2月17日(水)13時すぎ(予定時刻より5分ほど遅れて)、参議院憲法審査会が開かれました。両院を通じて今国会で初めて、今年最初の開催になります。昨年9月7日(月)に開催された前回の審査会で、柳本卓治会長(自民)が「本審査会の当面の調査テーマにつきましては、幹事会等で協議いたしました結果、二院制とすることに決定いたしました」(『国会会議録検索システム』による)と述べていたとおり、この日のテーマは「二院制のうち、参議院と衆議院の関係(参議院として重視すべき役割)について」と設定されていました。
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審議は、事務的な手続き(幹事の選任、会長代理の指名)のあと、上記のテーマに関する参考人(大東文化大学大学院法務研究科教授 浅野善治氏、千葉経済大学特任教授 荒井達夫氏の2名で、どちらの方も以前国会に勤務した経験があるそうです)からの意見聴取、発言を希望する委員による質疑という順に進められ、想定されていた時間を大幅にオーバーして、15時37分頃閉会しました。
委員の出席者数は、参考人からの意見聴取の間は43~45人(定数は45人ですから、ほぼ全員)でしたが、質疑の時間になると35~40人程度となりました。記者は5~10人ほどでカメラマンが数人(他にテレビカメラが3台入っていて、途中から2台になりました)、傍聴者は最初15人くらい、途中で団体が加わって30人近くになりましたが、審議が長引いたためか、最後は10名ほどになっていました。

憲法審査会から姿を消した社民党
今回、社民党の委員が憲法審査会から消えてしまいました。審査会の「顔」の一人であった福島みずほ氏の発言が聞けなくなってしまったわけで、とても残念です。社民党は衆院の審査会にも委員を出せていませんので、伝統ある護憲政党として、たいへんな危機に陥ったことになります。
委員の数は、自民22、民主11、公明4、共産2というところまでは前国会と同様ですが、「維新の党」の分裂により「維新・元気の会」(参院議員数9)が2、「おおさか維新の会」(同7)が1となり、次に議員数4の「日本のこころを大切にする党」(旧「次世代の党」で、これも元はと言えば「維新の会」から分かれた勢力です)が1を割り当てられ、残り2枠をめぐって議員数3の3党派が抽選を行った結果、くじを外した社民党がはじき出された形になったようです。なお、このとき当選して委員を出している「無所属クラブ」から中西健治氏が脱退し、2月19日に自民会派入りしたというニュースがありましたので、審査会の構成はまた変わることになるのかもしれません。

参院憲法審、5カ月ぶり再開=議論本格化は見通せず
まず、この日の議論の内容が、その背景を含めて要領よくまとめられていた『時事ドットコム』の配信記事(表題は上記小見出しのとおり)を紹介します(http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2016021700792)。

参院憲法審査会(柳本卓治会長=自民)が17日、約5カ月ぶりに開かれ、「二院制」をテーマに議論を交わした。自民党は野党側の出方も見極めつつ、優先課題とする「緊急事態条項」創設や9条改正も取り上げていきたい考え。夏の参院選後をにらみ、衆参の憲法審で議論を活性化させ、安倍晋三首相が意欲を示す憲法改正への布石とする狙いだ。ただ、民主党は首相の憲法観を強く批判しており、議論が深まるかは見通せない。
参院憲法審での議論は昨年9月以来。民主党は安倍政権下での改憲論議に否定的だが、開催自体には反対しなかった。今回は「参院として重視すべき役割」がテーマ。有識者として出席した衆院法制局OBで大東文化大大学院教授の浅野善治氏は「参院は議員間の自由討議に適している」と指摘。参院事務局OBで千葉経済大特任教授の荒井達夫氏は「行政監視は参院が中心という考えを徹底すべきだ」と訴えた。
自民党は、二院制を議題とすれば野党側も乗りやすいとみて、議論を深掘りしていく方針。同党の赤池誠章氏は質疑で「国民的な議論をどう起こしていくか。憲法や政治に対する教育をどうしていくかということは大変重要な視点だ」と述べたが、改憲への前のめりな発言は控えた。一方、民主党の小西洋之氏は安全保障関連法に言及し、「政府が憲法違反の解釈変更、立法を行っているなら、まずはそれを徹底的に審議するのが審査会の役割だ」と政権との対決姿勢を示した。
首相は年明け以降、改憲を参院選の争点に掲げる意向を示し、積極姿勢を鮮明にしている。首相が重視する緊急事態条項について、柳本氏は審査会後、記者団に「避けて通ることはない。議論すべき内容だ」と語った。
しかし、民主党は踏み込んだ改憲論議には慎重姿勢を崩していない。同党の枝野幸男幹事長は17日の記者会見で「そもそも憲法を守っていない人が憲法を変えるというのはちゃんちゃらおかしい」と首相を重ねて批判。衆院でも憲法審査会の開催に応じるかについて、「今の首相の姿勢で建設的な議論ができるとは到底思えない」と否定的な考えを示した。

