6月1日(木)9時から、今国会7回目(実質的な審議は6回目)の衆議院憲法審査会が開催されました。これで3週連続で、俄然ペースアップしてきました(ただし、参議院憲法審査会は1回も開かれていませんが)。

今回のテーマは前回と同じ「新しい人権等」で、4人の参考人から20分ずつの意見聴取と、各会派の代表者6人による15分ずつの質疑が行われました。各参考人はそれぞれ異なる分野の「新しい人権等」について研究し、あるいは市民活動として取り組んでいる方々で、下記について意見を述べ、質問に答えていました。

・宍戸常寿氏(東京大学大学院法学政治学研究科教授):プライバシー権
・三木由希子氏(特定非営利活動法人情報公開クリアリングハウス理事長):知る権利
・小山剛氏(慶應義塾大学法学部教授):環境権
・小林雅之氏(東京大学大学総合教育研究センター教授):教育を受ける権利

この日の審議では、憲法に「新しい人権等」についての規定を置くべきか否かについて全面的な肯定論、否定論を主張した参考人は1人もおらず、どの分野に関しても改憲の意義、必要性や可能性について慎重に検討を重ねたうえでその是非を判断するべきだという見解が示されました。
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以下、参考人の意見をはじめ、この日の議論の内容が的確に整理されていた6月2日の『朝日新聞』朝刊4面の記事を紹介します。(とくに限られたスペースの中で照屋寛徳氏(社民)の沖縄の環境問題についての発言が取り上げられていることを評価し、感謝したいと思います。)
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「教育無償化」に慎重論 環境権でも溝 憲法審参考人質疑

衆院憲法審査会は1日、「新しい人権」をテーマに参考人質疑を行った。安倍晋三首相が改憲項目に掲げる「教育無償化」には、参考人から慎重な対応を求める声が上がり、公明党議員も消極姿勢を示した。環境権の明記でも各党の考えは分かれた。

教育無償化の必要性に理解を示す参考人の小林雅之・東京大教授は、4兆円超に上るとされる無償化に伴う財源について「裏付けをどうするのか」と指摘。高等教育への公的支出には「世論の支持が得られないおそれがあり、国民投票で否決されれば、実質的な無償化はさらに遠のく危険性さえある」と述べた。

公明党の斉藤鉄夫氏も「大学進学しない若者が半数いる中で、大学費用を社会全体で負担することが成立するのか。一人ひとりを支援する方が現実的ではないか」とし、慎重姿勢を強調した。

共産党の赤嶺政賢氏は「教育無償化の実現に必要なのは憲法を変えることではなく、政策判断だ。9条改憲の手段として教育無償化が使われようとしている」と疑問を呈した。

これに対し、改憲による教育無償化を訴えてきた日本維新の会の足立康史氏は「国民が政府を縛るとの趣旨から言えば、憲法改正(による無償化実現)こそ唯一の道だ」と主張した。

環境権をめぐっては、自民党の船田元氏が「人権カタログにしっかり入れていくべきだ」とし、「国民の権利」としての憲法への明記を訴えた。同党改憲草案では「環境保全の責務」を創設し、国と国民の双方に「良好な環境」の保全に向けた努力義務を課している。

一方、社民党の照屋寛徳氏は「沖縄では米軍基地が大気と地下水を汚染し、環境が阻害されている」と指摘。改憲ではなく、日米間の安保条約や地位協定の見直しでの対応を求めた。(藤原慎一)

森友問題・PKO日報破棄、「知る権利」の明記で解決?

衆院憲法審査会の参考人に立った三木由希子氏は、学校法人「森友学園」の国有地売却問題で情報開示に消極的な政府の姿勢を批判。「行政組織は記録を通じ、説明責任を果たすことが必要。それができない組織は、私たちの知る権利を大きく阻害する要因になる」と述べ、国民の権利侵害にあたると指摘した。
三木氏は財務省などの契約交渉に関する電子データの証拠保全を求め、東京地裁に申し立てをしたNPO法人「情報公開クリアリングハウス」の理事長だ。

民進党の後藤祐一氏は、財務省が「廃棄した」とする森友学園への国有地売却の経緯に関する文書や、いったん「廃棄した」とされた南スーダンで活動する陸上自衛隊の日報の問題を挙げ、「知る権利を憲法に位置づけることで、(廃棄を防ぐ)立法化の上でも差が出てくるのではないか」と質問した。

これに対し三木氏は「行政組織は公開することの公益と、非公開による利益の比較考量がうまくできないのが問題。(憲法に明記すれば)より公益的な判断を促す効果はあるかもしれない」と応じた。ただ、改憲より、個別制度の議論が前提だとも指摘した。(三輪さち子)

