ほぼ2年ぶりの参考人質疑は、「平穏に終了」

3月23日(木)午前9時から、今国会2回目の衆議院憲法審査会が開かれました。今回のテーマは、前回と同じく「緊急事態における国会議員の任期の特例、解散権の在り方」等で(前回のもう一つのテーマ、「一票の格差、投票率の低下その他選挙制度の在り方」は取り上げられませんでした)、3人の参考人から20分ずつ意見を聴取し、6会派の代表が15分ずつ質疑を行うという形式で進められました。

実は今回、私は2つのハプニングを期待していました。一つは、この日急遽両院の予算委員会で行われることになった森友学園前理事長・籠池泰典氏への証人喚問(10時から参議院、15時からは衆議院)と日程が重なったため審査会が延期されるのではないかということ、もう一つは、一昨年6月4日に開かれた審査会のとき(憲法学者3人が揃って安保法制は違憲だと断じる「事件」がありました)のように、たとえば「森友ゲート事件」や共謀罪法案について参考人から衝撃的な発言が飛び出すのではないかということです。

しかしそんなことは起こらず、いつものようにトンデモ論が開陳されることもなく(もちろん程度問題であり、クエスチョンマークの付くような発言はありましたが)、この日の審査会は坦々と進行し、ほぼ予定どおり11時30分過ぎに散会となりました。
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この日の委員の出席率は前回より若干低かったかもしれませんが、それでも開会後しばらく(=参考人の意見陳述時)は45人以上、そのあとも散会まで40人前後の委員が出席していました(定数は50)。
傍聴者も前回より減ったとはいえ、30人以上が集まっていました。百万人署名運動の仲間は4名で傍聴してきました。

前回と大きく違ったのは記者の数で、最初は10人程度が取材していましたが、途中から6~7人になってしまいました(そのおかげで傍聴者の多くが記者席に座ることができ、立ち見は出ませんでした)。テレビカメラに至ってはNHKの1台だけで、しかも途中でいなくなってしまいました(撤収するタイミングが、参考人からの意見聴取のあと自民党・中谷元氏の質疑が終わったところでしたので、ずいぶん露骨なやりかただなあと思いました)。

ということで、メディア各社の記事量も前回より少なめでしたが、『朝日』や『毎日』は参考人の発言を比較的詳しく紹介してくれていました。ここでは翌24日の『朝日新聞デジタル』の記事を引用しておきます。
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緊急事態条項、3氏が意見 衆院憲法審

衆院憲法審査会は23日、参政権の保障をテーマに、憲法学者の木村草太(そうた)・首都大学東京教授、弁護士の永井幸寿(こうじゅ)氏、松浦一夫・防衛大教授の3人の参考人から意見を聞いた。

前回の審査会でも論点となった、大規模自然災害など緊急事態時の国会議員の任期延長を憲法に盛り込むべきかについては、永井氏が、衆院解散中でも参院の緊急集会が開ける現行憲法の規定などを理由に反対を表明。松浦氏は「緊急集会だけで長期間、国会の意思を代弁させるのは不適切」と憲法改正を主張した。木村氏は任期延長を憲法で規定する場合は乱用の歯止めが必要とした。参考人の主な意見は以下の通り。

衆院憲法審査会での参考人の発言要旨

◇首都大学東京教授・木村草太氏

【緊急事態条項】危険性否定できない
(自民党改憲草案の)緊急事態条項には、国民の権利を抑えるような規定があり、緊急事態条項の導入に賛成する方から見ても大変危険なものであることは否定できない。文言の意味を詰めないと、そもそも議論できない条項だ。自民党内でもっと議論して欲しい。

【緊急時の衆院議員の任期延長】事前に法律の工夫を
大規模災害で、一斉に選挙ができなくても、即座に憲法違反の疑いが生じるわけではない。それより法律を工夫し選挙の時期や方法を事前に整えておくことが重要だ。憲法改正で任期延長をするというのなら、不当な乱用への具体的な歯止めも提案していただきたい。

【首相の衆院解散権】何らかの制限、合理的
与党に有利なタイミングを選ぶといった党利党略での解散を抑制するためには、解散権に何らかの制限をかけることが合理的だ。現憲法のまま、解散理由を国会で審議するなどの解散手続きを法律で定める方法と、憲法を改正して解散の条件を明記する方法がある。
審査会1
               (インターネット中継より)
◇弁護士・永井幸寿氏

【緊急事態条項】デモなども追加可能
災害を理由に憲法に条項を創設することは反対だ。最初、憲法に「大規模災害の場合」と規定しても、その後、国会の過半数の議決によって戦争やテロ、デモを追加することも可能になる。想定外の事態には憲法ではなく、事前に法律で対処しておくべきだ。

