をしっかり引き継いでいきたい」と述べている。特例法案の付帯決議に女性宮家創設の検討が盛り込まれ、安倍晋三首相ら自民党内の保守派には「女系天皇に道を開くものだ」との強い警戒感があるためだが、同党ベテランの船田元氏は疑問を投げかけた。

「私の考え方は党内の主流ではないかもしれない」と前置きしつつ、女性宮家の創設について「将来の女性天皇に道を開くという点では賛成だ」。女系天皇についても「125代男系が続いてきた歴史を崩すことは躊躇しなければならないが、天皇家の世襲が途切れる最悪の事態との比較で議論する余地はあるのでは」と踏み込んだ。

これに対し、同党の若手からは、「すでにある皇位継承順位の事後的な変更をもたらしかねない」(山下貴司氏)といった反論のほか、「天皇の継続性について国民的議論にするには違和感がある」(安藤裕氏)として、国会ではなく皇族自身が決めるべきだとの意見も出た。

党内の意見が一様ではないのは民進党も同じ。岸本周平氏が「皇位継承資格について、女性や女系の皇族への拡大も国民的議論を喚起していくべきだ」と表明すると、津村啓介氏も「愛子さまが18歳になられる2019年までに皇室典範を改正し、男系女子に皇位継承資格を拡大すべきだ」と具体的に提案した。

一方、北神圭朗氏は「党内では少数派」と断ったうえで「女系になると皇統が変化してしまう。男系男子が重要だ」。さらに「側室制度の回復も養子縁組も難しい中、旧宮家の復活などの可能性も探求すべきだ」と自民党内の保守派に近い考えを明らかにした。

■公的行為、位置づけは

この日は、天皇陛下が昨年8月の「お気持ち」表明で投げかけた、「国民統合の象徴としてのあり方」についても議論された。

お気持ちでは「日本の各地、とりわけ遠隔の地や島々への旅」を象徴の行為として大切にしてきたとの思いが語られた。だが憲法は「天皇は国事行為のみを行い」と定めて政治への関与を禁じ、こうした「公的行為」を位置づけていない。

自民の根本匠氏は「陛下のおことばから、公的行為がいかに大切か酌み取れる」と述べ、公的行為を憲法に明記すべきだと主張した。2012年の党改憲草案は「国事行為のみ」との現行憲法の文言から「のみ」を削り、「公的な行為」を記している。

これに対し、社民の照屋寛徳氏は、天皇が明治憲法での「統治権の総攬者」から、現行憲法の「国民統合の象徴」となった経緯を踏まえ、「神ではなくなった天皇は国家権力を動かす根拠を失ったので、形式的な国事行為しかできない」と強調。「公的行為の明記は天皇の権限強化で、国民主権に反する」と反対した。

共産の赤嶺政賢氏も「天皇主権の軍国主義のもとで侵略戦争に突き進んだ」とし、「憲法1章の核心は国民主権。だからこそ、天皇の行為は国事行為のみと限定された」と指摘。公的行為の明記が、天皇の政治利用につながる危険を指摘した。

公明の太田昭宏氏は「公的行為が加わって初めて、国民に(天皇への)敬愛の情が生まれている」としつつも、憲法への明記には否定的な考えを示した。(編集委員・国分高史、二階堂友紀)
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要警戒! 改憲の発議に向けた布石

私がこの日の議論でいちばん注目し、そして警戒すべきだと感じたのは、上掲の1本目の記事の最後の段落でまとめられていること、すなわち「安倍晋三首相が5月に打ち出した改憲提案を受けた動きも。複数の自民委員が『9条も正々堂々議論すべきだ』(中谷元氏)と主張。上川陽子氏も昨年から今年にかけての議論を総括する文書をまとめるよう審査会長らに要請した。改憲項目の絞り込みへ、流れをつくる狙いがある」という改憲派の策略です。なお、自民党の委員だけでなく、北神圭朗氏(民進)も「9条について審査会で積極的に取り上げていただくことを強く要請したい」と発言したことを付け加えておきたいと思います。

どんなテーマでも浮上する沖縄の問題

上述したように、この日の議論では共産党の委員も社民党の委員も天皇制廃止論にはまったく言及せず、憲法の天皇(制)論としては隔靴掻痒の感を免れなかったのですが、ともに沖縄県選出の赤嶺政賢氏(共産)、照屋寛徳氏(社民)が揃って言及した話題に触れないわけにはいきません。