■「新しい人権」についての参考人の意見

宍戸常寿・東京大大学院教授】(「共謀罪」法案に関連して)世界的には「安全かプライバシーか」の二者択一ではなく「安全もプライバシーも」が模索されている。それをどう両立させるか、そのために憲法改正が必要か、検討してほしい。憲法改正自体を目的化せず、何をどこまで具体的に実現するかを意識すべきだ。

三木由希子・NPO法人「情報公開クリアリングハウス」理事長】情報の非公開や秘密保護というのは、事実上、政府がアカウンタビリティー(説明責任)を回避し、市民の「知る権利」を制約している。政府が信頼されていることが前提。憲法改正では、知る権利によって何を保障するか、何を達成、実現するかの議論が必要だ。

小山剛・慶応大教授】環境権は、良好な自然環境を享受する権利として、憲法13、25条によって基礎づけられていると理解されている。一方で、保護される環境の範囲などが漠然としていて、裁判で使い物にならないとの批判もある。憲法に明文化する意義があるかどうかは議論がある。

小林雅之・東京大教授】日本では教育費は「親負担主義」が強く支持され、公的な負担が難しい。もし改憲で高等教育の無償化をしようとしても、現状では世論の支持が得られない恐れがある。国民投票で否決される恐れがある。教育の社会経済的効果を示し、世論の支持を高めるべきだ。
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改憲に前向き?な後藤祐一氏(民進党)の質疑

この日私がいちばん気になったのは、民進党を代表して質疑に立った後藤祐一氏の発言でした。
上掲の『朝日』の記事でも「知る権利」を憲法に位置づけることに肯定的とも取れる質問が紹介されていますが、氏は環境権、教育を受ける権利、プライバシー権についても、憲法上明文化すればプラスになる側面があるのではないかと問うていました。

改憲によって緊急事態時における国会議員の任期延長を可能とすべきだと唱えている細野豪志氏ほど明確な言い方ではありませんでしたが、両氏に限らず民進党の議員たちの発言を聞いているとあまりにもナイーブで、狡猾な改憲勢力に対する警戒感がなさすぎるのではないかという心配が尽きません

この日の委員の出席状況は、参考人を招いたにもかかわらず30人台で推移し(定数は50)、席に着いていても発言者の議論を聞いていない様子の委員が多くて(ラップトップで何やら作業している、スマホを手にしながら議場を出て行く、レジュメが配布されているのにそれを見ていない等々)、失礼極まりないことだと思いました。

同じ時間帯に(10時から)共謀罪を審議している参議院の法務委員会が開催されていたにもかかわらず傍聴者はいつもより多く30人ほども集まり、私たち百万人署名運動は4名で傍聴しました。記者は10~15人ほどで前回までと同じくらいでしたが、カメラマンはいちばん多い開会時でも2~3人で少なめ、テレビカメラは今国会で初めて1台も入りませんでした。

閉会時、森英介会長(自民)は「次回は公報をもってお知らせする」と述べていましたが、『産経ニュース』では「次回は8日に『天皇制』をテーマに各党が意見表明を行う」と報じられており、改憲勢力はやる気満々のようです。

そのことに関連して紹介しておきたいのが、上掲の記事と同じ『朝日新聞』朝刊の4面に報じられていた日本会議国会議員懇談会の勉強会で飛び出した古屋圭司氏の以下のような発言です。
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「改憲項目、採決でいいかも」 自民・古屋氏、勉強会で

自民党の古屋圭司選挙対策委員長は1日、憲法改正について「憲法審査会は大きい政党も小さい政党も同じように意見を言うが、やはり採決も必要だ。どれを(改正)するかは採決でいいかもしれない」と述べ、改正項目について与野党でまとまらない場合、自民、公明、日本維新の会など「改憲勢力」で発議を押し切る可能性に言及した。

東京都内であった日本会議国会議員懇談会の勉強会で語った。古屋氏は「憲法審査会はもう論争している時期でなく、具体的に何を提案していくかを収斂していく時期だ」とも述べた。
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氏は安倍首相の盟友のひとりで憲法審査会の幹事でもありますが、この日の審査会ではほとんどの時間席を外していました。前々回の「憲法審査会レポート」で、安倍改憲発言をめぐって5月9日に開催された参議院予算委員会において民進党代表の蓮舫氏が「衆院憲法審査会の議事録を読んでいますか」と質したのに対して、安倍氏が「古屋圭司幹事から話は聞いているところでございます」と答えたことを紹介しましたが、上記記事の古屋氏の発言は首相の意向を代弁したものであると見て間違いありません。

仲間うちの会合で、2020年施行という改憲のスケジュールを実現するためにはこれ以上悠長に構えてはいられない、いよいよ数の力で改憲を強行していくステージに突入するぞと、安倍氏に成り代わって檄を飛ばしたということでしょう。

私たちも改憲絶対阻止の立場から安倍政権打倒に向けた闘いのボルテージをさらに高めていきましょう。(G)