今国会初の開催/見えてきた自民党の改憲プラン

3月16日(木)午前9時から、今国会初(ということは、今年初)の衆議院憲法審査会が開かれました。
今回のテーマは、「①一票の格差、投票率の低下その他選挙制度の在り方」と「②緊急事態における国会議員の任期の特例、解散権の在り方」等でした。

衆院の憲法審では、一昨年6月4日に参考人として招致された憲法学者3人が揃って安保法制は違憲だと断じる「事件」がありました。その時点でスケジュールが決まっていた6月11日を最後にしばらく中断されていた審査会が前の国会で昨年11月17日に再開されて以降、委員の出席率が比較的高い状態が続いており、この日も開会後しばらくは45人以上、そのあとも11時40分頃に散会となるまで40人以上の委員が在席していました(定数は50)。

(主に自民党の委員でしたが)欠席者が多く、出席していても隣席の委員とおしゃべりをしたり、携帯をいじったり、頻繁に議場を出入りしたり、「学級崩壊」状態だった頃とは様変わりしたわけですが、これは自民党が党を挙げて改憲の実現に真剣に取り組み始めたことを表しているのかもしれません。

相変わらず多くの傍聴者が詰めかけ、途中から加わった人を含めると50人近かったと思います。15人ほどが立ち見を余儀なくされる中、百万人署名運動の仲間は5名で傍聴してきました。一方、メディアの集まりはやや悪く、テレビカメラは2台だけ、スチルカメラマンも最初は10人ほどいましたがほとんどがすぐ退出し、記者は10~15人くらいだったでしょうか(空いている記者席に傍聴者が座ったので、正確な人数はわかりません)。

もっともこれはメディアの関心が低下したからではなく、各社が限られたスタッフの多くを同時に開かれていた安全保障委員会に振り向けたためかもしれません(同委員会では、稲田朋美防衛大臣が南スーダンPKOや森友学園等の問題で追及の矢面に立たされていました)。
yurusuna
さて、この日の審議のポイントを、的確な見出しとともに伝えていた『朝日新聞デジタル』の翌17日の記事を紹介します。
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自民、改憲へ布石狙う 緊急事態時の議員任期延長 衆院憲法審、実質審議

安倍晋三首相が憲法改正に向け積極姿勢を強める中、衆院の憲法審査会が16日、この国会で初めて実質審議に入った。テーマは「参政権の保障」だったが、自民党は大災害など緊急事態時の国会議員の任期延長に狙いを定め、憲法改正を訴えた。民進党や公明党も慎重ながら一定の理解を示し、今後の議論の焦点になる可能性がある。

民進「広範な検討を」
安倍首相は先の自民党大会で「自民党は憲法改正の発議に向けて、具体的な議論をリードしていく」と宣言している。具体的な論点として同党が有力視しているのが、衆院解散などで議員が失職中に大規模災害が起きたときに備え、議員任期を延長できる特例を憲法に書き込むことだ。「災害対応」を理由にすれば、他党や国民の理解を得やすいとの思惑がある。

16日の審議で自民の上川陽子氏は、憲法に明記されている国会議員の任期を延長するには「憲法改正が必須」と主張。中谷元氏も「与野党の憲法観を超えて一致できる点ではないか」と投げかけた。

この点について民進の枝野幸男氏は「検討に値する。(任期延長には)憲法上の根拠が必要になるのは確かだ」との考えを示したが、「検討すべき事項は複雑かつ広範にあり、単純に結論を出せる問題ではない。国会が自ら任期を延長するのはお手盛りとなりかねない」と釘をさした。公明の北側一雄氏も「慎重な議論が必要だ」と述べた。

ただ、民進の細野豪志氏は「例えば180日を上限に任期を延長できる形にすれば、いかなる事態においても立法機関が機能して必要な政策を決定できる」と自らの案を提示した。民進執行部は安倍政権下での憲法改正には否定的だが、細野氏の提案は自民の議論の土俵に乗っかる形。自民幹部を「思った以上に順調に進んでいる」と喜ばせた。

自民は2012年にまとめた憲法改正草案で大災害などに備える「緊急事態条項」を設け、改憲案の「目玉」と位置づけていた。だが、首相が緊急事態を宣言すれば、内閣の判断で法律と同じ効力を持つ緊急政令を制定できるとしたことには「戒厳令のようだ」との批判が野党や専門家から噴出している。

16日の審議では公明の北側氏も首相への権限集中や国民の権利を制限する条項を設ける意見には「賛成できない」と明言した。

これを受け自民の船田元氏は「議会がきちんと機能することを保障しておけば、緊急政令などで対応する必要は相対的に低くなる」と述べ、緊急事態条項のうち緊急政令は事実上取り下げ、任期延長に論点を絞ることで議論を進める姿勢を鮮明にした。