それは、安倍政権による天皇の政治利用が厳しく批判された4年前の「主権回復の日」の式典です。ここでは照屋氏の発言内容を紹介しておきますが、憲法について議論するとき、何をテーマとしても必ず沖縄の問題が浮上すること、そしてそれらの問題の多くが改善されるどころかますます悪化していることを考えると、暗然とした気持ちになるばかりです。
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天皇の公的行為との関連で思い出すエピソードがある。

2013年4月28日、安倍内閣はサンフランシスコ講和条約が発効した1952年4月28日にちなんで、天皇陛下臨席のうえで主権回復・国際社会復帰を記念する式典を挙行した。その日は沖縄にとって屈辱の日であり、沖縄では同時刻に抗議の県民大会が開催された。政府式典では天皇の「お言葉」もなく、終了直後に安倍総理初め出席者が天皇陛下万歳を唱道し、天皇の政治利用だと批判された。
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改憲のうえで天皇の公的行為の拡大を明確にすることは、このような天皇の政治利用を加速させるものだ。
それにしても、講和条約締結から61年目といういかにも中途半端な日に強行されたこの式典、その後は一向に開催されませんが、安倍政権はこの醜態というか愚挙というかをいったいどう総括しているのでしょうか。

やっぱり出た! トンデモ論
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ところで、憲法審査会の自由討議では、発言を希望する委員が名札を立て、森英介会長(自民)の指名を受けてから意見を表明することになっていますが、この日は、最初自民党の委員で名札を立てたのは船田元氏1人だけで、しかも氏の発言の内容たるや、上掲の記事にあるように女性宮家の創設に賛成し、女系天皇についても議論する余地があるという、自民党の多数派にはとうてい容認できないものでした。

これに慌てたのかどうかわかりませんが、船田氏の発言の後、中谷元氏(自民)が席を立って何人かの自民党の委員に声をかけて回り、発言を促すということがありました。

その結果何人かの自民党の委員から飛び出したのが、お約束のトンデモ論の数々でした。テーマが天皇制であるだけに今日はきっと出るぞと思って期待?していましたが、予想どおりでした。そのいくつかを紹介すれば、

鬼木誠氏:女性宮家は日本に歴史上存在しなかった。もし女性宮家ができ、女性天皇が海外留学し、海外の方と結婚され、その子どもが天皇に即位したら、そのときから日本の王朝はその男性の姓をとってジャクソン王朝とか李王朝とかということになる。(*すさまじい妄想力ですね。)

安藤裕氏:天皇制はもう2000年以上もつながってきた。(*お願いですから神話と歴史を区別してください。それにしても、上掲の記事にもあるように、船田元氏までもが「125代にわたり男系が続いてきた」と言ってのけたのは衝撃的でした。)皇室典範は皇族の皆様方でお決めいただき、われわれはそれに従うというのが本来の日本の知恵ではないか。

土屋正忠氏:天皇陛下の存在は象徴なのか元首なのか。芦田均先生が昭和21年(*西暦を使ってほしいんですけど無理な注文でしょうか。)に書かれた「新憲法解釈」に、元首と言えば大統領も君主もある。元首という言葉に天皇にふさわしい尊厳性があると考えるのは間違いであるという記述がある。私は、象徴から元首にというのは、言ってみれば格下げだと考えている。

そんな中で、ちょっとおもしろい、そういう発想もあるのかと感じた発言もありました。それは「40年間産婦人科をやっている」という赤枝恒雄氏(自民)が開陳した下記のような見解です。

男か女かというのは、女性は男性になれる、男性も女性になれると法律で書いてある。女性が男性になりたいと言って2人のドクターに性同一性障害の認知を得られれば、性器を取り外して男性になれる、立派なペニスもつけられる、性行為もできる。皇位継承が男か女かというより、Y染色体がつながっていればいいんじゃないか、そうでなくても遺伝子がつながっていればいいんじゃないか。皇位継承のところで男か女かという議論が私にはとてもむなしく感じる。

この日の委員の出席者数は30~45人の間で推移していて(定数は50)、ごく短い間でしたが自民党の委員(31人)のほぼ半数が離席していた時間もありました。傍聴者は20~25人ほどで、「天皇(制)」がテーマだった割には少なかったと思います(おそらく、同時刻に共謀罪を審議する参議院法務委員会が開かれていた影響でしょう)。私たち百万人署名運動は3名で傍聴してきました。

記者は10~15人ほど、カメラマンは多い時間帯で5~6人で、前回は入っていなかったテレビカメラが2台(TBSとフジテレビでした)、どちらも10時少し前まで議場の様子を撮影していました。(G)