黒人・奴隷発言だけではない丸山氏の問題発言
今回のレポートでは、大手メディアがこぞって報道し、大きな関心を集めた丸山和也氏の発言に触れないわけにはいきません。その要旨は下記のようなものでした。『東京新聞TOKYO Web』から引用します(http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201602/CK2016021802000141.html)。

ややユートピア的かもしれないが、例えば、日本が米国の51番目の州になることに憲法上どのような問題があるのか。(米国の州になれば)集団的自衛権、(日米)安全保障条約は全く問題ない。拉致問題すら起こっていないだろう。いわゆる国の借金問題についても、行政監視のきかないような、ずたずたの状態には絶対なっていない。
米国の制度にあれば、人口で下院議員の数が決まる。おそらく「日本州」は最大の下院議員選出数を持つ。世界の中の日本と言うけど、日本州出身が米大統領になる可能性が出てくる。ということは世界の中心で行動できる。
ばかみたいな話だと思われるかもしれないが、今、米国は黒人が大統領になっている。黒人の血を引くね。これは奴隷ですよ。はっきり言って。まさか米国の建国当初には黒人、奴隷が大統領になるとは考えもしない。ダイナミックな変革をしていく国だ。

各メディアは、この最後の部分に敏感に反応して、「人種差別的」だと批判しました。これも『東京新聞』から、同発言を報じた記事のリードを引用します(http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201602/CK2016021802000141.html)。
自民党の丸山和也参院議員(70)は17日の参院憲法審査会で、オバマ米大統領について「米国は黒人が大統領になっている。黒人の血を引くね。これは奴隷ですよ。はっきり言って」と人種差別的な発言をした。
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丸山氏の発言が進むにつれて議場もざわつきはじめて、改憲派の急先鋒である赤池誠章氏(自民)は「暴言だよ」と叫んでいました。しかし、自民党の議員が(それも大幹部までもが)この種の「暴言」を吐くのはそんなに珍しいことではなく、あるブログではこんな指摘がなされていました(『社会科学者の随想』http://blog.livedoor.jp/bbgmgt/archives/1052300323.html)

いまから30年も前の1986年9月22日の出来事であった。当時首相だった中曽根康弘が「黒人などがいるアメリカは知的水準が低い」と発言し,国際的に問題になり,批判された。その2年あとの1988年7月24日,こんどはその中曽根派に属し,自民党政調会長を務めていた渡辺美智雄が「アメリカの黒人は破産しても『アッケラカンのカー』だという主旨の発言をし,これまた問題になっていた。
私は、「黒人、奴隷」発言とともに、いや、むしろそれ以上に、「(米国の州になれば)集団的自衛権、(日米)安全保障条約は全く問題ない」という部分を問題にすべきだと思います。揚げ足取りと受け取られる方もいるかもしれませんが、この発言は、安倍政権が行ってきた閣議決定による解釈改憲、その内容に沿った日米防衛協力の指針の改定、そして戦争法制の成立強行という一連の暴挙には、日本がアメリカの州でない以上、憲法上の問題がある、違憲の疑いがあるということを思わず吐露したものだと言えるのではないでしょうか。
丸山氏は弁護士であり、自民党政務調査会法務部会長です(自民党のホームページに掲載されている2月16日現在の「役員表」による)。そういう立場の人物がこんな発言をしたということはきわめて重大で、もっと注目されてしかるべきだと思います。