【緊急時の衆院議員の任期延長】参院緊急集会で対応
憲法改正で任期を延長することに反対だ。緊急事態が戦時体制になった過去の教訓からしても任期延長は危険と考える。衆院解散中に緊急事態となっても、参院の緊急集会や災害対策基本法による緊急政令、(被災地だけ選挙を遅らせる)繰り延べ選挙で対応できる。

【首相の衆院解散権】災害時、解散は不適切
解散権は、政府と国会との関係をどう考えるかという、深い問題だ。ただ、災害時には、被災者支援に予算や人員を集中すべきで、解散して選挙をするのは不適切で、自制するだろう。もし解散権を行使すれば、そのような政権に国民の意思が示されることになる。

◇防衛大学校教授・松浦一夫氏

【緊急事態条項】例外認める改正必要
日本ほど大災害が多発する国はまれ。大地震が周期的に発生するわが国では、災害緊急事態条項の必要が認められる。大地震など想定外の事態に備えて法律を整備することとは別に、憲法の通常のルールでは対応できない場合に例外を認めるための憲法改正は必要だ。

【緊急時の衆院議員の任期延長】両院で政府監視、安全
緊急事態時には任期を延長し、衆参両院で政府を監視できる方がよほど安全ではないか。参院の緊急集会だけで長期間、国会の意思を代弁させるのは不適切だ。緊急事態宣言の間、議会の同意の上で任期が延長されれば、乱用の危険性もないだろう。

【首相の衆院解散権】非常時は禁じた方が
解散権は単に制約すれば良いものではない。民意を問う制度が過度に制約されることは問題だ。ドイツでは解散権も制約されているが、首相の不信任案も制限され、バランスが取れている。ただ、非常時は、緊急事態条項で解散を禁じて政府を監視した方が安全だ。

いかがでしょうか。いつも思うのですが、私は「緊急事態条項」必要論を主張する人たちの議論は「いつ想定外のことが起こるかわからないから」必要だというだけでそれ以上の中身に乏しく、控えめに言っても「文言の意味を詰めないと、そもそも議論できない」(木村草太氏)と思います。

ただし、「衆院議員の任期延長」問題についてだけは、私は永井幸寿氏の意見に賛成ですが、松浦一夫氏の立論にも一定の説得力があると感じる人が多いかもしれません。前回のレポートでお伝えしたとおり、自民党はこの点を改憲への突破口にしようとしており、警戒しつつわかりやすい反論を組み立てていかなければなりません

そもそも衆参同日選挙などという暴挙が行われなければ、緊急事態時に国会議員が参院議員の半数だけになってしまうことはほとんどありえませんし、緊急事態時に的確な対策を講じていくために被災者の意見を把握する手段が衆院議員の任期延長だというのは、相当に眉唾ものの議論ではないでしょうか。

さて、最後に、今回のテーマとは直接関係がなかったかもしれませんが、この日いちばん私の印象に残った照屋寛徳氏(社民党)と木村草太氏の質疑をご紹介したいと思います(『衆議院インターネット審議中継』で聞き取った実際の発言を、読みやすくなるよう修正しています)。やはり憲法審査会に沖縄県選出の委員がいることの意味は大きいと感じました。

○照屋氏 
木村参考人におうかがいします。
沖縄では、主席公選、そして国政への参政権が、アメリカの軍政下にあって県民の激しい闘いによって勝ち取られました。
参考人は、現在地元紙に憲法をテーマとする評論を書かれていますが(引用者注:『沖縄タイムス』の「木村草太の憲法の新手」と思われます)、今日の沖縄の状況をどのように捉えられていますか。

また、辺野古新基地建設の反対運動と、議院内閣制のもとでの民意の尊重、地方自治の尊重、表現の自由、報道の自由、憲法前文の平和的生存権などとの関係について、どのようにお考えですか。

○木村氏 
中央政府で議院内閣制をとっているとしても、日本国憲法では地方自治が保障されており、沖縄県に対しても地方自治の本旨に基づく様々な保障が与えられるべきことは、憲法を読めば明らかであると思います。

私は、米軍基地問題についての大きな問題は、基地の設置に伴って生じる様々な自治権の制限について明確な法律上の根拠を欠いている点であり、自治権の制限が条約に基づいてのみ行われている現状に源流があると考えています。

仮に今行われているような米軍基地の立地自治体に対する自治権の制限を法律で行おうとすれば、それは地方自治の本旨にのっとったものでなければなりませんし、特定の自治体のみの自治権を制限することになれば、当該自治体の住民投票による承認が必要になるわけです。

これを条約を根拠に行うと、憲法92条や95条の要請がバイパス、脱法、「脱憲」されてしまわけですから、米軍基地問題についてきちんと法律事項として扱っていくことが重要です。民意の反映という観点からも重要であり、憲法の文言からもそのような解釈が自然であると考えているところです。

なお、次回の開催日やテーマは「公報でお知らせする」ということで、まだ決まっていないようでした。(G)