東京の三多摩連絡会からのお便りです。
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河原井、根津「日の丸・君が代」不起立2007年高裁判決で、最高裁・地裁の分断判決をうちやぶって勝訴。高裁が、都教委の根津さんへの停職6ヶ月、機械的累積過重処分を違法と判断。(下は東京新聞)
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裁判長は判決理由を10分間述べた
 テレビ、新聞で大きく報じられたように、5月28日根津さんの初めての6ヶ月停職処分と河原井さんの停職3ヶ月の損害賠償に関する控訴審(高裁)判決がありました。いままでの裁判所のありかたから、原告本人たち、弁護団、支援者も勝つとは思っていませんでした。
 裁判長の主文の朗読の半分くらいのところで和久田弁護士が弁護団や原告を振り向いてうなずきました。「10万円の損害賠償を!」というところで傍聴者も「勝った!」と確信し、主文朗読が終わるとワッと拍手が起こりそうになりました。須藤裁判長は拍手を厳しくおさえ、判決理由の丁寧な説明をしました。
 「控訴棄却」等と言い渡して逃げるように扉の中に消えていく判決と違い、停職6ヶ月、機械的に処分を重くしていくやりかたの不当性、過去の処分歴、体罰等との比較等裁量権の部分についてはこちらの主張してきたこととほぼ共通する誠意ある判断でした。
 満席の傍聴席は「勝利した!」「根津さんおめでとう!」の熱気に包まれました。

■2007年事件控訴審
 根津さんは、町田市・鶴川第2中学校に勤務している2007年3月の卒業式の不起立で、停職6ヶ月処分を受けました。1994年の八王子市・石川中で「日の丸」を下したことを始まりとして、多摩中、立川中、再発防止研修で抗議したことへの処分と、機械的に累積加重されたのです。また、河原井さんは、不起立の累積加重で停職3ヶ月の処分を受けました。
 こうした停職処分と機械的加重の不当性を訴えて開始された裁判です。とりわけ根津さんについては、過去の処分歴と「不起立」を呼びかけ宣伝した等を理由に学校の規律、秩序を乱したからと、河原井さんや都立学校の多くの被処分者と分断されました。それを厳しく正す裁判として控訴審に取り組みました。

分断ー違憲の2012年最高裁判決と2014年地裁判決
 2006年の河原井さん停職1ヶ月、根津さんの停職3ヶ月処分に対し、2012年1月最高裁判所は、河原井さんの停職1ヶ月を取り消し、30万円の損害賠償をつけました。他方、根津さんに対しては、過去の処分歴、とりわけ石川中での「日の丸」引き下ろしで学校の規律を乱したとか再発防止研修で抗議したことに対し、研修の運営を妨害し秩序をみだした等と停職3ヶ月処分を取り消しませんでした。河原井さんや多くの被処分者と根津さんを分断する団結破壊の分断判決でした。
 そして、2007年事件の地裁判決は、2006年事件の最高裁判決をコピーしたような内容で、根津さんは停職6ヶ月と機械的に処分が加算されていました。許しがたいのは「停職3ヶ月は不当」とプラカードを持って停職出勤したことを都教委や地裁判決は「学校の規律や秩序を乱す」と言い、朝日新聞に載せた「退職間際の先生の不起立を現場の教師や子供たちへのプレゼントに」という根津さん気持を、「職務命令違反を呼びかけた」と根津さんへの悪意をむき出しにしてきました。そして河原井さんには最高裁がつけた損害賠償を削除してきたのです。
 控訴審では、根津さんの累積加重・停職6ヶ月を撤回させること、根津さんへ分断の根拠―学校の規律秩序を乱す論を打ち砕くこと、河原井さんの損害賠償を復活させること、が課題でした。
          (勝利判決に、満面の笑みの根津公子さん)
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■2015年5.28高裁判決
停職6ヶ月は違法、機械的累積加重処分は裁量権の乱用と都教委を断罪し、「停職出勤」は根津さんの「意思表明」と判断しました。