最後に聞けた真っ当な質疑
この日のテーマは二院制における参議院の役割で、これまで何度も議論されてきただけに、終盤近くまで淡々と(悪く言えば退屈な)審議が進みました。そして、丸山和也氏の(二院制とは全く関係のない)暴言が飛び出したのです。
そのまま閉会していれば徒労感ばかりが残ったかもしれませんが、最後になって小西洋之氏(民主)と荒井達夫氏(参考人)の間で交わされたまともな質疑に接することができました。以下、その内容を要約して紹介します。
○小西氏:参議院憲法審査会では、国民投票法の改正のとき、政府が憲法の解釈を変更しようとするときは、国会での審議を十分に踏まえることという附帯決議をしている。7.1閣議決定による政府の解釈変更は、この国権の最高機関の附帯決議に違反し、国会が持つ憲法監視機能を侵害していると考えていいか。
○荒井氏:今の話はどっちとも言えないという感じがする。ただ、この問題について私には意見があり、それをお話しさせていただきたい。
行政監視、それから法を誠実に執行するという観点から考えたとき、今起きていることはどういうことか。主権は国民にあり、主権者が定めた憲法に基づき内閣と国会は権限を与えられているのだから、内閣と国会は国民に対して憲法を誠実に執行する義務を負っている。
そして、集団的自衛権の行使は憲法上一切許されないという話、これは政府の一貫した解釈だった。集団的自衛権の行使を認めるためには憲法の条文改正が必要であるということは国会を通じた国民の了解事項となっていた。内閣が憲法解釈の変更によって集団的自衛権の行使を認めるというのは、これを否定することになるのではないかと思う。
もう一つ、憲法の解釈変更を前提として法改正でよいとするやり方。これを取ることは憲法事項を法律で済ませようとするものになってしまうのではないか。集団的自衛権の行使を認めるためには憲法の条文改正が必要であるという国民の了解に反するのではないか。憲法尊重擁護義務に反して集団的自衛権を認める安保関連法を国会が可決したのは、これは憲法違反になってしまうのではないかと私は思い、それをずっとお話ししてきた。
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○小西氏:憲法審査会の任務は、国会法で、衆参全く同じ条文で、日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制について広範かつ総合的に調査を行うこととされている。そうすると、もし政府または与党が憲法違反の解釈変更、立法を行っているのであれば、まずはそれを徹底的に審議するのがこの審査会の役割であり、それすらしない憲法審査会に憲法改正原案の議論をすることができるのか。資格というか、能力的にそれができるのかと思うのだが、いかがだろうか。憲法審査会の規程上、我々には安保法制、解釈変更について議論する任務があるという理解でよろしいだろうか。
○荒井氏:憲法の基本原理に関わる話は、まず最初に議論しなければならないと思う。憲法審査会は、常に憲法とは何かというところから議論しなければいけない。そして、その基本原理に関わるような話は、どういう立場に立とうと徹底して議論しない限り憲法改正の話というのは出てきようがないだろうというのが私の意見だ。

いかがでしょうか。現実に審査会がここで指摘されたような形で運営されることはないだろうと考えるとむなしい気分にもなりますが、審査会が開かれるたびに繰り返し附帯決議の話を持ち出して議論を喚起しようとしている小西氏のしつこさを見習って、これからも傍聴とレポートを続けていきたいと思います。(G)