議員任期の延長論に対しては「現憲法にある参院の緊急集会の規定で十分」「改憲のための改憲だ」との指摘が根強い。審査会でも共産と社民が「緊急事態だと政府が宣言し続ける限り、政権を自由に延命することになる。民意を問う機会を奪うものであり、国民主権の侵害だ」(共産・赤嶺政賢氏)と反対した。
(藤原慎一、編集委員・国分高史)
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なお、この記事に登場する船田元氏は、自民党にあって憲法調査会時代から一貫して改憲問題の中枢にいましたが、上記の憲法学者安保法制違憲発言「事件」を招いた責任を取る形で(なにしろ、与党推薦の参考人も違憲だと明言したのですから)しばらく憲法審の幹事を外れており、この日、晴れて幹事に返り咲きました。氏はこれまでの審査会でぶれることなく、どういう項目、内容なら一部の野党を巻き込み、国民投票でも過半数を得て改憲を実現できるのかという観点からの発言を続けており、この人事も自民党の改憲への本気度を示す証拠だと言えるでしょう。

また、この日は中山太郎氏も姿を見せていました(どうして一私人にこんなことが認められるのかわかりませんが、氏は傍聴席ではなく議場に招き入れられ、9時15分ごろから閉会までずっと議論に耳を傾けていました)。
中山氏は憲法調査会の設置時から会長を務め、その後の憲法調査特別委員会でも委員長の座にあり続け、東日本大震災直後の2011年8月には、すでに政界を引退していたにもかかわらず、憲法に「緊急事態条項」を盛り込む試案を公表した人物です。
   多数の立ち見が出た傍聴席の様子(『辻元清美活動ブログ』から)
1-170316衆憲法審査会
この日の審査会では、緊急事態以外のテーマについても意見が交わされました。これについても、主要な論点が要領よく整理された『朝日新聞デジタル』の17日付の記事を掲げておきます。
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焦点採録 衆院憲法審査会 16日

16日の衆院憲法審査会では緊急事態条項のほか、一票の格差や参院選の「合区」解消、内閣による衆院の解散権などについて意見が交わされた。

【一票の格差】
自民・中谷元氏 私の地元の高知県では、前回の参院選で徳島県と合区になり、高知単独の議員が出せなくなった。高知の投票率が全国最低だったことは不満の表れだ。地理的条件の考慮を憲法に明記することを含めた、抜本的な解決が求められている。

維新・足立康史氏 現在の都道府県を前提にせず、国と地方の関係、統治機構のあり方を議論すべきだ。

共産・赤嶺政賢氏 小選挙区制では、第1党は4割台の得票率で7~8割の議席を獲得する。小選挙区制を廃止し、民意を反映する制度にする必要がある。

社民・照屋寛徳氏 比例代表制を重視した選挙制度への改革を検討すべきだ。

【衆院の解散権】
民進・枝野幸男氏 内閣不信任(案の可決)以外の解散を認める意義は乏しい。議会の多数派が優位な立場にあるのに、さらに優位性を強める解散の仕組みは、必要ないどころか有害である可能性がある。

公明・北側一雄氏 解散権を内閣不信任案の可決に限定するとの考え方には賛成できない。総選挙で争点にならなかった重大な政治課題の是非について国民の信を問うため、憲法7条を根拠に衆院を解散することは国民主権の理念からも認められるべきだ。

【「共謀罪」】
枝野氏 参政権は選挙権だけではない。政治的意思を表明し、言論活動や集会、デモを行うことも大切な参政権の行使だ。共謀罪は参政権の行使を過度に抑制する副作用の恐れが指摘されている。「共謀罪」法案を強行するなら、憲法審査会で議論すべきだ。
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さて、最後に、この日私がいちばん腹立たしく感じた発言とこの日一番の、他の追随を許さない超弩級の「トンデモ論」を紹介しておきます。
なお、次回の衆院憲法調査会は、2週連続で3月23日(籠池泰典氏の証人喚問の日)、今回と同じテーマで参考人を招いて行われる予定です。

一体いつそんな時代があったの?
審査会の冒頭、自民党会派を代表して発言した上川陽子氏(自民)。
最初に「制定以来70年、日本国憲法は国民にも社会にも定着し、大きな役割を果たしてきた。制定過程におけるGHQの関与による押しつけ憲法論からは卒業すべきである」と述べ、どういう風の吹き回しかと思っていると、一票の格差の問題について、「厳格な人口比例を国会議員の選出に反映させると、地方選出議員はどんどん少なくなる」、「投票価値の平等が守られていれば国民主権の基礎が守られていた時代は過去のものになってしまったのではないか」「特に参議院選挙における合区は早急に解消することが求められる」と主張しました。

私はこうした論理自体おかしなものだと考えますが、それとは別に引っ掛かったのは「投票価値の平等が守られていれば」というくだりです。一体いつ投票価値が平等だった時代があったのか、いい加減なことを言うな!と思いました。

「貴族院」って!(絶句)
そして、安藤裕氏(自民)の発言です。
昨年11月17日の審査会で、天皇の退位に関連して、「天皇の地位は日本書紀における『天壌無窮の神勅』に由来するもの」だから、皇室典範は明治憲法のように国会の議決を経ず皇室の方々でお決めいただくべきだと言ってのけた人物ですから、驚くにはあたらないのかもしれませんが、今度はこんなことを言い出しました。

「選挙を心配しなくていい、本当に大局的な観点から将来を考えて発言できるような立場の院というものを考えておくべきではないか」「かつて衆議院と貴族院が置かれていたように、そういった両院のあり方を検討していくべきではないか」

なんともはや、絶句するしかありませんでした。(G)