<判決文から>
停職について
「……停職期間を6月とする本件根津停職処分を科すことは控訴人根津がさらに同種の不起立行為を行った場合に残されている懲戒処分は免職だけであって……教員としての身分を失う可能性があるとの警告をあたえることとなり………きわめて大きな心理的圧迫を加える結果になるから十分な根拠をもって慎重におこなわれなければならない。
……控訴人根津の過去の懲戒処分や文書訓告は前回の停職処分で考慮されている。本件の根津不起立は………国歌斉唱の際に不起立したという消極的な行為であって、控訴人根津がこれまでにも同種の行為を繰り返していることを考慮しても、前回根津の3月の停職を超える処分を科すことを正当だとはいえない。」
さらに停職処分が生徒と教師の人間的関係を破壊し、教育活動を困難にすると述べています。

機械的累積加重処分について
「……教職員は2.3年不起立を繰り返すだけで停職処分を受けることになってしまい………ついには免職処分を受けるに至ってしまい、自己の歴史観や世界観を含む思想等により忠実であろうとする教員にとっては、みずからの思想や信条を捨てるかの二者択一を迫られることとなり、そのような事態は………地方公務員としての教職員という地位を自ら選択したものであることを考慮しても、日本国憲法が保障している個人としての思想および良心の自由に対する実質的な侵害につながるものであり、相当ではないというべきである。」
「不起立の回数によって機械的かつ一律に加重処分を行うのではなく……不起立の態様や……式典への影響が生じたか等を個別具体的に認定し………それぞれの行為にふさわしい処分にすべきである。」

●「停職出勤」や朝日新聞への投稿を処分過重の理由にするのは憲法の精神に抵触
「控訴人根津は上記の行為を勤務時間中に勤務場所でおこなったのではなく、これらの行為によって具体的に学校の運営が妨害された事実はなく、『日の丸』『君が代』が戦前の軍国主義等との関係で一定の役割をはたしていたとする控訴人根津自身の歴史観や世界観に基づく思想の一環としてなされたものというべきであるから、本件根津停職処分における停職期間の加重を基礎づける具体的な事情として大きく評価することは、思想および良心の自由や表現の自由を保障する日本国憲法の精神に停職する可能性があり、相当ではないというべきである。」
 この問題が運動に分断と自粛を生んでいたので須藤裁判長がこの問題を憲法から判断し、提示した意義は大きいと思います。(あたりまえのことですが)

体罰、飲酒運転、セクハラとの比較
 全国から上記の処分を集め、比較し都教委の「日の君」累積加重処分の重さの不当性を訴えてきましたが全く無視されてきました。須藤裁判長は体罰には累積加重していないのに「日の君」への機械的累積加重は均衡を欠くと判断しました。
弁護団の汗にじむ不屈の努力がみのり感激しました。

河原井さん根津さんの精神的苦痛に対し慰謝料10万円(詳しい理由は略)

原則を貫き団結して闘い続けた勝利
 総括集会で根津さんは、冒頭「『日の君』で闘い始めて判決15回の敗北、16回目にして初めての勝利です。そして、何よりもこの勝利がいま東京都でひとり不起立を続ける田中聡史さんへの激励になったことがうれしい」と喜びを語られました。
 根津さんはこの処分を受けた07年以後、特別支援学校への1年ごとの不当転勤攻撃を受ける中も不起立を続け、「処分するな」の都教委抗議行動等、全国の教育労働者はもちろん闘うすべての労働者、学生、地域住民と団結して闘ってきました。アメリカの教育労働組合(UTLA)始め韓国・フランス等国際連帯も切り開いてきました。退職後も教育の戦争国家化を絶対許さないと、百万人署名運動三多摩連絡会にも講演に来てくれました。
 今回の高裁判決は、「職務命令」「戒告処分」を合憲とし、弁護団が全力を尽くした憲法論、教育論(世取山意見書)等に答えていない等問題はあるとしても、悪辣な都教委を弾劾した圧倒的勝利判決であり、今後の勝利の展望を開いたと言えると思います。(三多摩連絡会・賛同人 牧江寿子)